第13話回顧 2
13話Bパートは、14話で放つ矢の為に、充分に弓を引く趣旨の構成。14話がこれまでの13話を一挙にまとめて次の章(クール)に入る事になる。Bパートにはバトルもなく、従って13話にはスラッシュ/進化バンクもない(フラッシュバックには入っているが)。
タカトとヒロカズ、ケンタとの亀裂は、最初からの構想にあった訳ではないが、「ぼくが考えたデジモンが現れた」などと言われてすぐに諒解されるのはリアリティがない。
ギスギスした描写は書いてる側としても楽しくはないのだが、こうした《谷》がなければ深まらない絆がある筈だ。
恐竜公園で、いつもならカードバトルをしているのだが――
タカトも、冷ややかな空気を打破したいとは思っているのだが――、
意を決して明るめに挨拶をしたものの――
二人はあまり芳しくない。
ソックパペットで言いにくい事をズバリと言う――
樹莉、今日はカードで遊ばないの?
デジモン、という言葉を口に出してしまいヒロカズに制されるケンタ。
ヒロカズはデジモンなんて子どもの遊びだって気がしてきたと言う。
タカトは、自分の睡眠時間を削ってまでギルモンと、世に出たら拙い事態が起こるだろうデジモンと戦い続けている事に、果たして正当性があるのかと思い始めている。
既にギルモンと仲良しになっている樹莉は、ギルモンがデジモンなら、ぼくはデジモンが好きだな、と異常に巧い腹話術を駆使して述べる。
ヒロカズはケンタを誘って帰宅していく。ギルモンが実在する事までは認めざるを得なくなっている。
遊びじゃない、と呟くタカトに、変な事言ったと謝ろうとする樹莉。それはタカトも違うと知っているのだが――、今日もギルモンと遊ぶのかと訊かれると――
遊びじゃないんだって! と思わず怒声を上げてしまう。
ショックを受ける樹莉――
思わずパペットを隠す。タカトも瞬時に言い過ぎた事を後悔して、足早に去って行く。
与党議員、官僚トップらに計画承認を得る為、ネット会議が開かれる。当時のシナリオではWebCam越しの会議と記してある。2020年に爆発的に広まったのがZoom、Webexなどのサーヴィス。本作の描写の様に、音声はオンラインであっても映像を共有したくないユーザは、アバターや自分の静止画写真を表示させるケースが多い。
発言しているユーザがクローズアップになったりというのも、本作では発言者がカラーになるという表現で見せている。
シナリオでは半分以上は普通にオンライン動画として書いたが、今村さんは完全に静止画で貫いた。この表現で何が利であったかというと、作画枚数を減らせた事だと思う。
一方で、中鶴勝祥さんには監査委員以外の、後に使い回す予定のない新規キャラを何人も描いて貰わねばならなかったのは反省した。以降、大人のキャラクターを新規で出す場合はちゃんとシリーズ内で活用出来る様に心掛ける。
まずは官房長官のネットが危険なものだと国民には認知されたくないという話。
ネットワーク疑似生命体物質化現象=リアライゼーションは報道を検閲して国民には知らされていない。2020~21の……、いややめておこう。
ヒュプノスはかなりの物量でネットワークの監視・検閲を行っている様だ。監査委員はヒュプノスの存在が政権の寿命を縮めかねないと懸念している。
そもそもデジモンというのは誰が作ったんだ、という本シリーズに於けるデジモンの設定がここで提示される。
テイマーズのデジモンの由来については、既にジェンリャのゲームを通して見せてはいるが、キャラクターとしてのルーツが1980年代にあるというのがテイマーズ設定。
これは、元々携帯液晶ゲームだったデジタルモンスターが、大昔の人工知性シミュレーションに似ていると感じたところから発想したものだった。
更に詳しい《裏設定》は、小説「デジモンテイマーズ1984」を参照されたい。渡辺けんじさんのイラストは無いが、3年前に少し改訂し大幅に注釈を入れた第二版のオンライン版はこちら
*注釈を表示させるには、ダウンロードしてAcrobat Readerで開いて下さい。ブラウザでの表示は出来ません。
ネットの中で独自に進化体系を発達させたデジモンには、TTL Time To Liveの設定がそもそもなされていない。勝手に進化しているのだから、人が始末せねばならないと山木は力説。(TTLはパケット寿命の意。これが2019年にNBCユニバーサルが"serial experiments lain"に関して、個人の版権を認めるという措置がlain_TTLと命名される元でもあるのだが、勿論ここで討論されている架空の設定とは全く無関係)
山木が申請している新しいネットワーク攻撃システム《シャッガイ》がもし起動されたら何が起こるのかと訊かれる。一時的な混乱があるだけだと山木は楽観的。
