第19話回顧 2
ライター陣には、自由にプロットを書いてとは言っていたものの、展開上「こういうのを入れといてください」という用件が、徐々に多くなってくる。その話数では解明されない様なものも多く、自由の範囲は狭めてしまうのだけれど、ストーリーとしてグッとくるところ、映像としてグッとくるところというのは必ずや生まれる。いやそうではない。各話のライター、演出、作画のスタッフが「途中の一話」ではない、特別な一話にするのだ。
ライターカチカチおじさん、とネットでは書かれた山木。
私は長年Zippoを使っていたのだが、2020年についに加熱式へ移行した。私が愛用する喫茶店ルノアール全店が紙巻きを禁止したからだという。そんな話はさておき、山木のライターのカットはバンク。しかしキャラクター性を表現する良い小道具になったと思う。
シャッガイ・ホールから流れてきたというデータを表示させている。
マシン語……。ブルーカードの解析時に、こうした表現でいいのか実は迷った。ワイルド・バンチが1984年までにデジモンという人工生命を生み出した環境は、縦型モニタから判る人には判る、XeroxのAltoという、世界初のGUIを備えたコンピュータで、
プログラムは当然アセンブリ言語で書かれたのだろうが、マシン語そのものである0と1の羅列の方が、子ども向けのアニメとしては「デジタル」なものとして伝え易いのかもしれない、と異議を申し立てなかった。ジャンユーなら、この数字の羅列でもSHIBUMIのシグネチュア的な何かを見出せる、かも、と。
しかし山木は機械語を素で読んでしまう。いや流れからすれば、これよりくどい描写はもう出来なかった。
画面には映っていないが、何らかのインタープリターが噛んでいるものと諒解されたい。
我らは、デーヴァ……。
椅子を蹴り倒す山木。
麗花、恵も、普通ではない山木のすさみ具合に驚いている。
ふざけやがって! 挑戦状のつもりかよ!――まあいいさ。老人どもが使っていた人工言語しか使えない紛い物のの知性に、今の人間がどれだけ進化しているか、はっきり見せてやる!
勿論山木は傲慢な事を言っている。
そーれ!と缶を蹴る樹莉。
「鬼」になったギルモンがわーいと言いながら缶を追う。本当に楽しんでいる。
カード・バトルは年齢相応な遊びだと考えていたが、運動して遊び、となるとやはり幼めな遊びになってしまうものだ。
四方に散っていく。流れ出す音楽はアドベンチャーのもの。
私は脳内でこういう音楽が似合うのに、と思っていた。
見知らぬ子が……、
誰だっけ?
向こうから、ギルモンが樹莉みーっけと近づいて来る声。
うーわケンタみーーーっけ!(野沢さん……!)
変わった奴だな……。
無言でこちらを――
……。
ギルモン、誰だっけ? と訊く。
すっくと立ち上がり――
身を乗り出すみんな。すると――ものっっそい溜めて――
んマっ!
びっくりして腰を抜かす。
それを見て大笑い
したかと思ったらいきなり逃げてしまう。
謎の少年=まくらくんの初登場シーンはかくも印象的になった。
デーヴァの申(さる)マクラモンは、当然ながら人間に近い姿をしている。人間に近い姿というのは、デジモンの価値観からすると避けようとすると解釈していたのだが、敢えてマクラモンがいる理由を考えると、デジモンが人間を装うのに好都合だという事に思いつく。
しかし、いきなり新キャラとして出すのもどうかと会議で悩んでいたら、貝澤さんが、「ふしぎ魔法ファンファンファーマシィー」の《のんすけ》というキャラクターの事を念頭に、毎回、なんかいる、みたいな見せ方は? と提案された。
のんすけというのは、原作の絵本に出てくるのだが、文章にはない。装画を描かれた荒木愼司さんが、各話の隅っこにいつも顔を覗かせている少年を描かれていて、密かにのんすけという名前までついていた。アニメでもこの《のんすけ》は幾度か登場し、特に演出のローテーションに入られていたベテランの今沢哲男さん(テイマーズではあの33話から参加)が気に入って、よく登場させていた。
マクラモンのままでは流石に子どもに紛れるのに無理があり、中鶴勝祥さんが妖怪じみているけど、デフォルメ・ラインはタカトたちとまず矛盾しないギリギリのラインでキャラクターとして作り出したのが、まくらくんだった。
これもしかし、見返してみると現代都市伝説っぽいシチュエーションだなとも思う。怪奇の要素は間違いなくテイマーズは濃厚だが、ホラーをやろうという意識は全くなかった。しかしやっぱり出来てみると、拭えないホラー感がある。
さて以降はインプモンに戻る。
ヤケになったのかインプモン――
車の天井を凹ませまくり。
うまそうじゃん!
