第39話回顧 3
留姫の行動、そして今の決意にはレナモンと共に究極進化を果たす、という期待と計算もなくはなかっただろう。
しかし振り返ればタカトとギルモン、ジェンとテリアモンの進化だって、ロジカルに「こうしたからこうなった」ではなかったのだ。客観的に無理な事を、為そう――という決意と強い意志こそがこの奇跡を結実させる。
デ・リーパーが吹きだそうとしている孔に向かって跳躍する留姫とレナモン。
「冒険者たちの戦い」の「美波!!」という、弦楽オーケストラの曲。
留姫ーーーーーっ!!
強い意志の顔の留姫。光を引き始める。
クルモンが耳を拡げて喜ぶ。だが、額は光っていない。
留姫、ぐいっと顎を上げた。
そしてそのまま――
サクヤモン進化バンク。コンテ/演出は荒牧さん。作画はキュウビモン、タオモンと連続して大塚健さんが担当される。
マトリックス・エヴォリューション! 叫ぶのは留姫。
レナモン進化!
黒い影が過って――
静寂の後、このカットから「One Vison サクヤモンVer.」のイントロ。
キャラクターに3Dモデルを作っていないものの、この時期のテレビアニメとしては最高のCGが使われている。
無装甲状態のサクヤモンが放ったのは「飯綱」(いづな)という四匹の管狐(くだぎつね)。海外の人に説明しておくと管狐というのは、細い杖の中に仕込まれている狐の精霊。一種の使い魔。「火」「水」「風」「雷」の属性を持っている。設定ではこれが必殺技の一つになっていたのだが、進化バンクで使っている。
飯綱がサクヤモンを光の帯で取り巻いていく。
この辺りの映像は色とエレメンツの要素が多過ぎて、YouTubeのWEBM圧縮ではちょっと破綻している。もちろんBlu-rayだと完璧に再生出来る。
装甲が現れる度に、能楽の鼓の音が鳴る。
踵を上げる。
全段階を波紋でモンタージュ。
サクヤモン!
ここでドラム・フィルから歌頭。
あったかーい。
ついに自分も進化した事の喜び。
金剛錫杖を地に突く。
涼しげな音を鳴らす。
サクヤモンはデ・リーパーの上に立っている。
あれは――!?
進化したでクル!
未だ上昇しようとしている泡。
錫杖を鳴らし――
無伴奏で歌い始めるサクヤモン。
輝き始める。
留姫の気持ちが、今は祈るというものなのだ。
跳躍。
デ・リーパーはサクヤモンを追って急激に活性化。
サクヤモン、鼓の音と共に上昇。
追ってくるデ・リーパー。
錫杖を振るうと、デ・リーパーが消失していく。
相手を抹殺するというのではなく、浄化するというイメエジ。
一面が桜色の光に。
呆然。
なっ、何、これは?
あったけー、とヒロカズ。
ああ――。ジェン、初めて見る存在。だが――
サクヤモン、究極体、神人型データ種――
レナモンが究極進化したんだ……。
みんな、大丈夫?
レナモン、タオモンとも違う成熟した女性の声(勿論ルミ子、聖子とも違う)。
う、うん。
サクヤモンのお陰なんだね?
良かった……。
留姫、全く君には敵わないよ。
デ・リーパーの放つ光が収まって――
スーツェーモン、チンロンモンが縦孔から飛び出す。
久しぶりだークル!
会えてうれしいクル。
ぼくたち随分クルモンの事探したんだよ? とギルモン。
知ってた? とテリアモンが訊くと――
知らなかったでクル!
神の背に乗って飛ぶ子どもたち。
サクヤモン、サイバードラモンは併走。
朱雀門へ――
尖塔は崩れ落ちてしまっている。
地上に降ろされる子どもたち。
サクヤモンの姿から戻った留姫、髪を結わえ直していると――
留姫!という悲痛な声。
駆け寄ってくる樹莉。
どうしたの?
留姫、いなくなっちゃうかと思った、と抱き締める樹莉。
ごめん、と謝る留姫。
クルモンが樹莉に近づくが――
哀しげに見つめるだけ。
じゅり、元気ないクル……。
ともかく、これで一緒にみんな帰れる、とジェン。
うん!とタカト
ギルモン、帰りたい。
だがその時――
激しい振動。キャプチャでは判らないので加工した。
あの縦孔から尋常ではない量のデ・リーパーが――
憤るスーツェーモン。
真っ直ぐ伸びたデ・リーパー――
四散していく。これは手描きの原画。
愕然となる。
降り注ぐデ・リーパーの泡――
その一つが、樹莉のすぐ足元に――
これが、全てを消してしまうものだと知っている樹莉。だが――
その場から逃げようともしない――。
いかなる事態になったとしても――
この世界は我が護る!
