第39話回顧 2
テイマーズは、おおまかな「各話でこなしておく事」というものは当然あったのだけれど、殊更に文書化せず、それまでのシナリオを前提に細かいところは直接話し合って、それからはその回の主題だったり、ディテイルはそれぞれのライターが考えて書いていった。非効率ではあるが、話し合う方が有機的な縦筋、キャラクターの深化というものが出来るという事を、私は経験から判っていた。
今話に関しては、クルモンの状況がこうなってる、で、子どもたちが助けに来るのだけれど、極めて困難な場所、次話への引き渡しはここまで――、という程度しか縛りはなく、「で、留姫とレナモンがサクヤモンに進化する、みたいな」がオーダーの全て。
留姫はタカトやジェンよりも、早くからパートナーとの関係性に激しく葛藤した経験を持っており、最早ぐじぐじと悩む様な心理的ステイタスには無い。かと言って安直には進化出来ない。だから留姫は、自分自身を追いつめるのだろうとは思っていたが、私も視聴者も、レナモンの方に共感して見ていくという展開には今更ながらに驚いた。
こういう行動に躊躇なく挑む留姫は、やはり「男子」には太刀打ち出来ない強さがあるのだと思い知らされた。
ただ、このパートの留姫を突き動かしているのは、鉄砲水で溺れそうな留姫がクルモンに命を助けられた、という30話の出来事があったからでもあり、単なる無鉄砲な行動ではない。
クルモンを求めて下降していく留姫とレナモン。
デ・リーパーの泡がすぐ近くを浮上していく。思わず身を壁に寄せる。
留姫、足を滑らせて転落しかかるが――
レナモンがしっかりと手を掴み――
留姫を引き寄せる。
ねえ、運命は変えられないの?
――変えられる。
最終的な、デジモンテイマーズの主題である。だが、それを言葉だけではなく、行動によって視聴者の子どもにメッセージとして伝えていくのが今話であり、第三部の展開なのだ。
じゃあ、レオモンは樹莉のところに戻ってくる?
――いや、それは……。
変えられないんじゃん。
留姫、先に急ぐ。
過去を変える事は出来ない。でも――
それを受けとめる心を変える事は出来る。
気にするなって事?
過去は変えられなくとも、現在は変えられる。
現在が変われば、未来を変える事が出来る。
しかし――
レナモンが先行。
しかし?
それを人に強いる事は出来ない。樹莉が自ら変わろうとしなければ……。
樹莉は今、悲しいんだよ?
それは判る……。
この二人の深い話がここまで描かれた事はなかった。こうした極限の状況だからこそ出来る、本質的な会話。
! レナモンが何かに気づく。 何!?と留姫。
か細い声。く~る~……。
じっと見つめる留姫。幻聴なのか――?
いや、見えた! ちっぽけなデジモンが!
いた! クルモン!
留姫だクル! と喜ぶと――
落ちそうになって慌てる。だが――
もう迷わずに真っ直ぐ――
留姫に向かって――
飛び込む!
ついに再会!
クルモンさみしかったクル。怖かったクル。
うんうんと頷く留姫。もう大丈夫だよ。
レナモンが警戒の目を向けた。
上がって来る泡。
危ない!と留姫を待避させる。
留姫のリュックが泡に奪われ――、中で消滅。
さあ早く戻ろう、とレナモン。
レナモンが先行しようと――
すぐ近くに泡が!
逃げようにも間に合わない!
泡を叩き斬る――
サイバードラモンのイレーズクロウ。
狭いが待避出来る場所からリョウが留姫を引っ張る。
留姫早く! こっちだ!
泡は過っていった。
君はどうしてそんな無茶なんだ!
何よ、あんただってこんなとこまで来たくせに!
それより、どうする? 泡が段々増えてるみたい……。
このままじゃ身動きとれないな……。
――なんとかしなくちゃ……。
サイバードラモン! 頼む!
カード・スラッシュ! デヴァイスカード!
「SLASH!!」ヴォーカル入り。
ナイト Knight !
カードによって得たランス二竿を、縦孔の狭まったところに打ち込んだ。
イレーズ――
クロウ!
周囲の壁が崩れていく。
サイバードラモン、渾身のイレーズ・クロウ連発。
縦孔が岩で塞がれていく。
よし! うまくいった!
今のうちに早く!
頷く留姫。
岩で塞がれている縦孔だが、噴煙が上がっている。
封鎖した分、エネルギーが溜まり、爆発的に泡が吹き上がってくる可能性がある。
長くは保たない。
リュックみたいに消えちゃう訳にはいかないもんね!
