第24話回顧 1
デジモンテイマーズ第二部は、次回25話からなのだが、オープニングが少しヴァージョン・アップし、エンディングも「Days -愛情と日常 -」に変更となる。
私は25話から変わるのだとばっかり思っていたが、フジテレビの広報担当の方が替わったり、やはり態勢的には24話からが後半となった様だ。私はオンエアまで知らなかった。
オープニングの雑感的なものは既に書いているが、ちゃんとキャプチャしたエントリはまだなので、いずれ書こうと思う。
荒牧さんがクレジットされる様になる。
22,23話と、アクションを軸に激しくシーン・バック(シーンの切り替えが早い=段取りを飛ばして情報量を盛り込むのに適している)が多く、バンク・シーンも大盤振る舞いだったので、今話ばかりはスラッシュ/進化バンクが全く無い。
これが世界名作劇場なら、冒険に出るという段階も数話をかけるところだが、そういう枠ではなく、この回のみの静的なナラティヴ(語り口)に切り替えている。
こういうエピソードを設けたのは、この後最終話までは、シリーズ前半の日常に現れる非日常ではなく、フィクション・ラインを大きく越えるので、ギリギリまで粘りたかったからだろう、と今は思う。書いた当時は、これもステップとして必要だという意識だったに過ぎない。
このブログでは書いた事がないと思うが、私は基本的にウエットなドラマが嫌いな体質だ。だからこの回のシナリオも、涙腺を刺激させようという描写はなるべく避けた。まだシリーズのクライマックスはこれからなのだから、と。
改めて見てみると、本当に微妙なニュアンスとかリアクションを丁寧に描写された、中村哲治さんの演出と清山さんの作画、清水さんの美術だった。
書いていた当時は、タカトたちの両親よりも既に歳上であったけれど、私の中にはまだ少年がいた。子の視点と親の視点、両方が入っている。
デジタルワールドへ… 旅立ちの日
脚本:小中千昭 演出:中村哲治 作画監督:清山滋崇 美術:清水哲弘
シナリオタイトルは「旅立ちの日」。とは言えストーリーの始まりは旅立ちの日よりも何日も前。
23話のラストで、完全体三体はそれぞれの方法で現場から姿を消したが、非常線ラインの中にいたジャンユーと、タカトら子どもたちは当然ながら救急車両で搬送され、怪我がないと確認された後に両親を迎えに来させる事態となる。
明治通りで壮絶に戦った、デジモンという怪獣めいた者たちの姿も、遠目からの中継でテレビでは見られていた。
そのデジモンたちと一緒に、子どもがいた――という報道がされたが、個人情報は伏せられていた。
いつもは使わないタカトのモノローグから始まる。
ぼくたちの町……。
蝉が啼く晩夏。
ぼくたちの世界――
自衛隊のヘリ――
見えてくる新宿北東――
戦闘地の復旧が始まる。
そして――
ヴィカラーラモンが爆発した跡――
既に人々は日常の生活に戻り始めている。
人々の歩く歩道に小さな――
デジタル・ワールドのゲート――
ぼくたちの知らない世界……。
当然ながら、心配をかけさせた両親に叱られる。
だが、まだ怪獣サイズのデジモンとの関係は知られていない。
この場面はサイレント(台詞無し)で描いた。その代わり、タカトのモノローグが続く。
ぼくは、とっても親不孝だ……。
ルミ子は留姫を抱き締めて泣いている。勿論、心配をかけるのは留姫の本意ではない。
しかし、今レナモンが――
チリーンと風鈴。日本家屋の風情。
今、レナモンはいない――。
キーボードに向かっているジェン。
多分、メールを書いている。
父と母に――
治水トンネルを探っているギルモン。しかし、もうここにあの《ゾーン》の気配はない。
探しているのだ。デジタル・ワールドへの入り口を。
あれ? 臭う……。
ギルモン・ホームに帰ってきたのに、臭うのというのは一体――。
新宿東口。
歌舞伎町。この辺りの景観も大分変わった。
レナモンも探している。
しかし見つからない。
必死に探す。
国家の秘密プロジェクトから解放されたジャンユー、引き続きデジモンの解析を続けている。と、ドアがノック。
ジェンが呼ばれたのだ。
「アーク」を見せてくれないか?
