第47話回顧 1
いよいよデ・リーパーが占拠するエリアが拡大していく。
これまでは西新宿という極めて限定的な場所で、子どもとデジモンが戦っていた。
「ぼくたちの町はぼくたちで守るんだ!」という台詞は、デーヴァ編、そしてデ・リーパー編で一回ずつタカトが言っている。
デジタル・ワールドで激烈な戦いをメギドラモンとベルゼブモンがしている間に、大きな地殻変動、デジタル・ハザードが発生した。必死に子どもたちを救おうとしていた山木とジャンユーは、子どもたちがデジタル・ワールドとリアル・ワールド、どちらも救おうとしているのかもしれない、と述べた。確かにそれは事実なのだが、子どもたちにそんな重荷を背負わせてまで、戦わせたくはなかった。
タカトは、そしてジェン、留姫――、ギルモンたちは「友だち」を救い出したい。このシリーズの最終回に向かう主人公たちのモチベーションは、シンプルにそれに絞りたかった。世界を救うのは、その結果もたらされたもので良い。
当然、強固な障壁が樹莉を囲い込んでいるのだが、何よりもタカトたちを退けていたのは樹莉の心的トラウマに他ならない。レオモンというパートナーを失った悲しみだけで、そうした状態にまでならない。
今は継母と暮らしている――という設定から、樹莉の過去が推し量れる。泥臭いまでの親子の情と、近似デジモンをデジタル・ワールド内で構築してリアライズさせる、アニメとしてはハードめなSFを盛り込むプロットを、まさきさんが最後の担当話で作った。
ベルゼブモン周りのエピソードを演出されてきた芝田さんは、最大の見せ場であるエピソードではなく、その前の今話を最後の担当話にされた。作画監督、伊藤智子さんの班も今話がテイマーズではラスト。美術は渡辺佳人さんが今話より3話連続で担当される。
デュークモンを救え! グラニ緊急発進
脚本:まさきひろ 演出:芝田浩樹 作画監督:伊藤智子 美術:渡辺佳人
ベルゼブモンの拳で不可視状態でなくなった、デ・リーパーのカーネル。その中で――
く~……。
じゅーり、じゅーり?
ここまでは前話リプライズ。
くる……。
カーネルの内部で身体を拘束され動かないベルゼブモンの影。
ベルゼブモン! 起きてクル!
少し身体が動く樹莉。
じゅり!
ベル――ゼブ――
モン……。
これが、私の運命だったらしい――。
レオモンの最後の言葉。
やだああああああああっ!!
樹莉が感情を爆発させたのはこれが最後だった――。
うん めい――。完全な黒味の中で、樹莉が「運命」というワードを声にする。
漆黒の闇の中で湧き上がる赤い泡。これまでのデ・リーパーの表現とは異なる。
増大する「赤いもの」
幼い頃の樹莉。シウチョンよりも年下。
傍らに、父の肇。
そして病院の寝台には――
亡くなった母に、おかあさん、と呼び掛ける樹莉。
――こういう、運命だったんだ……。
意味が判らない樹莉。
増大する「赤いもの」。
このインサートは、「不安の象徴」だろう。音響効果と共に、このインサートは70年代の前衛的な演出(NHKの和田勉とか佐々木昭一郎とか)の感覚を思い出す。
!?
その通り。
運命です。と医師。
受け容れなさい、と看護婦(当時はこう表記した)。
はい、と頷く肇。
いたたまれずその場から駆け出す樹莉。
冷徹に目で追う肇と医師。
必死に廊下を走るが――
逃げても無駄だよ。と医師。
諦めなさい、と看護婦。
運命からは逃れられない、と点滴をされている患者。
足を止める。
廊下の向こうに立っているのは――
10歳くらいの女の子――
手には犬のソックパペット。これは現時制の樹莉――
ではない。
運命なんだワーーン。
後退るが――
!?
運命。運命。運命。運命――
増殖した看護婦と患者が歪んでいく。
樹莉の「不安」が、デ・リーパー・ゾーンと重なっていく。
ある意味で、極めて判り易い絵解きではある。しかしこの樹莉の悪夢は、当然ながら本当の出来事の記憶では有り得ない。3歳程度の子どもの記憶なのだ。死とはどういう事なのかすらも、まだはっきりとは判っていない時分の出来事と、その後に思い出す内に、悪夢の中で見た記憶とが合成されている。
デ・リーパーは、この混乱した樹莉の記憶を、実際の記録だと認識したかもしれない。前話で「人間は不合理であり、存在する価値が無い」と断言した背景かもしれない。
この樹莉の幼少期の悪夢場面と、ADR-07 Paratice Headsが「Destiny, Destiny, Destiny...」とJeri(樹莉)の声を再生する場面を編集した動画を海外のファンが作って、「デジモンテイマーズは子ども用アニメではない」というタイトルでYouTubeに上げていた。ちょっと正確なタイトルは覚えていないのでリンクは張れないが。いずれにせよ版権物のアップロードなので本ブログの趣旨的にも張れない。
Excuse me, と言いたかったが我慢した。いや、その動画を作った人も、非難の意味ではなく、子ども向けアニメとしてはエクストリームな表現をしている、という主張をしたかったのだろうとは思う。
しかし、大人が本気で子どもに伝えようとしたら、怖さ恐ろしさも本気で描くのだ。子ども向けだから表現を和らげるべき、というのは、犯罪とか残酷な場面に関してはそうだろうけれど。
大人になっても忘れられない程のショックを受けて貰う。それがテイマーズを体験するという事で、私たちはそう作っていた。だからデジモンテイマーズはあくまでも、子ども向けアニメなのである。
まさきさんがこの誇張した樹莉のトラウマを冒頭に持って来たのは、リアル・ワールドに帰還しても迎えに来なかった肇が、なぜそうだったのか? を掘り込んで中盤の意外な展開を描く為だった。
結果としてだが、この47話の冒頭部は、演出も作画もキレッキレのウルトラ抑圧場面に仕上がった。だが、案外とファンには、この場面がテイマーズの最大トラウマ場面とは認識されいていない様で意外だった。
>>しかし、大人が本気で子どもに伝えようとしたら、怖さ恐ろしさも本気で描くのだ。
— まさきひろ(廣真希/広真紀/Masaki Hiro) (@qeIQKOVicj9PIS9) 2021年7月4日
長崎の小学生は原爆読本という凄い本読まされました(^^;;
教育には悲嘆教育/カウンセリングという身近な人を失った悲しみから子供たちを救うプログラムがあります。樹莉ちゃんの進路選択はそれもあるのかな、と?
