第49話回顧 4
カーネル・スフィアの内部は、もう樹莉を保護する機能を維持せず、本来あるべき様になっている。
ワン!
死んじゃえ!
樹莉なんて死んじゃえ!
樹莉がいなくなっちゃえば、もう酷い事なんて起きない――。
タカト君だって、危ない目にあったりしないんだよ。
く~る~……。
人間は愚かしい。人間が生み出した全てのものが愚かしい。
もうデ・リーパーは、人間・加藤樹莉のメモリーは不要。
人間の思考は、非論理的なもの――。
まあだぁ?
ジャンユーのスピーカー越しの声。
すまんねテリアモン。もう少しがまんしてくれ。
もーまんたい。
テリアモンの何を調べているの?
うん、リアライズしている――
デジモンの組成を、デ・リーパー解析に応用している……。
そうなの……。とジェン。
なんか耳がかゆいよぅ。
ああ、もう終わりだよ。すまなかったね。
ジェン、すぐに隣の部屋へ。
これがただの検査だったのか――。
スキャナー台の上のテリアモンを抱き上げるジェン。
ほっとするテリアモン。
ゾーンからビームが放たれる。
最初から存在すべきではなかった状態に戻すべきもの――。そうすれば――
歪んだ世界など始めから生まれなかった。
地球をグリッドで結び始める。
世界中のデ・リーパーが結びついて、活性化しています!
デ・リーパーの温度、急速上昇!
この規模であんな発熱を起こしたら、この地球の大気そのものを変えてしまうわ!
どんな災害が起こるか想像も出来ない!
――黙って立ち去るジェン。
行くの? と小声で訊くテリアモン。
ぼくたちしか……。
私なんか!
ソックパペットで自分の首を絞める樹莉に飛びつくクルモン。
ばか~~~っ!
必死にパペットを放り投げ――
じゅりのばか! ばか!
ばか! ばか! 泣きながら樹莉に訴えるクルモン。
みんなじゅりが好きです。
みんなじゅりが笑ってる顔が好きです。
タカトもギルモンも――
樹莉の顔が微妙に、正常な情動に戻っていく。
みんなも。
クルモン、と手で持ち上げる。
じゅり――
と! クルモンをケーブルが奪う。
もがくクルモン。くる~!
樹莉もケーブルに巻き付かれていく。
クルモーーーーン!!
ケーブルが樹莉とクルモンを引き離す。
もがくクルモン――。
たすけて……、タカト君……、たすけて
タカトくーーーーん!!
はっ!
加藤さん! と立ち上がったタカト。
何? と怪訝そうなカイ。
タカト、いったいどうしたの? とギルモン。
加藤さんが……、
――一瞬躊躇うも――
ぼくに助けてって!
海岸上の道路に停まる、松田家のバン。
剛弘の声。タカトかー?
あれ、なんだカイ、駅でずーっと待ってたんだぞ!
ただならぬ雰囲気に美枝――、
タカト……?
行こうとするジェンの背にSHIBUMIの声。
ギリギリ間に合ったかな?
出来たんですね?
まだ思いつきのアルゴリズムなんだが……、
このカードにセーブしておいた。巧くすれば君たちの助けになるかと。
ありがとう水野さん。
ジェン、レッド・カードをスラッシュ!
するとD-Arkから信号が発せられる。
ここから挿入曲「Starting Point」が流れ始める。和田光司+AiM+太田美知彦(作詞:松木 悠/作・編曲:太田美知彦)「ソングカーニバル」に収録されている。タカト、ジェン、留姫、三人の最後の出陣は、悲壮なものではなく、未来に希望を持てる様に描きたかった。この男性二人と女性一人の歌は、これ以上はない程のマッチをしていた。
留姫のD-Arkが受信。
行かなきゃ、私たち。
うん。
ママ、おばあちゃん、ごめんなさい……。
前を向いた顔は強いものに。
タカトのD-Arkが受信。
それ、どうなっとる訳? とカイ。
ジェンが呼んでる。
ぼくたちが戦える準備が出来たって。
タカト……。
また戦いに行くって……。
踊り場で見上げ――
お父さん、行ってきます。
行ってくるね!
見送るジャンユー。
その顔には、強い悔恨の念が既に見られる。
強い顔のジェン。
今話、川田さんはテリアモンをとうとうジェンの頭に乗せなかった。そこが少し個人的には悔やまれる。
横浜港から飛び立つサクヤモン。
すごく良い顔をしている留姫――。
ここで歌はAiMさんのパートに。
飛翔するサクヤモン――。ワンカット。
ぼく、行かなきゃいけないんだ。
我慢していたのに、泣き出してしまう美枝。
ったく、こういう時どんな事言えばいいんだ……。
父親ってさ……。タカト、ギルモン――。
ギルモンたち、絶対帰ってくるよ!
