第51話回顧 5
一年続いたシリーズ最終話のラスト・シーン。この終わり方だけは、ぼんやりとシリーズ構成を始めた時から想定していた。しかしこの場面に至るまでは、到底初期に思いつける範疇では有り得ない膨らみを、他のライター陣、演出家の方々によって築かれてきた。それを経ての終わり方なのだから、意味合いがまるで違っている。
前場面から短い黒味のフェード・イン/アウト。
新宿中央公園、最後に残った「ゾーン」。そこにいる――
テイマーたちとデジモンたち。消えていくゾーンを見つめている。
四角形のモザイクが明滅する。これも手間の掛かる処理だったと思う……。
終わったんだよね、これで……。
留姫が清々しい顔で感慨深げに言う。
タカト、やったね。とギルモン。
うん! とタカト。
ここから流れ始める「3 Primary Colors」(作詞:山田ひろし 作・編曲:太田美知彦)。最初期に作られたキャラクター・ソング。「テイマーズ」というクレジットで、津村さん、折笠さん、山口さんがそれぞれのキャラクターとして歌っている。オケ(イントロ、エンディング)は劇伴としてよく使われたが、タカトのパートだけが流れた9話を除いて、はっきり三人の歌を聴かせるのはここが最初で最後。第一部の状況が歌詞にされているが、最終回でも意外に合わないでもない。しかし何より、この曲の雰囲気、ローズの美しい和音と三人の歌声がここで流れるという事が重要だった。
顔を見合わせるタカトと樹莉――。
あ? と樹莉が向こうに目を送る。タカトも振り向く。
インプモンと、アイとマコが来ている。
インプモン、無事だったのか。とレナモン。
傷ついたインプモンをサクヤモンが救い、なんとかアイとマコには届けたものの、この姉弟がケアをしなければ危うかったのだ。
へへーん。
俺にもよう、テイマーがいたぜ。
アイの首からD-Arkが下げられている。まだアイもマコも、これが何をするものなのかは知らない。このカットだと、アイだけがテイマーの様に見えるが、私は二人ともテイマーだったと思っている。デジノームがD-Arkを与えた時に、手を差し伸ばしたのは二人だったからだ。
2018年に、割と本気で続編番組「デジモンテイマーズ2020」という企画書を書いた時の想定では、この二人がメインの一軸になる予定だった。勿論、タカトたちも描くが。これについては後に書くかもしれない。いずれにせよ、実らなかった。
そうか……。レナモンは心から祝福している。
留姫らはまだ、少し複雑な表情をしている。
インプモン、少し歩み寄っていく。切実に言いたい事があった。
俺――、俺――、
当然インプモンは、樹莉に謝りたかった。しかし、そういう事を言う事に慣れていない。
良かった、と樹莉が声を掛ける。
え? 意外さに詰まるインプモン。
もう誰も――、誰一人だって、いなくなって欲しくなかった。――と樹莉が言う。
加藤さん……。タカトにも意外な言葉だった。
俺を、俺を許すっていうのか?
微笑む樹莉。それが答えだ。
戸惑うインプモンの顔。
ここで歌頭。タカトが「なんで戦わなくちゃいけないんだろう? ぼくはただ傷つけたくないんだよ」が流れる。これがテイマーズだった。
ちゃんと謝ろうとしていたのに、先に許されてしまった――。この動揺かと思われた身体の揺れだが――、
インプモンの身体に異変が起きている。淡い光が身体内部から発し――
自分の身体を見る。
タカトぉ!
ギルモンだけではなく、デジモンはみな光を発している。戸惑うテイマーたち。
ギルモン! どうしちゃったの!?
判んない……と縮んでいくギルモン。クルモンもくるる~と不安げ。
レナモン?
何か、変だ。
ジェーン――
テリアモン!?
サイバードラモン!?
何かが、起こっている……。
ケンタ、ヒロカズもパートナーの異変に恐れる。
ジャンユーに連れてきて貰ったシウチョンが元気よく駆けてくる。
ジェン兄ちゃーん! ロップモン! テリアモーン!
あれれ?
どうしてこんなにちっちゃくなっちゃったの?
覚悟を決めて、そこに現れたジャンユー。
お父さん!? ジェンが悲痛に叫ぶ。
どうして!? どうしてギルモンたちは退化しちゃうの!
はっとなるジェン。
退化……?
お父さん! これって――
ジェンの視線を直視出来なくなった。
私たちの計画は成功した――。
リアル・ワールドとデジタル・ワールドの境界は、再び強固なものとなった……。
じゃ――、デジモンたちは!? とリョウが問う。
彼らの世界に帰らなくてはならない。
このままここにいたら、デ・リーパーの様にプログラムになってしまう……。
アイとマコ、幼年期になったインプモンを他のみんなのところまで連れてくる。
そんなの嫌だよ! ぼくは約束したんだ! ギルモンとずっとずっと一緒だって――
幼年期になったレナモンをきつく抱き締める留姫。
私、そんなの絶対認めない!
