第3話回顧 1
3話を見返していたたまれなくなった。分割二回戦のバトルばかりでなく、要素てんこ盛り過ぎのシナリオ。演出の吉沢孝男さん、作監の海老沢幸男さんには大変御迷惑をお掛けしたと思う。
吉沢さんとは1998年の「週刊アニメDX!みいファぷ-」で一年間、私は「ファンファンファーマシィー」の脚本、吉沢さんが「こっちむいてみぃ子」のSDをされていて、何回か合同のエピソードもあったし、アフレコでは毎週顔を合わせる関係でもあった。海老沢さんのテイマーズ担当は今回のみ。02「ダゴモンの呼び声」の作監も手掛けられていた。
レナモン対ギルモン!戦いこそがデジモンの命
脚本:小中千昭 演出:吉沢孝男 作画監督:海老沢幸男 美術:飯島由樹子
新宿中央公園のひと気の少ないところで、レナモンに急襲されるギルモン。
さっさと片をつけようという留姫。デジタル・フィールドが出ていないので人目につく事を気にしている。
生まれたばかりなのに成長期のギルモンを、タカトは戦わせたくない。
しかしレナモンは留姫の命に従い、攻撃しようとするレナモン。「レナモンのテーマ」が流れ始める。
しかしギルモンは怯まない。
狐葉楔の凄まじさに怯むタカト。
ギルモンも反撃。まだ技のコールはない。
このレナモンが凝視するカットに続いて――
D-Arkのデジモン・アナライズ表示が浮かぶというモンタージュは、D-Arkがレナモンの視覚と同期している事を表している。
あとはもう完全なる獣同士の闘争となる。レナモンの強さはこれまでに幾度も見せてきたが、力で拮抗しているギルモンのポテンシャルは相当に高い。
実のところ、テイマーズの直前までの怪獣映画に私は不満を持っていた。やたらと光線を撃ち合う怪獣の描写はつまらないと感じていたのだ。後年CGで描かれる様になった怪獣は、やはり私には退屈だった。動物ドキュメンタリで見られる様な、獣同士の格闘は矢鱈動き回る様なものではなく、タメと瞬発力にこそリアリティを感じさせる。
実のところ、私はやはりテイマーズのデジモンを怪獣と重ねていた。普段は人間とコミュニケーションがとれる関係を持つが、いざ闘争となったら本能で戦う。これは相当なスーツの改良が出来ないと実写では難しく、アニメならば可能なのだ。
そしてその闘いの場にいる登場人物の心情に迫真性を持つ。タカトは今のギルモンの状態には堪えられない。だって2話の後半の後なのだから。
闘いが膠着している見るや、留姫は非情にもカード・スラッシュ。「ヘビーメタル」
ただ、ここで流れる「SLASH!!」はインストゥルメンタル・ヴァージョン。歌の代わりにサックスがメロディを奏で、サウンドが全体に軽い。こうした的確な選曲にはいつも唸らされる。
レナモンの片腕がインパクト・ガンに変形。
タカトはギルモンに必死に呼び掛ける。
ウィナー、レナモンとほくそ笑む留姫。もう完全にここでは悪役である。
必死にギルモンに呼び掛け続けるタカト。
その声を認識し、瞳が戻る。あ、呼ばれた?
と、咥えていたレナモンの腕をあっさり離す。その時、インパクト・ガンが対象を失い――
自分が吹き飛んでしまうレナモン。このインパクト・ガンは、「THE ビッグ・オー」の“サドン・インパクト”を踏襲しての描写。ギレルモ・デル・トロは「パシフィック・リム」で似た描写をしていた。
タカトのところに戻っていくギルモンに、レナモンをけしかける留姫。一瞬躊躇するも、テイマーの言葉は絶対であった。
跳躍してからヘビー・メタルの拳をギルモンに向け――
それを止める声が響く。
ジェンリャとテリアモン。
デジモン?と訝る留姫。テリアモンはまっしぐらにレナモンの前へ
続けざまに質問するテリアモン。もう進化出来る? その質問は、ジェンリャとの間では禁句となっていた。ジェンリャに指摘されると――
無問題(モーマンターイ)――。万能の答えである。
ジェンリャは留姫に、“駅の向こう側の子”と呼ぶ。山手線も中央線も、新宿駅は東西で分けられている。駅の向こう――、東口のどこかで見掛けた事があるのかもしれない。
留姫の家はもっと東にあるのだが。
どうしてデジモンを戦わせようとするのか問う。テリアモンに懐かれたら、そう思うのが自然だろう。
しかし、デジモンをゲームの駒と定義している留姫には理解が出来ない。いや、実のところ、序盤の留姫に、そのデリカシーがない筈がない。レナモンと既に出来ている関係を見ても。しかし頑なな性格である留姫は、自分自身でこうだと定めたルーティンから外れる事を嫌う。