このカットはスーツェーモンからパン・アップして――
本篇冒頭と同じく、小さなリアル・ワールド球で39話は終わる。フェードもしないので、エンディングに直結。すると――
ポン寄りの繋ぎになる。これには鳥肌がたった。
サクヤモンのデザインを最初に見た時、攻撃するという必殺技よりも、危ない存在を救い、邪気を浄化する様な「必殺技」にして欲しいと要望した。タオモンも既に、劇中では攻撃よりも防御の力で活躍していた。人間とほぼ見えるサクヤモンに、あまり殺戮的な描写をさせたくなかった。
一応、金剛界曼荼羅という技は錫杖を振るって(突いて)、邪気を浄化するという技になっているのだが、それだけだとデュークモンやセントガルゴモンの見せ場に比べて地味になってしまう。かと言って勝手に設定を捏造も出来ない。
そこで考えたのが、「歌」であった。巫女的な描写になるが、声こそがその場を超越的に清められる演出が出来るだろうと。
しかし既に4クール目に入る時期で、全体プロジェクトは貝澤さん筆頭に次番組の開発に移りつつあった。音楽出版元に頼める時期でもなく、アフレコ時に何とかする、という非常識な手段を執らざるを得なかった。
ともあれ、ここまでのアフレコで今井由香さんの声には圧倒されてきたし、キャラクター・ソングでも強い感銘を受けてきた。今井さんに何とかして貰うしかないと。
歌詞は元希さんが書かれたが、特定の宗教に近づかない様に、言語すらも抽象化されたもの。39話のアフレコが全体的に終わってから、今井さんに残って貰い、歌をその場で、つまり歌用のブースですらなくタバックの広いスタジオで、即興でメロディをつけて歌って下さいという無理なお願いをした。
今井さんも困った顔をされていたと思うが、数分、鼻歌で試されてから、「降りてきました」と冗談めかして言って、録音され、ワンテイクでオーケーとなったのが「舞散花~サクヤモンの唄~」。後に「デジモン挿入歌ワンダーベストエボリューション」というCDにも収録された。
今思えば、演出の今沢さんにも、無茶な事をお願いしたなぁと思う。反省はしていないけれど、感謝は最大限にしている。
サクヤモンの進化バンクが何故CGではないのか、とよく訊かれたが、キュウビモン、タオモンの流れがそうだったからだと思っていた。荒牧さんも、同じ判断をしたのだと思う。その方が画面が映えるというシンプルな理由。CGは20年経って、ハイパーリアリズム方向への進化は目覚ましいが、テレビアニメでの部分使用という面で言うと、テイマーズで描かれた表現は全く古びていないのではないかと思う。
キャプチャしながら何度も思った事は、4:3という画面比率はいいなぁ、という。FF(人物の全身カット)にせよクローズアップもそうだし、背景美術も美しく構図が決まる気がしてならない。まあこれは老人の戯れ言。
#39 Credits
ギルモン:野沢雅子
松田啓人:津村まこと
テリアモン:多田 葵
李 健良:山口眞弓
レナモン~サクヤモン:今井由香
牧野留姫~サクヤモン:折笠冨美子
加藤樹莉:浅田葉子
塩田博和:玉木有紀子
北川健太:青山桐子
サイバードラモン:世田壱恵
秋山 遼:金丸淳一
クルモン:金田朋子
チンロンモン:小杉十郎太
バイフーモン:辻 親八
シェンウーモン:八奈見乗児
ナレーション:野沢雅子
スーツェーモン:森山周一郎
原画:清山滋崇 内藤眞由美 長崎重信 仲条久美 永木龍博
大塚 健
動画:馬渡久史 柳田幸平
背景:鈴木慶太 佐々木友子
デジタル彩色:松山久美子 井田昌代 及川眞由美 小久保真希
デジタル合成:三晃プロダクション
広川二三男 則友邦仁 松平高吉 石川晴彦 花見早苗
演出助手:まつもとただお
製作進行:坂本憲知生