お父さんは――、こうなるって事が判ってて、テリアモンを――
いや、いずれ別れは来るとは予期していたが、こんなにすぐにだとは、SHIBUMIもジャンユーも想定していなかった。しかし、ジャンユーは言い訳をしない。
本当にすまない。つぐない、きれない事をした……。
しかし! これが(二つの)世界を守る、唯一の方法だったんだ!
父を睨みつけているジェンに、
ジェン、と声を掛けるテリアモン。
え?
モーマンタイ。
テリアモン……。
グミモン(幼年期名)になっても、テリアモンはテリアモン。これで終わりじゃないよ、Take it easy、とジェンに告げている。
ゾーンに吸い込まれていくテリアモン。
でも笑顔だ。
レナモン、やだ! 離れたくない!!
留姫、私たちきっとまた会える。
またって何時!? いつなのよ!?
ギルモン……。
またいっしょにあそぼうね。 タカト。
うん、うん……。
タカトはまた会えると信じて、ギルモンを手放す。
ガードロモンだったカプリモン――
幼年期が一体ずつゾーンに消えていく。歌は留姫のパートに入る。
マリンエンジェモンは本来ルカモンという幼年期があるのだが、全く異質な姿なので究極体だからそのままに。
サイバードラモンの幼年期、ホップモン――
インプモンの幼年期、ヤーモン――
クルモンはそのままだ。
ロップモンの幼年期、チョコモン――
テリアモンの幼年期、グミモン――
レナモンの幼年期、ポコモン――
ギギモンとなったギルモン。
約束だね、タカト、たのしみだね――と言いながら消えていく。
ターカトー――。
シウチョンには訳が判らない。
みんなどこ行っちゃうの!? 行かないで!
ジェンにしがみついて泣き出すシウチョン。
そっとその頭を撫でるジェン。
みんなはもう完全に消えつつあるゾーンを見つめ続けている。
ジェン、父の方に振り向く。
どんな厳しい言葉をも覚悟しているジャンユー。
泣いているが、微笑むジェン。ここから歌はコーラスに入る。
ジェンは父を許した。
勿論、気持ちの整理など出来ていない。しかし聡明なジェンは、父たちが決して、デジモンと子どもの別れなど意図していなかった事も理解したのだ。
山口眞弓さんには申し訳なかったが、一番重要な場面は、映像だけで見せたかった。最終回で一番見せたかったのは、ここだった。
ジェンリャ……。
膝をつくジャンユー。
むせび泣くジャンユー。
20年近く前に、将来子どもとデジタル世界のモンスターが遊べる様な構想を抱いていたのがジャンユーだった。思わぬ形だがそれが実現した。何より、テリアモンという得難い存在とも親しくなれた。息子を命懸けのミッションにまで参加させている。
それなのに、この結果には男泣きするしかないのだ。金子さんの抑制的な演技で、私は泣いた。
絶対だよ……。タカトは見えないギルモンに言う。
ギルモン、約束だからね……。
遂に、ゾーンはこのリアル・ワールドから消滅した。
一瞬のホワイト・アウト。曲はここからガットギターのソロ・パートに。
まつだベーカリー店内。やや経ってからの時制。淀橋小学校が復旧した頃。
麗花が美枝と話をしている間、ルーズな格好の山木がパンを選んでいる。あーヒュプノスのロゴ入りパーカー、とうとう商品化されなかったなぁ……。
タカトがレジ横から顔を出して中を窺い――、すぐ引っ込む。もう遅刻しそうなのだ。
デ・リーパーを退化させる、という表現にしたのは、災害復旧をリアルに見せたくなかったからだ。デ・リーパーが覆っていたエリアは、覆う前の状態に時間が引き戻されている。なので日常がすぐに戻って来た。これも9/11の直後に提示する作品としての配慮であった。
おはよー! 恐竜公園の時計台――、テイマーズの物語が始まったところ。
この場面はシナリオでもう少し描写があった。泰三、美紀といった他の子の名前もある。全く覚えていなかったが、やはりショートの女子は美紀という名前だった。この時計台の下で、樹莉と美紀がカード・バトルをしているのを、ヒロカズ、ケンタ、泰三が見ているという場面。タカトが「おはよー」と来ると――
ケンタ「おータカト、おせーじゃん」
ヒロカズ「あっ、バカ! 加藤そんなカード、そこで使うな!」
樹 莉「うるさいなっ! ちょっと黙ってて! タカト君、おはよ」
タカト「うん……、おはよう(微笑)」
シナリオでは、授業中に樹莉が振り向いて「ワン」と手の形だけするという描写にしていた。普通のクラスメイトに戻ったけれど、まだ意識し合う関係――というニュアンスを出したかったが、この描写でもそれは伝わる。
