第33話回顧 1
テイマーズは、当初のテイマーとパートナーを三人に絞り、徐々にテイマーを増やしていくプランで作っていたが、ではどこまでテイマーが劇中で増えるのかについては、明確には決めていなかった。タカトが淡い憧憬を寄せている(恋愛などという段階にはほど遠い)樹莉、遊び友だちのヒロカズとケンタ、くらいかなぁとは内心思っていた。リョウの話は早くから出ていたし。
前作の「デジモンアドベンチャー02」のラストで、未来の子どもたちは皆、それぞれにパートナー・デジモンがいる様な壮大なヴィジョンが提示され、感銘を受けた(テイマーズの企画立ち上げ時には知らなかった)。
後年、「ライラの冒険 黄金の羅針盤」(2007)という、ポスト・ハリー・ポッターのファンタシー映画が公開され、そのテレビ版「ダーク・マテリアルズ」が近年配信されているが、1995年にイギリスで出版された原作は、現実とパラレルの世界で、子どもたちはダイモンという喋る動物の精霊をパートナーにしているという設定だった。
アドベンチャーのパートナーと、ダイモンとは色々と違う点があるが、パートナー自身の精神性と密接に関わりがある、外部化した自分、という側面性が近しいと思う。
テイマーズは、携帯液晶ゲームから発生したデジモンという仮想の存在に、どこまで思い入れによる実在化を描けるか、に私はフォーカスした。だからパートナーとは乖離も起こるし、相克もある。シリーズ初期、タカト以外のテイマーはそれぞれな関わり方をデジモンとしていた。
デジモンが現実世界に現れるのは、本来起こってはならない事だった、というのがストーリーの後半では大きな意味を持つことになる。だから、テイマーはシリーズ中ではあまり多く出せないだろうと内心考えていた。
ところが放送が始まって、オープニングを見た私は喫驚した。非常に多くの子どもたちがテイマーになるかの様に描写されていたからだ。
何より私が驚いたのが、小春までもがD-Arkを掲げていた事だ。
オープニングは23話までとそれ以降で色々と細かく変わっているが、初期はこうだった。
色が落とされているが、樹莉、ヒロカズ、シウチョンまでは確認出来る。
私がこの事を貝澤さんに問うと、「いや、シリーズが終わった後の場面かもしれないし」という答えだった。しかし――、私はそういうシリーズの「その後」は全く考えてはいなかったのだ(最終回がどうなるかは当然、漠然とした形ではあるが想定してあった)。
だが、私が企画時から強調していた事の一つに、デジモンテイマーは、なりたいと強く願った子どもがなれる。選ばれた子どもなのではない――というコンセプトが、貝澤さんにこうしたイマジネーションを生んだ要因なのかもしれないと納得した。
ともあれ実際のストーリーの中で、シウチョンはテイマーになるまでを描く必要があるのだと、この時に決めた。
後半のオープニングではっきり色がついた。タカトの後方にいた少年はケンタに描き替えられている。
しかしシウチョンをどうやってテイマーにすればいいのか……。シウチョンはテリアモンが大好きなのに……。待てよ、テリアモンには双子の様なデジモンがいたではないか。テリアモンが生まれたのは02の映画「デジモンハリケーン」。
この脚本を書かれた吉田玲子さんは、無印ではローテーションに入られていた。その後、映画版の担当に移行してシリーズからは離れていた。テイマーズのデジタル・ワールド編で、一本吉田さんに書いて貰いたい、とは関プロデューサーは早くから表明していた。と言うことで長い前書きになってしまったが、33話はこうして誕生した。
クルモン主役の5話以来、可愛いキャラクターを描くと印象的だった伊藤智子さんが作画監督。演出はベテランの今沢哲男さんが今回からローテーションに入られる。今沢さんは「ふしぎ魔法ファンファンファーマシィー」で一年間一緒に作って戴いた演出家の一人だった。美術は渡辺佳人さん。
テリアモンはどこ! 小春(シウチョン)デジタルワールドへ
脚本:吉田玲子 演出:今沢哲男 作画監督:伊藤智子 美術:渡辺佳人
前話からの続きで、アーク(船)がまだウォーター・スペースを進んでいる。
有機的な宇宙表現。宇宙空間というよりも水中的だ。
この船、勝手に進んでる、というタカト。
少しずつ、浮上している様な気がするんだけど、とジェン。
どこへ向かってるんだろう……。
水野っていう人が、この上は『四聖獣の領域』って言ってたけど……。そこかなぁ?
