第16話回顧 1
「浦沢さーん、今度のキャンプ教室なんだけど、留姫は私立なんで一緒に行かないんですよー。でもどこかで出して欲しいんですけどー」
「はい、はい」
という会話が関Pと浦沢さんとであったかは知らない。
街の灯を守れ! デジモンたちの危険なキャンプ
脚本:浦沢義雄 演出:梅澤敦稔 作画監督:清山滋崇 美術:渡辺佳人
これは神楽坂下の外堀だろうか。Canal Cafeがある近く。
こんな朝早くから何? とレナモンが現れる。
最近戦いが多くて、疲れてるみたいだから、と顔を上げず言い――
正確なコントロールで小瓶を投げ上げる。
栄養ドリンク……?
じゃ。
留姫……。
ありがとう。
ぐび。
――よっしゃ!と小声で気合い。尻尾が上がる。
というシュールな場面があって――、
淀川小学校の前にバス。
1組が乗車中。そういうのが流行ってるのか?という森先生。
どこで売ってるの? というのは千葉さんのアドリブかも。
これは勿論、テリアモンを同行させる為のクラスあげての策謀であった。
しかしギルモンは大きいからどうするのかなぁと案じていたジェンリャだが、タカトが来たのを見て安堵。
奈美先生、おはようございまーす。と言って――
不自然に周り込み、カメラの操作方法を教わる。
どれどれと見ている間に合図。
マーチング・ドラムと共に横一列で行進してくるヒロカズら。
ギルモンの姿をブロックしている。
これもクラスの協力あればこそ。
挙動不審で見ているタカト。
難儀している。カメラには細工がしてあったのかもしれない。
その隙にギルモンは乗車。
はぁ、と安堵するタカト。
何安心してんの、という浅沼先生の問いに、口を縦に白々しく答えるタカト。
この表情と声の演技のマッチが凄い。
モーマンタイ。
乗り込むジェンリャ。
あ、クルモンも一緒に行くみたいだよ。
え? どこ? あ……、
くるるー
タカトぉ、重いよう。
もうちょっと我慢して。奈美先生、すぐ寝ちゃうから。
どうしてギルモンを連れてきたのかと問う樹莉。
フラッシュバック。キャンプ旅行にテリアモンも連れて行ってあげようと思うというジェンリャ。
ギルモンも連れて行ってあげない? と言われ戸惑うタカト。どうやって……。
最近、戦いばっかりだし――
自然の中で思いっきり遊ばせてあげたいんだという。
だから無理をしてでも連れてきたかったんだ。
何でも協力するわ! と樹莉。
嬉しいタカト。
それではキャンプ教室に――出発!
都内の公立小学校に通っていた私は、泊まりがけのキャンプというのは行事になかった。中高のも無くなってきているとも聞いた。
これは渋谷の南口、桜ヶ丘の辺り。首都高で東名に入るのか。
そしてバスは山林へ。
今話は背景が緑濃く美しい。そしてバスの中では――
ケンタが無カラオケで演歌を歌う。
キャメラがバス外にいくと、中の音は聞こえない。耳を塞ぐ子――
泣いている子――、気分を悪くしている子――
盛り上がるギルモンとヒロカズら。
熱唱。
静寂。
熱唱。
浅沼先生は確かに眠っているという。
この歌は本線の録音後に別録りしたのかなぁ。
ケンタが演歌好き、というキャラクター性がこのギャグで誕生し、後にキャラクターソング「男飛沫」(塩田博和&北川健太)なる曲をリリースするに至る。
ギルモンも大喜び。
お昼は弁当を食べている。
ジェンリャはテリアモンとクルモンと一緒だが、異様におにぎりにぱくついているテリアモン。
喉に詰まらせる。
ほらお茶。
今夜はここで各自テントを設営して泊まる事になる。
テントは俺たちやっとくから、ギルモンたちを遊ばせてこいよ、と男気溢れるヒロカズ。
ありがとう!
デジモン連れ組は渓谷の橋へ。
大喜びのギルモンたち。
よかったね、と見合う二人。
このテントに三人と一体、狭い。
まあいいか、と声を揃える。ここ、浦沢脚本ポイント。
嫌な声を上げて飛ぶ鳥の一群――
なんだ?
鳥の群れの中にデジタル・フィールド。
D-Arkが弱く反応。
デジモンか――
ギルモンを呼び戻そうとするタカトを、ジェンリャは制する。
あんなに楽しんでいるんだから、もう少し様子をみようと。
いつの間にギルモン、片手での逆立ちが出来ている。しかも断崖絶壁な橋の上。
タカトも同意する。
曲芸逆立ちをしている向こうの山――
木々の中でデジタル・フィールドが――
その中に、目が。
ヒュプノスでもワイルド・ワンとして検出されているが、反応が小さいので室長への報告は様子を見る事に。
キャンプファイヤーでの食事、それと――
怪談。
カレー。うんこれは私も飯盒炊飯で食べたなぁ。
はい、はい。
とっておきの怪談を話している森教諭だが――
ん?
向こうの誰もいない筈のテントが――
タカトおかわりー
ぎゃああああああああ!
ぎゃあああああああ!
はい、はい。
薪が消され就寝の時間。
テントを見回る教師たち。森先生は浅沼先生の後ろから恐る恐る。
ホントに見たんです、テントの中にもののけがぬーっと、と訴える森教諭。
はい、はい。
いつまで起きてるんですか。
ごめんなさーい。
森教諭、もうダメ、と腰が抜ける。
タカト君は?
もう寝ちゃいました。
「アルカトラズからの脱出」(1979)
早く寝なさいと言って浅沼先生は森先生の首を引きずって帰っていく。
夜の森を楽しそうに走るデジモン。
切り立った崖から都会の灯りが見えるのだと連れてきた。
こんなに素直に喜んでいるギルモンたちを、見られるとは……。
連れていて良かったと思っていると……、
怪しい叫びが森の奥から――
二人は、楽しんでいるデジモンは置いて、様子を見に行く事にする。
木々の中へ――
いた!
が、ちいさな鳥のデジモン。
ここでA-Partが終わるのだが、一連続くのでこのまま暫く。
静かにしている。
実は奪取出来る電力を観察しているのだが――
ギルモンたちに早く帰ろうと促す。今夜対決は避けたい。
きええええええっ!
都会の電力を吸い始める鶏デジモン。
次々と停電に。
都庁の電力も落ちるが、ヒュプノスは予備電源に切り替える。
電力を吸って身体を増大させていく鶏デジモン。
これは捨て置けないと、室長を呼ぶ恵。
走る山木。電力が失われて町が混乱している事は把握している。
にしても謎の力の入った全動画がカッコいい。
デジモンはこの世界で、何をしようというのか――?