ここからのタカトのモノローグは、梅澤さんが付け足したもの。
こうしてぼくの生活は、ギルモンが現れる前と何一つ変わらなくなった――。
覇気のある表情で、真剣に生徒に伝える授業をしている浅沼奈美先生。
中央公園。冬枯れの木立――。
駆けてくるタカト――。
かつてギルモン・ホームだったところを立ち止まって見上げるも――
歩き出す。
長い影。
と、デジノームが飛び立っていく。
何かを感じて立ち止まり――
振り向く。
やっぱり来てしまう、ギルモン・ホーム。
ギルモンが掘って、自分たちがデジタル・ワールドに旅立った時の、穴。
じっとそこを見つめていたタカト――
愕然。
穴の奥底に――、ゾーンの光が。
ギルモンと、出会う前の……。
顔を輝かせたタカトの顔で、ストップ・モーションにならないまま、「デジモンテイマーズ」の物語は終わる。
「3 Primary Colors」は巧みに編集されたかもしれないが、イントロからエンディングまできっちりと全曲流れ、極めて美しい終わり方をした。
タカトのモノローグは、サイレント(台詞なし)処理というシナリオではもの足らないと梅澤さんが感じたが故だと考えた。
ギルモンと出会う前の、という言葉を強調したのは、またギルモンと会える可能性がある、という意味だと思った。それは本当であるし、これで全て一切無かった事にもなっていない。
私が、ギルモン・ホームで再びデジタル・ワールドへの架け橋がまだ、リアル・ワールドにはあるという終わり方にしたのは、今思うと「貝澤さんなら、こういう終わらせ方をさせるだろうなぁ」と思ったのだろう。
意外と貝澤さんは、私以上にウエットさを避ける印象を抱いていた。「ふしぎ魔法ファンファンファーマシィー」の経験で。
テイマーズはシリーズ後半、実際だと後半1/3くらいは頼れる監督的存在がおらず、私が一貫性を維持する立場となってしまった。後半になると、角銅さん以外の各話担当の演出の方々の好みや傾向なども判ってきたし、ものすごく困る事もなかったのだけれど、私があれこれと作図したのは、やりたくてやった訳では無いとだけ言っておきたかった。これは監督がやるべき事だった。
最終3話のシナリオを書きながら、各話演出の方に説明する為に概念図を幾つか作成した。マザーは全高700mの想定。Wired Zoneは破壊された後のカーネルに移動した。最後に現れるADRは「Faceless」と書いてあるが、シナリオでも記していない。
これは既に一度掲載したが、リアル・ワールドに重なるデジタル・ワールド、ゾーンのイメエジ画。荒牧さんに描いて貰ったもの。ラスト・シーンの表現。
オペレーション・ドゥードゥルバグ「蟻地獄作戦」の説明。記してあるテキストを採録。
デ・リーパーは自己を知性進化させ、自己拡大をする為に自身の内部を量子コンピュータ化させ、それを駆動すべく超高速渦「Transphotic Edy」を形成させた。
ワイルド・バンチと山木は、この渦を逆に超高速回転させ、デ・リーパーを退化させる為に、テリアモンの耳にシャッガイ(ネット内に強力な渦を起こし人工知性を巻き込むシステム)の改良版をプログラム・ロードしていた。
脚本家として最終話に悔いがあるか、と言われたら、メイン3人以外のテイマー、デジモンたちにもっとちゃんと挨拶をさせたかったのは山々だ。しかし、基本である三人に絞ったからこそ、別れに接した時の三人それぞれの個性で描けたのは事実だし、「想定外の早い別れ」を今以上に尺を使うべきでもなかったのだから、やはり完成作品以外には選択肢がなかった。消極的な意味では勿論ない。
もう感謝しかない。
清水さんの背景美術は、第一部、デジタル・ワールド編のハイパー・リアルでありながら、単に写真的ではない美を感じた時が多かった。ありがとうございました。
作画監督はみな個性的な絵柄を描かれるが、出口さんは特にギルモンの描き方が独特で、楽しみだった。通常回なら一人で全原画を描かれていた。印象的だったのは29話「クルモンの城」回。クルモンのミュージカル・シークェンスの底抜け具合には本当に楽しませて戴いた。ありがとうございました。
梅澤さんと脚本・演出で組むのはこれが最初で最後になったのだが、勿論ホン打ち(脚本打合せ)時に、何度も顔は合わせていたし、やたら口を出すシリーズ構成だなぁとでも思われたのか、最初は怖い人的な印象だった。しかし演出された6,16,22,30,37,そして何より43話を見れば、マンガ的な表現もリアルな表現も、そしてアニメでなければ描けないスペクタクルも見事にフィルムにされる人だと判っていたので、最終話を担当して貰えて本当に有り難いと思った。