ネット世界は基本的には全世界に反映されるもので、もし日本の公的機関が混乱の原因を作ったと知られたら、日本は賠償責任を負う。到底認可すべきものではないのだが――、デジモンの出現が頻度を増しており、このまま隠蔽し続ける事も現実的ではなくなりつつあった。
あくまで「試験」を行う。それならばこの面々によるオーソライズも必要なかろう、というのが政治家の判断。
オフラインになるや、腰抜け共がと罵る山木
今回のエピソードで絶対に描いておきたかったのがこれからの場面。
ギルモンの尻尾と遊んでいる幼児たち。
タカトとギルモン、ゆっくりと会話をしている。会話がこんなに高度になるまで、ギルモンは成長している。
タカトは、ギルモンが更に成長し、進化し、自分が届かないところまで行ってしまうのではないかという畏れを内心抱いている。
そうじゃないよ、とギルモンは言いたい。だからタカトは友だちだと言う。
でも、友だちとは何か。ギルモンもよく定義出来ていない。だから、ぼくがタカトをタカトだ、って思う気持ちが、友だちなんだって思う、という意見を述べる。
ギルモンに説得されてしまい愕然としているタカト――。
ギルモン、凄いな。だってちょっとこの前までは赤ちゃんみたいだったのに――
ギルモンは、タカトと一緒にいるからさ、と答える。
ぼくは……。タカトは自分がギルモンに、圧倒的に成長力で劣っていると自覚している。全然進化してないや、とタカトが言うと、ギルモン面白がって「タカト進化!」と言う。
タカトは宣言する。進化する、ぼくだって!
タカトモーン!
暫く笑い合う二人。
そしてタカトはギルモンに謝る。ギルモンが進化するのには、ただ他のデジモンを殺戮してロードする為ではなく、何か別の理由があるからだと信じられた。
だがこれまでのタカトは、その変化を恐れてばっかりいた。そんな自分をタカトは否定する。これがタカトの《進化》だ。
このシーンは次回以降、より激化していくバトルの前に見せておきたかった場面だった。二人は(敢えて二人と書くが)、互いを大事に思っているが、やはりちゃんと言葉にしないとズレを生じさせてしまう。1クールかけて成長したギルモンは、しっかり喋っているが、野沢雅子さんが絶妙に幼めの芝居で演じられた。これも嬉しかった。
しかし、運命の時は近づいていた。
都庁には実際、緊急時用ではあるが、ヘリポートが屋上にはある。次回はここが舞台となるのだが――
ヒュプノスには緊急な改修が始まっていた。
電源か回線の大幅強化工事なのだろうか、特に設備のスーパバイザーである恵は神経質に工事を見ている。
何が始まるのかなぁ、とぼやく恵。
ヒュプノスの管制室内に、異様な機器がキノコの様に生えている。
シナリオでは2Uラックが二台程度の規模だったのだが……。
麗花は無関心――。
山木のキャラクターソング「Black X'mas」(歌:山木+麗花+恵)はこの辺りの関係をイメージして作詞されたと思う。
李家のマンション――。
ジャンユーが帰宅してくると――
誰か知らない者が近づいて来る。
李チンウさんですね?と切り出してくる、《黒服の男》。
ジャンユーです。と切り返すのは、12話のジェンリャと山木のやりとりからの反復。
ジャンユーが若い頃に、何か悪さでもしたと言いたげな男に、誰なんですあなたはと問う。
それには答えない男。あなたの昔の遊び仲間を探しているんです。あなた方の誰かがまだ大人になりきっていないらしい――。
ジャンユーはどういう意味だと問うと、まあいずれ判るでしょうとはぐらかす。
忍耐出来ずジャンユーが文句を言おうと声を上げると――
もう男はそこにおらず、ジェンリャが帰宅してくるところだった。男はジェンリャに気づいて立ち去ったらしい。そして――
話の一部を彼は聞いている。
シウチョンがドアを開いてお出迎え。
おかえりーっ! と一日一緒に遊んだ――
赤ちゃん……。
……。
12話、それまでの顛末を改めて会話している留姫とレナモン。
進化とは、ただ強くなる為のものではない気がしているレナモン。
留姫は、もうレナモンへ辛辣な声も出さなくなった。自分を《武装》して、如何なる自分への攻撃にも反撃する必要がないと知った――。それが留姫の《進化》。
デジモンが「人間とは違う存在」ではもはやないと知った留姫。彼女の変化には、あるデジモンの存在も大きい。そのデジモンの事を想う留姫――。
新宿のサザンテラス。南口の高架上に渡された大きな橋とコリドー。向こうに見えるのはNTTタワーで、マンハッタンのビルの様なデザインだが、ビルっぽく出来ていても殆どがアンテナ施設らしい。
そしてクルモンが不穏な空を見上げている。なんだか、前にクルモンがいたところに似てきたと言っている。つまり――
うーん……?
