第14話回顧 3
テイマーとパートナー・デジモンの相関関係が密になる事で、現実世界でデジモンが進化する――。子どもは普遍的に、自分のお気に入りのデジモンを進化させたいと願ってゲームをする(最初の携帯ゲーム)。
これが現実に起こった場合、何の代償も払わずデジモンにだけ戦いをさせるというのが、私には考えられなかった。この時期、既に私は究極体進化でテイマーとデジモンを一体にさせたいという腹案を抱いていたが、デジモンという商品とは無論、これまでのアニメ、アドベンチャーとは異質過ぎる表現になるだろうとも思い、いきなり「こうします。こうしたいです」と言い出さずに徐々に道筋をつける策をとる事にした。
完全体初進化時、タカトがグラウモンと痛みを共有するという表現は、これからの話数でずっと続ける事は厳しい。13,14話はテンションを最大限に引き上げたが、15話からはまたノーマルな(敵がデーヴァという括りになるが)エピソードが続けられる様にはしなければならない。
最初に14話のシナリオを貝澤さん、関プロデューサー、局プロデューサー、代理店プロデューサーに読んで貰った時は緊張していた。しかし意外にも、このアプローチは案外と抵抗なく受け容れられた。つまり、究極体進化への道筋がついた事になる。
貝澤さんは、以前一年間取り組んだ「ふしぎ魔法ファンファンファーマシィー」でもそうだったが、シナリオを大胆に変更する演出をする場合がある。しかし大筋とかプロットの根幹が壊される事は当然ながら、無かった。
14話は、タカトとグラウモンが時が止まった空間で会話をする場面、つまり心象風景の在り方が大きく異なった。またこの会話時、タカトの肉体がぼやけるという描写を入れていたのだが、貝澤さんは心の繋がりを重視したと思う。
グラウモンが一時消失しているというシナリオだったが、映像化されたのはより痛みを感じさせる、量子化しつつあるグラウモンをミヒラモンが貪っているという描写だった。
ともあれ、映像化されたものがベストだったという事だ。
恐竜公園のヒロカズとケンタ。ケンタがヒロカズに、タカトが羨ましかったかと訊く。
ヒロカズは否定して笑おうとするが――
異状に気づく。
都庁が青い柱と化している。
おつかいから帰ってきた樹莉――
商店街の人々――
ここは―― まだ痛みを感じているタカト。
無数の時計が回っている不思議な空間――
テイマーズはD-Arkの円形がリニアに回転するというインターフェイスがシンボリックに描かれてきた。オープニングのタイトル自体も円形インターフェイス上に表示されている。この時期の貝澤演出の、手書きのアニメーションと組み合わせるデジタルという特徴だと思う。
グラウモンが肩を咬まれたら、ぼくまで痛くなったと言うタカトに――
テイマー、と呼び掛ける声。
えっ?
テイマー、ぼく頑張ったよ――
咬まれた部位から毒が広がる様に、半身が黒くなっているグラウモン。
グラウモン――でもぼくたち負けちゃった――
もっと戦わせてよ――
でも――
ここからファンタジー的音楽が流れる。(多分前作までのBGM)
グラウモンはタカトに訴える。もっともっと戦いたいんだよ――
タカト、グラウモンのテイマーだよね――
ギルモン時よりも成長している声。
はっとなる。しかし――
レナモンも――
テリアモンも破れた。
ぼくは、テイマー……、
なのに! グラウモーーーーン!
ぼくが弱虫だから――ぼくのせいで――
タカトは必死にグラウモンに呼び掛ける。
目を見開き、タカト、と応えるグラウモン――
もう一度、一緒に戦ってよ!
――と延ばした手はクルモンの手を掴んでいた。
あれ
安堵する一同。タカトが倒れてから心配していた。
と、上空から激しい音が。
山木が緊急出動要請を出した。しかしミヒラモンには全く歯が立っていない。
どうするの? グラウモンも負けちゃったのにという留姫――
負けてなんかないさ! もう負けられないんだ。グラウモンも――
ぼくも!