山木が管制室に来ると――、成長が止まる。
歩くギルモン。上の二体は眠っている。
何も起きなくて良かったね、とキャンプに戻るのだが――
同ポジで夜明けの景色に――。
実に美しい。
第15話回顧 2
やっとデータベースが更新、サンティラモン、完全体・聖獣型――
クルモンが出てくるが、一度進化ルーティンがフィックスされると、カードで進化が可能となる。
超進化プラグインSでキュウビモンに進化――、サンティラモンを追う。
趙先生のところから帰ってくるところのジェンリャ。趙先生が何をする人なのか、今話では明かされないが、テリアモンが他に乗客がいないのをいいことに遊んでいる様子で類推が出来る。(この頃の大江戸線は本当に空いていた)
あちょー、というブルース・リーの格闘時の声は、1970年代に日本で《怪鳥音》と命名され広まった。テリアモンはジェンリャと一緒に「燃えよ!ドラゴン」を見たかもしれないが、2001年の子どもは知っていただろうか?
サンティラモンを追う――
キュウビモン。留姫を背中に乗せての疾走。
私が個人的に大好きな場面。
かつてフジテレビ社屋があったのが河田町。ジェンリャが降りると――
サンティラモンが現れ、逃げ出す乗客たち。
電車車両を量子化粉砕。
だがまだ車中では転んだ幼児が!
宝鉾で敵を貫く『クリシュナ』を放つサンティラモン。
ジェンリャ、すかさずカード・スラッシュ!
ウオーグレイモン!ブレイブシールド!
テイマーズにあの盾が!
テリアモンがシールドで宝鉾を撃破しながら子どもを救出。
そのまま通過していくサンティラモン。その後を追うキュウビモン。
この電話でタカトにも報せて! と携帯を投げる留姫。
この時期は世界に先駆けて3G通信が開始されたが、大江戸線の構内で携帯電波が通じるのは2013年まで待たねばならない。ジェンリャは地上へ走るしかない。
このままでは先に行かれると、留姫は高速プラグインHをスラッシュ。
しっかり捕まって!
ロケット加速。
タカトは外で友だちと遊びに行ったわよ。
こんな時に何やってるんだ――、というと押し出しワイプで遊ぶタカト。
必死に走るジェンリャ、テリアモンが頭に乗ってるから走れないという。
あぁ、と気のない返事のテリアモン――
肩につかまって、どう? 速くなった?
サンティラモンに対峙するキュウビモン。
鬼火玉を放つが交わされ、引き倒されてしまう。
鼻から紙つぶてを噴出したギルモン、やっとデジモンの気配を感知。
インプモンが地下でキュウビモンが戦っている事をわざわざ教えに来る。
ヒロカズも一緒に行こうぜと言い出すが――
タカトが制する。これは危険な戦いなんだ。
鋼のドリルのカードをスラッシュ。
ギルモンの爪がドリル化。
元々地面を掘るのが好きなギルモンだが、尋常ではない速度で潜っていく。
ここ掘れワンワン――。日本の昔話「花咲かじいさん」のフレーズ。
ギルモンに続いて行こうとするタカトを止めるヒロカズ。
これ使えよ、とパワーチャージャーのカード。
ありがとう! この段階でのバトルは、子どもたちのカード支援が大きな力となる。
2018年に、作家の渡辺浩弐さんに教えて戴いたのだが、新宿中央公園の地下部には非公開の施設があるのだそうだ。
私は同年のドラマCDで、ヒュプノス後継の施設NYXがここに設けられたと設定していたが、果たして実際には何があるのか。FEMAキャンプ的なものなのか――。
お人好しにも教えた事を悔やむインプモン。
弧炎龍!
利かず。
ダムダムアッパーも撃破にはならず。
このデジモン、なんか怖いでクル……、と呟くクルモン。
クルモンがここまで怖がるには理由があるのか――
キュウビモン、ガルゴモンを量子破壊しようと――
トンネルが貫通し――、サンティラモンの背に落ちてくるギルモンとタカト。
ごめんね遅くなって。
ギルモンの力が必要だ、とキュウビモン。
カード・スラッシュ!
成長期進化バンクがフルで3種入っている回。
居並んだ成長期。この構図も初めて。
早速使わせて貰うよ――
パワーが底上げされるグラウモン。
連携の連鎖攻撃。
エキゾースト・フレイム!
これにはサンティラモンも勝てず――
動けなくなるサンティラモン。
キュウビモンが何者だと誰何。
我々は神に従い、神の力として使わされた12のしもべ――。
ガルゴモンが、お前みたいのが12体もいるのかよ、と言うが既にミヒラモン、このサンティラモンを倒したので残りは10。
サンティラモンは消滅直前に、覚悟するがいい人間に隷属する者ども、と警告。
我は滅ぶとも、デーヴァは――
デーヴァって、何? 今までとは違うデジモンだというジェンリャ。
しかしタカトは、早くここから撤退しようと、自分が空けてきたトンネルを指す。
驚いている2組の生徒ら。
このサイズのデジモンが三体揃っているのを初めて見たからだ。
と、ジェンリャが持っていた携帯に聖子から着信。留姫が出て安心させる。
サイレンの音が近づく。成長期デジモンが見られたらまずい、と――
駆け出す――。
テイマーズの企画は、デーヴァ=十二神将デジモンとの対決というのが予め設定されていた。完全に一致はしていないものの、干支十二体の神像に準えた強いデジモンが敵というのは判り易い構図だったが、同時にそれは帰結するポイントも見えてしまう。
真の敵の存在はデジタル・ワールド編の後半でないと見えてこないが、それまではデーヴァの強さを、様々な手で見せていくという方針にした。
このデジモンはどうしたら見せ場が作れるか、と会議で揉む中で、サンティラモンが何処に現れたら一番嫌か、という発想になり地下鉄が舞台となったと思う。
ドラマのムードが前話の重苦しさから一転。視聴者の子どもも安心出来たのではないか。
#15 Credits
サンティラモン:世田壱恵
地下鉄の女性客:塩味 潮
女子高生:村岡雪枝
原画:出口としお
動画:篠原悦子 兼高里圭
背景:スタジオロフト 井上徹雄 阿部とし子 劉 基連
デジタル彩色:井浦祥子 大旛 忍 鏡沼孝子 松山久美子
デジタル合成:三晃プロダクション 広川二三男 則友邦仁 峰岸智子 大西弘悟
演出助手:門 由利子
製作進行:坂本憲生知
第15話回顧 1