いきなりフレームインするインプモン。
転げ落とされたクルモン、なにするんですかーと抗議。
人間に可愛がられるクルモンが、インプモンには目障りらしい。デジモンなら俺をロードしてみろと挑発。
クルモンは、自分が進化しないという事は知っている様だ。
インプモンは進化、強化を目指さないデジモンなど許せない。
なんの足しにもならねぇけど、こいつをロードしてやろうか――
クルモン、怯える。しかし逃げようとすれば逃げられる。今のインプモンなら。
私個人としては、インプモンの台詞には苦労した。元希さんと前川さんシナリオで活写されている《イキった不良》然としたキャラクターは、私はあまり書いた事がない。語尾などを模倣してそれらしくは書いたが、最終的には高橋広樹さんが一年間、一人のキャラクターとして一貫性を保たれたのだと思う。
さていよいよ運命の時となる。
シャッガイ起動しました、と告げたのはオペレータではなく技術員。パワーソースも地下のR&D施設から来ている。
何これ、ネットワークに逆流を起こしている――!
ダークリザモンのデータをチャミングに用いて、リアライズしているデジモンをおびき出して始末をつける――、それが山木が考案し準備を進めてきた《シャッガイ》システムだ。
なんか、凄い……。
都庁舎屋上から光の柱が立っていく。
こんなカードでサクッと進化出来たらなぁ、と想わず漏らすタカト。実のところ、展開を早める意味でもこのカードは効果を持つ事になる。
ギルモン、異状を察知。来る……。
西口デパートの催事として人気のある駅弁大会。
ジャアリンが帰宅してきた。
どっちでもいいと言いながら、やっぱり「峠の釜めし」を選ぶ。
ジェンリャ、父にさっきの事を聞こうとすると、ジャンユーは今は家族の時間だと遮る。
お父さんが若い時に研究していたのって、デジモ――
食事の時にする話ではない、と拒絶する。
カタン ……。何かが窓にぶつかる音。
自室の方からだと悟るジェンリャ。
部屋に入ると――、テリアモンが――
唸りながら窓に繰り返し飛びついている。
一体何が起こっているんだ――
ネットワーク内、異状パケット増大中――
山木は施設内ではなく外に出ている。
あれ、この描き方はPalm Pilotがまるで折りたたみ携帯みたいだな。
なぜ山木は外から都庁を見ようとしているのか――。
来るよ――。とてつもなく強いデジモンが――。
慄然とするタカト――。
これまでも実際に小学生としては、かなり危険な局面に直面してきている。しかしデジタル・フィールドという、一種の封鎖された空間での戦いだった。
これから起こるのは、そうしたイクスキューズがない、まさに命懸けの戦いとなる。タカトにその覚悟は出来ているのか――。
ここで13話は終わる。
バトル場面を冒頭で一挙に見せて、ルーティンと異なるプロットにするというのは、これが最初だった。後に「ウルトラマンマックス」の最終二話で、やはりこの手法を用いたが、当然それが目的なのではなく、通常のカタルシスで終わるエピソードでは表現出来ないナラティヴをする為だった。
#13 Credits
浅沼先生:松谷彼哉
李 鎮宇:金子由之
李の母(麻由美):足立まり
李の姉(ジャアリン):吉倉まり
山木満雄:千葉進歩
鳳 麗花/李 小春:永野 愛
小野寺恵:宮下冨三子
官房長官:西村朋紘
文部科学省次官:水原リン
政務次官:木村雅史
監査委員:佐藤晴男
原画:原田節子 長崎重信 兼高里香 信実節子 中條久美
動画:岸 祐弥 小林美穂子
背景:スタジオロフト 井上徹雄 阿部とし子 劉 基連
デジタル彩色:村本織子 星川麻美 藤橋清美 金井八重子
デジタル合成:三晃プロダクション 広川二三男 則友邦仁 吉野和宏 中山照美
演出助手:門 由利子
製作進行:坂本憲生知