第46話回顧 3
今話で最終話への道筋がつく。そこまでの舞台設定、状況設定をクリアしなければならない中で、脚本家がどう物語を語るか――。
ゾーン内で唯一残されていた木々が、倒れていく。
無に帰せられていく。
必死に逃げるギルモンとタカト。
追ってくるADR。
嗤いながら襲いかかっていく。
うわ~~~~~~っ!
木々を粉砕していくADR。
木々が消失していくのが遠くからも見える。
あそこだ!
サクヤモンとセントガルゴモンが急ぐ。
ADR-02 が通過。どうもこれらはサクヤモンの金剛界曼荼羅を破る機能があったらしい。
苦しむサクヤモン。
大丈夫?サクヤモン、とセントガルゴモンが訊く。
必死に走る二人――
転んでしまう!
もう駄目かという時――!
マリンエンジェモン推参。
オーシャンラブを吹く。
BGM「捜査」の軽快な音楽に。
たじろぐADR。
ぷ~
完全にデ・リーパーには苦手なものらしい。
ぱ~!
弾けるオーシャンラブ。
逃走していくADR。
マリンエンジェモンが追っ払ったの?
タカトー! とケンタの声。
普通に歩いてくるケンタ。どうしたの? そんなとこ座りこんじゃって。
ケンタ!
良かった。会えなかったらどうしようかと思ったよ。
ぷ~。
デ・リーパーの泡がコンクリートの亀裂から浮上。
マリンエンジェモン、また出たよ。
ぱぁ~。
ここまでそうやって歩いてきたの?
そうだけど?
すごーい。ギルモンも称賛。
ぱ~。
疲弊して着地したサクヤモンに近づく。
ぷ~ぷ~ぴ~ぷ~
オーシャンラブがサクヤモンを救う。
楽になったわ。
ぴぷ~。
マリンエンジェモンがケンタのパートナーに選ばれたのは、このオーシャンラブが最終決戦では大きな要素となり得ると考えたからだった。ただ、このサイズなのに究極体という最強さは何らかのハンデが必要と考えて、ぱぴぷぺぽしか喋れない、というコミュニケーションの困難さをケンタには抱えて貰った。しかし、これが全然ハンデではなくなっていくのだが。ただ岩村愛さんには申し訳なかったと今も思う。
みんな、無事で良かったわ、とサクヤモン。
留姫の声で、ケンタ、なんであんたがいんの?
俺もテイマーだからさ!
話はあとあと。早くここから出なくちゃ。
ジャイアント・ミサイル!
ゾーンを打ち破るや――
サクヤモンと、子どもたち、ギルモンを手に乗せたセントガルゴモンが脱出。
こっちはまだ続いているバトル。ADR-06のパンチ!
ジャスティモンが崩れてガードロモンにのしかかる。それがヒロカズにも――。
ジャスティス・
キーック! これはサイバードラモン声。
ちっくしょう、やられてばっかじゃん!
ばかじゃん。
だぁ~ヤバい、あれを投げつける気だ!
ディストラクション・グレネード!!!
やったぁ!
すまない! 助かった! とリョウの声。
助かったって! 効いたぜガードロモン!
バッチリ効いた!
頑張った甲斐があったってもんだぜ!
もんだぜ!
ジャスティモンの背部の三角形の構造は、腕に差し替えるパーツの収納として設定されていた。アニメではベルゼブモンのブラスター同様、光で実装されるという表現にせざるを得なかった。
アクセル・アーム!
すっげー! これで勝ちだな!
だな!
粉塵を背に歩いてくるヒーロー。しかし――
どあああああっ!?
ADR、巨大化して逆襲。
こっちだぜ! リョウの声。
奇しくも、29話でマジラモンを倒す為に、デヴァイス・カードで巨大化したサイバードラモンが逆の立場となっている。
そこにサクヤモン、飯綱を放つ。
ADRを貫く四匹の管狐。
サクヤモンだ!
セントガルゴモンもだ!
どががががががががががが
流石にこれで終わりかと思われた。
ようヒロカズ! とケンタ。
なんだケンタも来たのか。
ぷーぴぷぷ。
更に上半身だけを巨大化させるADR。「へその緒」が太くなって、更にデ・リーパーが膨らませているのだ。
そうか! あのコードでエネルギーを!
腕のトリニティアームをクリティカル・アームという熱カッターに変換。
コードを断ち切ろうと迫るが――
そのコードがうねって――
ADRに捕まり、喰われそうになるが――、その動きが止められる。
アンティラモンが高架でコードを手繰っている。
ぐいっ、ぐいっと引っ張る。
クリティカル・アーム!
千切れるケーブル。
一箇所裂断すると、全てが崩壊。
蒸発。
身を起こすアンティラモン。
手助けに来たが、遅かっただろうか。
いや~、助かったよ。ありがとう、アンティラモン!
小首を傾げるが、どういたしまして。
アンティラモンはジャスティモンを見るのはこれが初めて。
留姫の家に戻ってくるテイマーズ。斜めにパンダウン。
ヒロカズが興奮してケンタに状況を話している。
でさぁ――
リョウさんに「すまない」って言われちゃったんだよな~俺様超カッコいい――
オーバーなんだよなぁ。
しょうがないですよ、ヒロカズにとってリョウさんはヒーローなんですから、とジェン。
ジェン兄ちゃーん!
ジェン兄ちゃんあのねあのね!
シウチョン!
クルモンとベルゼブモンがまん丸の中に消えちゃったの!
シウチョン、どうしてここに来たの?
だってクルモンが――
お母さんが心配しているよ? とテリアモンも。
だぁって――
ぼくの行いの故なり。とロップモン。
ぼく、仲間と共に戦う事を望んだ。故に……。
君はもう一人前のテイマーだね、とリョウ。これをあげる。
なに?それ。
デヴァイス・カード。
デヴァイス、って紋章っていう意味もあるんだ。
かっこい~!
ロップモン、これでカードすらっちゅ出来るね!
ぼくも嬉しいなり……。
タカト、どこ~~~???と大声で探しているギルモン。
そう言えば私たち、ちゃんと御礼言ってなかった――と留姫。
え? とレナモン。
アリス――というドーベルモンの声。
デジタル・グライドの欠片――、いや、それは――
アリスの幻影だったのかもしれない。
あのアリスって子に……。
庭の築山の上からゾーンを見つめているタカト――。
あれ、このジャケットは中野坂上で脱ぎ捨てた筈……。
タカト、大丈夫? タカトが落ち込んでると――
他の人まで滅入っちゃう。
(樹莉を)心配してるのはみんな同んなじだよ?