テイマーズの2クール目「デーヴァ編」が本格的に始まる。これまではデジタル・フィールドの中で人目を避けて戦ってきたが、人間とその文明に明らかに敵意を持った強力な敵が現れて、デジモンテイマーズに戦いを挑むのが基本形。
15話は前川さんの脚本を角銅さんが演出。作画は出口さんの一人作画。
夕暮れの恐竜公園で、改めて三組が揃っての相談事をタカトが話す。
このリアル・ワールドで暴れるデジモンを倒せるのは、ぼくたちだけ――、と真剣に言うジェンリャだが、後ろではテリアモンが遊んでいる。
私たちは戦う。でもその闘いには、意味があるという留姫。
ところで、このブログでは留姫や樹莉の一人称を《私》と表記しているが、当時の女の子のデフォルトは「あたし」に近い発音だった。今「あたし」と書くと品が無い様に感じられるのが不思議だ。
「serial experiments lain」のネット同時視聴会でも、「あたし」と言う度に違和感を覚えた視聴者がいた。
そうだね、ぼくたちはチームさ、とタカト。ギルモンにすかさず出して貰う段取りだったが――
タカトに促されてギルモン、モタモタと隠していたものを――
それは、デジモンテイマーズの旗。勿論これは――
黒澤明監督の「七人の侍」からの引用であるが、タカトたちは原典を知るまい。
1クールかけて、やっと三組のデジモンとテイマーが結束するまでを丁寧に描いたが、元々「七人の侍」をロール・モデルにしていた訳ではない。デジモン・アニメに、リアリティのアスペクトを加えたいというのが私の意図で、最初からチーム然としてすぐに結束させるのは避けたからだった。
すると、プロセス的に1クールは、まさに「七人の侍」のAct.1に相当する――と言い出したのは、前川さんかまさきさんか、或いは角銅さんだったか――。
そうだそうだと盛り上がり、結局こうした旗を作るに至るのだが――
ちなみに原典の◯は侍。△は明らかに農民出の無頼漢、菊千代(三船敏郎)の事を表していた。テイマーズの旗は、パートナーがいないクルモンがそのポジションに収まる。
尚、「七人」の旗の「た」は、侍を集めた農民の田圃を意味した。
だが、旗の感想は芳しくない。
テリアモンは「ださ」と辛辣な一言。留姫も旗を作ろうっていうセンスが信じられないとまで。
がっかりするタカト。ギルモンは旗に寄りかかっていたが、竿が折れて倒れる。
みーんな、楽しそうでくるる!
巨大ヘビ出現! 大江戸線大パニック
脚本:前川 淳 演出:角銅博之 作画監督:出口としお 美術:松本健治
地下鉄大江戸線は2000年に改称されたもの。光が丘(アドベンチャーでの主要ロケーション地)を起点に都内を循環する。
既に終電が行ってしまったのに、酔客がホームで寝ていたのを駅員が連れて行く。すると――
トンネルを進む――、これはデジタル・フィールドだ。
トンネル内部の3D CGは角銅さん自身による。
赤い目――
驚いて悲鳴を上げる酔客。
日曜日の朝、まだ寝ていたジェンリャの胸に乗るテリアモン。なんだようと言うと――
シウチョンの仕業であった。松田君から電話だよ。
寝ぼけ眼で電話に出る。どうしたのこんな朝早くから。
やたらはりきっているタカト。デジモンテイマーズとして、まずはパトロールをしようという提案。
しかし今日は《趙先生》とのアポイントがある。
この趙先生はこのクールでの重要人物なのだが、なんの為に会うのかはまだ判らない。
タカトはがっかり。では留姫はというと――
お祖母ちゃんとお出かけするからダメ。
ちぇっ、腐るタカト。すると友だちが来たよと母が。
え? 2組のクラスメイトが押しかけてきている。
新宿中央公園で、目の当たりにして驚く一同。樹莉だけは既に友だちだが――
なぜかヒロカズがギルモンを紹介。
タカトの友だちならギルモンの友だち、と喜んでいる。
ヒロカズが何故か仕切り――、これは5年2組の秘密だぞ!
おーっ!
このノリ、「ウルトラQ」っぽいのだけれど、2001年の小学生には新鮮だったかもしれない。
一方――
実在する矢来能楽堂。戦後に建て直された観世九皐会の能楽堂。固定椅子席を初めて設けた事でも知られる。
東映アニメーションの本社オフィスが今の中野に移転する前、この能楽堂の近くにあったのだ。
本格的に描写される能舞台。
こういう場面を入れられるのだから、アニメーションはいいよなぁ、と当時も思った。実写ならタイアップ案件でもなければ、ロケなど不可能。
聖子さんのお供で来ている留姫――。
ジェンリャが趙先生のところへ行こうとすると、シウチョンがテリアモンを赤ちゃんごっこでいじっている。流石にジェンリャも気が咎めている。
目が訴えている。
シウチョンがトイレに行く隙に――
テリアモンを奪取。
舞台上で跳躍する狐――
狂言「釣狐」の演目。老漁師と狐との駆け引きが演じられる。
角銅さんはフィルム・アーカイヴに足を運んでこの場面を作られた。
「狂言」は現代語としては異なる用途で用いられるが、日本の古典芸能の一つで、能舞台で演じられる、滑稽さを主題とするもの。能よりも動きなど、子どもには親しみやすい。留姫は狐の舞を見て想起する。
アイスデビモンとの戦い――
ハーピモンとの戦い――
レナモンと、自分――
タカトは公園でギルモンと遊んでいるという。
ばっかじゃねーの!? とインプモンが水を差す。
あれもデジモン? そう、みたいなんだけど。
その内哺乳瓶くわえさせられる様になるんじゃねぇの?
噂をされてクシャミするテリアモン。
鼻に丸めた紙を詰められるギルモン。鼻息で紙つぶてを発射。
馬鹿もんだ、と嘆いていたインプモンに、お前も羨ましいのかと――
いきなり話しかけるレナモン。インプモンは完全否定するが――
そうか。そう見えたのだがな。
と言って去って行くレナモン。
牛込神楽坂駅でこれから帰ると電話している聖子。留姫の家までは一駅程度だと思う。
留姫は、お祖母ちゃんに付き合う事にあまり乗り気ではなかったものの、いいモのが観られたという満足があった。
と――、D-Arkが反応!
見回すと――、何故かクルモンがいて、女子高生に可愛がられていて、安堵――
するも――、デジタル・フィールドが突如トンネルに充満。
素早くアイウエアをして臨戦態勢に。
やってくる――
レナモン!