デジヴァイスの事?
ああ。
未来の子どもたちはこのアークで――
デジタルモンスターとコミュニケートしたり、ネットワークのデータベースからどんな物語や知識も引き出せる様になる――
ジャンユーが語っているのは、ワイルド・バンチが1980年代前半に構想していた、つまり当然実現しなかったプロジェクトの事。
この設定の原形は、アラン・ケイのDynabookである事は前に書いたが、Apple Computerが(ジョブスがいないスカリー時代に)発表したKonwledge Navigatorというコンセプトのイメエジも借用している。この呼称から、「serial experiments lain」や「ウルトラマンガイア」で携帯端末やコンピュータをNAVIと名づけていた。Apple Computerのそのコンセプトからは先ず、NewtonというPDAの元祖となるデヴァイスを製品化するが、物としてのNewtonは通信システムは持っておらず、モデム・カードを装着してメールが送れる程度のもので、到底Knowlede Navigate出来るレヴェルになく、今後に期待された。しかしジョブスがAppleに復帰するとNewtonは打ち切られ、後にiPhoneが生まれる。
山木が使っているPalm/PilotはNewtonの言わば後継的に開発されたデヴァイスだった。
ジャンユーは上の様な事を夢想していたのだ。
テリアモン? なーに?
夢に見たものがそこに存在する。そういう喜びや驚き、君たちにも判るのかな?
戸惑うテリアモン。
何者かがデジモンを飛躍的に進化させ、アークを出現させた。
――後にこれは、単一の理由ではないと判る。
世界中の仲間が集まって力を合わせている。もう子どもたちに危険な戦いをさせない為に。
腕を組んでいるテリアモン。
世界中の仲間、というのはワイルド・バンチだけではなく、ネットを介しての協力態勢を整えているという意味。これは2000年代頭には可能になっていた。
お父さん、ぼく……、
今なら、口頭で決意を言えるかと言いかけるが――
すごいスリッパがバタバタと。
おとうさーん――
お母さんがスイカ切ったよー
一緒に食べるー?
テリアモンも食べるよねー?
判ったよシウチョン。今行く。
あ……、
お父さん――、ぼく……、
はっきり言える時にしなさい。さ、スイカを食べよう。
ジャンユーは、ジェンの理解者と言えるのだが、子どもの気持ちを全て理解出来ている訳ではない。
今じゃないと、と呟くジェン。
これまで樹莉の家庭を紹介する機会がなかった。樹莉の家庭については企画初期に設定が出来ていたのだけれど、なかなかドラマに盛り込めなかった。「私のレオモン様」には当然、入れられる筈がない。
しかし浦沢さんはデジタル・ワールド編で、樹莉に「私は小料理屋の娘」という台詞を書いてくれている。
小料理屋は、私がシナリオ・ハンティングした十二社近くの商店街に実際にあって、それをイメエジした。前述した通り、この商店街は今はなくなっている。
この一連の場面には多くの情報を盛り込んでいるが、子どもの視聴者には雰囲気だけ伝わればいいと思っていた。
勢い良く階段を降りてくる樹莉。
店舗の冷蔵庫から紙パックのジュースを出している。
客が話しかける。やあ樹莉ちゃん、勉強かい?
愛想良く今晩は、と返す樹莉。如才なく、酔客への対処も心得ている。
店に降りてくるなって言っただろうと、板前の父親が。
うん、ちょっとだけ答える樹莉。
奥から少し心配そうに伺っている「母」。
グラスをとって――
何か楽しみな事がありそうな顔で上がっていく。
ちゃんと洗って返しておけよと声を出す父。
この父の態度は、性格的なものでもあるが、樹莉も明治通りで保護された子どもの一人であり、恐らくは母親が迎えに行ったという経緯もあって、険しい態度になっている。
勉強中、という札。あまり勝手に部屋に入って来ないでという意思表示かもしれない。しかし室内は暗い。
ドアが開き、廊下の明かりが写真額を少し明るく見せる。抱かれているのは幼い樹莉。しかし抱いている女性はさっきの「母」ではない。今の母は後妻の義母で、生みの親の母は亡くなっている。
写真額に樹莉が映る。
眠っている幼い義弟。
樹莉のソックパペットを抱いていた。樹莉の手作りソックパペットは、この幼い弟を楽しませる為に作ったのだ。
中鶴勝祥さんが最初期に描いた樹莉のイメエジ・スケッチ、ソックパペットを持っている姿に説明は何も書かれていなかったので、貝澤さん、関プロデューサーらと想像を逞しくして樹莉の家庭事情が考えられていった。一枚の絵にはとてつもない量の情報と物語が潜んでいる時があるものだ。
窓外に、「ワン!」
レオモンが来ていた。
はい、レオモン様、とジュースを差し出す。
様はよせ。
はいはい。
匂いを嗅いでジュースを口にするレオモン。ネコ科動物に柑橘類は禁忌だと、この時の私は知らなかった……。
樹莉、横に座って、レオモン、デジタル・ワールドってどんなところ?と聞く。
そう聞かれても……。
私たちの世界と、全然違うんでしょう?
