第1話回顧 1
テイマーズの脚本は、02のリード・ライターだった吉村元希さんと前川淳さん、まさきひろさんが基本チームで、畏怖すべき大先輩、というよりも個人的にはファンであった浦沢義雄さんもローテーションに入られた。
ただ、シリーズ構成会議はプロデューサー、シリーズ・ディレクターと基本チームで話し合っていた。
私が冒頭3話書いて「こういうトーンで今回いきます」と提示したのだが、そういう狙いではなかったものの、4話までは幕切れがクリフハンガーで次回に続くスタイルになっている。情報を詰め込まず、情感を込めて徐々にキャラクター達の第一印象を見せていく手法は、やはり一年続くシリーズだから可能な、贅沢な話法だった。今これをやるのは、恐らく許されないのかもしれない。
メイン・キャラクター3人が顔を合わせるのは2話以降で、アニメとしてはやはりスローなペース配分。しかしまず1話は、タカトという主人公にフォーカスを当てて、これから描こうとしている「日常に現れる非日常」を視聴者の子どもに体験して貰いたかった。
第1話「ギルモン誕生!僕の考えたデジモン」
脚本:小中千昭 演出(コンテも)貝澤幸男 作画監督:清山滋崇 美術:渡辺佳人
※東映アニメはコンテも担当演出者が担当するのが慣例。
シリーズ3作目なのであって、デジタル・ワールドという概念が視聴者には既に共有されている。アバン・タイトルで、デジタル・ワールドからストーリーが始まるのは、アクション的な引きとして必要だった。
まだこの時点で、テイマーズのデジタル・ワールドをどう描くかについて明確には決まっていなかった。ただ、このシリーズのそれは、リアルなインターネットと殆ど重なるものにしたいとは主張していた。
クルモンが必死にデジタル・グリッドの上で逃げている。後にここは最も現実の根とワークに近いレイヤーとして想定される。
※新規キャプチャはYouTubeのAnilog配信のSD版から。Bru-Rayデジタル・リマスターはもっと鮮明な映像です。
それを、リアル・ワールドの何処か(Hypnos)でワッチしている何者か――
別のデジモンが現れて襲いかかって、データ化してしまう。デジモンがデジタル・ワールドで野性化し、進化しているという状況の提示でもある。
激突の衝撃でクルモンは吹き飛ばされ――
リアル・ワールドへ来てしまう。
ここでサブタイトル。
登校前に、時計台の公園でカード・ゲームに興じる子どもたち。
遅刻しそうになって慌ててカードを缶箱にしまおうとすると、手が滑ってぶちまけてしまう。すると、見慣れぬ“青いカード”が紛れている。
それをカードリーダーに読み込ませると、凄まじい閃光。
ネット監視機関ヒュプノスが都庁舎に設置されている設定にしたのは、やはりこの都庁舎の、些か時代感覚を狂わせる様なゴシック的佇まいを感じていたからだろう。
そして新宿中央公園を挟んだ西新宿が、タカトの住む世界。今は無いが、かつては存在した名前を借りて、淀橋小学校と設定している。
よどばし、と言えば今やヨドバシカメラにしか痕跡がないが、かつて新宿中央公園は淀橋浄水場だった。
遅刻をしたので廊下に立たされているタカト――。いやこれ、今は当然だが、もしかしたら当時でも有り得ない体罰だったのかもしれない。しかし私の小学校時代には、当り前とまでは言わないが、まだやる様な学校もあった。この描写でクレームが来たという話は聞いていない。
タカトは、自分オリジナルのデジモン創案に夢中になっている。
これはもう、はっきり小学校低学年時の私である。
「覇気のない若い教諭」と、シリーズ初期の浅沼先生は描写している。まずは「子どもの世界」を確立したかったからだが、この浅沼先生のキャラクターも、次第に変化をしていく。
居残り反省文も、小学校では今や有り得ないのかもしれない。
そして――「ワン!」
なんで教室に戻ってきたのか、聞かれる前に、先に答えてしまう樹莉。
この、ソックパペットを持っているというキャラクター性は、中鶴さんが自由にスケッチした樹莉の絵の中にあったものをシナリオで引き取っている。
一話で樹莉は、顔をはっきり見せない演出を貝澤さんは徹底していた。
「加藤さん」とさんづけをする余所余所しい関係性が、どう変わっていくのか――、いや、2003年でもまだ「加藤さん」だった(2018年のCDドラマの話)。
テイマーズは、私自身は放映年時2001年~2002年の出来事を描いていたが、関プロデューサーの判断で200X年と公式には設定された。海外でタイムラグが生じて観られる場合には、その方が良かった。
ヒュプノスの女性オペレーター1。まだキャラクター性を与えるかどうかも決めていない。髪が長い女性は永野愛さんが、李小春と兼任で演じられた。
ヒュプノスでは、ネットワーク内で自律的に活動する異分子を“ワイルドワン”と呼称している。野性化した疑似意識体、といったニュアンス。生存闘争を繰り広げているらしき事までは把握している様だ。
ヒュプノス室長山木満雄――。今回は顔を見せない。
山木、という苗字は、日本のスタジオ・ミュージシャンから名前をもじってネーミングをしていた当時の私の慣例による。今尚もスーパー・ドラマーの山木秀夫氏が元となった。ジッポー・ライターの蓋をカチカチする癖は、より悪役感を演出する意図だったが、勿論ただの悪役で終わらせるつもりもなかった。
公園にデジヴァイスを取りに行くタカト。空が渦を巻いている。この頃の貝澤さんは背景を大胆なエフェクトで捻ったり、遠近感を誇張したり、モーション・ブラーもつけている。
映画が今後、4K 60fpsが標準となるのなら、こうした描写もレトロなものになるのだろうか。
カード・スキャナーが不思議な形のデジヴァイスに変貌する。この玩具の形状は、ベルト・クリップもついており、妙に実用的。だから些か困った。シリーズ終盤にかけて、タカト達をデジタル・ワールドから救う“箱舟”を、デジモンを創造したチーム“ワイルドバンチ”が作り出す。商品名D-Arkからこうしたストーリーを組み上げた。
このアークが更に、グラニという存在へと発展するのだが、一話を作っている時点では微塵も想像していなかった。
けやき橋商店街、と劇中では呼んでないと記憶しているが、私がシナハンで見つけたのが今は無くなっている商店街。欅橋は甲州街道近くにあった模様。
私が日常風景に商店街を描く事に執着したのは、貝澤さんと以前一年間組んだ、伊藤郁子さんキャラクター・デザインによる「ふしぎ魔法ファンファンファーマシィー」で、“にこにこ銀座”を舞台にしていた経緯もあったと思う。
パン店顧客の女性は、今回はジェンの台詞がない山口眞弓さん。
タカトの家庭は丁寧に描こうとしていた。タカトの父は金光宣明さん、タカトの母は浅沼先生兼で松谷彼哉さんが演じられた。
D-Arkがタカトのオリジナル・デジモン仕様メモを読み取ると――
デジタマが表示される。
何かすごい事が起こりそうだとワクワクするタカト――。
と、一旦ここまでにしよう。まだ1話を3部構成とすればAct 1が終わったところ……。