ビルとビルを跳躍し――
留姫が危ない、と駆けつけていくレナモン。
衆人に姿を晒す巨大蛇デジモン。
レナモン見参。
駅員に誘導される聖子。しかしまだ孫が――
視界の片隅で、留姫に寄り添うレナモンが見えたかもしれない――
ホームに身を上げる蛇デジモン。
留姫、臨戦態勢。レナモン、狐葉楔を放つが利かず。
しかし――、データが来ない――
ここまでA-part
第14話回顧 3
テイマーとパートナー・デジモンの相関関係が密になる事で、現実世界でデジモンが進化する――。子どもは普遍的に、自分のお気に入りのデジモンを進化させたいと願ってゲームをする(最初の携帯ゲーム)。
これが現実に起こった場合、何の代償も払わずデジモンにだけ戦いをさせるというのが、私には考えられなかった。この時期、既に私は究極体進化でテイマーとデジモンを一体にさせたいという腹案を抱いていたが、デジモンという商品とは無論、これまでのアニメ、アドベンチャーとは異質過ぎる表現になるだろうとも思い、いきなり「こうします。こうしたいです」と言い出さずに徐々に道筋をつける策をとる事にした。
完全体初進化時、タカトがグラウモンと痛みを共有するという表現は、これからの話数でずっと続ける事は厳しい。13,14話はテンションを最大限に引き上げたが、15話からはまたノーマルな(敵がデーヴァという括りになるが)エピソードが続けられる様にはしなければならない。
最初に14話のシナリオを貝澤さん、関プロデューサー、局プロデューサー、代理店プロデューサーに読んで貰った時は緊張していた。しかし意外にも、このアプローチは案外と抵抗なく受け容れられた。つまり、究極体進化への道筋がついた事になる。
貝澤さんは、以前一年間取り組んだ「ふしぎ魔法ファンファンファーマシィー」でもそうだったが、シナリオを大胆に変更する演出をする場合がある。しかし大筋とかプロットの根幹が壊される事は当然ながら、無かった。
14話は、タカトとグラウモンが時が止まった空間で会話をする場面、つまり心象風景の在り方が大きく異なった。またこの会話時、タカトの肉体がぼやけるという描写を入れていたのだが、貝澤さんは心の繋がりを重視したと思う。
グラウモンが一時消失しているというシナリオだったが、映像化されたのはより痛みを感じさせる、量子化しつつあるグラウモンをミヒラモンが貪っているという描写だった。
ともあれ、映像化されたものがベストだったという事だ。
恐竜公園のヒロカズとケンタ。ケンタがヒロカズに、タカトが羨ましかったかと訊く。
ヒロカズは否定して笑おうとするが――
異状に気づく。
都庁が青い柱と化している。
おつかいから帰ってきた樹莉――
商店街の人々――
ここは―― まだ痛みを感じているタカト。
無数の時計が回っている不思議な空間――
テイマーズはD-Arkの円形がリニアに回転するというインターフェイスがシンボリックに描かれてきた。オープニングのタイトル自体も円形インターフェイス上に表示されている。この時期の貝澤演出の、手書きのアニメーションと組み合わせるデジタルという特徴だと思う。
グラウモンが肩を咬まれたら、ぼくまで痛くなったと言うタカトに――
テイマー、と呼び掛ける声。
えっ?
テイマー、ぼく頑張ったよ――
咬まれた部位から毒が広がる様に、半身が黒くなっているグラウモン。
グラウモン――でもぼくたち負けちゃった――
もっと戦わせてよ――
でも――
ここからファンタジー的音楽が流れる。(多分前作までのBGM)
グラウモンはタカトに訴える。もっともっと戦いたいんだよ――
タカト、グラウモンのテイマーだよね――
ギルモン時よりも成長している声。
はっとなる。しかし――
レナモンも――
テリアモンも破れた。
ぼくは、テイマー……、
なのに! グラウモーーーーン!
ぼくが弱虫だから――ぼくのせいで――
タカトは必死にグラウモンに呼び掛ける。
目を見開き、タカト、と応えるグラウモン――
もう一度、一緒に戦ってよ!
――と延ばした手はクルモンの手を掴んでいた。
あれ
安堵する一同。タカトが倒れてから心配していた。
と、上空から激しい音が。
山木が緊急出動要請を出した。しかしミヒラモンには全く歯が立っていない。
どうするの? グラウモンも負けちゃったのにという留姫――
負けてなんかないさ! もう負けられないんだ。グラウモンも――
ぼくも!
ここから流れ出す「デジモンテイマーズのテーマ」
カードをまさぐると――、その一枚がブルーカードに。
テイマーが弱音を吐いちゃいけないんだ!
眩く輝くブルーカード――
戦いは終わらない!と掲げるカード――そのまま
スラッシュバンクだが、音楽は「テーマ」のまま続く。
カード・スラッシュ! マトリックス・エヴォリューション!
くるるー
タカト!
無残に食い散らかされつつあるグラウモンが――
光を放ち始め、データを再結合していくのに驚くミヒラモン。
ここより完全体進化バンク。オール3Dで描かれる。三体とも演出は、13話から各話に入る前に、今村隆寛さんがされた。
このマトリックス・エヴォリューションとはどういう意味かと中国のファンから聞かれて、私は究極体進化の事だと思い、そういう意味合いで答えてしまったのだけれど間違いだった。
しかし意味合い自体は同じだと思う。基盤ごと、つまりデジモン単体ではなくテイマーとの相関関係での進化がマトリックス・エヴォリューションだと考える。
いずれにせよこの言葉自体は、WIZにおられた北川原さんが創案したもので、私は解釈をしているだけなのだが。
この進化バンクは、クルモンの存在が強調されている。
暴虐的なエネルギーを抑制する為に口枷がはめられている――という設定だそうだ。
普通に喋る事が出来るけれど――。
凄まじいパワーでいきなりミヒラモンを虚空に飛ばす。
だがミヒラモンにも翼がある。何故進化出来る!? と咆哮。
いけぇ! メガログラウモン!
サイボーグ型完全体
肩バーニアが噴出している。タカトの図案とそう掛け離れていない。
怒りのミヒラモン、人間に組みするお前が何故進化出来ると三節棍を滅多打ちで――
メガログラウモンに撃ちつける。
右に左に――
地上でもタカトが、同様の衝撃を受けている。ここのリアルなアニメーションには肌が粟立つ。
感じるよ、君の痛みを――
ミヒラモン、もう勝負をつけようと三節棍の尾の先を尖らせ――
メガログラウモンの腹部めがけて――
しかしタカトは立ち向かう。もう一歩も戻れないんだ――
一歩前に進む――
尾の先が撃ち込まれ衝撃が走る――
――
ぼくは、ぼくは君のテイマーだから!