戦う気が失せ、レナモンに帰るよと言って去って行く。レナモンが姿を消す時に、能楽の笛と太鼓がジングルの様に鳴る。このオンエアを見てから、後に留姫が能を観劇するというシチュエーションが生まれた。つまり音ありきだった。
ここまでで、一話に必要なアクションは入念に見せているのだが、話はここからなのだ。美しい夕景の都庁背景の前で、シルエットの風に吹かれる木が動いている。散っていく葉もループだが描かれている。
こうした情景を背景に、タカトとジェンリャの、初めてちゃんとした会話がオフ(画面の外での会話処理)で流れる。
私はこの時期の東映作品で作画枚数の制限について聞いた事がないのだが(恐ろしくて訊けなかった)、今話の後の展開を考えるとセーブされた演出だったのかもしれない。
しかし、オフの会話は続いて、ギルモンとテリアモンがじゃれあう様子が描かれる。
ジェンリャは父が香港、母が日本人というハーフで、隣の組の生徒だった。まだ知り合ったばかりなので、リー君、タカト君と呼び合う。
ギルモン・ホームの中である。ここを見つけるプロセスは見せていないが、レナモンとの闘いの後で、すぐ近くにあるここを発見したのだろう。タカトはここを“秘密基地”と呼んでいる。こうした秘密基地、男児なら一度は夢想したのではないか。
デジモンをパートナーに持つ者同士ならではの、共感。
友だち同士になるタカトとジェンリャ。しかしもう帰宅の時間だ。テリアモンに帰ろうと促す。
モーマンターイ。しかしジェンリャに更に言われて――
なんでこうした降り方をするのか謎なのだが――、ここはアニメーションで是非見直して欲しい。これを読んでいる人なら、もう目に焼き付いているのかもしれないが。
ジェンの背中に飛び乗るテリアモン。テリアモンなら小さいから一緒に住めて、羨ましいというタカト。しかし、実のところ、李家内でのテリアモンは……。
ギルモンはまだ4歳児程度なので、もっと遊ぼ?と言っている。
タカトがテリアモンに、「モーマンタイ」の意味を訊いている。
気にすんな、気楽にいこう、テイク・イット・イージー――。的確な答えではないのだが、それすらも無問題。
背中に乗れないギルモンは、タカトに懐く。
家に戻ると、ちょうど“加藤さん”が買い物をしていた。よくパンを買いに来ていて、母にも覚えられている。
すれ違い様に樹莉が、体育の途中でいなくなった事を黙っていたと囁く。
まあこれで参らない男子はいまい。
そこへ父。“段ボール”と別れてきたのだろう、辛いよなぁと勝手に同情している。あながち的外れではない。
デジモンは戦う道具――。留姫の言葉を反芻しているタカト。
そしてここが新宿駅東口。――なのだが、大(だい)ガードを挟まないと位置関係は、新宿に土地勘がない人には判り難いかもしれない。それにしてもこの辺りの夜景は美しく描かれている。この視点の背後がアルタ。当時はまだ昼間の生番組を放送していた。
この辺りの場面は合成で描写されている。
常に背後にはレナモンが音を殺して付き添っている。
ジェン兄ちゃん、と幼い声。このマンションがリー家。
小春(シウチョン)がジェンリャを夕食だと呼んでいる。あまり描けなかったが、あと何人か兄姉がいるので、ジェン兄ちゃんという呼称。そして――
シウチョンはジェン兄の部屋に“ある”、テリアモンという名の“ぬいぐるみ”が気になって仕方がない。テリアモンはシウチョンの前ではぬいぐるみのフリをして硬直する。
きょーおはすっきやっき――♪ という変な唄……、あ、シナリオに書いていた、この歌というかその……。
倒されてもシウチョンがいなくなるまでは堪えるテリアモン。
ごめんとジェンリャが言うと――
モーマンターイ
しかしここで、実は深刻な空気になる。テリアモンも進化したいのかい? と改めて問うジェンリャ。
ここでテリアモンは無言となる。この間合いが、色々な含みを持っている。
君が進化したら、僕たちは一緒にいられなくなるんだと何度も話してるよね、と言うジェンリャ。
しないって何度も言ってるじゃないと答えるテリアモン。
ホッとしたジェンリャ、後で饅頭持ってくるからと言って出て行く。わーいと喜ぶところを見ると、テリアモンの食性もまた、人間的になっている。
夜になって、パンを差し入れに来るタカト。
すると、ギルモン・ホームの奥側の壁が崩され、穴が掘られている。
ギルモンがやたらと地面を掘りたがる習性というのは、ギルモンの爪を見ていて考えついたものだった。一心不乱に掘ったのだろう、疲れ切ってギルモンはタカトにもたれて眠ってしまう。
デジモンも眠るのだ。そして多分、夢も見る。
やっぱりデジモンは、闘いの道具なんかじゃない。
まだAct.2の途中なのだが、長くなったのでここで一旦切る。