第34話回顧 2
レオモンはどうして樹莉のパートナーになった? とグラウモンが訊く。
お前はどうなんだ? と訊ね返す。即答出来る答えがレオモンにはないからだ。
ぼくは最初からタカトと一緒だったもん。タカトがぼくを作ってくれたんだよ。だからパートナー。
キュウビモン、お前は?
私が留姫を最初に選んだ。留姫がその時、最も強いテイマーだと知り、私をより強く進化させてくれると思った。
そうだったね、と留姫。今は過去の話だ。
だが、リアル・ワールドに来た時の事はよく覚えていない。気がついたら、私が留姫の前に……。
樹莉、レオモンの顔を見て――俯く。
ごめんね、レオモン。私強くなくて、テイマーとして全然失格だもん……。
樹莉、これは運命だったんだ。恐らく私は樹莉のパートナーとなる為に、デジモンとしての生を受けた。そう思っている。
はっとなる樹莉――
ありがとう、レオモン。
レオモンは強くて優しいなー。どうやったらそうなれる?
私はこれまで戦いしかしてこなかった。デジモンは皆そうする運命に生まれている。
じゃあ、ぼくもいっぱい戦えばいいのかなぁ。
お前にはお前の運命がある。
さて今話で私は、くどいまでにレオモンに「運命」という言葉を言わせている。
樹莉との出会い、パートナーとなった事を、レオモンは喜んで受け容れた。それは戦ってロードして強くなる、という自分の生き方を変えられると思ったからだ。だからレオモンが今話で「運命」という言葉を使う時、「抵抗出来ない自分の未来」というネガティヴな要素を含む場合もあるのだ。しかしこの場面では、「戦わなきゃいけない」というデジモンの理に縛られていないグラウモンへの助言として用いている。
うーん、タカトに聞いてみよ。
ん~、タカトどこにいるのかなぁ……。
ジェンはシウチョンと離れたくない。お兄さんなんだもん当然だよね。
だからぼくが見てくる。テリアモンと一緒に。
ジェン、いいよね?
うーん……。なんか、気が進まないんだけど……。
大丈夫。危なくなったらすぐ戻ってくるから。本当に四聖獣が向こうにいるんだったら、一番強いデジモンだけど、この世界を守ろうとしている筈だもの。話せば判ってくれると思う。
純粋に、タカトが述べた様なアプローチが成果を出せるのならば、2001年には戦争など無くなっていた筈だった。しかし2001年時点でもそうではなかったし、2001年から新たな局面に世界は入った。
私が34話と、これ以降の展開について込めた想いは、2001年の、今から考えれば明瞭に平和であった日本の子どもに見せるべき物語だった。今のリアルな子どもに見せたいか、と問われたら考え込んでしまうのだ。今世界で起こっている事は、かつての災厄、戦争といった明確な危機ではない。しかし愚かな指導者の為に、未来が閉ざされかねないのが今の子どもたちだ。
幸いにしてデジモン・アニメは世界の広くで観られてきた。アニメという映像媒体が極めて普遍的な魅力を持っていたと改めて思う。日本人でなければ判らない社会風習や文化、言語の特異性なども、各国の吹き替えではそれぞれの担当者による配慮で、判り易く変更されただろう。レナモンの声が男性だったり、ロップモンが女の子になっていたり――。しかしアニメの物語、ナラティヴはほぼ誤解なく伝わっており、海外ファンのテイマーズに対する感想や、好きな人の好きな度合いというのは、驚く程に日本と同じなのだ。
だから、余計、今の子どもにこれを積極的に見せたいかというと、嫌だとは決して思わない。中には観る価値を後に見出す子どももいると信じたい。
――でも……。
はっ
大爆発!
うあーーーーーーっ!
何!?
煙が晴れるや――
ベルゼブモン!
何だよ! こんだけっきゃいねーのか!
他の連中もろとも――
片付けてやろうと思ってたのによう!
何でぼくたちを殺そうとかするんだ!?
俺が進化するには、これが条件だったからだ!
ベルゼブモンはこれまで様子見程度の接近しかしてこなかった。ベルゼブモンに残っているインプモンが抑制していたのかもしれない。しかし、今ここに現れたベルゼブモンには微塵の躊躇など一切なく、アサシンになりきってしまっている。
あれだけ《神》を敵視していたインプモンだった者が、何故ここまで従順に命令に従っているのか。ベルゼブモンは、人間とパートナーのデジモンを全てロードして究極の更なる上の存在となり、神に挑戦しようと考えていたのかも知れない。
ジェン! よし!