すると美枝が――
両手でギルモンの頬を撫でる。
タカト――。
あなたを産んだこと、誇りに思う。
――ありがとう! お母さん!
ギルモン!
うん!
行ってきます!
駆け出すタカトとギルモン。
タカト!
タカトが上着を投げてよこす。
がんばれよー!
ラストカット――。
ストップモーションとなって、コントラストが上がり――、49話は終わる。
樹莉も含めて子どもたちには皆、それぞれにそれぞれなレヴェルで問題を抱えている。しかしみな、それを自ら乗り越えようとしている。
なるべく情緒過多にならない様に、と書いたシナリオだが、私は美枝がギルモンを撫でるところで、いつも泣いてしまう。24話であれほど怖がっていた美枝。タカトがデジタル・ワールドから帰ってきても、ギルモンを労ったのは剛弘だった。今は、ギルモンがタカトにとってかけがえのないパートナーなのだと認めている。
ギルモンがいる事が日常化している――。いや、決してそれは日常なのではなかったのだと判るのは、この物語の終わりになる。
マザー・デ・リーパーは渡辺けんじさんのデザイン。顔の小さな目は実はデジモンらしい表現になっている。
関プロデューサーも渡辺さんと組まれたのはテイマーズが最初だったそうだ。無印/02と、近い様でいて違うという微妙なラインがある。何よりテイマーズの場合、基本が現実世界であった。各話で驚く程精緻な現実が描かれ、デジタル・ワールドではそこからどれだけ離れ得るか。渡辺さんがこの仕事を楽しまれたかどうか、直接話を伺ってはいないので判らない。しかし色々面倒をお掛けした元凶としては、感謝と共にお詫びするしかない。
信実さんは21話「レオモン様」の活き活きとした樹莉を描いて戴いた事で、終盤の樹莉との落差を結果的に見事に視覚化された。リョウ初出28話も担当されたが、やはり信実さんの作画で強烈な印象は35話、デュークモン初進化回である。ベルゼブモンの迫力は損なわずに、微妙に瞳が大きくなって一層魅力的な悪役に描かれていた。角銅さんによる、個人映画的とも通じるアブノーマルなコンテを、実にテレビアニメとして成立させて戴いた。テイマーズの仕事も今話まで。大変お疲れ様でした。
このブログを書く中で、まさきひろさんと当時の事を確認したり出来たのだが、まさきさんは本シリーズのみならず、川田さんとはよく組まれたそうで、超ベテランなのにSFが好きで、実に洒落た方だったそう。
キャプチャしていて、パン・ショットが多いのがとにかく印象的だった。そしてロング・ショットも、普通のコンテよりも一段更に下がるくらいのサイズ。全身の芝居をアニメーターに強いるコンテを描かれ、改めて演出家としての個性を認識させて戴いた。
ありがとうございました。
色彩設計の板坂泰江さんも、単独の色指定は前話まで。今話は大谷和也さんとの共同クレジットとなった。やはり既にフロンティアの方が忙しくなられていたのだろう。
次回予告、また謎な新キャラ登場か。
#49 Credits
ギルモン~デュークモン:野沢雅子
松田啓人~デュークモン:津村まこと
テリアモン~セントガルゴモン:多田 葵
李 健良~セントガルゴモン:山口眞弓
レナモン~サクヤモン/牧野ルミ子/秦 聖子:今井由香
牧野留姫~サクヤモン:折笠冨美子
クルモン:金田朋子
ベルゼブモン~インプモン:高橋広樹
加藤樹莉/ADR:浅田葉子
山木満雄:千葉進歩
鳳 麗花:永野 愛
小野寺恵:宮下冨三子
松田剛弘:金光宣明
松田美枝:松谷彼哉
李 鎮宇:金子由之
ドルフィン:菊池正美
デイジー:百々麻子
バベル:乃村健次
カーリー:松岡洋子
ジョニー・ベッケンスタイン:石井隆夫
SHIBUMI(水野悟郎):諏訪太朗
ナレーション:野沢雅子
原画:原田節子 長崎重信 信実節子 仲條久美 兼高里香
動画:渡邊 渉 柳田幸平
背景:鈴木慶太 佐々木友子 山田美奈子
デジタル彩色:星川麻美 井浦祥子 鈴木陽子 大村規子
色指定:板坂泰江 大谷和也 (前話までは板坂さん単独)
デジタル合成:三晃プロダクション
広川二三男 則友邦仁 松平高吉 石川晴彦 花見早苗
演出助手:まつもとただお
製作進行:坂本憲知生