違う。でも似ているところもある――。
私たち、そこに行くの。凄い事よ、だって、だあれも行ったこと、ないんだもの。
期待に溢れている様な口調だが――、D-Arkをぎゅっと握る。
誰も……、と心で呟く樹莉。当然ながら、怖さの方が大きいのだ、樹莉には。
レオモン、樹莉の気持ちを感じて手を差し出そうとして――
控える。今は私がパートナーだ、とだけ告げる。
そうだろう? 樹莉。
ぱっと顔を輝かせる樹莉。私があなたのテイマー。
だからちょっと、お願いがあるんだけど――。と後ろめたそうに言う。
ん?
この顛末は、出発直前にケンタとの会話でレオモンが「樹莉の両親を怖がらせてしまった」という台詞で結ぶシナリオだったのだが、樹莉が「ちゃんと親には言えなかった」という態度を見せるという演出に変わっていた。それで意味は通るのだけれど、少し判り難かったかもしれない。
タカトは電話で、デジタル・ワールドへの入り口が見つからないと報告している。
明日はぼくも探す、と言っているのは、両親に外出を制限されておりギルモンに託していたからだ。
テイマーズの籏が見える。
タカトは希望を失っていない。きっと見つかるよと。
うん判ったと電話を切る留姫。
そこにレナモンがフェード・イン。
ヴィカラーラモンの影響も消えてきている。
早く入り口を見つけねばならない――とレナモン。
大型のデジモンがリアライズすると、しばらく付近にデジタル・フィールドの影響が残る。子どもたちとデジモンが通過出来る様なゲートはしかし、そう簡単には見つからない。
そうだね、と返す留姫に――
レナモンが、留姫には行かせたくないと、これまで心に溜めてきたことを話す。
我々デジモンだけで行くべきだ。あそこには――、
ハッとなるレナモン。留姫に決意して話していた為油断をしていた。
廊下の暗がりから近づいて来る聖子。
お祖母ちゃん! レナモン、下がろうとするが、待ってちょうだい、と聖子が留める。
聖子はレナモンの存在を薄々認識していたのだ。
古いばっかりで陰気で――
こんな家、真っ先に出てやるって――
私が留姫くらいの時思ってたの。だってなんか出そうじゃない? この家、と冗談めかす。
知ってたの? レナモンの事――。
実のところ、存在を確信したのはサンティラモンが地下鉄を襲った時だろう。留姫の傍らに立つレナモンの後ろ姿を、聖子は見ていた。
おきつね様が留姫を守ってくれている、っていうのと、ちょっと違うみたいね。
ちょっと、という時に少し肩をすくめる聖子。
レナモン、覚悟して挨拶をする。レナモンと申します。
ずっとご厄介になっていながら、失礼の段、お許しください。
美しい姿だわ。
祖母の理解に安堵するも――、ママには絶対判って貰えない、と言う留姫。
あの子(ルミ子)は超現実的だけど、時間を掛けて話せばきっと――
ないの――。
その時間が――、と拳を握る留姫の様子を見て、聖子は察する。のっぴきならない状況に留姫が直面しているのだと。
レナモンさんが留姫を守ってくれている――。そうなんでしょ?
私の命に代えても、お守りします。己の決意を言葉にするレナモン。
ハッと振り向く留姫。
聖子、頭を下げ、お願いしますとだけ告げる。
ごめん、なさい――。