第22話回顧 1
早くも第一部の終章が始まる。
下世話な話から始めてしまうが、ヒーローのデジモン三体が進化し、敵と戦うというのがルーティンとすると、次第に進化バンクが多く挿入される。加えてテイマーズではスラッシュのバンクも複数回入る。
ちょっと正確に覚えていないのだが、この時期のテレビアニメはオープン、エンドを抜いた実分数は21分半だったと思う。その後19分半くらいに縮まる(厳密には各局のタイム・テーブルで異なる)。
バンクだけで三体分それぞれを使うと、工夫してマルチ分割などにしてもそれなりに段取りは見せねばならない。スポンサーの売りたい商品のプロモーションでもあるのだから当然だ。すると、ある時期――、完全体が出揃った今話などでは、相当な尺がバンクに割かれる。当然、ドラマに割ける時間は減る。
初期デジモンシリーズは、プロデューサーもスポンサーも、内容が面白い方がいいという寛大な環境で、毎回必ず新敵デジモン登場、対決、勝利というフォーマットは強いられる事がなかった。ここがウルトラシリーズとは違う。
第一部の現実世界編を終えるには、最大級のイヴェントが次回にて起きる。今話はそこに至るまでのドラマを濃密に描いている。
脚本は元希さん。演出は梅澤さん。作画は出口さんの一人作画。
ヴィカラーラモン登場 僕たちの街を守れ!
脚本:吉村元希 演出:梅澤淳稔 作画監督:出口としお 美術:渡辺佳人
放送日は9月2日。学校が始まっている。帰宅してくるタカト。
片方の肩を落としてランドセルを下ろし――
机に放る。
店の様子を窺う。
ギルモンに持っていく食料を詰め込んでいる。
まだ切迫する事なく、日々の楽しさが勝っている。
出ようとした時、背後から母親の声。
再来年には中学に入るのだから、勉強をしろという、言われがちな小言。
いつも外で遊んでないで、たまには家に――
どうしよう……。
お願いだから、という声を聞いて――
強い顔になって――
ドアの外に出る。
ドア越しに呟く。今しか出来ない事、あるんだ――。
そして足早に――
通りに出たところで地震。
揺れる電線。
ガタガタと揺れる看板。
また地震? と不安が過るタカト。
今話の梅澤さんの演出は、キャラクターたちに徹底的に演技をさせようという意図を感じる。
地震が怖くてテリアモンを握りしめているシウチョン。
止まった?と聞くとジェンリャが、うんと振り向かず答える。
じっと様子を見ているジェンリャ。
ニュースが地震を報じている。震度は4。
新宿地区周辺だけで起こっているらしい。
驚き――
思案――。
ジェンリャは黙って、テリアモンを返してと手を差し出す。
やだ、と顔を伏せるシウチョン。ジェンリャは出かけたいんだと告げる。
パパどこ? お父さんは仕事だよ、忙しいんだ。つまんない――
いいから離して。いや!
シウチョン!