どうしてるんだろう……。
ぼく、加藤さんを助けたい……。
うん、と返事をするギルモン。
そして樹莉は――
く~……、く~……。
じゅーり、
くりゅ……・
憂える樹莉の顔が都庁に重なる。
下手側にパンをしながらフェードアウト、で46話は終わる。
ADR-06 Horn Striker
ADR-01 B Juri-Type
最終話近いと、各話でこなさなければいけないポイントが多くなり、作話の自由度はやはり下がる。アクションも多くなる。しかしそうした制約の中で、ライター陣は点と点を繋ぐだけでなく、エモーショナルなドラマを書いた。
今話は、とにかくクルモンの健気さとベルゼブモンの侠気、樹莉の今ある状態の描写、最後に合流するケンタの良い感じの気の抜き方――、あ、アンティラモンとシウチョンのやりとりも楽しかった。そして、私はアリスに関しては45話で結着をつけた気でいたのだが、留姫にリマインドさせるというフォローも元希さんにはしてもらった。タカトにはその余裕が今はないが、留姫にはそうした思いを抱いて欲しかった。
お疲れ様でした!
ありがとうございました。
今沢さんとは後年、「怪~AYAKASHI/四谷怪談」でもお世話になった。(最終話は芝田さんが演出だった)
「ふしぎ魔法ファンファンファーマシィー」と三作、東映作品でお世話になった。
#46 Credits
ギルモン:野沢雅子
松田啓人:津村まこと
テリアモン~セントガルゴモン:多田 葵
李 健良~セントガルゴモン:山口眞弓
レナモン~サクヤモン:今井由香
牧野留姫~サクヤモン:折笠冨美子
ガードロモン:梁田清之
塩田博和:玉木有紀子
マリンエンジェモン:岩村 愛
北川健太:青山桐子
ロップモン~アンティラモン:多田 葵
李 小春:永野 愛
サイバードラモン~ジャスティモン:世田壱恵
秋山 遼~ジャスティモン:金丸淳一
クルモン:金田朋子
インプモン~ベルゼブモン/ドーベルモン:高橋広樹
小野寺恵:宮下冨三子
李 鎮宇:金子由之
水野悟郎(SHIBUMI):諏訪太朗
デ・リーパー(樹莉):浅田葉子
ナレーション:野沢雅子
原画:清山滋崇 内藤眞由美 羽坂英則 吉田直実 深本泰永
動画:富田美穂子 山口幸俊
背景:徳重 賢
デジタル彩色:足立和也 田中唯巳郎 加藤英恵 藤原辰雄
デジタル合成:三晃プロダクション
広川二三男 則友邦仁 山口博陸 清水正道 緒方美佐子
演出助手:まつもとただお
製作進行:坂本憲知生
第46話回顧 2
46話のタイトル・ロールはジャスティモンだが、活躍は冒頭と終盤。中盤に活躍するのはクルモンと、それを守るベルゼブモンだ。更にはアンティラモンの存在感。33話で縦横自在にアンティラモンを演出された今沢さんが、今話も担当されたのは本当に幸甚だった。
だが、一番見直して心を動かされるのはクルモンだ。初期は楽しい事ばかりを追いかけていたクルモンだったが、レナモンとの相克に悩んでいた留姫につきまとって、徐々に変わっていった。シャイニング・エヴォリューションは一世一代の大技であったが、それを放って以降のクルモンの存在理由――。それは今ならこう言える。クルモンは「心のデジモン」だったと。
おっとり刀で駆けつけた、と書くと翻訳が難しくなるのか。
遅れて駆けつけたアンティラモンだったが――。
ここは新宿大ガード。11話でムシャモンが現れたところの西側。
アンティラモン、聞こえる? とシウチョンの声。
D-Arkで通話しているシウチョン。
よく探して。誰かいない?
ぐるっと見回す――
アンティラモンの目。
新宿駅西口の向こう側がゾーンらしいのだが――
う~ん、よく見えないよ。こっち! とシウチョン。
こっちとは?
瞬きをするアンティラモン。
お目々パチパチしちゃダメ。って酷い……。
D-Arkの表示するヴァーチャル・モニタは半透過なので、映像が暗いとD-Arkが見えてしまう。
これは半開き状態。
こっちだったら! と指さししてもアンティラモンには判らない。
お箸の方!
お箸の方?
箸を掴む様な手。
住友三角ビルの向こうを飛んでいく――
あ~! クルモン!
く~るくりゅくりゅくりゅくりゅ――。頑張って浮上していくクルモン。
背後からADRが狙うが――
てめーら邪魔くせーんだよ!
マコのブラスターが現出。
一掃。
都庁の頂、二つのタワーの間――。この背景画の迫真性は凄い。実際には右から左へとパンしている。
くりゅ~! あちょっ! あちょっ!
虚空にへばりついているクルモン。
お前、何やってんだ?
ベルゼブモンが前に進もうとすると――
不可視の壁に阻まれる。
何だ!?
入れないでクル。
ここ、入りたいでクル!
頑張って脚で蹴るクルモン。ここ! ここ! と何度も何度も――
ここにあいつ(樹莉)がいるんだな?
クルモン、離れていろ!
ベルゼブモン後退して――、まだ左側に一挺残っていた――
ベレンヘーナで撃つ!
幾度も幾度も――
いけ! 早くでクル!
遂に不可視のバリアーが破れ外殻が覗き始める。
メギドラモンの顎を砕いたのがベルゼブモンの拳だ。遂にカーネルの外殻を破る。
不可視機能が停止し、その外観を見せ始める――
見えたでクリュ!
都庁最頂部の二つの塔の間に、デ・リーパーのコア、カーネルが存在していた。
なっ、なんなのあれ……。
あれは……。
こじ開けているベルゼブモン。
しかしクルモンを内部に入れるにはまだ小さい。
いいか、開いたらすぐ突っ込め!
判ったでクル。
今だ!
クリュ!
頭は入ったが体が通らない。脚をバタバタさせているクルモン。
モタモタすんな! と頭でクルモンを押し込む。
くりゅ~
カーネルの防御システムが発動。
ケーブルがベルゼブモンの体に巻き付き――
カーネル内に取り込む。
翼までもが巻き取られてしまう。必死に逃れようともがくが――
ベルゼブモンを心配して振り向くが――
クルモン! 行け!!
