第41話回顧 1
いよいよリアル・ワールドへ帰還する。デジタル・ワールドへは丸四ヶ月行っていた事になる。放送は2002年1月13日。
貝澤さんが各話担当として最後に担当。作画は八島さん一人原画。私含めたこの三者組み合わせは14話以来。美術は渡辺さんが担当。
2017年に翌年発売用Blu-rayボックス特典のCDドラマを書くまで、テイマーズと言われて最初に思い出すのは1話ではなくこの41話だった。貝澤さんが演出の場合、基本的に私はシナリオでの表現は曖昧にして、短めに書いていた。アークがどういうものなのかも、基本設定などなくて、今話のみで表現される。だからディテイルの殆どは八島さんと渡辺さんと貝澤さんが考えて描かれたものだ。
久々にシナリオを読み直したが、記憶よりは変わっていない。けれどやはり驚きが多かった。
帰還 リアルワールドへ!
脚本：小中千昭 演出：貝澤幸男 作画監督：八島善孝 美術：渡辺佳人
今話のシナリオでは、夜になるのが41話になってからになっている。しかし40話で既に夜になっていた。前話の川田さんと貝澤さんとでそういう申し合わせがあった様だ。
カウンター・プログラムがもう定時を過ぎている。
まだみんな揃っていない。
アークは、早く乗れと言わんばかりに開口している。
と、風が吹いてきて――
風……。
吹いてくる方角を見ると――
凄まじい粉塵が強烈な風に飛ばされてくる。
うわっ！
――アークは……？
風に煽られたアーク、姿勢を傾がせて――
ゴン！ メサの壁面にぶつかる。
風に飛ばされまいとロップモン、テリアモンを抱いてしゃがんでいたシウチョン。
ジェンがシウチョンを抱え上げる。
乗るんだシウチョン。
みんなも早く中へ！
ケンタの声。
ヒロカズ、とにかく加藤を中に乗せよう。
おし、ガードロモン、手伝って！
オッケー。
アークが通ってきた緑色の光の軌道が細くなっている。
更に細くなって――
四本の牽引ビームに変わる。
これがアーク軌道。
アーク前部のヘッドライトの様な四つのライトは、これの為にデザインされていた。
ギルモンが叫ぶ。
タカトー！ 早くー！
乗っててギルモン！
――まだ戻って来ないのだ。今は乗れない。
お父さんと約束したんだもの！ 帰ってギルモンパン、食べるって！
ギルモンパンの初出は20話インダラモン後編（八島作画）。
――しかしまだ見えない。
留姫、どうしたらいいの……？
メサの壁面に映るキュウビモンが走る影。
疲弊しているインプモンも乗せている。
ホントに、バカだよ……。（前話のインプモンの台詞を受けている）
留姫！ このままでは間に合わない。
私に力を！
高速プラグインS
はっ！
気合いで跳躍するキュウビモン――
アークのコクピット。と言っても船内での操作は出来ない。
ピエロとかクラウンの顔に見えて、ちょっと怖い。
じゅーり、どうして？
どうして何も言わないでーすか……？
クルモンは、39話以来、樹莉が笑顔をクルモンに向けない理由が判らない。
ヒロカズ、ケンタも樹莉を気に掛けている。
加藤、平気か？ とヒロカズ。
もう帰れるからさ、とケンタ。帰れるクル。
その時、アークが揺さぶられ――（画像加工）
動いた！ とシウチョン。
全作画でキャメラが後方へ引いていく。
タカトー！とジェンが叫ぶ。
もう動くの!? 追って走り出す。
どうしよう!?