尾の先は刺さっていない。メガログラウモンの両腕がそれを阻止していた。
力勝負となり――
胸部の発射口がエネルギー・チャージを始める。
アトミック・ブラスター!(前半グラウモン、後半がタカト)
オーヴァー・キルのレヴェルでミヒラモンを――
粉砕―― 何故我らの神を崇めぬお前らが――
エネルギーの絶大さ――
自身が引き込んでしまった巨大なデジモンを、奴が倒してくれたというのか――
山木のジレンマが始まる。
ただの子どもの遊びだった筈なのに――
あの子どもたちが――
都庁を閉じ込めていた青い柱が消失していく。
ヒロカズとケンタが応援していた。やってくる樹莉。
バーニアで降下してくるメガログラウモン。
樹莉が、あれギルモンちゃん?と訊く。
違う。ギルモンが進化した――
完全体だ!
タカト君は? と訊くと、ケンタが示す。テイマーはデジモンと一緒に戦う、と。
身を屈めてタカトに爪を出すメガログラウモン。タカトは寄り添う。
タカト君……!
タカト――と呼び掛けるメガログラウモン。
ありがとう、テイマー。一緒に戦ってくれて――。
何言ってるんだよ! ぼくは君の、テイマーなんだよ!
涙を浮かべているメガログラウモン。
ヒロカズ、ケンタ、樹莉もメガログラウモンの前へ。
こうして淀橋小学校5年生は、デジモンの存在を受け入れた。
#14 Credits
原画:八島善孝
動画:富田美保子 佐藤恭子
背景:松本健治 鈴木慶太 佐々木友
デジタル彩色:鈴木陽子 木村規子 関口好子 村田邦子
デジタル合成:三晃プロダクション 広川二三男 則友邦仁 松平高吉 石川晴彦
演出助手:まつもとただお
製作進行:山下紀彦
第14話回顧 2
一体どんなデジモンが都庁天頂に現れたのか――?
タカトたちの上を飛翔する――
レナモン!
驚異的な跳躍力で都庁舎を駆け上っていく。
ギルモンも行くと言うが、ジェンリャが制する。今レナモンがリーコン(偵察)に行っていると。
留姫はD-Arkでレナモンの視界を見つめる。
ついに頂上へ。
見回すが――
何も表示されない。
デジタル・フィールドが出来ているのに――
姿を現す――。しかしデータが来ない。
テリアモンも行くと宣言。進化してもいいよね?
しかし留姫は、レナモンならやれると駆け出す。
タカト、留姫を呼び止め、超進化プラグインSのカード(前話登場)を投擲。
留姫、キャッチ、それを――
スラッシュ!
キュウビモンへの進化。
小さく叫ぶ留姫。いけ!キュウビモン!
このカードのやりとりは、2018年にリリースしたCDドラマで、立場を入れ替えて再現した。
空中で交錯。
サイズの違いが判る。
デジモンの尾が三節棍へと変形。
キュウビモン、弧炎龍を放つ。
大きい――、あっ!
三節棍が――
キュウビモンの身体を容赦なく撃つ。
都庁の屋上から転落しながら、キュウビモンの身体は量子破壊し――
何とかレナモンの姿には戻れたが――
キュウビモンが――
ここでCMだったが、まだ続ける。
キュウビモンが敗退するのを見たテリアモン――
ジェン! ぼく行くよ!
葛藤するも――
強く頷くジェンリャ。
カード・スラッシュ――
ガルゴモンに進化。
地面に向けて撃つ、ダムダム・アッパー!
どうやってガルゴモンを屋上まで行かせるか悩んだが、またTHE ビッグオーで使った手をこちらでも。ビッグオーは海底から急速浮上する手段でサドン・インパクトを用いた。
凄まじいパワーで飛翔し始める
ガルゴモン。
上昇の途中で――
転落していくレナモンを見やる――
ややして――
地上へ転落。
留姫駆け寄るが――
満身創痍。
しかしまだ意識はあった。
敵は究極体かもしれないというレナモン。(実は完全体)
データがないからカードで支援出来ず焦るジェンリャ。
レナモンがこんなにも簡単にやられてしまうなんて、と怯えるタカト。
天頂に至るガルゴモン。
見回すも無人――
ガルゴモンの背後を、巨体が移動していく。
はっとなるガルゴモン。
敵は自分を見くびっている――。だから正面に出てきた。大型猫類らしく横移動しながら威嚇している。
勇気を奮って――
だだだだだだだだーーーっ!
激しいブレ描写のガトリング・アーム
火器の光が下から見えている。
左の塔から右の塔へと逃れる虎デジモン。
それを追って銃撃を続けるガルゴモン。
じっと観察しているジェンリャ。
見え難いが動画ならば判る。右の塔から再び虎デジモンが左塔へと飛翔したが、ガルゴモンはそれに気づかず銃撃を続けている。
周り込まれた!
濃霧で見えないまま、無人の塔を銃撃しているガルゴモンの背後――
装弾が尽きて空回りする。
実際のところ、デジモンの火器というのはマテリアライズされたデータなので、これはパワー・ポテンシャルが低下したという意味になる。
襲いかかってくる虎デジモン――
愕然――
三節棍でガルゴモンの痛打される。
その衝撃波。
あああ!
ガルゴモンもその身体を保てず――
ギルモン行く!
逡巡するタカトだが――
ギルモン進化する!とギルモンの意思は固い。
カード・スラッシュ! 進化バンクからタカトの強い顔は抜かれた編集。
まだ覚悟が出来ていないタカト。しかし、今はギルモンを支援せねば――
「白い羽」で飛翔するグラウモン。
落下してくるテリアモン――
ジェンリャ、待ち受ける。
自由落下なら相応な力が掛かっている筈だが、デジモンは若干事情が異なる様だ。
ジェン……、と囁く。
テリアモンの微かな言葉に耳を傾けるジェンリャ。
タカト君! 敵は攻撃する直前、間合いをとるそうだ! その時がチャンスだ!とテリアモンの助言を伝える。
ギルモンの視点を表示させるタカト。
グラウモンとも体格差は大きい。
こうなったらいくしかない。グラウモン、行けええええええ!