行くんだ!
クルモンは、カーネルの中央に囚われている樹莉に向かう。
ベルゼブモンは動けなくなる。
――という状況を、信号機の上に登って見ていたアンティラモン。
あれ~?
クルモンとベルゼブモンがいない! ねえアンティラモン、二人はどこ行っちゃったの?
樹莉が囚われているのは、テスラコイル・スパークしている透明のカプセルの中だった。恐ろしくデジタルの手間が掛かっているカット。
じゅーり、じゅーりとクルモンが呼び掛けるが無反応。
じゅーり、聞こえまーすか?
じゅーり、クルモン入れてくださいでクル。じゅりはクルモンの事、判らないでクル?
クルモン、じゅりと一緒にいたいクル……。
すると球体がクルモンを招き入れる。
くるる……。
膝を抱えて動かない樹莉――。
ねむってるんでーすか?
デジタル・ワールドのテーマ曲が流れている場面。樹莉は半覚醒。長い時間、アイソレーション状態にあり、デ・リーパーに全記憶を吸い出された後である。ノーマルな意識など保てる筈がない。
アイキャッチのクルモンをゴツンするインプモンは、前話で伏線回収した。
これはヨモギカメラ西口本店近くか。そこにやってきたケンタ。四谷から徒歩か。
俺だって、テイマーなんだ!
そうだろ?
ぷぺ~~
あっ!
上空を飛行していくセントガルゴモン。
おーい! セントガルゴモン! 待ってくれー!
すごいリアルな走り。
お~~~~い!
という声が聞こえる筈もなく……。
ゾーンの際にまで来るセントガルゴモン。
まだゾーンに呑まれていない超高層ビルの屋上に立つサクヤモン。
確か、この辺りだった。
降りられそう?
任せて。
錫杖を鳴らして、金剛界曼荼羅を詠唱するサクヤモン。
38話のバンクだが――
桜の花びらが舞う防御シールドにセントガルゴモンを包む。
いくわよ!
遂にゾーン突入。
これは!?
なんて事だ――、とジェンが狼狽える。
地獄絵図。
有り得ない崩壊をしている西新宿。
私、良い子なんかじゃない……。
38話の樹莉の台詞を、デ・リーパーが再生している。
あの時の、樹莉の後ろ姿。タカトの目に焼き付いていた映像。
本当のお母さんが死んだ時――
私、何日かしたら泣くのやめちゃったもの……。
タカトの目に涙が浮かぶ。
やめて!!
加藤さんやめて!!
新しいお母さん、いい人だし――
好きになろうと思ってる。だけど……、
背を向ける樹莉、ではない存在。
加藤さん!
タカト行っちゃ駄目! とギルモンが必死に呼び掛けるが、タカトは混乱している。
全ては運命なのよ。
デジタル効果で変貌する――
ああっ!?
ADR-01 Juri Type B。
違う! 加藤さんじゃない!
そうだよ!ジュリなんかじゃない!
全ては無に帰るのだ。無とは美しい――。
デ・リーパーの哲学。
本当の加藤さんはどこだ!?
ここにいる。
顔を少しだけ、上げて目を開く樹莉――。
く、る~?
第46話回顧 1
当初の構想だと、リョウの登場は28,29話限定のつもりだった記憶がある。しかし直ぐその後にジャスティモンの登場を提案というか指示を受けて、デジタル・ワールド編の終盤からリョウを再登場させ、一緒にリアル・ワールドへ帰る事になった。ワンダースワンのリョウからは浮きそうなのだが、ドラマとしてのリアリティを我々ライター間で得る為に、後付けであれこれとリョウの物語を想像し、どういう理由かは覚えていないが福岡の出身という事に。
登場させるからには、ジャスティモンがいなければ成立しない様な物語を、テイマーズ終盤では編まねばならない。どうやってリョウとサイバードラモンがリアル・ワールドで究極体進化したのかはもうネグレクトせざるを得なかった。デジタル・グライドが何らかの形で九州へ届いたとしか言えない。
という事で華々しく前話の終わり間際に登場したのがジャスティモン。となればライターは元希さんが担当。今話がテイマーズでは最後となる。演出は33話でロップモン、38話でサクヤモンという新キャラクターの登場回を担当された今沢さんで、こちらもシリーズ最後。作画監督、清山さんも最後となる。美術は徳重さんの一人背景。
爽やかな究極戦士 ジャスティモン見参!
脚本:吉村元希 演出:今沢哲男 作画監督:清山滋崇 美術:徳重 賢
前話ラスト・シークェンスから直結で――
無音の中、ジャスティモン――
これはヴァイザー越しのヴィジョンか。
右腕のみ、メタルな質感。これはリョウの衣装に近しい。
ほうっ! とリョウの声で――
飛翔――
ここでサブタイトル・コール。
ここから、前話ラストで流れた「Fragile Heart」インスト版が流れ始める。
ジャスティモン! サイバードラモンの究極体!
必殺技は――
ジャスティス――
キーック! ――と全部自分(リョウ)が口で言うという。
サイバードラモンの究極体?
究極体?
という事は……、
爽やかに、やあ!
判ってるわよ! そんな爽やか系、あいつしかいない。
リョウさんだー!
だー!
東京が大変な事になっているのを見て、いてもたってもいられなくなって、飛んできたんだ。
ん!?
降下してくるADR-06 Horn Striker。
デ・リーパーだ。コードが繋がってる、とセントガルゴモン。
あまり大きなエージェントではないが――
これまでのADRと違い、戦意を剥き出しにし掛かってくる。デジモンのデータの濃度を上げたのかもしれない。
はっ!?
わああああ
わああああっ!
一撃で倒れてしまうセントガルゴモン。
続いて狙うのは――
!
ジャスティモンがサクヤモンを守った。
こっちだこっちだ!とADRを挑発。
デ・リーパーの注意を逸らすつもりなのね。
こいつは任せろ!
君たちは、デュークモンを助けに行け!
行くわよ!
オッケー!
ゾーンへ向かう。
じゃあ、俺たちは? とヒロカズ。
戦うんだよ、と当り前の様にガードロモンが答える。
だな! にー。
リョウさーん、待ってくださーい!
飛んでった方が早くないか??
