テイマーズのデジタル・ワールド
ここでちょっとインターバル。先に第三部のデジタル・ワールド編についてのTweetを差し挟む。
このブログはシリーズ構成視点で書いている。
ライター陣で能動的に沸き上がる新たな要素などを調整する一方で、先回りして想定しておく事がある。テイマーズは四部構成で一年を送る、ある面では判り易い構成をしていた。
デジモンアドベンチャー、同02だって現実世界を舞台にしたエピソードは少なくないし、寧ろその現実世界のエピソードの方が個人的には印象的だった。だからテイマーズは基本ベースは現実世界で揺るがない。
しかし、タカトたち人間がデジタル・ワールドに行くという事をリアリズムで考えると、とても子ども向けアニメにはなりそうもない。やはり最低限ファンタジー的なジャンピング・ボードはが必要だった。
そして、カジュアルに行き来出来る様にもしたくなかった。それだけの決意をし、自分達の意思でデジタル・ワールドへ行くのが何よりもこのシリーズでは重要だった。
私は異世界というものにあまり関心がない。だからこういうシリーズになったのだけれど、デジモンのアニメとしては絶対に必要な《デジタル・ワールド》を、テイマーズでどう描けばいいのだろうと思いあぐねる。文章をこねくりまわしていても埒が明かない。私は頭に映像が浮かんで、初めてシナリオが書けるという非ノーマルなライターなので、下に貼った流れで構想していった。
私がデジタル・ワールドの構想に悩んでいたのは、7話を書いた頃からだと思う。それくらい先回りして準備を整えつつあったのだが、シリーズが放送開始となって、やはり前作より少し視聴率が落ちていた。予定ではノーマルに27話からデジタル・ワールド編に入るつもりだったのだが(3クール目)、もっと早めて欲しいという強い要請があった(局ではないし、デジモン企画チームでもない)。
2クール目、デジモンテイマーとして自覚が出つつ、衆人の中で戦い続ける事の難しさが出てきて(ドラマ的には美味しい)、デーヴァという敵はいずれも個性的でドラマも練り甲斐があり、本来ならもう少しこの状態で進めたかったのだが(特に、17、18話の連携は実に楽しかった)、3話前倒して24話からがデジタル・ワールド編となる。関プロデューサーは最大限粘ってくれて、感謝している。
テイマーズに於ける「デジタル・ワールド」は、前作までのそれと名称を同じにしているものの、異世界ではなくネットワークそのものと規程していた事は再三述べてきた。。https://t.co/saHlOFP32qに置いてあるこの概念図は当然ながら90年代末までのネット世界をモデルにしている。 pic.twitter.com/XtciOihUjl
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
「lain」では「ワイヤード」とネットを呼んでいた。第1話 Layer:01時点でワイヤードは「死後世界」に重ねている。これも異世界なのではなく、現実と背中合わせの非現実世界を表現する試みだった。その後Layerを進める内に様相は全く異なるものになっていくのだが。 pic.twitter.com/0Rj1vClfO8
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
企画開発時から、3クール目にデジタル・ワールドへ行く事は規定路線となっており、如何にテイマーズならではのデジタル・ワールドを表現するかを悩んだ。スケジュールの厳しい東映作品で、あまりノーマルでない表現を導入する事は憚られた。
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
貝澤さんや角銅さんは自ら手をつける事で、ユニークな映像表現を自身の演出話数では導入を可能にしていたが、シリーズでは何かシンボリックなものが必要だった。荒牧伸志さんに相談して得られた解決策が、リアル・ワールド球が空に浮かぶ荒野のイメエジだった。 pic.twitter.com/N0OKi7Ghow
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
ちょっと言葉が足りてない。貝澤さん、角銅さんは当時の東映アニメの演出家の中で自から3Dソフトを使って映像まで作っていた特異な存在で、他にそういう人はいなかった。
タカト達が最初に辿り着くここは「物理レイヤーの荒野」と呼んだ。西部劇で描かれる荒野には、枯れ木が球になって転がっていく。それに見立てて転がっていくのがダスト・パケット。このレイヤーから更に深く潜っていくと、それぞれの小世界が広がっているという構想だった。 pic.twitter.com/3YcfvXm6th
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
荒牧さんによるイメージボード、物理レイヤーの荒野と頭上にはリアル・ワールド球。
これがダスト・パケット。
空に現実世界が球状に見える、というのは本当に凄いアイディアを出してくれたと感謝している。直感的には判りにくいかもしれないが、地球空洞説をひっくり返した様な観念だ。
ただ、デジタル合成(フィルム作品なら撮影+特殊効果という部署)スタッフの方々には面倒をお掛けする事になって、これは申し訳なかったとしか……。
