第51話回顧 3
早々に必殺武器を失わせて、最後にADRと泥臭い戦いをデュークモンにさせたのは、光線の撃ち合いは好きではないからだ。最初にはインパクトがだせても、何度も見せればインフレをしていくばかりになるのを避けたかった。
このシリーズは、3話でギルモンとレナモンは獣そのものの格闘をした。そこから「進化」をしたのだから、凄まじい光線の方がそのニュアンスは出ただろう。しかし、デュークモン、サクヤモン、ジャスティモン――、テイマーズの究極体は、セントガルゴモンを除いて、人と進化した為に人の姿に近い。敵の攻撃手法をコピーし、それを増大させて襲ってくるデ・リーパーもまた、人の姿をとっていた。ならば、自身の肉体を武器に戦う事が相応しい。
殴り合いであるとタカトにも相応のダメージを喰らう。それでも、逃げずに前に出るタカトとデュークモンの戦いを見たかった。
カーネル内が全て赤黒い粘液で満たされようとしている。
タ……カト……くん……。
ADRに立ち向かうデュークモン・クリムゾン・モード。
殴りかかるが、姿がない。
圧倒的に俊敏さで勝るADR。デュークモンを殴りつけ――
うあああああっ!
両側を殴られ、ややふらついたところに――
回し蹴りを食らわせ――
強烈なキックを胸元に浴びせられる。
ADRはセントガルゴモンの行動を学習していたのだ。
筑波のオペレーション室内に仮想的に浮かんでいる渦。ワイルド・バンチとヒュプノスのメンバーがSHIBUMIを除いて、その渦を囲んでいる。
ジェンリャ! テリアモン! 聞こえるか!?
ジャンユーが呼び掛ける。
お父さん!?
私はテリアモンに、あるプログラムをロードした。
えっ――!?
前話、耳がかゆいようと言っていたテリアモン。
これはただのスキャンではなく、プログラムがロードされていた。
あの時……。
ぼくに何をロードしたの? とテリアモンが訊く。
すまないね、黙っていて。
山木君の――
シャッガイだ。
シャッガイ……、あああっ!?
22,23話。都庁の真上に、リアライズしていたデジモンを呼び寄せるシステム。
あれをテリアモンに!? どうして!?
ここからは山木が説明。
デジタル・ワールドとリアル・ワールドを相互に干渉し――、
超小型ビッグバンを起こして、ブラックホールに人工知性を引き込む――
それがシャッガイだった。
そんなものを、なんで?
ここからはドルフィンの説明。
今、君の下にある地上とデジタル・ワールドを繋ぐ、渦――。
眼下を見るセントガルゴモン。
孔の内部から見上げたアングルのセントガルゴモン。ほぼ真上にいる。
これは真上からのアングル。奈落の底からデ・リーパーが無尽蔵に湧いて出ている。
それは、光速を越える速度で回転し、デ・リーパーを急速進化させた。
それを、君たちの力で逆の回転をさせ、デ・リーパーを元のプログラムに退化させる為だよ。
そうかぁ! 声が弾んでいるジェン。
お父さんたちはすごい!!
思わず目を落とすジャンユー。
シャッガイは既に修正してある。君たちを傷つける事はない。
でも、どうやったら……?
いいか! よく聞くんだ!
ここでCMに入り、説明はネグレクトされる。
行こう! テリアモン!
オッケー、ジェン!
