第24話回顧 2
テイマーズの背景画にはいつも感動があったが、今話の様な静かな語り口では、背景画のみでモンタージュする場面が多くなる。今話の背景は特に雄弁なキャラクターとなっていた。
朝――
ギルモーン! おはよー!
あれ? ギルモン?
ホームの奥の穴が更に掘られている。
タカトー、こっち降りてきてよ!
ギルモンが呼んでいる。
こんなに掘っちゃって、どうしたのさ?
見てよ。
ああっ!?
ギルモンの差し出した爪先がぼやけている。
慌てて腕を引っ込めさせるタカト。
ここにあったんだよ。ギルモンが住んでるところにあったんだ。びっくりでしょ。
ほんとに、びっくりだ――。
《ゾーン》、デジタル・ワールド・ゲート。
キャメラが更に寄っていき――
その向こう側では――
飛翔するマクラモン。
哄笑しながら、獲物を誇らしげに掲げるマクラモン。檻の中のクルモンは、くるる~と哀しげ。
インダラモン、クンビラモン、ヴィカラーラモンといったデーヴァの仲間を囮にしてまで、デジモンの《進化の秘密》がクルモンだと突き止め、それを《神》に献上出来るのだ。如何なる狡猾な手段を使っても目的を果たしたマクラモン――
この球状の檻は、マクラモンが23話で投げた宝玉が変形したもの、という想定。アニメではシャッガイのICEウォールを破る手段にしていたが、元の設定ではあの玉の中にこれまで取得した数々の獲物を閉じ込めているという事になっていた。
そして、デジタル・ワールドの別の領域、記憶の海の奥底へと落ちていく――
何が間違ってたんだ……?
強くなりたい――。そう思う事が、いけないのか……?
俺はしょせんただのデータ――
こっちの世界の方がお似合いっていうのか……。
デジタル・ワールドに旅立つその入り口をどこに設けるか、明確に決めないままストーリーを進めていた。普通であれば、7話で登場した《ゾーン》(角銅さんが演出・作成された)にするところなのだが、新宿中央公園の地下にある(事にしてある)治水トンネル(本当はトンネルの工事用入り口が公園に設けられていた)というのが、グラウモンなど成熟期になったデジモンたちの隠れ場所として好都合で、以降何話も使ってきており、既にデジタル・ワールドの干渉はない、と描いていた為、その手が使えなくなってしまった。
さてでは、どこにしようかと、かなり悩んだ末に、ギルモン・ホームの地下深くという、青い鳥の様な展開となる。
ギルモンが地面を掘るのが好き、という習性は元設定にあった訳でもなく、3話を書いた時に、描写として面白いだろうと書いた。あの爪は武器として強力そうだけれど、地面を掘るのにも適してそうに見えたからだ。
5話で早速、ギルモンの高速モグラーが描写され、15話ではその能力無くしては成立しない特徴にもなっていた。
私はデジタル・ワールドを地底にイメエジしていた。デジタル・ワールドへの冒険は、私には「地底探検」なのだ。このエントリ「テイマーズのデジタル・ワールド」を参照されたい。
だとすれば、ギルモンが掘った狭い穴を下っていくのが相応しい。あまりそこは強調したくないが、胎内くぐりからの再生、といったイメエジとしても面白い。
最初から決め打っていたら、こうした発想など当初に得られる筈がないのだ。演繹的作劇はこういう醍醐味(と苦しみ)がある。
淀橋小学校。蝉が啼いている。
授業中。
浅沼奈美教諭の国語の授業中。
タカトはインプモンの行方も気になっている。
しかし今、一番気がかりなのは、クルモン……。
すぐ脇に来る奈美先生。
そんなに私の授業、つまらない?
タカト君はいいのよそれでも。だけど私が困るの。
学力テストで平均下げられるのは。
小さく、ごめんなさいと謝るタカト。
放課後残って反省文書いてね。
いい加減しっかりしてよ、五年生にもなって――
樹莉だけ前を向いている。
先生!
私も授業、聞いてませんでした。
驚いているタカト。
ヒロカズ、俺も居眠りしてました。へへ……。
やってやったぜ的な。
あ、俺もちょっと考え事……。
ツインテの子がいい表情で睨んでいる。
あなたたち……、
全員廊下に出て、放課後残って反省文書きなさい!
「ひまわり」が流れ始める。
「My Tomorrow」のC/W曲。一度イントロだけ流れたが、歌が流れるのはシリーズで今回のみ。
あーあ、立たされちゃった。
加藤は初めてでしょ、とケンタ。落書きなんかするからだ、とヒロカズ。
樹莉は、最後の授業かもしれなかったのにね、と口にする。
え? となるタカト。そう、タカトはまだ冒険の危険についての心構えが出来ていない。
ケンタは、やはり不安も大きそう。
ヒロカズも余裕ある風ではあるが――
もう、夏も終わりだね……。
並んで立っている四人――
校庭の一角のひまわり。
シナリオ・アップ時までに「ひまわり」を流して欲しいという要望はなかったと思う。しかし「My Tomorrow」エンディングが終わってしまったので、聞かせるならここしかなかった。(季節的にもギリギリだった)
誰も画面内では泣いたりしていないのに、この場面はとても切なくて胸が詰まる。それも、この歌がここで流れるからだ。音楽の力は大きい。
そして放課後――
ここでCM
反省文を書いている四人。
ふとタカトは空を見つめる。
同じ積乱雲の下――
テレビのアナウンサーが喋る。
情報省ネット管理局の発表によると、先日巨大な被害を引き起こしたデジモンという疑似生命体は、突発的であり――
継続する心配はないとの見解です――。
乱雑な机。吸い殻の山とコーヒー。携帯が着信音を鳴らし続けている。
しかし事態を重く見た内閣は……云々。
何種もの記憶装置。
テレビのニュースは、真実を語らない。この時も、今も。
山木は失意にあるが、自暴自棄になってはいない。
じっと考え続けている。
麗花が入ってくる。
これからどうするの?
