第45話回顧 1
デジタル・ワールドから帰還してから暫くは、プライマリ・テイマーの三人とクルモン、インプモンに焦点を絞ってきた。短いターンではあるが、第三部も第一部同様に基本に一旦戻し、テイマーとデジモンの関係性を深める一方で、現実世界を脅かす状況の推移を見せていかねばならない。
究極体への進化はデュークモンは2回披露したが、セントガルゴモン、サクヤモンはまだそれぞれ一度しか見せられていない。
ドーベルモンが伝えに来た四聖獣の力。それは「デジタル・グライド」という、テイマー(一度デジタル・ワールドに来た経験のある)をリアル・ワールドで仮想的にデータ化/メタファライズするものだった。
今話は究極体進化バンクを三階建て(同じCMを二連続放送するという事がかつてのテレビではあって、それを「二階建て」と放送業界では呼んだ)で見せる必要があるのだが、テンションの高い進化バンクを直結させると、その映像の力も色褪せてしまう。緩急の波が必要と感じた。そこで、今話のAct.1は例外的な心象風景描写となった。
演出はテイマーズでは今話が最後となった吉沢さん。作画は出口さんと野沢隆さん。美術は清水さんによる45話。
デ・リーパーに立ち向かえ ゾーン突入!
脚本:小中千昭 演出:吉沢孝男 作画監督:出口としお 美術:清水哲弘
前話リプライズの後、更に前話の終盤がそのままの編集で再現される。
アフレコは新規。なのでラスト近くのタカトのテンションは前話より少し低い。何せ今話では導入部なのだから。
D-Arkを掲げる三人――。
余韻の中でブラック・アウト。
漆黒に広がるデジタル・グリッド。
そこに立つ、データ化されたジェン。
今話は、普通テイマーズでは用いないモノローグを、これでもかと書いた。
目を閉じていたジェン――。自分の素直な気持ちを言葉にし始める。
ぼくは子どもの頃、もっと我が儘な子どもだったと思う――。兄妹が多かったから、主張しなければいけなかった。
趙先生に拳法をずっと習っていて――、まだ小さい時に、近所の友だちとケンカになって――、ぼくは相手に怪我を……。
そういう自分が嫌だった――。
我慢をしなきゃ、っていうのはいつも心の隅にあって――
それが、ぼくを縛ってた……。
だから――、ぼくにしか出来ない事を――
ぼくとテリアモンが出来る事を――!
マトリックス! エヴォリューション!
進化バンク・フル。
別に――、
男に生まれたかったなんて思った事ない。でも――、お父さんの事……。
関係無い! 関係無いって、思ってた……。
レナモンと出会って、タカトとジェンたちと友だちになって――
どんどん自分が変わっていくのが判った……。
――なんか、それがちょっと怖かった……。
勝つ、っていう事に一番拘ってた私が、どんどん弱くなっちゃうみたいな……。
でも! そうじゃなかった! 私が負けたくなかったのは――
マトリックス・エヴォリューション!
サクヤモン!
最初に、ギルモンと進化した時、ぼく、何が起こったのか全然判らなくって――
ぼくがデジモンになっちゃうなんて、想像したこともなかったもの……。
でも、デュークモンが走る時、ぼくも感じるんだ。
風が、ぼくの顔に当たってる感じがして――、その時ぼくはとっても嬉しかった。
ギルモン、ぼくの大切なともだち――
ぼくたちはいつまでもずっと!――
ここだけ、ロボット・ヴォイス(人間版)
マトリックス・エヴォリューション!
デュークモン!