セントガルゴモンが渦の中へと降下していく。
「EVO」のイントロが始まる。
極めて場面にマッチし、よりエキサイティングにしているのだが、内心は少し複雑だった。このミッション、蟻地獄作戦は「退化」させるものだからだ。敢えて言えば De-Evoなのだから。
セント、ガルゴモン……。万感の想いでその名を口にするサクヤモン。
頼んだぞ。とジャスティモン。
ロケットで頭から突っ込んでいく。
定位置についたセントガルゴモン、渦の中で静止。
シナリオでは、耳がもっと延長する事にしていたが、梅澤さんはそれはやらず、腕の力強さの方で表現。
渦の動きと逆回転で旋回を始める。
回転が始まった、とドルフィン。
頼むぞ、とバベル。
SHIBUMIは自席で、まだプログラムを確認している。
ここまでは計画通り……。しかし、なんだ?この引っかかりは……。
高速回転するセントガルゴモン――。
渦へ干渉し始める。
デ・リーパーの活性度が低下し始めたわ! とデイジー。
これならいける! 行けるわ! とカーリー。
だが、SHIBUMIが立ち上がる。
何か……。何かが間違ってる……。
うぁああああああああああっ――
流石にテリアモンもキツい。
勿論、一緒になっているジェンも。
頑張れテリアモン!
ぼくたちが! ぼくたちがやらなくちゃいけないんだ!!
勿論この台詞は37話で、テリアモンが優しくジェンに言った言葉の反復。
うあっ!
マザーに押しつけられたデュークモン、ADRは更に蹴りつけて――
デュークモンをマザーの胎内に押し込めてしまう。こうすればデュークモン、人間とデジモンのハイブリッドをロードし、そのポテンシャルすらも獲得出来る――。
消えてなくなれ!
充満しているデ・リーパーのゲル。デュークモンも流石に身動きが出来ない。
――タカト……。弱々しくギルモンの声がタカトを呼んでいる。
タカト、凄まじい殴打にも怯まず――、強い顔になって前を向く。
ぼくたちは――
絶対に!
抑え込んでいたADR、突然の隆起に驚く。
デュークモン、壁を突き破って外へ!
いなくていい存在なんかじゃ――
手で防ごうとするも――
完全にボディに入った拳。
ない!
ADR-01 C、消滅。
よし! 渦が逆回転を始めた!
何が起こってるの? と麗花が訊く。
筒の回転が光の速度を越えれば、重力場を歪め時間を逆行させる。
言わば、局所的タイムマシンなんだ。
重力のある、リアル・ワールドに出てきた報いだ。――バベルがロジックを作っていた。
頑張れジェンリャ! テリアモン!
うああああああああっ―― テリアモンはまだ声を上げているが――、
見て! デ・リーパーがあの孔に吸い込まれていく! とサクヤモンが言う。
遂にマザーのカーネルにまでと辿り着いたデュークモン。樹莉! と呼ぶが――
その姿がない。
ん!? と振り向く。
クルモン! 樹莉!
エメラルドの淡い光に包まれ、樹莉は漂っている。シナリオには無かった描写だが、ここで踏ん張っているクルモンの声。クルモンの密かなパワーが必死に樹莉を庇っていた様だ。
樹莉を救いに飛翔するデュークモン。しかし――
背後から迫る触手――、いや、ケーブル。
マザーのカーネルから伸びるケーブルに――
背後の脅威を悟るが――
遠ざかっていくケーブル。
急速に向こうへ流れていくマザー。
うぉおおおおおおおおおおおっっっ!
テリアモン、今の言い方をすれば「ゾーンに入っている」。
まるで人格があるかの様に、苦悶の声を上げながら全てが孔へと吸い込まれていく。
断末魔を上げ――
遂にカーネルまでもが孔の中へ――。
やった!
デ・リーパーの最期だ! と喜ぶジャスティモン。
セント、ガルゴモン……。
やった!と喜ぶワイルド・バンチとヒュプノス・チーム。しかし――
バンと机に手を叩き――
やっぱり!
ぼくの作ったレッドカードは失敗だ!
どうしたSHIBUMI? 何が失敗だ!?
デジモンたちをデ・リーパー内で自由に活動させる為に――、
ぼくはデジモンたち固有の波長に近づけ、
彼らの身体を超流動体にした――。
このカットは八島さんではないか。
あなたの閃きはすばらしかったわ、とデイジー。
激しく顔を横に振り――
いいや!
人とデジモンのハイブリッド――。計算しきれなかった……。
ジャンユーが駆け寄ってくる。
なっ、何が起こる!?