カード・スラッシュ!
ブルーカード
マトリックス・エヴォリューション!
テイマーズはワープ進化という単語は用いなかった。二段階を連続で見せる。
ラピッドモン!
へっ! てめえ一匹じゃ手応えもねえ!
なめんなー!
ラピッド・ファイア!
二連発。
かゆくもねえぜ。
ああっ!?
消えちまえ!!
ダブル・インパクト。
ラピッドモン――
両耳に被弾。
ああっ!? ラピッドモン!
わああああああ
うあ、うっ……。
こんな……、こんな時、ギルモン、どうしていてくれない……。
へへへへへ
怯える子どもたち。
タカト、渾身の叫び。
ギルモーーーーン!
ん!?
どうした?グラウモン。
今、タカトの声、聞こえた。
私も聞いた、と樹莉も言う。
ホントか? そんなの俺、聞こえ――
タカトの声が聞こえる。
身構えるレオモン。
光の柱が迫ってくる。
うわーやべえ、早く逃げなきゃ、とヒロカズ。しかし――
あそこ、あそこから聞こえるの!
確かにタカトの声が聞こえる、とキュウビモン。
急速に迫ってくる柱。
行く! タカトのところへ、とグラウモンが宣言。
ちょっと待ってよ、あの光の柱に入ったら、どこ飛ばされるか判んないじゃないか、とヒロカズ。
でも行く! タカトが呼んでる!
これも運命かもしれない、とレオモン。
行こう。こんなとこグダグダ歩いてるよりマシだよ!と留姫。
留姫らしい、とキュウビモン。
私は私!
ガードロモンもぼくに乗って。
う、うん!
ヒロカズ、ケンタ、しっかりつかまってて!
こうなったら行くしかねーか! マジかよー。
レオモン、樹莉を抱く。
キュウビモン、行くよ!?
光の柱が迫り――
飲み込まれる一行――
その背後からチャツラモンの影。これはチャツラモンの姦計であった。しかし光の柱を動かせる程の力はチャツラモンにはない。これも《神》の力、神威である。
神のお怒りを鎮められるのも、あと僅かの時。神に叛く者は一つところに集まる。
あまり怖くて泣き出すシウチョン。
ロップモンがそっと背中を撫でる。
せせら笑うベルゼブモン。
くそう、ラピッドモーン!? ラピッドモン大丈夫かーっ!?
ジェン……、こいつ……、強い……。
あたりめーだ! 俺はこのデジタル・ワールドで最も強いデジモンになるんだ。お前らの様な半端なデジモンなんて相手になんねーんだよ!!
高橋広樹さんの演技は、もうグロウルヴォイスだと言っていい。
待ってよ! 君はインプモンだった!
タカトは尚も、話し合いで解決をしたいと願っている。
――。
ぼくたちと一緒に、キャンプに行ったじゃない!
公園で一緒に遊んだりしたじゃない!
実際に見返すと、インプモンとはしばしばタカトたちは会っていたが、明確に一緒に遊んだというのは16話のキャンプ回だけであった。ここでも浦沢さんには感謝をせねばならない。
インプモン――、そんな奴はもう死んだ!
銃口をタカトに向けるが――
赤い空に輝き一閃。
タカトのすぐ近くに落ちる光の柱。
あまりの事に動けない。しかし――
グラウモンたちが。
グラウモン!
こんなところで何やってるのよ!
ターカート、会いたかったよー!
ぼくもだよ!――
と言ってタカト、ふと思い出す。
ギルモンはタカトの絵を元に、データが集まって出来た存在。
目を逸らすタカト。
どうしたの?タカト。
ギルモンはデータ……。ただのデータの集まり――。
タカトの両親が、「ぼくが考えたデジモン」といってギルモンを紹介された時、俄に受け容れ難かったのは当然なのだ。自分の夢想的なものが、肉体化し、実存しているという事実を突きつけられて、タカトは動揺している。
キュウビモンの声が聞こえる。
ベルゼブモン、お前――
うるせえキツネ!
黙ってろ!
そんな目で俺を見てるじゃねえ!!!
お前らの墓場はここだ!!!