ジェーン、ぼくたち見てこよっか？とテリアモン。
う、うん、とジェン。
俺が見てくる！ とリョウ。
サイバードラモン！
雄叫びを上げてリョウを乗せ、飛翔。
頼んだぞーー！とジェンが叫ぶ。
ダイナミックなアングルの走る脚。だが――
転倒するタカト。
タカトー！ ジェンとテリアモンが交互に呼ぶ。
ねえ！ 止まってえ！
ギルモン、最初から不在の操縦者に訴える。
ねえ止まってよ！ タカトがまだ乗ってないんだよ！
止まってよ！お願い！ 叫ぶギルモン。
でも、これ船なんだから聞かないよ、とケンタ。
タカト、早く飛び乗れ！ とヒロカズが叫ぶ。
頷いて立ち上がる。
また走り出すタカト。
引き上げられていくアーク。
私は「地球最期の日」の様な急角度のロケット・ラウンチャー軌道が仮想的に出来る――という想定のシナリオを書いていたが、貝澤さんはトロール船の様に光のロープでアークを海底から引き上げる様なイメエジに描く。確かに1000ｍといった深海底でのトロール漁、サルベージという手探りの作業が、このアークでの子どもたち救出というオペレーションには相応しい。
ヒュプノスでモニタされているアーク。
よし！ アークが戻ってくる！ と山木。
深く頷いたジャンユー、全員無事でいてくれよ、と絞り出す様に言う。
オペレータ席の麗花がフレームイン。今話のオペレータ描写はバンクではなく新規。
軌道補正、X+0.0057, Y-0.2451――麗花
軌道ビーム安定。出力75％――恵。
猛烈にキーを叩くドルフィン。
分散コンピューティングでここまで出来るとは。
この世界も見捨てたものじゃないな！
F5アタックだとかDDOS攻撃など、障害を引き起こすものではなく、建設的なネットワーク・ユーザの集合力を描こうという意図があったのは前話の回顧でも記した。
まだ、タカトたち以外の人間は見た事すらない、リアルとネットの境界。
自動計算が終わる。
固唾を呑んで見守っていた聖子とルミ子。
ありがとうございました。次の計算を行ってください、と。
新規にメモリ処理をするタスクがダウンロードされる。
これであの子たちが救えるのよね！ 聖子はどう助けているのかは把握していないものの、これが留姫らを救うプロセスだと察している。
暗い神楽坂――
もう少しというところで、タカトと手を結べそうなところ、離れてしまう。
ああっ！
必死に走るタカト。
タカト！
この一連の場面の山口さんの芝居のリアルさが、臨場感を作っている。
タカトーｰｰッ！ ギルモンが必死に叫ぶ。
しかしタカトの体力が限界に来ている。
タカトおおおおおお！ ギルモン、落ちる！とジェンが――
必死にギルモンの胴を掴んだが、ジェンも落ちそうに。
よっしゃ、とガードロモンがジェンを支える。
するとテリ、ロップが走ってきて――
任せて！
我も！
クルモンまで――
くりゅー！
タカトの指を掴む。
タカト、クルモンの腕に掴まれた。
嬉しい！
タカトの足が離れる。
サーカス状態で上昇していくアーク。
あっ！
クルモン、とてもタカトの身体を引っ張れるだけの力が――
クルモン！
タカト、思わずクルモンから手を離す――
しかし強靱なクルモンの意思（あの進化種鞘の深みから自力で登ったのだ）は、タカトの指を辛うじて掴む。
渾身の力で引き上げ――
引っ張り上げ――
ようとしたところを転落してしまう……。
一瞬愕然となるが――
わあああああ！！！ 止まってーー！！！
アークぅ！！ 止まってよーーーっ！！！
野沢さんの演技は、YouTube動画として見ても尚、鳥肌が立つほどに迫真的だ。映像でもギルモンの必死な呼びかけがアークに届くというモンタージュは出来ているが、この演技がなかったら説得力が違った筈だ。ここまで本気でギルモンを演じて貰えて、私は感謝しかない。
このギルモンから始まるテリアモン、ロップモン、クルモンのサーカスは、シナリオにはなく、貝澤さんが創った描写。私には考え出せなかった。
アーク、何らかの反応。ギルモンの訴えを聞くという展開はシナリオと同じ。
モニタのアークが停止。
とっ 止まった!? 山木が愕然。
アークが止まった!? 一体どうして!? と狼狽えるジャンユー。
動かず明滅だけするアーク――。
と、止まった……。
タカトー！ ギルモンの声が遠い。
どうして……？
おーい、という声に振り向くタカト。
何も見えない。
今、確か……
おーい！ というリョウ、タカトーっという留姫の声！
留姫！ うん、頷き――
帰る時は、みんな一緒だ！
動かないアークに苛立つドルフィン。
どうなってるの!? これは――とカーリーが背後から。
判らない。まさか、アークの人工頭脳が勝手に判断したっていうの!? とデイジー。
山木がリモートで割って入る。
プログラムの暴走ですか？
アークのAIプログラムは私が書いた。とドルフィンが立ち上がる。
どういうプログラムなんですか？と山木が問う。
デジモンのコア・プログラムだ！
デジモン設定のデジコアと、わざと似た呼称にしているが（そういう連想も間違いではない）、コアのプログラムであって、デジモン設定の生命力的な意味ではない。
ドルフィン、背後の書類ロッカーに走る。
分厚い仕様書を出して――
既に我々にとって未知なる世界（＝デジタル・ワールドの事）で不測の事態に対応し得るものはそれしかない、と思ったからだ……。
でも何故だ!? デジモンとしての意思や自我まで持つ筈ないのに！
これがコア・プログラムを図式化したもの。つまり、リアル・ワールド球、マトリックス・エヴォリューションなど、テイマーズの表現そのものがこれに集約される。
実にシリーズとして美しい帰結をしていると思う。
タカト！と喜びの声で呼ぶ留姫。
止め絵で印象深く。
アークに向けて飛翔したキュウビモン、そのまま波紋を受けながら中へ――
レナモンに戻って船内へ。
続いてサイバードラモンとリョウも――
サイバードラモンからモノドラモンへの変化はモーフィングで描写される。
うああああっ
船内は狭めにとはシナリオで書いたが、ここまでキツキツになるとは思わなかった。
尾部が閉じていく。これはアニメーションで描かれる。
やっとこれで全員が揃った。
