Digimon Tamers 2021 Blog

デジモンテイマーズ放映20周年記念ブログ

有澤孝紀さんの音楽 3 テイマーズ/フロンティア

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テイマーズとフロンティアの劇伴についてはまとめておこう。


有澤孝紀さんの音楽は3作目テイマーズで趣きを少し変える。題材からデジタル感のあるサウンドが目立つ楽曲が増え、シークェンサー(打ち込み自動演奏ソフト)が多用され、楽曲によっては全打ち込みのトラックもあるが、バンド感のあるサウンドであり、実際のセッションも、これまではオケ+バンドだったのがバンド+ホーン+ストリングスという音像になってきている。今聴いてもとてもリッチな分厚いサウンドで、ワイドレンジだ。

「歌と音楽集Ver.1, 2」は、ほぼトラックが重複している。完パケのオケからメロディを抜いたりしたリミックスが必ず作られており、Ver.2はそれが主に収録されている。例外はアバン2、サブタイトル2、留姫のテーマ2のみ(挿入歌TVサイズを除く)。

過去作と同じくメイン3人+パートナー3体+ジュリ+クルモン、インプモンのテーマがそれぞれ作られているのだが、インプモンは登場場面にハマっていたが、他のキャラクターのテーマは活用されなかった事は前に記した。
テリアモンのテーマは、ほんわか可愛い曲調で、テイマーズにそういう場面が全話の中には無かった気がする。
レナモンのテーマは尺八と三味線を使ったロック曲で、これはレナモンのアクションにはよく使われた。
ギルモン、タカト辺りのテーマが殆ど使われなかったケース。リーのテーマは数回、ジェンの登場場面で使用された。
ジュリのテーマの件は「レオモン様」のエントリに書いているのだが、この曲は60年代イージーリスニングとしては実に好みなオケで、フリューゲル・ホルン(かTp)がメロを奏でるが本編ではオケのみ版が使われていた。

キャラのテーマが些かフィットしない結果となったのは、テイマーズの人物紹介がスローではあるが明確に変化していく作劇だったからかと思う。「このキャラはこういう性格でシリーズを一貫させる」という作劇を、私は避ける。

しかし、それ以外の楽曲は寧ろテイマーズの作品世界を完全に支える縦筋の骨として、我々スタッフも視聴者にも印象づけられる事になった。
ヒュプノスのテーマとか、デジタル・ゾーン、などのテーマは、近似サイバーアニメでもあるテイマーズとしては使い所が多かった。
テイマーズからシリーズそのもののテーマ曲というものが作られる。「デジモンテイマーズのテーマ」は、多くの話数で用いられたカタルシス曲で、近々見返した例で言えばメガログラウモンへ初進化する都庁決戦のタカトのヒーロー・シフト場面。
徐々に高まっていく期待感、そして清々しい昂揚感のあるフルオーケストラ曲で、途中様々な曲調に変奏される。「セーラームーン」時から、有澤さんは組曲として録音しておき、選曲家に好きに編集させるという意図があった様だ。

ギルモンが初登場する場面などで用いられた「出現」はバレエ音楽の様な、かなりオーソドックスなオーケストレーションの楽曲だが、これは例外的なもので、基本的にはバンドサウンド。逆に印象的なのが「デジタル・アフリカン」と題された曲。サイバー的な音像なのだ雄叫びの様なサンプリングが繰り返される。
貝澤さんがテイマーズの企画初期、私の構成案でデジモンの在り様を「野性の」と記した事に強く反応され、デジタルの野性という無理筋なオーダーを有澤さんにしたのか、と訊ねたのだが、貝澤さんは覚えていなかったという……。

ジャズ面では、アバン2がヴァイブラフォンの音を導入したビバップっぽい響きでかなりアダルト。フレットレスベースの音色がリードをとる曲もある(恐らくシンセだが)。一方でリーのテーマなどではグルーヴィーな生のベースが堪能出来る。

生音源ファイルは1セッション毎に、完パケ以外に2ヴァージョンずつリミックス版が作られている。CD2枚にはどちかが収録されており、ほぼ2枚で全曲だと言えよう。ファイルに含まれていなかったのは進化曲のインスト・ヴァージョン(「ジャスコのBGM」と揶揄される)のみ。各話のエントリでも書いたが、単にリードをヴォーカルから楽器にしただけではなく、ミックスの段階で低音のEQを削られていると思う。歌が入った、印象づけたいヴァージョンと差別化を図られていたと思う(もしくは、各話のダビング時に調整をされていた。そうだとしたら繊細な事を毎週やられていたという事に鳴る)。