我々に出来る事など、もう、ない。
そういう事じゃなくって――
あなたがこれから――
しかし山木は呟く。我々に出来る事、か……。
山木、前を向く。しかし麗花にではなく、PCの画面。
ねえ、聞いてるの!?
山木は答えず入力し、データベースを参照。
これらのデータは、恐らく麗花が作成に貢献した。
にしても、PCの画面表示の遅いこと……。64KbpsのISDNモデム回線はこんなものだった。
何かに気づく。
麗花は山木が心配なのだが――。
自分にはもうポストとしても、そして現状の手段としても、またワイルド・ワンがリアライズした時にとれる対策はない。しかし――、あの子どもたちならば――
あの子たちなら、どうするか……?
作文ノートを提出した四人。
失礼しまーす、とお辞儀をするのは樹莉だけ。
算数のテスト採点。ん、こんなに高度な事を5年生が?
ため息を漏らす奈美。
ふと、今居残り組が書いたノートが目に留まる。
採点の気休めにノートを拡げてみる。これを読むのが遅かったら、この後の展開はない。
タカトの声で読まれる反省文。
いつも先生の授業がつまらない訳じゃないんです。
ふっと笑みを漏らす奈美。
でも、ぼくたちは明日から学校をお休みします。
は? と読み進める奈美。
反省文じゃなくて、欠席届になっちゃってすみません――。
慌てて樹莉のノートを拡げる。
樹莉までが書き綴っている。
誰も行った事のない世界に出発します。
ヒロカズー俺たち、デジタル・ワールドに行きます。
ケンター俺がいないとテストの平均点、下がっちゃうかなぁ。
何よこれ!
校門前で、待っていたジェンとテリアモン。
四人が歩いて行く。すると――、待ってと奈美の声。
待ちなさい!
思い切り走ったので息が切れている。
あなたたち――
なんなのよこれ、どういう事なの!?
言うべき事はみんな書きました、と答えてタカト、ふと奈美の足元を見て気づく。
室内履きのまま飛び出してきている。
私に判るようにちゃんと、と言ってハッとなる。
デジモンと一緒にいた子どもたち、ってもしかして――
ぼくのことー。
怖じ気づいて一歩下がる奈美。
樹莉、先生勝手なことしてごめんなさいと謝る。でも、黙って学校お休みするの、良くないし――(という価値観。あくまでこの状況での)
夏休みの間に行ければ良かったのに、というヒロカズに、そう都合良くいかないって、とケンタ。
切れる奈美。いい加減にしてよ! 自分たちだけで勝手に決めて!
そんな、子どもだけで旅だなんて――
そんなの家出じゃない!
そんな事どうして私に話していくのよ!?
私関係ないのに!
先生が何て言われるか判ってるの!?
泣き出してしまう奈美。
この奈美の言葉はとても利己主義的に聞こえるだろう。けれど、私はこの先生がある意味でとても真っ正直に生徒に向き合っていると思う。自分の立場だけを大事に考えれば、言葉を弄して生徒たちを行かせない様な算段だって無くはないのだ。しかもこの後、タカトはこう言う。
明日の朝、出発します。
ハッとなる。
お父さんたちにはこれから話します。だから、明日まで先生黙っててください。
樹莉ー本当にごめんなさい。ヒロカズーでも、俺たちもう決めたんだ。
何よ……。
モーマンタイ、モーマンタイ。
え?という奈美に、ジェンが言い添える。
モーマンタイ。問題無いです。
お辞儀をして――
去って行く。止めようにも、もう自分にその力はないと知る奈美。
テリアモンが耳を振って、ばーいばーい。
あたしは――、何なのよぅ――。と地面に座り込んでしまう奈美。
タカトたちは、これからそれぞれ親に向き合う。向き合えない子の方が多いのだが。
しかし浅沼奈美教諭は無視出来なかったのだ。OL的な勤め方を志向していた教師で、決して馴染める様な教師ではなかったが、それでも自分たちにはちゃんと顔を向けて話をしていた。
タカトが打算的に、奈美先生が親たちに連絡はしないと考えたのか、私にはもう判らない。晴れ晴れと言っている表情だからだ。シナリオを読み返しても、表情を特に描写はしていない。
暫く奈美先生は登場しないが、彼女にとってこの時の衝撃的な体験は、後に教師としての自分を変える契機になったと判る。