登っていくが、当然下りよりも厳しい。
岩の下で活性化している泡。
ここからBGM「捜査」が久々に流れ始める。テイマーズ初期の、さあこれから活動開始だ!という時に流れる軽快な曲。
チンロンモンがその長い髭を、縦孔深くに垂らしている。
髭を伝って降りてくるタカト――
手をこまねいて待っていられないと、行動を起こしている。
どう? 俺のアイデア、と自慢げにヒロカズ。
チンロンモンの髭を拝借するなんて最高だよ、とジェンも称賛。
ロープで懸垂下降する事を「ラペリング」と呼ぶ。本来なら登山用のカラビナなどの装備が必要だが、これはチンロンモンの髭なのだ。ちょっとやそっとでは――
ケンタが気づく。
ねえ、さっきから泡が出て来なくなってない?
留姫とリョウさんが何かやってるんだ。
ぼくたちも早く行かなくっちゃ、とジェン。
オッケー、とヒロカズ。
だいじょぶかな、タカト……。
モーマンタイ。きっとクルモンを連れて戻ってくるよ。
だってジェンはしっかりしてるから、と自慢げなテリアモンに――
タカトだってしっかりしるよ? とギルモン。
そうかな? とかなり懐疑的なテリアモン……。
勇気ある子どもたちよ……
無事を祈るチンロンモン。
遂に岩の封印が破られる。
留姫! 急げ!
うん!
登り始める留姫。
大爆発が起こりそうだ……。
上の方から留姫らを呼ぶ声が聞こえてくる。
みんなー! クルー!
留姫ーっ!
無事かー? とヒロカズの声。
バーカ! 無事に決まってるじゃない!
再び泡が上がり始める。
背後に来た泡を咄嗟に腕で払ってしまうリョウ。
ああっ!
右腕のアームカバーが消失。
リョウはゲームの、デジタル・ワールドを冒険する少年としてデザインされていた。だから服装もフィクショナルで日常的ではない。しかしゲーム・ユーザが親しんだリョウはこのリョウなのだからと、テイマーズでもそのままになっている。
この腕アーマー的なパーツが何なのか、最初はよく判らなかったのだけれど、28, 29話で猛るサイバードラモンを鎮める為に、D-Arkから放つ光の鞭を使った時に判った。強烈な引っ張りに手首を痛めない為の、サポートなのだろう。
しかし、それも失われた。
留姫! 早く行くんだ!
留姫は黙って、深淵を見下ろしている。
留姫、どうした?
無音で沸き上がってくる泡。
じっと考えている留姫――
間に合わないの。
なんだって?
このままじゃ、私たちは勿論、上にいるみんながこの泡に飲み込まれちゃう。
何を考えてる?と近づくリョウ。
クルモンをお願い。
えっ!?
どこに行くつもりだ!?
泡を食い止める。
そんな事出来る訳ないだろう!!
待てよ留姫! 留姫ーっ!とリョウの声が響くが――
後を追うレナモン。
様子が変だ。
留姫がどうかしたのかなぁ。
泡に触れたら、自分が消滅してしまうんだぞ!!
レナモンが付き添う。
ありがとう。
留姫は戻れ、とレナモン。
留姫は戻れ。
いやだ。
戻れ。
いやだよ!
どうして私の言う事が聞けない!?
レナモンの、本気で悲痛な、ギリギリに感情が表現された台詞。
留姫は無言。
この先は死の世界が待っているかもしれない。
……。
今沢さんが監督された映画「冒険者たちの戦い」の「傷跡」というチェロとピアノの二重奏が流れる。
デジモンとして、パートナーを危険な目に遭わせる訳にはいかない、とキッパリと言うレナモン。
帰れ!
留姫! どうして何も答えない!?
運命は変えられるんでしょう?
――深く頷くレナモン。
今の頷きは、「運命は変えられる」という答えと、そして留姫の意図にも同意したのだ。
亀裂が大きく走る。
もう迷いはない。
デジタル・ワールド侵攻を開始したデ・リーパー。
リョウはゲームのパッケージではテイマーズの服でしたけど、ゲームの中身ではずっと02の青紫のシャツのままでした。本当にかっこいいのでゲームでも見てみたいけど、今はほぼテイマーズのアニメでしか見られないデザインとなっています。 pic.twitter.com/YQc0yiqKzI
— Ulforce魂 (@Ulforce_Soul) 2021年6月18日