ここから流れ出す「デジモンテイマーズのテーマ」
カードをまさぐると――、その一枚がブルーカードに。
テイマーが弱音を吐いちゃいけないんだ!
眩く輝くブルーカード――
戦いは終わらない!と掲げるカード――そのまま
スラッシュバンクだが、音楽は「テーマ」のまま続く。
カード・スラッシュ! マトリックス・エヴォリューション!
くるるー
タカト!
無残に食い散らかされつつあるグラウモンが――
光を放ち始め、データを再結合していくのに驚くミヒラモン。
ここより完全体進化バンク。オール3Dで描かれる。三体とも演出は、13話から各話に入る前に、今村隆寛さんがされた。
このマトリックス・エヴォリューションとはどういう意味かと中国のファンから聞かれて、私は究極体進化の事だと思い、そういう意味合いで答えてしまったのだけれど間違いだった。
しかし意味合い自体は同じだと思う。基盤ごと、つまりデジモン単体ではなくテイマーとの相関関係での進化がマトリックス・エヴォリューションだと考える。
いずれにせよこの言葉自体は、WIZにおられた北川原さんが創案したもので、私は解釈をしているだけなのだが。
この進化バンクは、クルモンの存在が強調されている。
暴虐的なエネルギーを抑制する為に口枷がはめられている――という設定だそうだ。
普通に喋る事が出来るけれど――。
凄まじいパワーでいきなりミヒラモンを虚空に飛ばす。
だがミヒラモンにも翼がある。何故進化出来る!? と咆哮。
いけぇ! メガログラウモン!
サイボーグ型完全体
肩バーニアが噴出している。タカトの図案とそう掛け離れていない。
怒りのミヒラモン、人間に組みするお前が何故進化出来ると三節棍を滅多打ちで――
メガログラウモンに撃ちつける。
右に左に――
地上でもタカトが、同様の衝撃を受けている。ここのリアルなアニメーションには肌が粟立つ。
感じるよ、君の痛みを――
ミヒラモン、もう勝負をつけようと三節棍の尾の先を尖らせ――
メガログラウモンの腹部めがけて――
しかしタカトは立ち向かう。もう一歩も戻れないんだ――
一歩前に進む――
尾の先が撃ち込まれ衝撃が走る――
――
ぼくは、ぼくは君のテイマーだから!
尾の先は刺さっていない。メガログラウモンの両腕がそれを阻止していた。
力勝負となり――
胸部の発射口がエネルギー・チャージを始める。
アトミック・ブラスター!(前半グラウモン、後半がタカト)
オーヴァー・キルのレヴェルでミヒラモンを――
粉砕―― 何故我らの神を崇めぬお前らが――
エネルギーの絶大さ――
自身が引き込んでしまった巨大なデジモンを、奴が倒してくれたというのか――
山木のジレンマが始まる。
ただの子どもの遊びだった筈なのに――
あの子どもたちが――
都庁を閉じ込めていた青い柱が消失していく。
ヒロカズとケンタが応援していた。やってくる樹莉。
バーニアで降下してくるメガログラウモン。
樹莉が、あれギルモンちゃん?と訊く。
違う。ギルモンが進化した――
完全体だ!
タカト君は? と訊くと、ケンタが示す。テイマーはデジモンと一緒に戦う、と。
身を屈めてタカトに爪を出すメガログラウモン。タカトは寄り添う。
タカト君……!
タカト――と呼び掛けるメガログラウモン。
ありがとう、テイマー。一緒に戦ってくれて――。
何言ってるんだよ! ぼくは君の、テイマーなんだよ!
涙を浮かべているメガログラウモン。
ヒロカズ、ケンタ、樹莉もメガログラウモンの前へ。
こうして淀橋小学校5年生は、デジモンの存在を受け入れた。
#14 Credits
原画:八島善孝
動画:富田美保子 佐藤恭子
背景:松本健治 鈴木慶太 佐々木友
デジタル彩色:鈴木陽子 木村規子 関口好子 村田邦子
デジタル合成:三晃プロダクション 広川二三男 則友邦仁 松平高吉 石川晴彦
演出助手:まつもとただお
製作進行:山下紀彦