あまりの語気の荒さに驚き、そして顔を歪めるシウチョン――。
膝を抱えて泣いているシウチョンに――
御免、とジェンリャ。
いってらっしゃい、とシウチョン。
うなだれるジェンリャ。御免ね、シウチョン――。
やはりこの場面は強烈だった。アフレコ現場もかなり緊張していた気がする。記憶していた以上に、山口眞弓さんは強烈な演技をされている。
2017年にTwitterを始めてから、海外のファンからもこの場面のヘンリー(海外版のジェンリャ名)は信じられなかったという意見を聞いた。
しかし、こういう時が来るのは当然なのだ。思慮深く、大人びていてもジェンリャもまだ10歳。デーヴァという敵が挑んでくる理由が、もしテリアモン達にあるのならこの街を危険に晒しているのは自分かもしれない。そうではないという根拠も同時にあるのだが、今のジェンリャには知識が足らず、焦っている。
このシーンはしかし、キャメラをシウチョンに向け続ける事でより印象的になったと思う。表情で如実に感情が伝わり、気持ちを押し殺した永野愛さんの声の演技で李小春という少女の実存性が明瞭になった。
道路の高架下を歩くジェンリャ。
テリアモンが、シウチョン泣いてたよ、と心配そうに言う。
あんなに大きな声出さなくても良かったのに――。
あの時、首を絞められて顔を赤くしていたテリアモンだが、やはり心配なのだ。
勿論、ジェンリャだって――
ハッとなる。
振り向いて、視界を過ったものに改めて見入る。
今は絶滅した「町の写真屋さん」。フィルムの現像、紙焼きの受け付けをする店がどの商店街にもあったものだ(フィルム処理自体は現像所で行われていた)。
しかしここの一体何に――
ジェンリャは店の前に掲示されているポスターを見つめる。
葉書の印刷見本――。
店に入って、そのポスターを分けて貰ったらしい。
店を出ると、留姫がお祖母ちゃんと一緒に歩いていたところに出くわす。お稽古の帰りなのだというが、どちらの稽古だったのだろう。留姫が何らかのお稽古をしていて当然なのだが、いつものスタイルで行けるとなると……??
聖子に礼儀正しく礼をするジェンリャ(しかし変なぬいぐるみは持っている)。
留姫に、公園にタカトたちがいるから行かないかと誘う。
聖子は快く許すので、留姫は御機嫌。しかし携帯に着信。
ルミ子が仕事が予定より早く終わったから買い物に誘うのだが――、留姫は友だちとの約束があると断ってしまう。
走り出す二人。
ルミ子をなだめる聖子。
走る二人の下に――、暗渠(あんきょ/地上部を覆われた河川)。
その中にキャメラが入ると――
誰かがいる。
インプモン。ちっくしょう……。
回復出来ないまま痛みに堪えている。
かっこ悪い……、俺……。
ギルモンがパートナーのタカトが羨ましいヒロカズとケンタ。
俺なんてカード・スラッシュの練習してんだぜ。
カード・スラッシュ!
マトリックス・エヴォリューション!
とうよ?クルモン的には、と問われて――
同時に目をぱちくり。
何故タカトにはデジモンがいて、俺らにはいないのかとケンタ。
でも、レオモンみたいにデジモンが現れる可能性がゼロじゃないとタカト。
前話の回想がフラッシュバック。
でもあいつ、いなくなったじゃん――。
でもいいよな、一度でもさ――というヒロカズが言っているのは――
タカトが気づく。加藤さん……。
樹莉が来ている。
重い気持ちを押してここまで来たのだ。
強い顔になって――
樹莉がカードの束を見せる。
カードゲームを教えて欲しいの。
これ全部加藤の? すごい一杯持ってんだね――。
タカトは気遣って、加藤さんと言うが――
あーこれ欲しかった奴だ!
ちょっと!
トレードを申し入れる二人に――
教えてくれるの? くれないの?
教えるからトレードという二人にタカトが、拙いよと言うが……、
あたしが教えてあげるという声。
留姫が立っていた。
顔を輝かせる樹莉。本当!?
カードをひったくって留姫の方に走る。
あっち行こうと連れて行く。
情けない声を上げる二人。
オプション・カードの説明をしているらしい。
留姫みたいに強くなったら、デジモン・クイーン二世……。
カードの説明を快くしていた留姫だが、樹莉がゲームをしたいのではない、と気づく。
レオモン、また来るかな……。
判らないけど、来るといいよねと応える留姫。
頷く樹莉。そう、前話は番外編なのではなく、テンションが上がっていた樹莉だった。そして、にわかのカード・コレクターでしかなかった樹莉は、自分がテイマーとしての資格が足りていないから、ゲームを教えて貰いたかったのだ。
するとクルモンが樹莉の頭に、くーると言いながら飛び乗る。
留姫が、クルって。 ありがと、クルモンと樹莉。