第38話回顧 2
「神の領域」に入る事がどれほど重大なものかを、タカトらは思い知る。
当初の設定では、最終敵に四聖獣というプランだった。だが私はデジモン対デジモンの戦いをエスカレーションさせるのは気が進まなかった。「設定」次第で如何様にも強化出来る存在とヒーローが、パワーのインフレーションを進めていけば、デジモン・ファンが知っている四聖獣をも矮小化させる懸念もあった。
デーヴァが三体ずつ四聖獣に仕えているという設定も、中ボスを多く出すとストーリーの消化すら困難になる。だからテイマーズでは全てがスーツェーモンによって生み出された精鋭という改変をした。ゲーム用の設定というものは、必ずしも映像物語の作劇には不向きな場合があるのだ、という事に、2000年の私は確信的に考えていた。その私の改編案を受け容れいれてくれた諸関係者には、今さらながらも感謝している。
「神」という存在を、14話から繰り返してきたのは、今話の様なデジモンの神威を演出する為であったが、最初から「スーツェーモン」といった固有名詞を出したくなかったというのもある。
青い稲光が――
スーツェーモンの紅焔を縛る。
何ッ!?
二つのパワーが凄まじい激突。
空を青黒い雲が覆ってきた。
唖然と見上げる二人。
青黒い雲がスーツェーモンに迫る。
まさか……。
雲間から姿を現す――
チンロンモン。ただでさえ巨大なスーツェーモンを遥かに上回る体躯。
愕然。
南大門からも見えている。
なっ、なんだよあのデカいの――とケンタ。
あれは――、あれだよ、ほら――。
チンロンモン、聖獣型デジモン、究極体、四聖獣――。
あれが……。
しかし、チンロンモン様は何をなさりに……。まさかスーツェーモン様を御支援に……?
そんな……、スーツェーモンだけだって倒せないのに――、二体も相手に出来る訳ない!
睨み合う二者。
どうなってんの?――とギルモン
わかんなーい――とテリアモン。
無言で威圧するチンロンモン。
邪魔!
スーツェーモンが紅焔を放つ。
チンロンモン、ウロボロスの形を作り――、膨大なパワーを繰り出す。
その威力で結界が遠くへ――
飛ばされる。これは実は助けであったのだが――
中のタカトたちには堪らない。
あまりの目映さに目を開けていられない。
膨大なエネルギーがぶつかり合っている。
ヒロカズ、ケンタも呆然としている。だが、樹莉は……。
稲光と焔のつばぜり合い。
暗雲から抜け出す結界。
戦ってるの!?
戦ってる!
一体何故?
すぐ上空を焔が走る。
有り余るパワー戦。かくも神同士の諍いは大事を引き起こす。
如何なるつもりか!? と問い質すスーツェーモン。
無益な殺生は控えよ。そう告げるチンロンモン。
無益? その者たちは禍なり。我がしもべ、デーヴァを悉く亡き者にした!
本末転倒! 先にけしかけたのはデーヴァたちの方ではないか。そうまでして強さを求めるのは何故?
進化の為。進化して真の敵と戦う為。
かみさまたち、何話してんの?
チンロンモン様が、我らの事でスーツェーモン様をご説得あそばされている。
じゃあ味方?
良かったぁ……。四聖獣にも話が判るのがいてくれて。
ところで、真の敵って?
首を横に振るロップモン。
よくは知らぬ。
しかし、デジモンではないと聞いている。
ひょっとして人間?
でもない、とロップモン。
……。
デジノームたちとも違う。
未知なる存在――。
真の敵と戦う為に進化するなど、それまた本末転倒。
真の敵は我らが進化し過ぎた故、再び動き出したのだ。真の敵を鎮めたいのなら、進化せぬ事。進化せぬ事。
さては――、
目を赤く光らせるスーツェーモン。
デジ・エンテレケイアをデジモンの姿に変え――
隠したのは――
如何にも。我の望んだ事――。
しかし、デジ・エンテレケイアは我が連れ戻した!
垂直の壁を必死に登っていたクルモン、足を滑らせる。
折角登った分、少しずり落ちてしまう。
「デジ・エンテレケイア」って、クルモンの事だよね?
そうだ、と頷くロップモン。
デジモンは争い、進化する。人間の手を借りずに、デジモンたちだけで。
それこそがデジモン!
狭い了見だな。デジモンが人間と共に進化出来るなら、それもまたこの世にあるものと何故考えぬ。
それは、在ってはならぬ進化。許されざる進化!
そうだろうか?
そうだ!
神々の問答は続く。
ギルモン、ようやく岸に泳ぎ着いたが――
激しく疲弊している。
もしお前達の進化が正しいものなら――、我を倒してみよ!
紅焔を放つ!
どうして――
判ってくれないんだああああああっ!!!
ギルモンたちに目掛けて襲い来る紅焔。
タカトー!
こんなのは、嫌だあああああッ!
タカト!?
ギルモーーーーン!
急速降下しながら――
D-Arkを掲げる。
んん?
含み笑うチンロンモン。
紅焔よりも高速でパスする光に包まれたタカト――
想いは、届く!
紅焔が直撃する直前に光の球が――
一体タカトとギルモンは――?
いきなり別の四聖獣が出てきて言い争ったなら、もう神などという厳かさが消えてしまう。互いの力を見せつけ合う事で、辛うじて拮抗しているのだという描写。勿論タカトたちも視聴者も、何が争っているのかが判らない。
しかし、デジ・エンテレケイアを隠したのがどうやらチンロンモンであったという事がここで判る。
クルモンが、進化の輝きの力そのものがデジモン化した存在で、元々は無機的なるエネルギー体デジ・エンテレケイア Digi-entelecheia であった。
エンテレケイア、という一般にはアリストテレス用語で目にする言葉の意味は、「形相を実現されたもの」と定義づけられている。これだけでは意味が伝わらない。
この用語を持ち出したのが、WIZだったのか私なのか、今はもう覚えていない。恐らくはゲーテの「ファウスト」でホムンクルスを造り出す工程、フラスコの中で純粋生成された生命体であり、あらゆる経験をする前段階で、人生に足を踏み入れる段階――という意味合いでの命名だったと現時点では考える。
フラスコの中で実際に生命が産み出せるやもしれない、と本気で信じられていた時代のロマンと、畏れ。そうした危うい存在なのだと、言いたかったのかもしれない。
どうあれ、何故かデジ・エンテレケイアはクルモンというデジモンになって、デジタル・ワールドの表層を彷徨う内に、リアル・ワールドへと飛び出してしまった。そしてそれ以降、デジタル・ワールドのデジモンたちは幾ら敵をロードしても、進化が出来なくなってしまった。
しかし、リアル・ワールドでデジモンに親和性を抱く人間の子どもとパートナーになると、進化が出来る、という伝説が広まっていく。テイマーズはその時点から物語は始まっていた。
さて、今話のタカトはシリーズでも一、二を争うヒーロー・ムーヴをして虚空に飛び出した。