Digimon Tamers 2021 Blog

デジモンテイマーズ放映20周年記念ブログ

映画版について

 

 

アニメでも特撮でも、シリーズを放映中に映画を作る事はよくあって、プロデューサーが異なるのと、玩具の販促事情なども絡んで、シリーズとの整合性がとれないというのもよく起こる。

しかし劇場版というのは、一種の「特別編」なのだと割り切って観て貰えたとも思っている。

冒険者たちの戦い」は2001年7月に東映アニメフェアで公開されたが、ちょうど放送でも14話でメガログラウモンの初登場となる。映画ではタオモン、ラピッドモンにも進化するが、終盤の終盤で段取りも省略されていたので(進化バンクはメガログラウモンのみ使用)、これも「映画だから」という特別感に収まったと思う。

監督は33話からシリーズに参加される今沢孝男さん。作画監督は38話からシリーズに参加された山室直儀さん。美術は徳重賢さんで、脚本は小林靖子さんが書かれた。

まだ1クール目を作り始めた頃からの企画で、まだ「タカトくん」「リーくん」と呼び合っている時期。留姫も仲間意識は生じていない頃なので、作り難かったろうなぁと推察する。それもあってか、沖縄という離れた場所を舞台とした。

 

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冒頭の夏休み、タカトが苦労してギルモンを沖縄に連れて行くくだりは実に楽しかった。

細かい事を言い出すと、やはり整合性はないところもあるのだけれど、ギルモンやクルモンがのびのび描かれている。

多分、上(抽象的に)からの声で、オメガモンを出す事で、次元を越えた競演という世界観の重なりを盛り込み、一層特別版的な要素にした――と思う。

こういう手法で世界観の異なるヒーローを競演させる、というのは過去にも例はあると思う。

ウルトラマンティガ」と「ダイナ」は共通の世界観だが、「ガイア」は全く異なる世界観で、三人のウルトラマンを競演させる映画を私の弟が監督する時に相談され、私が「こうやれば?」と提案したのが、メタフィクションのフレームだった。ガイアの主人公、高山我夢がウルトラマンだと周知されている世界観。最終回では実際そうなるのだが、映画公開時はそうではなかった。

そもそもテイマーズのシリーズは、デジモンという存在がリアライズしているかはさておいて、周知され子どもに人気があるというメタ的な設定なので、オメガモンと遭遇しても何ら違和感がない。しかし留姫とキュウビモン、ジェンとテリアモンをスーパー・パワーで召還はしても、律儀にもテイマーズ世界にオメガモンはリアライズ出来ない、とされ、その分、オメガモンですら討ち損なった強敵デジモンを倒すべく、ギルモンたちは完全体に進化してなんとかなった、という構造。

とにかく50分の間、バトルに次ぐバトル、アクション満載で、東映アニメーションの映画として見事な出来だった。

 

 

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留姫がヨーロッパに行っているルミ子の帰りを気にしているのを誤魔化され、レナモンが大笑いする場面。

 

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悪役デジモンの一体として、私も02「ダゴモン」で登場させ、テイマーズでは32話に登場したハンギョモン。悪者に描こうと、オタマモンを守っている善人に描こうと、ハンギョモンはどれでも魅力的なキャラクターだと思う。

 

映画公開時には、既に私は第三部を構想し始めていたと思う。やはり、「悪くて強いデジモン」を相手にし続けたら、互いにインフレしていくしかないなと思った。映画の50分だからこれは成立している。しかしシリーズでは、私には無理だと思った。

 

この「冒険者たちの戦い」が作られた事で、シリーズでも極めて大きな恩恵があった。本ブログでは再三述べてきたが、この映画用に新録された音楽の数々が無ければ、デジタル・ワールド編、デ・リーパー編は全く違う印象だったに違いない。

あと、31話の対オロチモン戦での狐葉楔は、この映画の流用カットだった、というのを20年ぶりに見返して判った。

 

 

49話でこの映画のカイを登場させたのは、当該の回顧に記した通りだが、無理矢理にでも映画と同一世界観だ、と主張したかった訳ではなかった。ギルモンをすぐに気に入り、タカトがテイマーだと主張するのを羨ましがるカイは、私にもとても印象的だった。

41話以降、散々「逗子の叔母さんの家」を振っていたので、一度はそこにタカトを行かせたかったが、親戚同士の会話をさせてもしょうがないな、と考える内に、親戚と言えばカイがいたじゃないかと思いつく。あとは、タカトの本音を引き出す役割だったというのは前に書いた通り。

 

 

 

 

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「暴走デジモン特急」は2002年3月2日公開。ちょうどシリーズでは同じまさきひろさんが脚本を書いた47話が翌日に放送されるというタイミング。

監督は中村哲治さん。脚本がまさきさん。作画監督は上野ケンさんが、シリーズとはひと味違うニュアンスで、ダイナミックな画面を作られた。美術は行信三さん。

 

この映画の企画の方が最終話のシナリオを書くよりも早かった。

2003年に、「フロンティア」が終了した時、初期シリーズ4作のCDドラマを録音する企画があって、私がシリーズのその後「メッセージ・イン・ザ・パケット」を書いたのだけれど、それは最終話の延長で、この映画に描かれる様な状況には戻らない。

ではこれは完全にイフ・ストーリー、無関係だなどと言うつもりはない。シリーズのライターが書いているのだから、ニュアンスはシリーズを反映している。

特に近年思うのは、年長のファンにはCDドラマとの矛盾に混乱を起こしたのかもしれないが、リアルに子どもの視聴者には、最終回後にこうしてテイマーとデジモンたちがリアル・ワールドで生きている――という展開も有り得たと思って貰えたなら、映画ならではのアクションも相まって良かったのではないか、と。

 

私が最終話で離ればなれになる、という終わり方に固執した件については、また改めて記そう。

 

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大ガード東側。

そう言えばラピッドモン進化回(秋葉原)もJRが舞台だったなぁ。しかしこの映画の企画自体が暴走機関車デジモン版というオーダーだったそうだけれど。

 

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終盤ではブラスト・モードで再登場するが、最初にベルゼブモンは久方ぶりにベヒーモスを駆る赤目での登場。すぐにやられてしまう。

 

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冒険者」が50分だったのに対してこちらは25分。だがアクションばかりではなく、留姫の父の想いと、それを歌に込めるという叙情的な場面がたっぷりと描かれる。これはシリーズで立ち入れなかった部分をフォローして貰えたと思っている。

 

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最後にはクリムゾン・モードにまで。て事はシリーズより2週早く登場していた事に。まあVジャンプなどでは既に披露されていたのかもしれない。

シリーズではクリムゾン・モードで技コールはする余地もなかったが、映画では「クォ・ヴァディス」とタカトとデュークモンが同時にコールして決める。

 

タイミング的に、シリーズでこの映画用に書かれた有澤孝紀さんの音楽は使えなかった。この映画で有澤さんは4ビートからモダンな16ビートまで幅はあるものの、ジャズにほぼ統一され、映画を特別な印象にしている。有澤さんはジャズメン出身のコンポーザーではなく(アニメ音楽の往年の名作曲家はそういうケースが多かった)、最初から映像作品の音楽というものを志向されるという珍しい作曲家だった。つくづく惜しい方を早くに亡くした。