――予想より早い……。 デジモンたちと子どもたちとの……。
――何だと!?
大人側の進捗は、ナラティヴの中ではオフにしていた。つまり、どういうプランを立て、どういう対策をとるかという作戦立案とその実行プログラムは、タカトたちが戦っている間に、密かに進められていたという話法である。
ただ、最終3話だけではなく、この流れは早くから匂わせてはいた。原始的な不良人工知性駆除プログラムが、どうしてあれほど急速に進化をしたのかについて、当初はデジモンが急速に進化したからだと想定していたのだが、あまりにデ・リーパーの威力を描いた為にそのバランスがとれなくなっていた。何らかの飛躍がないと、リアル・ワールドを侵攻し、既にもう地上世界殲滅にまで王手をかけるまでに進化した理由が説明出来ないと考えた。
後で山木が軽く触れるが、デ・リーパーの進化には、外的な何らかの干渉があったと考えた方が蓋然性が高い。となれば、やはりこのシリーズも、コズミック・ホラーの範疇にある、という事になる……。
以降のパートは、山木が回顧的なナレーションがある以外は大人の代表をジャンユー一人に絞った。
ワイルド・バンチ、ヒュプノス・チームの出番もここまでとなる。
素顔を見せないオペレータ、麗花と恵は、山木と同じく、シリーズ序盤から大きく変化をした。こういうものがドラマだと私は考えている。
私は「リアリティ」をアニメでも追求していた。絶対に「リアル」にはならないアニメですらも、リアリティという感覚こそが、虚構を視聴者に実際にあるかの様な臨場感をもたらすと信じていた(今も)。
ワイルド・バンチのドルフィン、デイジー、カーリー、バベル――。実にリアルなキャラクターデザインだったし、声の演技も渋く、非常にリアルに演じて戴けた。
SHIBUMI役に諏訪太朗さんを招くという野心も、関係各責任者の方々から理解を得て、SHIBUMIという不思議なキャラクターを描けた。この、リアル・ワールドとデジタル・ワールドを行き来し、双方の世界を理解しているキャラクターを、当初は策士めいた想定をしていたのだが、いやそれは面白くないと軌道修正して、まさきひろさんと相談して産まれたのがSHIBUMIであった。
デジモンが現実世界にリアライズしてくるという非日常的な現象を、デジタル・ワールド側で体現していたのがSHIBUMI――、その対象関係に私は思い入れていた。
ヒュプノスの山木――、はやはり、私がとても個人的な思いで書いていた。当初の提示は、子どもにつきまとう大人の悪人――という役割で、ジッポー・ライターをカチカチさせていた。選挙で選ばれた訳ではない科学的エリートが、実世界を支配するというテクノクラシーは、今現在、現実に進行している事態であり、こうした存在を私たちはリアル・ワールドで決して許してはならないのだ。H.G.ウェルズが脚本を書いた映画「来たるべき世界」は、破滅しようとしている未来の世界を、「きっと科学者が救ってくれる」というテクノクラートのイディオロギーが既に刷り込まれていた。ウェルズがガチガチのフェビアン主義者だと知ったのは映画をDVDで見てからだった。
だから私は山木に、「憎んで欲しい人間像」として登場させながら、24話で「君たちが羨ましいよ」と言ってPDAを貸し与える変節以降は、私自身を山木に投影させていたと思う。もう私は大人で、タカトたちの様な冒険は出来ない。だけれども、子どもたちの冒険(マインド)を支え、応援する事なら出来ると。
2000年にデジモン・アニメに着手した時の私にとっても、世間にとってもサイバー空間については何らワンダーを感じさせるものではなくなっていた。そこでデジタルなモンスターがメインとなる物語をどう描くか――。ここでもリアリティこそが物語発想の柱になければならなかった。デ・リーパーの設定は、NSAやFBIの監視システムがもし自律意識を持ったら、という仮定から考え出したものだった。
テイマーズに於けるデジモンがどういう存在であったか、については後に書こう。