サイバーな表現が多いテイマーズだが、決して無機的ではなく、むしろ人間の演奏を重視した有機的なサウンドである事は言うまでもなく、音楽的に本当に楽しめるものだ。だから2017年夏、私はエンドレスで聴けたのだった。


 

 

 

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私は全く関与していない「デジモンフロンティア」の音楽にも、初期四部作を語る上で触れておかない訳にはいかない。
デジモンフロンティア」はサントラは1枚のみなのだが、事実上テイマーズも同じなので、基本は過去作への積み上げ分と解釈出来る。フロンティアのテーマを改めて聴くと、西部劇的な展開をしていて、なるほどなぁと思った。

私が関わったシリーズの後枠が「フロンティア」をスローガンに掲げるのはこれが2回目であった。ティガの後番組「ウルトラマンダイナ」(1997)は「ネオ・フロンティア」というキャッチ・フレーズでスタートしていたのだから。ティガにはそうしたものはなく、ガイアも「ヴァージョンアップ・ファイト」とスローガンではない。

フロンティアは勢いのある8ビート・ロックが主体で、キャラクターのテーマの陽の部分はほぼこれだが、西部劇的なモチーフは幾つか見出せる。どちらかと言えばマカロニ・ウェスタン系の哀愁あるユーロ・エスニックだが。

有澤さんは余程ジャコ・パストリアスが好きだったのか、遂にモロ「Donna Lee」な「ロコモンのテーマ」を書く(何故か「暴走」ではなくこちらに収録)。フレットレスベース+コンガだけのデュエット改ジャコは後のベーシストの殆どに影響を与え、今も尚、ジャコ以上のカリスマ性を持つベーシストは登場していない。しかし大抵はそのテクニックと独自のサウンドを古めかしいフェンダー・ベースのフレットレス(元はフレットがあったネックからフレットを抜いて、エポキシ樹脂でコーティングした)のベース・サウンド(殆どリア・ピックアップのみでリア・ピック近くのテンションが高い位置で高速演奏をする事で得られるサウンド)についてが語られる。それは確かに革命的であったが、有澤さんが注目していたのはコンポーザー、サウンド・デザイナーとしてのジャコだったに違いない。
テイマーズのフレットレス曲は、演奏自体はジャコの影響下とは感じさせない演奏。
ロール・モデルはチャーリー・パーカービバップなソロをベースで完コピしたジャコの一発芸的な曲。私は頭だけしか弾けない。

 

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もう一曲面白かったのが、バーナード・ハーマンというよりモロに「サイコ」の主題曲を思わせるストリングスから入る曲。スリリングな雰囲気から大規模なバトルになりそうなところまでオケは盛り上がる。原曲はストリングスだけで終始していた。

挿入歌「With The Will」の変態な曲構成は有澤さんも面白かったのか、単なる歌のインスト版という域を越え、自身の「テーマ」も混ぜてのアレンジをした楽曲を作っている。ちょっとマイケル・ケイメンオーケストレーションしたメタリカを彷彿させるものがあった。

 

さて……、テイマーズの音楽については2017年秋に収録された、Blu-rayボックスの特典CDドラマで、シナリオを書いている内に、「ここはこの局でないと!」と指定せざるを得ない描写が頻出する。仕方なく、このCDドラマは私自身が選曲し、ドラマにはまる様にエディットまでしたので、今尚冷静には聴けないのだが、実は2021年夏に、私はよく知らなかったのだけれど、東映アニメの若手スタッフによるイヴェント「デジフェス」という、一種のファン感謝祭イヴェントが開催され、今年はテイマーズ放送20周年というのが主題の一つとなり、3年ぶりに私はこれから決定稿が承認された後にBGMや効果音の指定箇所を書き出す仕事が待ち構えているので、テイマーズの音楽については2021年5月現在の私にとて、これからまた本気で聴き返して2018年CDドラマがそうであった様に「選曲」という作業に入るので、現時点ではこれ以上書けない。