俺に寄越せ、と幼児のソフトクリームを
当然泣かれる。
抗議する父親に――
ご愁傷……。
ヤケのヤンパチ。
阿鼻叫喚となる。
美しい夕暮れ、マジック・タイム。帰って行くヒロカズとケンタ。
ねえタカト君、今日ちょっと元気なくなかった?
何か考え事してたみたい。
えっっ
そそそうかな……。そんな事なかったと思うけど……。
そう……。
違うならいいけど。
じゃあね、また遊ぼうね、ギルモンちゃん。
さよなら! ばいばーい
一度振り返って手を振る樹莉。
嘆息するタカト。デーヴァか……。
これからどんどん強い敵が現れて、ギルモンもどんどん進化していくのかな……。
タカトは、今日みたいに子どもらしく遊べる時はもうそうないのだと悟っているかの様だ。
ふと、足元に気づく。
楽しいこと、もうおわったんでーすか?
クルモン、あのさ、
前から気になっていたんだけど、クルモンて進化の時、必ずいるよね。
くる? そぅです、ねぇ……。
ギルモンたちの進化にクルモン、関係してるのかな。もしかして、クルモンがいないと進化出来ない、なんてさぁ。
しょんぼりするクルモン。判らないのだ。いや、自覚は既にあった筈だ。タオモン進化の時のクルモンを振り返れば。しかしクルモンは無意識に、自分が《重要な意味》を持っているという概念から逃げようという心理が働いている。
クルモンはタカトに背を向けるしかない。
いきなりニューナンブ。
警邏警察官に拳銃を向けられるのは普通ではない。カージャック犯の容疑で包囲されている。
インプモンの狙い通りに注目を集められた。お前らに――
このインプモン様が捕まえられるっていうのかよ!?
俺の強さを――、思い知らせてや
るー!
しかしナイト・オブ・ファイアはPCには当たらず素早く何者かの影が排除――
突風。
黒い影はインプモンの身体を引っつかんで――
消える。
首都高4号線新宿ジャンクション。次回の主要舞台。その重なる橋桁の下――
離せこのタコ!
何故そんなに強さに拘る、とレナモン。
うるせー!そんなに偉そうに訊くんじゃねー!
パートナーがいないと進化出来ないへなちょこのお前らと一緒にされてたまるかよ。(発音的に「かえ」との中間の微妙な不良ニュアンス)
パートナーがいなくてもお前は進化出来るのかと問うレナモン。
レナモンは、前話の留姫との結論をインプモンにも聞かせる。
パートナーという言葉に過剰に反応するインプモン。やっとレナモン、察する。
お前にも――
パートナーがいたのか……?
グーでレナモンを殴るインプモン。
俺だって、進化してーよ! 強くなりてーんだよ!
この拳を地面にぶつける動作が、極めてリアルに描かれ、また効果音もトントンと乾いた音で、インプモンの情感が恐ろしく伝わる。
この場面があるからこそ、Act.3でのバトルでの行動に意味が出てくる。
レナモン、目を向こうへやる。
無言で注視――
デジタル・フィールド。インダラモンが再度出現しようとしている。