タカトの気合いがグラウモンにプラズマ・ブレード攻撃の合図となる。
虎デジモンにダメージを与えられた。
怒る虎デジモン。
ここでグラウモン、エキゾースト・フレイムを浴びせる。これでケリがつくか――と思いきや――
炎を浴びながらも接近してくる虎デジモン――
グラウモンの右肩を噛み砕く――というワンカット。
激痛に顔を歪めるグラウモン――
タカトのD-Arkが地面に落ちた。
初めて表示される敵デジモン――ミヒラモン
ミヒラモンはグラウモンを量子化して食らおうとしている。
ミヒラモン――完全体――
グラウモンが受けた損傷を、自分の身体で(程度は違えど)体感するタカト――
あまりの痛みに昏倒してしまう。
これまでのテイマーの戦いにはなかった展開に、ジェンリャも留姫もおののく。
Act.2ここまで。
ディテイルはさておき、ここまでは概ねシナリオ通りに貝澤さんはコンテを切っている。しかしAct.3はかなり違うものになった。
第14話回顧 1
2018年にも見直したが、2021年に見直した時には自分でも驚く程、動揺してしまった。単に《感動した》とかいう自己陶酔ではない。寧ろ自分が書いた事すら忘れて、ここまでやって良かったのかと不安すら覚える。
しかし20周年で見直してみて、自分の記憶以上にシリーズでも重要な回だった。
貝澤さんは1話以来の各話演出。普通なら途中でもう1回くらい担当しても良いと思うのだが、スラッシュバンク3種、成長期進化バンク3種などの映像製作があったからなのかもしれない。
作画は八島さん一人。グラウモンへの進化、メガログラウモンに進化する今話、メギドラモンに進化する回も担当された。貝澤さんと最後に組めた41話も八島さんが描かれている。
美術はテイマーズではこの回のみの杉浦さん。確かに今話は、これまでに描かれてきた西新宿とは全くの異世界が描かれる。
要素が多いので、エントリは3回に分ける。
前話より、インプモンの苛めから逃げているクルモン。
テイマーよ立て! メガログラウモン超進化
脚本:小中千昭 演出:貝澤幸男 作画監督:八島善孝 美術:杉浦正一郎
何故か人々が立ち止まっている中、逃げ道が混乱して転倒。
すかさずインプモンに背中を踏まれた。
この時のインプモンがどれだけ本気であったのか――。
しかし、
クルモンはもう違う方向を見ている。このアップのカットから――
この引きの画までワンカット。一体どうやったのだろう。合成されているのは間違いないけれど、全く不自然なインターメディエイトが無い。
シャッガイの放つエネルギーに反応しているテリアモン――。もう理性を失っている。
ううううと唸り――
これまでに見せなかったテリアモンの姿。
人混みの中をすり抜けて走る留姫。この場面はとても見応えがある。と同時に留姫が、まだ小学生なのだという事も実感出来る。
レナモンも――
大ガード――
中央公園から走ってくるタカト――
ギルモン――
都庁を見上げられる広場まで――
山木――
初めて裸眼を曝す。
さらば、無秩序なる獣たちよ――
都庁の天頂から放たれている高出力エネルギー――
ここまでがアバンタイトル。
改造Palm機でシャッガイのモニタリングをしていた山木――
こちらに走ってくる者たちに気づく。
何処からともなく姿を表すデジモンたち――
続々と集まってくるデジモンに驚くタカト。
山木は笑んでいる。
これって何が起こってるの!?
その後ろのギルモン、像が歪んで上へ引っ張られる。
山木は満足そう。これが狙いだからだ。
ギルモンは身体の中が《わぎわぎ、しゅうしゅう》してると訴える。意味が判らないタカトだが、ギルモンがまた激しく牽引されて像が歪むのを見て腰を抜かす。
どうしたの?ギルモン――
タカトぉ―― その背後を飛ぶ大型デジモン。
吸い寄せられていくデジモンたち。小型のものも多い。
都庁の真上に生じているシャッガイ・ホールへデジモンたちは吸い込まれていく。
どういう事?
デジモンたちはレッド・ホールから何処かへ跳躍するのではなく――
量子破壊されているのだ。それも苦しみながら。
ヒュプノスでワッチしているオペレータ。多くのデジモンの断末魔が聞こえてくる。
嫌!とゴーグルを外してしまう恵。
麗花は豪胆な性格。シャッガイ・ホールを維持するパワーがあと80秒だと報告。
タカトは無残に殺戮されていくデジモンを見て戦慄。
山木は、いずれにせよこの世界にいてはならない存在は消さなければならないと言う。
そしてお前も、とギルモンに手を伸ばすと、ギルモンは威嚇。
タカトに、君の友だちはただの質の悪い人工物だと言い捨て、去って行く。
人間と友だちになっているデジモンは、いっぱいいるんだ!
ギルモンが察知――、タカト、来るよ!
な、何……?
レッド・ホールから、別の物質が流れ出していく。
山木のイヤホンに麗花からの着信。
シャッガイ・ホールの中に何かがリアライズしてきます!
何!? とモニタを見ると――
まさか――、そんな事が起こる筈が――
何か質量の大きなものが都庁の天頂部に降りた様だ。
激しい衝撃音。
今話はデジタル合成(いわゆる撮影パート)への負荷がとてつもない演出となっている。モーション、像の歪みなど。レンダリング時間は通常の3倍では利かなかったのではないか。
《何か》が到来した――
ヒュプノスが警報を鳴らしている。
ダークリザモンのタンクの波動が止まり、シャッガイは停止する。
陽が降りていく――。
静まっているのに、都庁の天頂部は未だ何かが起こっている。
臨時ニュースが野球中継に入るのを見る、タカトの両親。
「我らを造りし人間よ。我らは我ら自身の神に従う」
という謎の声が流れる。
動揺して聞いている山木。何の事だ――
都庁の上空より、冷気が降りてくる――
「人間は最早、果てしなく進化する我らを助くるのみの存在」
ふざけた事を!
凄まじいディストーション・フィルタ。
誰がお前たちを助けるっていうんだ!?
山木の上空に亀裂が生じ、格子模様が見える。これがリアル・ワールドから垣間見えるデジタル・ワールド。だがまだ山木にはそれが判らない。
「これが証だ。人間はリアル・ワールドに我々の道を開いた」
山木、悄然。
この謎の声は、実はネタバレしてしまうとスーツェーモンの想定だったのだけれど、今話に関しては石井康嗣さんが演じられている。
こっちの世界とデジタル・ワールドを繋いでいるんだと直感するタカト。
天頂よりの冷気が――
都庁全体にまで降りる。
陸橋の縁を拳で殴っている山木。奴らの為に道を作っちまったって事なのかよ――
タカトはゴーグルをする。デジタル・フィールドへ入る覚悟は出来ている。
しかし普通のデジタル・フィールドではない――。
どう始末をつけるか思案し歩いている山木とすれ違う――
ジェンリャ――
山木、振り向いた。
ジェンリャも気づいた時には既に――
山木に胸ぐらを掴まれている。振り落とされる――
テリアモン
お前らが! と小学生に常軌を逸した爆発。言ってテリアモンを睨む。
なんだよう。
今の山木には、何も言う気力がない。そのまま去って行く。と留姫が合流。
レナモンも姿を見せる。と――
お前らなんだよ! この世界の秩序を狂わせてるのは!と大声で叫ぶ山木。
当然、テリアモンはお冠。しっけいな奴だなぁ。
今話の唯一のギャグ。
ジェンリャは留姫に「行こう」と促す。
Act.1ここまで。
第13話回顧 2
13話Bパートは、14話で放つ矢の為に、充分に弓を引く趣旨の構成。14話がこれまでの13話を一挙にまとめて次の章(クール)に入る事になる。Bパートにはバトルもなく、従って13話にはスラッシュ/進化バンクもない(フラッシュバックには入っているが)。
タカトとヒロカズ、ケンタとの亀裂は、最初からの構想にあった訳ではないが、「ぼくが考えたデジモンが現れた」などと言われてすぐに諒解されるのはリアリティがない。
ギスギスした描写は書いてる側としても楽しくはないのだが、こうした《谷》がなければ深まらない絆がある筈だ。
恐竜公園で、いつもならカードバトルをしているのだが――
タカトも、冷ややかな空気を打破したいとは思っているのだが――、
意を決して明るめに挨拶をしたものの――
二人はあまり芳しくない。
ソックパペットで言いにくい事をズバリと言う――
樹莉、今日はカードで遊ばないの?