このガードロモンの台詞は、多分梁田さんのアドリブだと思う。もの凄いクリティカル・ポイントな尺に収まっている。
生物的な様でいて、無機的な激しい蠢きをしているデ・リーパー・ゾーン。なぜか都庁の最頂部は残されている。
恵が双眼鏡で監視中。
アークが送ってきた映像。リアル・ワールド球を掴む様なデリーパの侵食。
……。
こっちに来ているのか? とジャンユーがSHIBUMIに問う。
何がだ?
デジタル・ワールドと現実世界に同じものが二つ存在していると思っていたが……。
デ・リーパーの最先端を分析してみよう。
――ジャンユーはマウス派。
サーモグラフィー的な画面。
んん? 温度がここだけ低いな……。なぜ、デ・リーパーの影響が……?
温度の低いところ。それは今タカトとギルモンがいる、木々が残されていたエリアだった。今、そこには樹莉の声をサンプリングした笑い声が響いている。
加藤さんはどこにいるんだ!
ワン!ワン!ワン!
!
デ・リーパーは松田啓人のデータを個体ジュリから得ている。
なんだって!?
笛の忘れ物!
あ……。
第1話の記憶が再生される。
目を逸らすタカト。
ソックパペットを突き破る。
ああっ!
樹莉の笑い声が辺りに響く。
タカト! あいつジュリじゃない!
そうだ! そんな筈ないんだ! 必死に顔を振るタカトだが――
!
11話のリプライズ。
暑い……。なんだか頭がぼんやりしてきた――。
タカトがデ・リーパーによってサイキック・ドライビングされつつある。
タカト! しっかりして!
タカトー! 必死に訴えるギルモン。
前話トランスフオームしたジュリ・タイプ。高校生くらいの身長だろうか。
樹莉の笑い声がリピートされ、高速で情報が行き交っている――。
ゾーン間近い、激しく損傷したアスファルト。その亀裂から――
デ・リーパーの泡が浮かび上がる。
ちょっとこの風景にはびっくりした。何しろデ・リーパーの設定というのは、9/11直後に製作しているという特殊な事情で考え抜いたもので、あまり生々しい災害としては描かないつもりだったからだ。しかし、実際にこういう事が起きたなら、そして交戦があったなら、こういう風景にもなるだろう。
必死に走るクルモンを追うインプモン。
おーい! おいってばー!
クルモン急いでるクル!
だからー! 一体何があるっていうんだよ!?
ジュリがいるでクル!
えっ、何だと!?
あいつがいる所が判るのか?
よくはわからないけど、多分こっちの方なんでくりゅ。
――俺は、あいつの為には何でもしなきゃなんねーんだ……。
想起する――
レオモンを殺めた記憶。
その場でぴょこぴょこ跳ねながら、
クルモンは行くでクリュ!
おめー一人じゃあぶねーっつってんだよ!
あわわ、こわいでクリュ!
インプモンにぶつかる。
ADR-04が接近。
なんだてめーは!?
いっ!?
うわうわうわうわ~~~~!
転倒する二人。
そこに迫るADR。
てめーっ! (な)ぁにすんだよぉ!?
だああああああああああっ――とインプモンが叫び始めるやそのまま――
――あああああああああ――。ベルゼブモンの声にリニアに変わるという声の魔術。勿論ノーエフェクト。
進化したでクリュ!
クルモン! 行け!
ひょいひょいと飛んでいくクルモンにADRの銃口が近づくが――
明後日の方に発射。
なめてんじゃねぇぞ!
第45話回顧 3
Act.3は新たなフェイズに入る。デ・リーパー・ゾーンの内部がどうなっているのか。そしてそこで出会う者――。
そして集まり始めている、テイマーとデジモンたち――。
シウチョン? シウチョンどこーっ!? 嘉玲(ジャアリン)が妹の姿が見えず、焦っている。
まだディスプレイに光が残っているD-Arkを握って立っているシウチョン。
シウチョン……。(安堵)
シウチョン、探したよー。あれ? ロップモンはどこ?
黙って指を――
歩いて行くアンティラモン。シウチョンがD-Arkによって進化を果たしたのだ。まだシウチョンは超進化プラグインSカードを持っていないのだが、シウチョンのD-Arkには特別な配慮があった、という事にして欲しい。
それにしてもこのカットは見る度に心が躍る。私が子どもの頃、こうした夢想をずっとしていた。もし家の近所に怪獣が現れたら……、と。
ロップモンなの!?
ロップモンじゃないの。あれはね、アンティラモン、ていうんだよ。
うわああああああああっ!!!
ゾーンの巨大泡の中に――
遂に中へ。
目を見開くや、眼前に広がる――
陸自のキャメラ越しではなく、直接的に初めて描写されるゾーン内部。無数の小さな光が飛び交っている。高速で内部通信しているという意味合い。
こんなになってるなんて……。
タカト!
どうしたの? デュークモン。
究極体の姿、保てない!
ど、どうしよう――。
あ!
中央公園の取りこまれていない部分がった。
あそこだ! あそこに降りよう!
デュークモン、光に。
助かったね、タカト。
うん……。でもどうしてここだけ大丈夫なんだろう……? 木があるから?
有機生物の解析が出来ていなかったからなだけ。――という樹莉の声。
後ろを見るタカト。
木陰から姿を現す――
加藤さん!
どうしてこんなところに?
駆け寄るタカト。
次の黙っている樹莉からディゾルブで――
向こう側で何かあったのか? とインプモン。
いつの間にかこの二人、バディ的になっている。
ん~
ぴと。
おい、何見てんだよ、さっきからよ!
クルモン、あそこ行ってみたいクル!
あ? どこだって?
中央公園の向こう側――
このAct.3になって、ディゾルブ(オーバーラップ)の切り替えが頻出する。勿論これには演出的な意図がある。
ぼく、とっても心配してたんだ。
だって加藤さん――
加藤樹莉という人間個体は、興味深いサンプルだった。
――無機的に言葉を発する。
いいっ!?
ネットワークに入り込んだ異物、人間。その行動アルゴリズムは、デ・リーパーと似ていた。
何言ってんのさ! やめてよ加藤さん!
加藤樹莉の思考ロジックは――
ただ破滅的な方向に向かっていた。
脚の「線」が増えていく。
加藤さん! と肩を揺するタカトだが――
人間はそれを、「悲しみ」と呼んでいる様だが――
タカト! これジュリじゃない!
何言ってんだよギルモン! こんなに温かいのに――加藤さんだよ!
加藤さん! と必死に呼び掛けるタカト。ディゾルブで――
何があんだよ、あそこに!?