とタカト。
わー、すごいや。
ジェンがテリアモンの耳を弄びながら、とにかく行くしかないと言う。
テリアモン、ジェンから逃れ、
もー、失敬だなー。シウチョンみたいな事しないで!
あは、ごめん。
ぴきっ
シウチョン、どうしてるかなぁ……?
アークは再び別のルートに入って方向を変えた。
高層マンションの窓――
ぼうっと窓外を見ているシウチョン。
いきなり腕を上げ、ひょこひょこと動かして――
ばた、っと突っ伏す。
徐々にずり落ちて――
ここで安定。
掃除機をかけている――
麻由美、シウチョン、何やってるの?と声をかける。
テリアモンの真似、と答えるシウチョン。
そんな事してないで起きなさい。
起こしてー。
自分で起きなさい。
だって私今、テリアモンだもん。お母さん起こして。
お母さん今忙しいの。 お外にでも遊びに行ってきたら?
電話が呼んでいる。
あ、はいはい、と行ってしまう母。
だっていないんだもん。テリアモンもお兄ちゃんも……。
トイレから出てきたジャンユー、シウチョンの奇態に目を留め――
シウチョン、どうしたー?
テリアモン。
ん?
今ね、私テリアモン。
ふ、と息を漏らしてそのまま去ろうとすると――
お父さん今新聞トイレの中で読んでたでしょ。
バサッと新聞を落とす。
お母さんに怒られちゃうよ?
あそーんで?
新宿中央公園の上を飛行船が浮遊している。
放送日は11月18日。落ち葉が水面を漂う。
ロングのシウチョンのアニメーションは本当に楽しい。
ジャンユーの背後から――
山木――。
くじらの遊具の上で遊ぶ。
すいません、お休みの日に――。山木が呼びだした様だ。
歓声を上げて遊ぶシウチョン。
そのバックでシリアスな会話。
どうしても伺いたい事があったもんですから――。
都庁舎に陽光が反射している。
SHIBUMIはワイルド・バンチの中でも、異端の存在だった様ですね。
私たちはこれまでにない、自らを進化させる人工知性を作ろうとしていた……。
みんな若く野心に満ちていた……。だが何も神の領域を侵そうとしていた訳じゃない。
しかし、彼だけは違う考えを持っていた……。
これはムクドリかな?
鳥が飛んでいくのを見送るシウチョン。
ジャンユーの回想は続く。
真の生命体と人工的な生命体――
どこに違いがあるんだと……。
お父さん、あっちで遊んでるね。
あ、ああ、気をつけてな。 はーい!
彼にとっては同じ命だった……。
そうなんでしょうか、と山木は疑問を呈する。
黙考……。
彼が正しかったのかもしれない。そうでないのかもしれない。
飛行船。
わあ!
息子が持っていたカードには、SHIBUMIが持ち込んだコードが書き込まれていた……。
恐らく彼は……、
滑り台を上っていくシウチョン。その上空から《ゾーン》が降りてきている。
李さんあれは!
シウチョン!
インプモンがデジタル・ワールドに墜ちていく場面、テイマーたちが狭い穴を抜けて最初に遭遇したデジタル・ワールドの表現が使われている。
怪訝そうなシウチョン。
うん?
あ、
上空を通過していくアーク。
ここはリアル・ワールドとデジタル・ワールドが重なっているのだ。
あっ!
テリアモンが見える。
懐かしくて泣きそうなシウチョン。
しかしテリアモンは気づかない。
そのまま飛び去って行くアーク。
テリア、
モーーーン!
去って行くアーク。
シウチョン!と駆け上がろうとするジャンユー。
しかしそこは滑り台。足を滑らせて背後から来ていた山木と共に転落。
シウチョンは今、デジタル・ワールドに行きたいと強く希求している。そして――、デジタル・ワールドの《ある存在》もまた、シウチョンを今、求めている。
ああ!
シウチョン、デジタル・ワールドへ――
飛行船が去ると共に《ゾーン》も――
消失してしまう。
自分を責めるジャンユー。
私のせいなのか!? 私があんな研究をしていたから……!
見たでしょう。まるでデジタル・ワールドに誘い込まれた様だった。
何か行かねばならない理由があるんです、と山木が肩に手を置くが、ジャンユーはそれを振り払う。
あの子はまだ!
幼いからこそ、必要とされているんでしょう――。