この導入のモノローグは、進化バンクを効果的に見せる為の措置として意図しており、三人が「証言」しているのは、それぞれの問題意識を言葉にしている。
ジェンはシリーズ初期の穏健な、戦いに消極的だった自分の分析。留姫は、自分の家庭環境がやはり彼女の性格形成の背景にあった事を示唆。シリーズでは触れる余地がなかったが、42話(まさき脚本)で少し父親については言及され、放送終了とほぼ同時に公開された映画「暴走デジモン特急」(まさき脚本/中村監督)は、シリーズとは分岐したパラレルな最終話後日談であったが、留姫の父親に存在感が与えられ、留姫の父問題についての落とし所を提示していた(私は春映画=二本目の映画の内容は全く知らなかった)。留姫の心情に限っては、正史だと感じている。
タカトには、背負うものがなかった。テイマーになるまでは。今は多くの修羅場を経験している。だが、タカトの心情を描くなら、デジモンと一体になれた事の嬉しさであり、そして冒険の代償となった仲間の喪失という思い体験であった。しかし、このリレーション・シップが長く続く事の願いについては――。
シナリオでは、暗い空間にスポットライトが当たって、一人一人がモノローグを述べるという、極めて簡素に演劇的な書き方をして吉沢さんの演出に委ねた。丁寧な手書きのグリッドのループが三人に重なっていて、デジタイズされているというニュアンスを非言語的に直感させる演出がされた。視聴者により一層、普段と違うナラティヴ(語り口)だと感じさせる。
各進化バンクはフル。それぞれに「One Vison」の別ヴァージョンのイントロが作られたというのは幸甚だった。今話では特に効果的な使い方が出来た。
新宿駅南側線路が前話に引き続きバトルフィールドとなっている。「One Vison」は歌に入っている。
周囲を高いビルに囲まれた広い空間であり、既に新宿線区は運行していない。格好のステージとなった。
離れた場所から望遠で撮ったセントガルゴモンの勇姿。その巨大さを実感出来る。
その前を降下してくるサクヤモン。
そしてタカシマヤ・タイムズスクエアのビル屋上に立つデュークモン。
見上げるアリス。このシークェンスでは「One Vison」の音量が下げられる。彼女とドーベルモンの使命が果たされたのを知る。
アリスに、僅かに残ったドーベルモンのデジタル・グライドが浮遊。
二つの世界、それぞれに生きる者を消し去るデ・リーパー――。
にじり寄って来るADR-04, 05。
このデュークモンは絶対に許さない!
ロイヤル・セイバーを形成。今話は進化バンクに忠実なプロセス。
雄叫びを上げて跳躍。
ドーベルモン……。
最後の別れに来たのだ。
ドーベルモン……。
だああああああああ!
オペラタワー最上階がワイルド・バンチの観測所。
デジモンが、エージェント・デ・リーパーと交戦中です。と恵が報告。
デジモン!?
ジャンユーは落ち着きを失う。
子どもたちが近くにいる……!
彼はヴィカラーラモン戦の時を想起している。
土岐アナウンサーがテレビで報告。
只今、デ・リーパーから現れたエージェトと呼ばれる攻撃個体と、デジモンが戦闘を開始しました――。
デ・リーパー・ゾーンにも爆発が起こるが――。
子どもたちだけに戦わせていいのか!? と声を出すジャンユー。
写真額に見入るドルフィン。
子どもたち……。
アリス……。
旧サイトDigimontamers Resourcesのキャラクター紹介で、アリス・マッコイはキースの子、つまりドルフィンの孫と書いていた。しかし2017年に見直したところ、これはやはり娘だろうと思わざるを得なかった。タオだってシウチョンという幼い娘がいるのだ。この写真のアリスは、新宿に現れたアリスより少し幼い。しかし成人しているキースを見ると、そう前ではあるまい。決定的な事は今も言えないが。
現場へ向かおうとするジャンユー。
李さん! と山木が呼び止める。
ぐっと堪えるジャンユー。
サクヤモンの気合い。
セントガルゴモンのバーストショットで、凄まじい爆発が起こっている。
アリスは、自分の役目が終わったと――
立ち去っていく。
44~46話のバトル・フィールドをGoogle Earthで見たところ。真ん中に運転士、車掌の新宿運輸区の建物があるが、アニメではオミットされ、広い空間として描いている。これは2021年現在であり、線路の潜り込んだ上にはバスタ新宿という、高速バスターミナルの建物が数年前に出来ている。2002年にはなかった。
アリス・マッコイがなぜ来たのか。ドーベルモンとは少し前に出会った、と言っていたが、そう前ではあるまい。ドーベルモンがADRと交戦しようとするのをアリスがやめさせたのは、四聖獣から重要な使命を帯びているからだった。
アリスがこの世界には生きていないかもしれない――とResourcesで書いた為に、また英訳版もあった為に、幽霊だという解釈が広まってしまったが、いわゆる幽霊だとは私は全く思っていない。しかしアリスが、普通に人間として日本に来ていたとは、やはり言えないだろう。
リョウとは違う形で、アリスはデジタル・ワールドとリアル・ワールドを行き来する、超然的な存在になっていたのではないか、と当時の私は想定していた。