わかんないでクル。でも……、
くりゅ、っと耳を拡げて飛んでいこうとするのを――
わあああっ!っとインプモンが押さえつける。
何するんですか!?
ばっか野郎! お前みてーに力もねー奴が、あんなとこ行ってどうすんだよ!
このアホが。(コツンと叩く)
でも行きたいんです……。(真剣)
そ、そんなに……? インプモンの問いに頷くクルモンが都庁最頂部がディゾルブ。
デ・リーパーは、加藤樹莉をサンプリングして――
ネットワーク世界と、
それを生み出した人間という自律行動体を解析し――
人間の言葉を得た。
もう眼球内部も――
加藤さん!――
うっ――
赤黒く蠢き続ける靄。
四聖獣はその威容と力を表現する為にエフェクトをまとっていたが、ここではもっと細く濃い色のオーラで表現されている。撮影(デジタル合成)担当の方が、コンテを見た時に「怪しいのを作らなきゃ」と思われたという。以降、この方のスタッフルームでは邪悪系オーラを「加藤さんオーラ」と呼ばれていたそうで、密かに嬉しかったり。
今話最大の見せ場であるADR-01 Juri-Type1 のトランスフォーメーション。
決してグロテスクではなく異様さを感じさせる為に考え抜かれたデザインと演出。
これもデ・リーパーなんだ!
脚が伸びて、全身も大人体型に近づく。
そして、背部が展開。
そ、そんな事……。
デ・リーパーは、デジモンのデータをロードし、人間が「エージェント」と呼ぶ肉体を得た。
ここから樹莉の声ではなく、フィルターでくぐもらせた声に。
加藤さん……(じゃない)。
それじゃあ本物の加藤さんは!?
人間とデジモン、それぞれに告げよう。
デ・リーパーは、人間が存在に足らないものだと、結論づけた。
あまりにも弱く、あまりにも不整合な存在だ。
人間は。
タカトの方に歩き出すADR-01。通り過ぎる度に木々が枯れていく。これはデジタルで表現された。
枯れ葉が舞う中――
加藤さんがどこにいるか、教えろ!!
立ち止まり――
アルカイックな笑みを浮かべる。
タカト! ここにいちゃダメだ!
ギルモンがタカトをリードしている。
ぼくは絶対に加藤さんを助けるんだ!
意味を成さない。全てデ・リーパーに消される。
向こうへ歩いて行く。
そんなこと、絶対にさせない!!
ジェン! 早くデュークモン助けなきゃ!
判ってる! だけど……。
背後から何かが来るのに気づく。
振り向くセントガルゴモン。
降下してくる――
おおーい!
はっ!
ヒロカズ!
この留姫の嬉しそうな顔。26話(ジジモンババモン)からこの変化。
着地したガードロモン。
応援に来たぜい!
俺が連れてきたんだろーが!
ん?
ジェット音と共に高速の飛行機雲。ヘヴィなギターのリフが始まる。
何!?
タイムズスクエアビルの屋上に着地する。
誰……?
イントロから歌へは行かず、エンディングに直結して45話は終わる。
この曲は「ベストテイマーズ5」というキャラソンCD「秋山遼&サイバードラモン」のデュエット曲「Fighting Soul」。ツイン・ギターのアメリカン・ロック。世田壱恵さんと金丸淳一さんのハモりがカッコ良いので是非聴いて欲しい。
あくまでサイバードラモンをイメエジして作られたCDで、リョウ、サイバードラモンのソロとこの曲なのだが、ジャスティモンにはこれ以外にないというジングルになった。
ADR-01 Juri Typeは勿論中鶴勝祥さんのデザイン。シナリオを書く前にこれを見せて貰えて本当に助けられた。
ニセ加藤さんのオーラはコンテ読んだ瞬間に怪しいの作らなきゃとはりきって作ったり。
— TEN (@nori_kuni) 2017年1月6日
以降ここのスタッフルームでは敵方の邪悪系オーラは加藤さんオーラという指定になりました。 pic.twitter.com/aw65och1zR
イレギュラーな表現、テイマーズではこれまで無かった表現を多く描写した45話。吉沢さんと私はやはり23話、ヴィカラーラモン後半で組めた事が良い記憶として残っている。だがやはり、この回と言えばデ・リーパー樹莉である。
吉沢さんもテイマーズは今話まで。ありがとうございました。
後年、プロデューサーになられた吉沢さんに誘われて「エアギア」を書いた。東映アニメーション本社が神楽坂にあった最後の時期だった。
#45 Credits
ギルモン~デュークモン:野沢雅子
松田啓人~デュークモン:津村まこと
テリアモン~セントガルゴモン:多田 葵
李 健良~セントガルゴモン:山口眞弓
レナモン~サクヤモン/アリス・マッコイ:今井由香
牧野留姫~サクヤモン:折笠冨美子
ガードロモン:梁田清之
塩田博和:玉木有紀子
マリンエンジェモン:岩村 愛
北川健太:青山桐子
ロップモン~アンティラモン:多田 葵
李 小春:永野 愛
博和の母:中山えり子
李 嘉玲:吉倉まり
李 鎮宇:金子由之
山木満雄:千葉進歩
小野寺恵/土岐アナウンサー:宮下冨三子
デイジー:百々麻子
ドルフィン:菊池正美
クルモン:金田朋子
インプモン:高橋広樹
デ・リーパー(樹莉型):浅田葉子 (初の止め前)
ナレーション:野沢雅子
原画:出口としお 野沢 隆
動画:柳田幸平 下平夕子
背景:スタジオロフト 井上徹雄 阿部とし子 劉 基連
デジタル彩色:松山久美子 井田昌代 松森より子 坂入希代美
デジタル合成:三晃プロダクション
広川二三男 則友邦仁 吉野和宏 中山照美 福井道子
演出助手:地岡公俊
製作進行:山下紀彦
第45話回顧 2
あなたは、我々には我々がすべきこと、我々が出来る事がある――。そう私に言ってくれました。
だが……、あそこには……、
お子さんたちが戦ってる。デジモンと共に。
テレビを通しても聞こえてくる、サクヤモンの鎮魂歌。
留姫……。
サクヤモンとデュークモンが一掃していく。
あなたたちの作ったデジモンは、子どもたちと共にそれに立ち向かっている。
ぐっ、と堪えているジャンユー。
人は、人が生み出した生命と共に、新しい危機にも立ち向かっていける――。
そうじゃないんですか。
私は今、戦っている彼らの力を信じています。だから――
振り向くジャンユー。
李さん――。
さあ、何をしてるんだみんな。急ごう! デ・リーパーを消す方法を早く探すんだ。
ええ。とデイジー。一斉にではなくリアルにばらけていくワイルド・バンチ。
山木君。
頷く山木。
山木はメガログラウモンらとタカトたちの戦いを目の当たりにしていた。そこに人間が介在出来る余地などないとも察してた。しかし、ここでは彼の言葉通りの事を考えていた筈だ。山木は自分の出来る事を既に考え始めている。
もう圧し潰れていたかと思われたADR-05、肘からケーブルを伸ばし――
セントガルゴモンを身動き出来なくする。
うわ、なにこれ――。
なっ、なんだ!?
