第48話回顧 4
48話ラスト4分。濃密な4分間。
疲弊しているベルゼブモン――
どけーっ! ベルゼブモン!
グラニを駆るデュークモン。
グラニが口を開くと――、ユゴスが既に発射準備になった。
へっ――。
離脱するベルゼブモン。
ユゴス――
ブラスター!!
グラニ、一度首を横に振ってから――
膨大なエネルギーを伴う強化ユゴスを放った!
激突!
凄まじい爆発。これはユゴス単体ではなく、グラニのパワーが増大させたのだろう。
ゲートキーパーの外殻が遂に割れる。
樹莉が囚われているスフィアが露出。
おっしゃあああああああ!
樹莉ィィィィ!!
加藤さん!
タカトの声が届いている。
ベルゼブモンは本気だよ! 本気で加藤さんを助けようとしている!
それは本当なんだ!
た、か、と、くん……?
必死に透明の球体を殴っているベルゼブモン。
弾性があって、衝突の波紋は生じるが突き抜けない。
幾度も、幾度も――
殴る。
言葉は要るまい。殴る、という人型の最も根源的な攻撃方法を、ひたすらに、全身全霊を込めて、必死に撃ち続ける映像と、迫真の演技――。
べる、ぜぶ、もんが……。
瞳のシャドウ、消えている。
くそ!
くそ! くそ! くそぉ!
ちくしょう! 砕けやがれぇぇぇ!
私を――、助けようと、している……。
目を見開く樹莉。覚醒。
眼前で、必死に抗っているベルゼブモン――。
遂に、立ち上がる。
拳を止める――
体力に限界がきつつある。肩を大きく揺らして息をしている。
身を震わせて絶叫。
ちきしょおおおおおおおおっ!!
俺に、俺に力をくれえええええええ!!
私は見返していて、ここで最も心を震わせた。ベルゼブモンだって、獣王拳を使えばどういうリアクションを樹莉がするかは想像がついた筈だ。だからこれまで、己の拳だけで撃ち続けたのだ。だが、どうしても、どうしても届かない最後の望みがこれなのだ。
そしてベレンヘーナは使っても、ダークネス・クロウ、レオモンを危めた武器は封印したのだ。
歩みだす樹莉。
助けて……、助けてベルゼブモン――
はっ!
うわあああああああああああっ!
ロードしたレオモンの必殺技――
獣!
王!
拳!
激突! 遂に外殻の一部を破壊!
風が吹き込む。
レオモン……。
やったぁ! 穴あいたクル!
さあ、早くこっちに来い!
あ……。
涙が頬を伝っている。
おい! どうした!? さ、早く!
外殻、自己修復機能で穴が狭まっていく。
じゅーり! 早く! 早くするクル!
じゅーり!
必死に樹莉を動かそうと頑張るクルモン。
どうした!? さ、早く!!
全身が強ばっている。脳と感情が分裂していて、パニックの発作を起こしている。
早くしろ!
懇願する声になっている。
樹莉!
何してんだ!? 樹莉!
れお、もん――
!
加藤さあああああああんん!!
! タカト、くん……?
しかし――
穴は狭まり――
閉じられる。
それでも諦めないベルゼブモン。
絶叫しながら殴り続けるベルゼブモン。
デュークモン、加勢しようと飛来。
ロイヤル・セイバーを掲げ――
樹莉!
んっ!?
後ろだベルゼブモン!!
スレートの大群が――
背中にグサリと何枚も刺さっているスレート。
悶絶するベルゼブモン――
データが分解していく。
愕然。
ベルゼブモン!
うそ……。
転落していくベルゼブモン。
ここで――
終わる訳には――
いかねぇ……!
