第9話回顧 2
浦沢さんの上げられるシナリオというのは昔ながらのペラの手書きで、まず読むのに苦労をするのだけれど、独特の文体が「ああーこれが」となっていく。
明らかに設定的に誤られている場合はコンテで修正されるのが殆ど。だから何稿もお願いはしていなかったと思う。
さて後半。グラウモン状態だとパンも数倍は食べるだろうと、いっぱい手に持って翌朝トンネルに来るタカト――
グラウモンの不在に呆然。
学校ですかさずリー君に相談だ!
テリアモン、ちょっと探してみて。素直に向かうテリアモン。
心配しなくてもいいと力づけるジェンリャ。
さてここからテリアモン劇場。
中央公園のあちこちを探し回るテリアモン。
人が通ると、灌木の中に隠れてやり過ごす。色味がちょうど保護色的。
灌木から出て来ようとすると耳が引っかかる。
いないなぁ……。
見回す。
いないな――、ん? これよく見ると引率の先生もいるという。
いたぁ!
超ロングでちょこまかと学校へ走り込んでいくテリアモン。しばーーーらくそのままフィックス。
すると4倍速の速さでタカトとジェンリャが学校から抜け出してくる。
広場には既に姿がなく、探していたら――、
なんでトンネルを出た、とグラウモンに叱るタカト。だって……、
昨晩インプモンの嫌がらせで逃げ出したのだが――
よく考えたら自分の方が強いじゃないかとエキゾースト・フレイム!
インプモンは捨て台詞吐いて逃げていった。しかしグラウモンは睡魔に抗えず、広場でそのまま眠っていたのだという。
グラウモンを許してあげて、と殊勝なテリアモンだが、人が近づいてきた。
くてっ、とぬいぐるみのフリ。
人目がなくなると解放。
そうだ! とタカトがまたも閃く。
ここから音楽押しのシークェンス。
AiMさんの「My Tomorrow」のC/W(昔の言い方ならB面)曲「ひまわり」のイントロ。「シングル・ヒットパレード」に収録されている。
グラウモンを迷彩色に塗っていく。
テリアモンが足の裏を塗ると、グラウモンがくすぐったがる。で――
こうなる。あ、これって後に登場するロップモンの予測プログラミングだったのかもしれない……。
楽しく作業をして――
ギルモンはすっかり迷彩色に覆われる。
どれだけ見え難くなっているかの検証は――、かくれんぼ。テリアモンの目隠し法、あざとくないか?
声はすれども姿は見えず大成功。しかし――
水を差しに来る留姫。ごめんね留姫ちゃ――、いや留姫。今回はこういう役回り。
人の目には見えなくとも、デジモンならすぐに居場所は察知されるのだと。
留姫の指示でレナモン・アイ、グラウモンの居場所をサーチ。
そこだ、と指した方向には何も見えないが――
そのままレナモンが襲うのかと、咄嗟にタカトが阻止。
あんたたち、テイマーとしての自覚が足りないと詰る留姫。
今回はジェンリャとテリアモンも応戦の構え。
リー君も留姫も、グラウモンの事で喧嘩しないでと訴えるタカト。
その時――、ポツポツと雨足が――
タカトォ、と泣きそうな声のグラウモン。塗料が流れ落ちだしている。
あまりの情けない姿のグラウモンに、タカトは愕然。
留姫が、あんたたちが考えるのは所詮この程度の事と言い捨てて――
レナモンを連れて帰ってしまう。
タカトはグラウモンに泣きながらしがみつく。
泣いている。号泣だ。
……。
2018年にニコニコ動画で見直すまで、私は正直、これほど1クール目でタカトが泣いていたとは驚いた。殆ど毎回泣いているのではないか。しかしこの回の号泣は迫真的で、長い。しかしそこに光の筋が差す。
テリアモンが見上げると、もう雨は去った様だ。そして流れ出すフェンダー・ローズの音色。キャラクター・ソング「3 Primary Colors」。この曲はタカト、ジェンリャ、留姫が「君はどう思う?」と問い掛け合いながら、(シリーズ序盤の)自分達の心情を歌詞にした曲。(作詞:山田ひろし 作・編曲:太田美知彦 歌:テイマーズ)
そのタカトのパートだけをエディットしている。歌詞はこの状況に極めて合っている。
虹の大橋が伸び始めていた。
タカトもそれを見上げる。
グラウモンも見上げる。
この表情は――
虹の魔法、なのか。グラウモンの身体が光り始めて――
あれ? と自分がギルモンに戻っている事に気づいている。しかし――
タカトは依然、虹を見上げている。不思議な演出だとこれを書いている今も思う。
恐らく、浦沢さんのシナリオでは、ギルモンが戻って良かったねという感じだったのではないか(もうテイマーズとかのアフレコ台本は手元にない)。
この「3 Primary Colors」(色の三原色、赤=ギルモン 黄=レナモン 緑=テリアモンを表していると思う。02映画のラピッドモンは金色だったが、テイマーズではメタリック・グリーンとなる)
――のエディットはとても巧くいっていて、タカトパートの後にエンディングをきっちり流して――
音楽の余韻と共に、ギルモンも含めて全員が虹を見上げて続けている静的な情景のまま終わる。
ラプソディ的なエピソードだったが、タカトの本気の泣き(津村さんも大変だったと思う)とこの不思議な終わり方は、佐々木さんのテイマーズ、という事だったのだ、と今は思える。そして間違いなく、単なるギャグ回ではない印象的なエピソードだった。
#09 Credits
原画:清山滋崇 内藤眞由美 福井智子 野沢 隆
動画:篠原悦子 兼高里香
背景:鈴木慶太 今村立夫 佐々木友子 伊藤信治
デジタル彩色:松森より子 坂入希代美 井浦祥子 大旛 忍
デジタル合成:三晃プロダクション 広川二三男 則友邦仁 吉野和宏 中山照美
演出助手:まつもとただお
製作進行:山下紀彦