ADR-03が複数体現れる。
あいつ――、倒した筈なのに。
私に任せて。
飯綱(いづな)!
ADR-02の大群。
テレビから流れる土岐アナウンサーの声。
あのデジモンたちは人類の味方なのでしょうか。
山木がデイジーに近づく。
ん?
あなたが設計したアークは、まだデジタル・ワールドで生きている。
だけど、もうアークに力はない……。
いや。
えっ?
私の通信機で、アークは我々にコンタクトをとってきた。
力を失ったアークだが、必死にデジタル・ワールドの異状を伝えてきた。
アークとはまだ繋がっている。デジタル・ワールドでの力は情報です。
アークに再び力を与えたい。
手伝ってくれますね?
いいわ。何をすればいい?
千葉の海――。
ケンタの祖父の家。
土岐アナウンサーの声。
しかし、あれほど人に近しい姿に、人工知性が進化し得るものなのでしょうか。
ぷ~ぴ~ぷ~、とマリンエンジェモン。
タカトが戦ってる!
世田谷区。ヒロカズの母の実家。
ここから「デジモンテイマーズのテーマ」が流れ始める。
ガツン。
ヒロカズの母親がガードロモンを足蹴にしている。
こっち入ってくんなっつってんだろ!?
ひーろーかず~、どうする~?
拳を握るヒロカズ。
これは現実です、と言っているテレビ。
――俺だって、テイマーだぜ!?
ロップモンを抱えてテレビを見ているシウチョン。
ジェン兄ちゃん……。
息を漏らして――
ロップモンが滑り降りる。
ロップモン?
我、じゃなかった、ぼく、行かねばならない。
強い顔になるシウチョン。
ぼくの仲間が、ぼくの兄弟が戦っている。
ぼくに力を授けたまえ、シウチョン。
え?
シウチョンはぼくの、テイマーなり。
くっそおおおおおおおおおっ! デュークモン! 行くぞ!
デュークモン着地。
行くぞ! タカト!
雄叫びを上げながら突進していく。
ベルゼブモン戦でも、最初にダメージを与えたのはこの痛烈なボディアタックだった。
セントガルゴモン!
バーストショットォォォ!!
うぉおおおおおおおおおおお!!!
37話の初登場回も出口さんが作画だった。
ああああああああああああっ!!!
ドガガガガガガガガガ
ガガガガガガガーン
この擬音は吉沢さんが指定。痛快である。
なかった筈の口が開く。
ファイナル・エリシオン!
ADR-05、遂に蒸発。
また集まっている両親たち。
立ち上がるケンタ。
静まっている状況を、固唾を呑んで見守るしかない。
デ・リーパー、どうするつもりだ! とデュークモン。
言葉が通じる相手ではない、デュークモン。
そうだよ、こうなったら一気にやっちゃうっきゃない! とセントガルゴモン。
ゾーンに向かっていく三体。
しかしゾーンの一部が活性化している。
激しくうねるゾーン。しかしなぜか、都庁のタワー上部は覆われていない。
ケンタ、新しい学校の――、
ん?
無人の部屋。
ケンタ!?
結着をつけてやる!
突如ゾーンから――
腕状になって突出し、デュークモンを掴む。
デュークモン動けない。
サクヤモンが必死に金剛錫杖で叩くも――
必死に逃れようともがく。
しかしゾーンに引きずり込まれていく。
デュークモン――
タカト!?
くっそおおおおおお!!
急げ! タカトが、ギルモンがピンチだぜ!
判ってるぜ!
第45話回顧 1
デジタル・ワールドから帰還してから暫くは、プライマリ・テイマーの三人とクルモン、インプモンに焦点を絞ってきた。短いターンではあるが、第三部も第一部同様に基本に一旦戻し、テイマーとデジモンの関係性を深める一方で、現実世界を脅かす状況の推移を見せていかねばならない。
究極体への進化はデュークモンは2回披露したが、セントガルゴモン、サクヤモンはまだそれぞれ一度しか見せられていない。
ドーベルモンが伝えに来た四聖獣の力。それは「デジタル・グライド」という、テイマー(一度デジタル・ワールドに来た経験のある)をリアル・ワールドで仮想的にデータ化/メタファライズするものだった。
今話は究極体進化バンクを三階建て(同じCMを二連続放送するという事がかつてのテレビではあって、それを「二階建て」と放送業界では呼んだ)で見せる必要があるのだが、テンションの高い進化バンクを直結させると、その映像の力も色褪せてしまう。緩急の波が必要と感じた。そこで、今話のAct.1は例外的な心象風景描写となった。
演出はテイマーズでは今話が最後となった吉沢さん。作画は出口さんと野沢隆さん。美術は清水さんによる45話。
デ・リーパーに立ち向かえ ゾーン突入!
脚本:小中千昭 演出:吉沢孝男 作画監督:出口としお 美術:清水哲弘
前話リプライズの後、更に前話の終盤がそのままの編集で再現される。
アフレコは新規。なのでラスト近くのタカトのテンションは前話より少し低い。何せ今話では導入部なのだから。
D-Arkを掲げる三人――。
余韻の中でブラック・アウト。
漆黒に広がるデジタル・グリッド。
そこに立つ、データ化されたジェン。
今話は、普通テイマーズでは用いないモノローグを、これでもかと書いた。
目を閉じていたジェン――。自分の素直な気持ちを言葉にし始める。
ぼくは子どもの頃、もっと我が儘な子どもだったと思う――。兄妹が多かったから、主張しなければいけなかった。
趙先生に拳法をずっと習っていて――、まだ小さい時に、近所の友だちとケンカになって――、ぼくは相手に怪我を……。
そういう自分が嫌だった――。
我慢をしなきゃ、っていうのはいつも心の隅にあって――
それが、ぼくを縛ってた……。
だから――、ぼくにしか出来ない事を――
ぼくとテリアモンが出来る事を――!