デジモン、という言葉を口に出してしまいヒロカズに制されるケンタ。
ヒロカズはデジモンなんて子どもの遊びだって気がしてきたと言う。
タカトは、自分の睡眠時間を削ってまでギルモンと、世に出たら拙い事態が起こるだろうデジモンと戦い続けている事に、果たして正当性があるのかと思い始めている。
既にギルモンと仲良しになっている樹莉は、ギルモンがデジモンなら、ぼくはデジモンが好きだな、と異常に巧い腹話術を駆使して述べる。
ヒロカズはケンタを誘って帰宅していく。ギルモンが実在する事までは認めざるを得なくなっている。
遊びじゃない、と呟くタカトに、変な事言ったと謝ろうとする樹莉。それはタカトも違うと知っているのだが――、今日もギルモンと遊ぶのかと訊かれると――
遊びじゃないんだって! と思わず怒声を上げてしまう。
ショックを受ける樹莉――
思わずパペットを隠す。タカトも瞬時に言い過ぎた事を後悔して、足早に去って行く。
与党議員、官僚トップらに計画承認を得る為、ネット会議が開かれる。当時のシナリオではWebCam越しの会議と記してある。2020年に爆発的に広まったのがZoom、Webexなどのサーヴィス。本作の描写の様に、音声はオンラインであっても映像を共有したくないユーザは、アバターや自分の静止画写真を表示させるケースが多い。
発言しているユーザがクローズアップになったりというのも、本作では発言者がカラーになるという表現で見せている。
シナリオでは半分以上は普通にオンライン動画として書いたが、今村さんは完全に静止画で貫いた。この表現で何が利であったかというと、作画枚数を減らせた事だと思う。
一方で、中鶴勝祥さんには監査委員以外の、後に使い回す予定のない新規キャラを何人も描いて貰わねばならなかったのは反省した。以降、大人のキャラクターを新規で出す場合はちゃんとシリーズ内で活用出来る様に心掛ける。
まずは官房長官のネットが危険なものだと国民には認知されたくないという話。
ネットワーク疑似生命体物質化現象=リアライゼーションは報道を検閲して国民には知らされていない。2020~21の……、いややめておこう。
ヒュプノスはかなりの物量でネットワークの監視・検閲を行っている様だ。監査委員はヒュプノスの存在が政権の寿命を縮めかねないと懸念している。
そもそもデジモンというのは誰が作ったんだ、という本シリーズに於けるデジモンの設定がここで提示される。
テイマーズのデジモンの由来については、既にジェンリャのゲームを通して見せてはいるが、キャラクターとしてのルーツが1980年代にあるというのがテイマーズ設定。
これは、元々携帯液晶ゲームだったデジタルモンスターが、大昔の人工知性シミュレーションに似ていると感じたところから発想したものだった。
更に詳しい《裏設定》は、小説「デジモンテイマーズ1984」を参照されたい。渡辺けんじさんのイラストは無いが、3年前に少し改訂し大幅に注釈を入れた第二版のオンライン版はこちら
*注釈を表示させるには、ダウンロードしてAcrobat Readerで開いて下さい。ブラウザでの表示は出来ません。
ネットの中で独自に進化体系を発達させたデジモンには、TTL Time To Liveの設定がそもそもなされていない。勝手に進化しているのだから、人が始末せねばならないと山木は力説。(TTLはパケット寿命の意。これが2019年にNBCユニバーサルが"serial experiments lain"に関して、個人の版権を認めるという措置がlain_TTLと命名される元でもあるのだが、勿論ここで討論されている架空の設定とは全く無関係)
山木が申請している新しいネットワーク攻撃システム《シャッガイ》がもし起動されたら何が起こるのかと訊かれる。一時的な混乱があるだけだと山木は楽観的。
ネット世界は基本的には全世界に反映されるもので、もし日本の公的機関が混乱の原因を作ったと知られたら、日本は賠償責任を負う。到底認可すべきものではないのだが――、デジモンの出現が頻度を増しており、このまま隠蔽し続ける事も現実的ではなくなりつつあった。
あくまで「試験」を行う。それならばこの面々によるオーソライズも必要なかろう、というのが政治家の判断。
オフラインになるや、腰抜け共がと罵る山木
今回のエピソードで絶対に描いておきたかったのがこれからの場面。
ギルモンの尻尾と遊んでいる幼児たち。
タカトとギルモン、ゆっくりと会話をしている。会話がこんなに高度になるまで、ギルモンは成長している。
タカトは、ギルモンが更に成長し、進化し、自分が届かないところまで行ってしまうのではないかという畏れを内心抱いている。
そうじゃないよ、とギルモンは言いたい。だからタカトは友だちだと言う。
でも、友だちとは何か。ギルモンもよく定義出来ていない。だから、ぼくがタカトをタカトだ、って思う気持ちが、友だちなんだって思う、という意見を述べる。
ギルモンに説得されてしまい愕然としているタカト――。
ギルモン、凄いな。だってちょっとこの前までは赤ちゃんみたいだったのに――
ギルモンは、タカトと一緒にいるからさ、と答える。
ぼくは……。タカトは自分がギルモンに、圧倒的に成長力で劣っていると自覚している。全然進化してないや、とタカトが言うと、ギルモン面白がって「タカト進化!」と言う。
タカトは宣言する。進化する、ぼくだって!
タカトモーン!