ストップモーションで、48話は終わる。
悪魔的な姿をしたデジモンが、負い目を持つ少女を助けようと必死に戦う――。
終盤の、復活したベルゼブモンに如何に見せ場を作るかについて、前川さんと相談している時に、前川さんが考え出したのが、獣王拳を使う、という事だった。今でこそ、これの為に布石が打たれていたのかと思われたかもしれないが、これは終盤構成の段階で出たアイディアなのだ。プロットとかに書かれたのではなく、話している時に「で、獣王拳を撃つ!」と口頭で成立した。「おおお、はまったじゃん」と盛り上がったのを今も覚えている。
演繹的に物語を作る事の醍醐味というのは、こういう瞬間があるからだ。
浦沢さんはちょっと特別なポジションだったけれど、シリーズを5人という少数が馴れ合わず、知恵を忌憚なく出し合って一年間のシリーズを通せたのが、テイマーズのライターとしての手応えだった。
今話の樹莉の反応は、年少の視聴者には理解出来なかったかもしれない。ベルゼブモンの真剣さ、タカトの呼びかけで、デ・リーパーによって抑圧されていた自分自身の感情を取り戻しかかったのに、最後の最後で足を踏み出せなかった。
しかし、自分が精神的なショックを受けたりした時、なんと無力で勇気を失ってしまうかを実感する時があるやもしれない。そうした時、樹莉を思い出して欲しいと願った。
テイマーズの物語では、次話以降で樹莉自身でも克服していこうと奮闘する。最後には、タカトに救われるのだとしても、自分自身の心の結着をせねばならないのだ。だが、一人だけでは難しい――。
ADR-09 Gate Keeperは中鶴勝祥さんのデザイン。この見た目からは想像出来ないアグレッシブな攻撃を展開した。
インプモンが企画当初のメイン・デジモンだった。私が否を唱えてギルモンが生み出されたが、その分、物語ではインプモン~ベルゼブモンが主役に匹敵する存在感を、徐々に増していくべきだと考えた。
インプモンは吉村元希さんと前川さんが形作り、ベルゼブモンはほぼ、前川さんが書いたと言える。特に復活してからのベルゼブモンは、普通なら視聴者に嫌われそうな悪役が、その後驚く程にファンを獲得するキャラクターに育った。演出、作画、高橋さんの演技と共に、本気でベルゼブモンを共感得られるキャラクターとして昇華させる原図を書いてくれたのは、前川脚本だった。
お疲れ様でした!
テイマーズは、ルーティン的展開が少ない。節目節目で、それまでシリーズで描いてきたものとは異質な表現をする、という重要な回を八島さんは多く担当された。
見ている側も力が入る様な迫力ある筆致は、その回、その場面の特別性を際立たせて戴いた。ありがとうございました。
演出助手/助監督が、シリーズ終盤で監督デビュウするというのは特撮でもあって、ウルトラマンガイアでも二人の助監督が監督デビュウをした。地岡氏も、何を最大に見せ場とするかは自明なシナリオを、期待された以上に仕上げられたと思う。
#48 Credits
ギルモン~デュークモン:野沢雅子
松田啓人~デュークモン:津村まこと
テリアモン~セントガルゴモン/ロップモン~アンティラモン:多田 葵
李 健良:山口眞弓
レナモン~サクヤモン/牧野ルミ子:今井由香
牧野留姫~サクヤモン:折笠冨美子
サイバードラモン~ジャスティモン:世田壱恵
秋山 遼~ジャスティモン:金丸淳一
加藤樹莉/デ・リーパー:浅田葉子
クルモン:金田朋子
ベルゼブモン:高橋広樹
ガードロモン:梁田清之
塩田博和:玉木有紀子
マリンエンジェモン:岩村 愛
北川健太:青山桐子
李 小春/鳳 麗花:永野 愛
松田剛弘:金光宣明
李 鎮宇:金子由之
松田美枝/浅沼奈美:松谷彼哉
クラスメイト:魚谷香織
デイジー:百々麻子
ドルフィン:菊池正美
水野悟郎(SHIBUMI):諏訪太朗
原画:八島善孝
動画:馬渡久史 小林美穂子
背景:スタジオロフト 鈴木慶太
デジタル彩色:井上徹雄 阿部とし子 劉 基連
デジタル合成:三晃プロダクション
広川二三男 則友邦仁 吉野和宏 中山照美 福井美智子
演出助手:地岡公俊(!)
製作進行:山下紀彦