Digimon Tamers 2021 Blog

デジモンテイマーズ放映20周年記念ブログ

テイマーズ第三部構想

 

デ・リーパー編に、どう取り組んだかを先に記しておきたい。

私の旧サイト Digimontamers Resources の画像を見直していたら、まだこのブログに上げていなかったものがあった。

荒牧伸志さんによるデジタル・ワールドの原イメエジ。このボードが荒牧さん自身が全部描かれたのか、渡辺佳人さんが物理レイヤーの荒野を描いたのか、もう今は判らなくなってしまった。だが、出発点がこれにあった事は確かだ。

これに既にメサ(頂点が平らの山)が描かれていた。

この大元のボードを見ても、やはりこのメサは何らかの遺構の様に見えてしまう。

まず昼間。アニメではもっとリアル・ワールド球は高い。

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夜。雰囲気はそのまま。リアル・ワールド球はかなり明瞭に見えて、デススター的。

貝澤さんが、もっとリアル・ワールドを遠ざけようと指示されたと思う。

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アニメでは広角レンズの映像では小さく。望遠で寄ると迫力あるリアル・ワールド球という表現になっている。

ダスト・パケットが転がる様。

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この元データが、41話で「デジモンのコア」という模式図に流用された。

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さて、第三部はデジタル・ワールドから帰ってきての最終クール10話分。浮世離れしたデジタル・ワールドで最終話近くまで引っ張って、最後に帰ってくる――という構成はやはり考えられなかった。現実世界を舞台に、地に足の着いた作劇をするのがテイマーズだと、私は頑なだったかもしれない。

究極体に進化したテイマーとデジモンが大暴れするには、現実世界よりもデジタル・ワールドの方が存分に描けたのかもしれないが、そこまでして何の為に子どもが戦わねばならないのか、という「理」を思い描けない。

デジタル・ワールドに入って以降は、私の記憶では局プロデューサー、代理店プロデューサーも構成会議にはあまり来なくなり、関心は次番組に移っていてこちらへの干渉は殆どなかった。最終敵を新規に考えたいという提案をしても、取り立てて反対をされた記憶がない。

ただ、Vジャンプ誌公募で選ばれた、読者デザインのデジモンを登場させる回は必要とされて、これはウルトラマンガイアでもあった事なので、私が44話で書く事に。

 

2001年の秋と、2020年から現在まで

というエントリで記した通り、テイマーズの製作中に9/11が発生し、ビルを爆破する様な描写は出来ないと覚悟した。

デ・リーパーは、動的ではなく静的な、侵食していく様な存在になるだろうと思った。どう描くかについては、徐々に変遷していく。

ヒーローたちが立ち向かう敵となる存在が必要だが、まずはどう現実を仮想の世界が侵食していくのか、その全体像がないと何もドラマが思い描けなかった。

 

このイメエジ・ボードは、私の記憶違いでなければ、貝澤さんがまだ会議に参加していた時期に無理を言って描いて貰ったものだったと思う。

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確かに侵食している感は大いにあるし、地中からビームが貫く絵面は、夜場面では効果的だろう。だけど、何かがまだ足りない。

そこで、究極体での子どもとデジモンがどういう状態でいるかというイメエジ・ボードを描いて貰い、その後デジタル・ワールドのイメエジ・ボード(上に掲載)も描いて貰った荒牧さんに、更に知恵を借りる。

最初期のものが手元にはもうない。

これは中期くらいのものだったと思う。

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小松左京原作の「首都消失」という映画があって、白いドーム状のバリヤーに東京が包まれてしまうという仮想シミュレーションがされていた。これに似ない様に、バブルには強弱、高低のバランスを崩して、更に禍々しいテクスチュアをうねうねと乗せる――。

これだ、と思った。

41話でタカトが見たニュースの映像は、こういうものだった。これは私が池袋西武の屋上から新宿を撮った写真に加工というか絵を乗せたもの。

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41話でタカトを長野に向かわせ、その展開に視聴者の視点を留めたのは、最初にデ・リーパーが出現するところを割愛したかったからでもある。

新宿にはまだ山木やワイルド・バンチがいて、そこにデ・リーパーが侵食を開始するその瞬間から描いたら、1話丸々使っても足らない。そこに労力を割くよりも、既に避難をしているという状況から第三部を始める方が得策だと判断した。

最終的に何話になるのかは、割と後にならないと判明しないのだが、51話となった。一年シリーズとしては年末年始の特別編成を差し引くと、妥当な話数。

最終決戦までの流れは、デ・リーパーが侵食する範囲の拡大に伴って考えていく。

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実際にはここまでは拡げなかった。

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デ・リーパーは原始的な自律プログラムで、環境がデジタルからリアルの世界に移った事で、目的によって代理的な《形》をとる。これがエージェントと呼ぶ意味。

デ・リーパーはデジタル・ワールドにて、多くのデジモンをも飲み込み消去しつつ、そのデータを解析してエージェントを造り出す。だからデジモン的な表現もあって当然。しかしデジモンの様な感情や思考はしない。

デジタル・ワールド編に入ってから、私は関プロデューサーに、各専門部署のアイコン的なデザイナーに集まって貰いたい、と依頼をした。ウィズの渡辺けんじさんは、全てのオリジナルなデジモンのデザイナーであり、イラストレイター。中鶴勝祥さんはアニメーション・キャラクター・デザイナー。そして荒牧伸志さんはCGデザインとクレジットされたが、実態はヴィジュアル・コンサルタントであり、究極体進化バンクの演出を担当したけれど、元々はアニメーターであり、多くの作品でコンテを描き、メカニック・デザインを数多く担当された人で、今は監督業。

この三人が一緒に集まる事は、イヴェントでもなければ無かったろう。この三人に、タバック(当時の録音スタジオ)の狭い会議室に来て貰った。

私はコンセプトを話して、ここでテイマーとデジモンが対決するエージェントをデザインして欲しいと頼み込む。

最初は戸惑っていたものの、そこはプロ。その場でサラサラとスケッチが始まった。説明だけ、と当初は思っていたのだが、「こういうのは?」「これは?」とラフな絵が飛び交い、その後持ち帰ってクリンナップされたのが、ADRシリーズ。

その種類とデザイナーはここにずっとページがあるので、ここでは省略するけれど、ドラマとして必要な、群体として、或いは拡大した状況を見せる為、或いは擬人化したもの、或いは存在自体に恐怖を感じさせるものなどなど、ライター・チームとしてはこの上ない程のヴァリエーションが獲得出来た。こうした合作が出来たのは、テイマーズという作品の誇りだとも、後に思った。

ともあれ、こうして10話で展開する舞台と、敵キャラクター(的な扱い)が揃い、ライターが自分の担当話で描く物語の前提が用意出来た。

 

最終盤の状況については、またその話数の前にエントリを上げる。

 

では回顧に戻って、次は42話回顧から。