後年プロデューサーに転身されてから、「怪~AYAKASHI~」の「四谷怪談」、「モノノ怪」に私を喚んでくれた。後者は、えええっと思う様な手法をとる為に、2~3話分にしなければならず、スタジオ側がそれしか出来ないという事情を率直に明かしてくれたので、ならばと、数話保つだけのプロットを作った。恐らくそれは創作的にも成功だったのだと思う。他にない1クール・シリーズになった。
その後、ある有名タイトルのリメイクを映画として、実写でもアニメでもいける様にシナリオにして欲しい。しかし映画になる可能性は低い、という条件の仕事を梅澤さんからオファーされた。やはり成立しなかったのだが、これは書いていて本当に楽しかった。
その後が長くなってしまったが、シリーズ序盤から最終話まで、本当にお疲れ様でした。
#51 Credits (Full)
脚本:小中千昭
ギルモン~デュークモン:野沢雅子
松田啓人~デュークモン:津村まこと
テリアモン~セントガルゴモン:多田 葵
李 健良~セントガルゴモン:山口眞弓
レナモン~サクヤモン:今井由香
牧野留姫~サクヤモン:折笠冨美子
サイバードラモン~ジャスティモン:世田壱恵
秋山 遼~ジャスティモン:金丸淳一
加藤樹莉/デ・リーパー:浅田葉子
クルモン:金田朋子
インプモン:高橋広樹
塩田博和:玉木有紀子
マリンエンジェモン:岩村 愛
北川健太:青山桐子
李 小春/鳳 麗花:永野 愛
小野寺恵:宮下冨三子
山木満雄:千葉進歩
李 鎮宇:金子由之
ドルフィン:菊池正美
デイジー:百々麻子
バベル:乃村健次
カーリー:松岡洋子
SHIBUMI(水野悟郎):諏訪太朗
ナレーション:野沢雅子
協力:東映アカデミー
原画:出口としお 田辺由憲 藪本陽輔
動画:下平夕子 吉川真奈美
背景:スタジオロフト 井上徹雄 阿部とし子 劉 基連
デジタル彩色:松山久美子 井田昌代 露木奈美 木村紘子
色指定:板坂泰江 大谷和也
デジタル合成:三晃プロダクション
広川二三男 則友邦仁 山口博陸 清水正道 緒方美佐子
編集:片桐公一
録音:池上信照
効果:奥田維城
選曲:西川耕祐
記録:小川真美子
演出助手:まつもとただお
製作進行:坂本憲知生
美術進行:御薗 博
仕上進行:浅間陽介
プロデューサー補:馬場厚成
キャスティング:小浜 匠
広報:北野あすか(フジテレビ)
録音スタジオ:タバック
オンライン編集:TOVIC
挿入歌:「One Vision」「EVO」「3 Primary Colors」
(NECインターチャネル)
音楽協力:NECインターチャネル
美術:清水哲弘
作画監督:出口としお
演出:梅澤淳稔
企画:川上大輔(フジテレビ)
木村京太郎(読売広告社)
関 弘美(東映アニメーション)
原案:本郷あきよし
シリーズ構成:小中千昭
音楽:有澤孝紀
主題歌:「The Biggest Dreamer」
(作詞:山田ひろし 作・編曲:太田美知彦 歌:和田光司)
「Days -愛情と日常-」
(作詞:うらん 作曲:大久保薫 うらん 編曲:大久保薫 歌:AiM)
(NECインターチャネル)
製作担当:岡田将介
総作画監督:信実節子
美術デザイン:渡辺佳人
CGデザイン:荒牧伸志
製作協力:東映
本ブログはこの後、オープニング、後期エンディングを回顧し、シリーズのその後を記す予定。
膨大な全話解説、おつかれさまでした。
— TEN (@nori_kuni) 2021年7月15日
最終話近辺は本当に体調悪くて明日起きるのかなと不安抱きながら毎日寝ている様でしたが、これが終わるまではという気持ちで持ってた記憶。
その後フロンティアの3話やっている最中に視界飛んだりして今思えば過労だったんだろうなあ。 https://t.co/3zyTYsJrj5
すみません……。撮影の負担増やした元凶も私でした。
— 小中千昭 Chiaki J. Konaka (@yamaki_nyx) 2021年7月15日
本当にお世話になりました!
いえいえ、当時を振り返るとやはり圧倒的非効率な作業をしていたのがやはり大きな原因でした。
— TEN (@nori_kuni) 2021年7月15日
今まで引継ぎで担当することはあっても初めて立ち上げから関わったのがこの作品だったのは、本当に人生史上においてもラッキーなことだったと思っています。