ただ、こうした私の足掻きは杞憂だったのかもしれない。ヒュプノス内部の描写はト書き以上の事は私は何も意見しておらず、貝澤幸男SDと渡辺佳人美術デザイナーの創造であった。些かオーヴァーテクノロジー感は抱くものの、ただならぬ事態を監視する描写としては最高だった。 pic.twitter.com/eziEfCaqwu
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
少し余分だったTweetを抜いて続ける。
私は小難しい設定を作ると思われていたかもしれないが、実は逆なのだ。なるべく物語に自由度を持たせたいが為に、独自な「世界観」という縛りを無くしたかった。「世界観」というものに独自性を持たせるのは困難であるし、その「世界観」のルールや法則などに縛られたくない。 pic.twitter.com/jxdDePqdzU
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
だからデジタル・ワールド=ネットワークそのものという事にした。デジモンが死ぬ事もそうで、あくまで現実の延長にあるが故である。デジモンが元はワイルド・バンチが創案したゲームのAIであっても、ネットの中でデジモンは独自に進化し自我を得ていった。
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
訂正。AIではなくAL。Artificial Life 人工生命
招聘されたドルフィンたちが、最初は戸惑うばかりで事態の把握に努めていたのは彼らが無能だからではなく、デジモンの進化が予想より遥か先にまで辿り着いていたからだ。そして最も早く進化したデジモン4体が、創造主=人類に反旗を翻し自ら神になろうとした。 pic.twitter.com/o1xZuUwfBo
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
最初に紹介した概念図を見て判る人もいるだろうが、タカト達のデジタル・ワールド冒険行は、ダンテ「神曲」の「地獄篇」を準えている。この時期のネットの最深層部は漏斗状に落ち込んでいる。そこでデジモンを進化させる力「デジ・エンテレケイア」が保持されていた。 pic.twitter.com/Aml96dK7zH
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
四聖獣達が一枚板ではないというのは、「どうしてデジ・エンテレケイアをクルモンに変えたのか」という事を考えて行き着いた構図であった。大物達の対立劇は、昭和の山本薩夫映画「金環食」などでの佐分利信や内藤武俊といった昭和俳優達の芝居が脳裏にあった。 pic.twitter.com/eutSSDKoTu
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
さて、クルモンを巡る事もそうだが、デジモンがリアライズしたり、デジヴァイスがアーク化したりと、四聖獣やSHIBUMIの意図とは異なるなんらかの作用が恣意的に起こっていた。これは何故かと考えていくに至り、ネットワーク・ネイティヴの未知の知性体がいたと解釈するしかない pic.twitter.com/aojCPKpqMO
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
端的に言えば、カードリーダーがD-Arkに変わるなどといった《魔法の様な》出来事、光の柱の様な描写が単なる演出効果なのではなく、実際そう現実を変えてしまう存在、主体がいたという解釈に行き着いたのだ。
2つの領域を自由に行き来出来て、トリッキーな出来事を誘発していく。しかし人間やデジモンとコミュニケーションをとる事は出来ない――。それがデジノームという存在が居るのだという確信を得る。なぜかデジモンカードにもデジノームがいるのだが。 pic.twitter.com/Zh35h7NCWU
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
デジノームはDigital Gnomeの意で、パラケルススの四大精霊の内の地の精だが、GnomeはX Windows System(Linux系OS)のデスクトップ環境の代表の1つでもありKDEと並んでポピュラーだったが、最近の事は知らない。 pic.twitter.com/OTffr0R33m
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
このいたずら者的な在り様は、白雪姫の小人ではなくパックに近しい。ジョン・A・キールのエイリアン=超地球人説のそれに近いイメエジを抱いていたら、過日のニコ生で、角銅さんが「アドベンチャー」に於けるデジモンの解釈がそれに近くて、20年近くぶりに知って驚いた。
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
尤も、「アドベンチャー」のデジモン、特にパートナーとなるデジモンと子どもの結びつきはテイマーズよりもずっと心理的な結びつきが強く、やはりそこはテイマーズとは捉え方が違っているのだが。
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日
テイマーズのデジタル・ワールドについて概説しておこうと思ったが、どんどん深みにはまって長くなったので、ここで一旦引き取る。
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2018年2月25日