暫く笑い合う二人。
そしてタカトはギルモンに謝る。ギルモンが進化するのには、ただ他のデジモンを殺戮してロードする為ではなく、何か別の理由があるからだと信じられた。
だがこれまでのタカトは、その変化を恐れてばっかりいた。そんな自分をタカトは否定する。これがタカトの《進化》だ。
このシーンは次回以降、より激化していくバトルの前に見せておきたかった場面だった。二人は(敢えて二人と書くが)、互いを大事に思っているが、やはりちゃんと言葉にしないとズレを生じさせてしまう。1クールかけて成長したギルモンは、しっかり喋っているが、野沢雅子さんが絶妙に幼めの芝居で演じられた。これも嬉しかった。
しかし、運命の時は近づいていた。
都庁には実際、緊急時用ではあるが、ヘリポートが屋上にはある。次回はここが舞台となるのだが――
ヒュプノスには緊急な改修が始まっていた。
電源か回線の大幅強化工事なのだろうか、特に設備のスーパバイザーである恵は神経質に工事を見ている。
何が始まるのかなぁ、とぼやく恵。
ヒュプノスの管制室内に、異様な機器がキノコの様に生えている。
シナリオでは2Uラックが二台程度の規模だったのだが……。
麗花は無関心――。
山木のキャラクターソング「Black X'mas」(歌:山木+麗花+恵)はこの辺りの関係をイメージして作詞されたと思う。
李家のマンション――。
ジャンユーが帰宅してくると――
誰か知らない者が近づいて来る。
李チンウさんですね?と切り出してくる、《黒服の男》。
ジャンユーです。と切り返すのは、12話のジェンリャと山木のやりとりからの反復。
ジャンユーが若い頃に、何か悪さでもしたと言いたげな男に、誰なんですあなたはと問う。
それには答えない男。あなたの昔の遊び仲間を探しているんです。あなた方の誰かがまだ大人になりきっていないらしい――。
ジャンユーはどういう意味だと問うと、まあいずれ判るでしょうとはぐらかす。
忍耐出来ずジャンユーが文句を言おうと声を上げると――
もう男はそこにおらず、ジェンリャが帰宅してくるところだった。男はジェンリャに気づいて立ち去ったらしい。そして――
話の一部を彼は聞いている。
シウチョンがドアを開いてお出迎え。
おかえりーっ! と一日一緒に遊んだ――
赤ちゃん……。
……。
12話、それまでの顛末を改めて会話している留姫とレナモン。
進化とは、ただ強くなる為のものではない気がしているレナモン。
留姫は、もうレナモンへ辛辣な声も出さなくなった。自分を《武装》して、如何なる自分への攻撃にも反撃する必要がないと知った――。それが留姫の《進化》。
デジモンが「人間とは違う存在」ではもはやないと知った留姫。彼女の変化には、あるデジモンの存在も大きい。そのデジモンの事を想う留姫――。
新宿のサザンテラス。南口の高架上に渡された大きな橋とコリドー。向こうに見えるのはNTTタワーで、マンハッタンのビルの様なデザインだが、ビルっぽく出来ていても殆どがアンテナ施設らしい。
そしてクルモンが不穏な空を見上げている。なんだか、前にクルモンがいたところに似てきたと言っている。つまり――
うーん……?
いきなりフレームインするインプモン。
転げ落とされたクルモン、なにするんですかーと抗議。
人間に可愛がられるクルモンが、インプモンには目障りらしい。デジモンなら俺をロードしてみろと挑発。
クルモンは、自分が進化しないという事は知っている様だ。
インプモンは進化、強化を目指さないデジモンなど許せない。
なんの足しにもならねぇけど、こいつをロードしてやろうか――
クルモン、怯える。しかし逃げようとすれば逃げられる。今のインプモンなら。
私個人としては、インプモンの台詞には苦労した。元希さんと前川さんシナリオで活写されている《イキった不良》然としたキャラクターは、私はあまり書いた事がない。語尾などを模倣してそれらしくは書いたが、最終的には高橋広樹さんが一年間、一人のキャラクターとして一貫性を保たれたのだと思う。
さていよいよ運命の時となる。
シャッガイ起動しました、と告げたのはオペレータではなく技術員。パワーソースも地下のR&D施設から来ている。
何これ、ネットワークに逆流を起こしている――!
ダークリザモンのデータをチャミングに用いて、リアライズしているデジモンをおびき出して始末をつける――、それが山木が考案し準備を進めてきた《シャッガイ》システムだ。
なんか、凄い……。
都庁舎屋上から光の柱が立っていく。
こんなカードでサクッと進化出来たらなぁ、と想わず漏らすタカト。実のところ、展開を早める意味でもこのカードは効果を持つ事になる。
ギルモン、異状を察知。来る……。
西口デパートの催事として人気のある駅弁大会。
ジャアリンが帰宅してきた。
どっちでもいいと言いながら、やっぱり「峠の釜めし」を選ぶ。
ジェンリャ、父にさっきの事を聞こうとすると、ジャンユーは今は家族の時間だと遮る。
お父さんが若い時に研究していたのって、デジモ――
食事の時にする話ではない、と拒絶する。
カタン ……。何かが窓にぶつかる音。
自室の方からだと悟るジェンリャ。
部屋に入ると――、テリアモンが――
唸りながら窓に繰り返し飛びついている。
一体何が起こっているんだ――
ネットワーク内、異状パケット増大中――
山木は施設内ではなく外に出ている。
あれ、この描き方はPalm Pilotがまるで折りたたみ携帯みたいだな。
なぜ山木は外から都庁を見ようとしているのか――。
来るよ――。とてつもなく強いデジモンが――。
慄然とするタカト――。
これまでも実際に小学生としては、かなり危険な局面に直面してきている。しかしデジタル・フィールドという、一種の封鎖された空間での戦いだった。
これから起こるのは、そうしたイクスキューズがない、まさに命懸けの戦いとなる。タカトにその覚悟は出来ているのか――。
ここで13話は終わる。
バトル場面を冒頭で一挙に見せて、ルーティンと異なるプロットにするというのは、これが最初だった。後に「ウルトラマンマックス」の最終二話で、やはりこの手法を用いたが、当然それが目的なのではなく、通常のカタルシスで終わるエピソードでは表現出来ないナラティヴをする為だった。
#13 Credits
浅沼先生:松谷彼哉
李 鎮宇:金子由之
李の母(麻由美):足立まり
李の姉(ジャアリン):吉倉まり
山木満雄:千葉進歩
鳳 麗花/李 小春:永野 愛
小野寺恵:宮下冨三子
官房長官:西村朋紘
文部科学省次官:水原リン
政務次官:木村雅史
監査委員:佐藤晴男
原画:原田節子 長崎重信 兼高里香 信実節子 中條久美
動画:岸 祐弥 小林美穂子
背景:スタジオロフト 井上徹雄 阿部とし子 劉 基連
デジタル彩色:村本織子 星川麻美 藤橋清美 金井八重子
デジタル合成:三晃プロダクション 広川二三男 則友邦仁 吉野和宏 中山照美
演出助手:門 由利子
製作進行:坂本憲生知