マトリックス! エヴォリューション!
進化バンク・フル。
別に――、
男に生まれたかったなんて思った事ない。でも――、お父さんの事……。
関係無い! 関係無いって、思ってた……。
レナモンと出会って、タカトとジェンたちと友だちになって――
どんどん自分が変わっていくのが判った……。
――なんか、それがちょっと怖かった……。
勝つ、っていう事に一番拘ってた私が、どんどん弱くなっちゃうみたいな……。
でも! そうじゃなかった! 私が負けたくなかったのは――
マトリックス・エヴォリューション!
サクヤモン!
最初に、ギルモンと進化した時、ぼく、何が起こったのか全然判らなくって――
ぼくがデジモンになっちゃうなんて、想像したこともなかったもの……。
でも、デュークモンが走る時、ぼくも感じるんだ。
風が、ぼくの顔に当たってる感じがして――、その時ぼくはとっても嬉しかった。
ギルモン、ぼくの大切なともだち――
ぼくたちはいつまでもずっと!――
ここだけ、ロボット・ヴォイス(人間版)
マトリックス・エヴォリューション!
デュークモン!
この導入のモノローグは、進化バンクを効果的に見せる為の措置として意図しており、三人が「証言」しているのは、それぞれの問題意識を言葉にしている。
ジェンはシリーズ初期の穏健な、戦いに消極的だった自分の分析。留姫は、自分の家庭環境がやはり彼女の性格形成の背景にあった事を示唆。シリーズでは触れる余地がなかったが、42話(まさき脚本)で少し父親については言及され、放送終了とほぼ同時に公開された映画「暴走デジモン特急」(まさき脚本/中村監督)は、シリーズとは分岐したパラレルな最終話後日談であったが、留姫の父親に存在感が与えられ、留姫の父問題についての落とし所を提示していた(私は春映画=二本目の映画の内容は全く知らなかった)。留姫の心情に限っては、正史だと感じている。
タカトには、背負うものがなかった。テイマーになるまでは。今は多くの修羅場を経験している。だが、タカトの心情を描くなら、デジモンと一体になれた事の嬉しさであり、そして冒険の代償となった仲間の喪失という思い体験であった。しかし、このリレーション・シップが長く続く事の願いについては――。
シナリオでは、暗い空間にスポットライトが当たって、一人一人がモノローグを述べるという、極めて簡素に演劇的な書き方をして吉沢さんの演出に委ねた。丁寧な手書きのグリッドのループが三人に重なっていて、デジタイズされているというニュアンスを非言語的に直感させる演出がされた。視聴者により一層、普段と違うナラティヴ(語り口)だと感じさせる。
各進化バンクはフル。それぞれに「One Vison」の別ヴァージョンのイントロが作られたというのは幸甚だった。今話では特に効果的な使い方が出来た。
新宿駅南側線路が前話に引き続きバトルフィールドとなっている。「One Vison」は歌に入っている。
周囲を高いビルに囲まれた広い空間であり、既に新宿線区は運行していない。格好のステージとなった。
離れた場所から望遠で撮ったセントガルゴモンの勇姿。その巨大さを実感出来る。
その前を降下してくるサクヤモン。
そしてタカシマヤ・タイムズスクエアのビル屋上に立つデュークモン。
見上げるアリス。このシークェンスでは「One Vison」の音量が下げられる。彼女とドーベルモンの使命が果たされたのを知る。
アリスに、僅かに残ったドーベルモンのデジタル・グライドが浮遊。
二つの世界、それぞれに生きる者を消し去るデ・リーパー――。
にじり寄って来るADR-04, 05。
このデュークモンは絶対に許さない!
ロイヤル・セイバーを形成。今話は進化バンクに忠実なプロセス。
雄叫びを上げて跳躍。
ドーベルモン……。
最後の別れに来たのだ。
ドーベルモン……。
だああああああああ!
オペラタワー最上階がワイルド・バンチの観測所。
デジモンが、エージェント・デ・リーパーと交戦中です。と恵が報告。
デジモン!?
ジャンユーは落ち着きを失う。
子どもたちが近くにいる……!
彼はヴィカラーラモン戦の時を想起している。
土岐アナウンサーがテレビで報告。
只今、デ・リーパーから現れたエージェトと呼ばれる攻撃個体と、デジモンが戦闘を開始しました――。
デ・リーパー・ゾーンにも爆発が起こるが――。
子どもたちだけに戦わせていいのか!? と声を出すジャンユー。
写真額に見入るドルフィン。
子どもたち……。
アリス……。
旧サイトDigimontamers Resourcesのキャラクター紹介で、アリス・マッコイはキースの子、つまりドルフィンの孫と書いていた。しかし2017年に見直したところ、これはやはり娘だろうと思わざるを得なかった。タオだってシウチョンという幼い娘がいるのだ。この写真のアリスは、新宿に現れたアリスより少し幼い。しかし成人しているキースを見ると、そう前ではあるまい。決定的な事は今も言えないが。
現場へ向かおうとするジャンユー。
李さん! と山木が呼び止める。
ぐっと堪えるジャンユー。
サクヤモンの気合い。
セントガルゴモンのバーストショットで、凄まじい爆発が起こっている。
アリスは、自分の役目が終わったと――
立ち去っていく。
44~46話のバトル・フィールドをGoogle Earthで見たところ。真ん中に運転士、車掌の新宿運輸区の建物があるが、アニメではオミットされ、広い空間として描いている。これは2021年現在であり、線路の潜り込んだ上にはバスタ新宿という、高速バスターミナルの建物が数年前に出来ている。2002年にはなかった。
アリス・マッコイがなぜ来たのか。ドーベルモンとは少し前に出会った、と言っていたが、そう前ではあるまい。ドーベルモンがADRと交戦しようとするのをアリスがやめさせたのは、四聖獣から重要な使命を帯びているからだった。
アリスがこの世界には生きていないかもしれない――とResourcesで書いた為に、また英訳版もあった為に、幽霊だという解釈が広まってしまったが、いわゆる幽霊だとは私は全く思っていない。しかしアリスが、普通に人間として日本に来ていたとは、やはり言えないだろう。
リョウとは違う形で、アリスはデジタル・ワールドとリアル・ワールドを行き来する、超然的な存在になっていたのではないか、と当時の私は想定していた。