第44話回顧 1
近年はどうか知らないが、このシリーズに関わっていた頃はシナリオに入る前に、担当演出の方と軽い打合せをしてから執筆していた。勿論、シリーズ冒頭の三本はとにかくパイロットとして必要であり、先行して書いたけれど。だから、どういう演出をされるか、も想定しながらシナリオを書けた。
今話担当演出の今村さんは、私が書いた13話からテイマーズに参加され、とにかく13話のストイックでハードな画面作りに感銘を受けていた。今話がテイマーズでの最後の担当となるが、今話のメインとして扱わねばならなかったのは、Vジャンプ誌で公募され選出された、読者デザインのデジモンを登場させるというもの。
ストーリーとしては、既に地上世界に舞台を移しており、新たにデジモンをリアライズさせるには、相応の役割が必要だった。他のデジモン・シリーズなら、単独で来た理由も自ら説明させられるだろうが、テイマーズに於ける、ヒーロー・サイドのデジモンにはテイマーが必要という原則がある(クルモンは除く)。
新キャラクターをこの段階からラストまで登場させるのは、作劇上好ましくない。という事で、「謎の少女」という描き方をするのが唯一解であった。シナリオ・タイトルは「黒の少女 The Girl in Black」。製作時の2001年時点で、ゴシック・アンド・ロリータの装束を取り込んだアニメは無かった。私は幾つかのファッション雑誌の切り抜きを中鶴さんに送って貰って、アリス・マッコイをデザインして貰った。2話だけの登場になるので、とにかく印象を強くつけたかった。
作画監督は30話、38話(度肝を抜く二聖獣バトル)と今話の3話だけになったが、山室さんが担当され、今話でも細かいニュアンスの静的な場面と、アクション・シークェンスでは凄まじい画面を作られる。美術は渡辺さんが担当された44話。放送は2002年2月17日。
謎の少女! 奇跡を運ぶドーベルモン
脚本:小中千昭 演出:今村隆寛 作画監督:山室直儀 美術:渡辺佳人

Act.1は、テレビの報道特別番組を入れ込む構成。この頃の私が好んで使った構図。テレビを見ている視聴者を、そのまま目撃者にさせるメタ的なナラティヴ。

この時間は、えー、予定を変更しまして、西新宿で起こっている異変についての――

報道特別番組をお送りいたします。

依然として新宿は都庁を中心として、正体不明の空間が占拠し続けています。

え、現場近くに土岐アナウンサーが行っています。土岐さん――?
アナウンサー、フロア・ディレクターの指示や手元の原稿に目線が動く。

あ、はい。えーこちらはJR新宿駅を挟んで東側です。御覧の通り異常空間は日に日に拡大しており――
土岐アナは宮下さんが超絶にリアルな芝居をされている。

キャメラが土岐アナから向こう側にズーム。自衛隊車両が延々と繋がってる。
鉄道の機能を失いました。2月だというのに異常空間周辺は――

気温が30度(摂氏)を越え、大変暑くなっています。

淀橋小学校――。何と蝉が啼いている。西新宿は夏になっている。

まだ眠っているギルモン。

欠伸をしながら窓辺へ向かうジェン。積み上げた椅子の上にテリアモン。


タカト。

まるで、夏休みみたいだ……。

ぼくたちで、何とか出来るんだろうか……。とジェン。

俯くタカト。

どうかしたの?
昨日、加藤さんをぼく見たんだ。
えっ!?

加藤さんは、だって――
ガラっと扉を開いて留姫が入ってくる。

昨日、あの後ぼく、

松本の加藤さんのお母さんの家に電話掛けに行ったんだ。

なんか夜いないと思ったら、そんな事してたの? と留姫。

で?

急に風が強くなって、カーテンが揺れる。

カーテンの揺れが収まる。

加藤さん、いなくなったって。

えっ――。

でもおかしいんだ。いなくなったのは昨日の夕方で、 それまでは松本にいた。でも――

ぼくが見たのも夕方なんだよ……。

見間違い、って事ないよね……。でもあの子、こっちに帰ってくるまでずっと変だった。と留姫。
色々、ショックな事、あったから、とジェン。
でも、なんかそれだけじゃない気がして――と、タカト。

ぼく、ずっと胸が苦しくて――、

アナログのザッピング・ノイズ。
次に出てくるキャラクターの名前は、「ないはらと・てっぷ」と読む。ミスカトニック大学とは、H.P.ラヴクラフトの小説群に登場する架空の大学名。

異常空間は、ネットワーク監視システム――

ヒュプノスから現れたのでしょう。

ネットワークを監視するシステムは冷戦の時代から欧米で稼働してまして……、

ヒュプノスは昨年夏――、

やはり新宿に出現した巨大疑似生命体にも関係があると言われていますね。

教授:デジモンという仮想生物が――


この物質世界に、疑似生命的な肉体をもって現れた。西新宿の異常空間も

やはり、ネットワークの何者かが現れたと、私は見ています。
アナ:それはやはり、デジモンと関係が――?

教授:当然あるんじゃないでしょうか?

一秒程度だけカット・インされる、アリスとドーベルモン。

アナ:えー、これが、異常空間の内部です。

これは――、しかし……(絶句)。

映像提供は陸上自衛隊。

シャッターに貼ってあった紙が風でなびいている。

かつて山木が偵察に来た時にも、向かいにある写真館のガラスに映るカットがあった。
タカトが自分の家の前の紙を見つける。
あれ?

剥がす。

子どもたちへ
留姫さんの家に来なさい。
無署名

えっ!? と一番驚くのは勿論留姫。
だって。とタカトが念押し。

えええ……、と戸惑う留姫。

アナ:異常空間から――

正体不明の活動体が

現れています。

これもまた、デジモンなのでしょうか。その辺りを、1980年代にデジモンを開発、研究していたというロブ・マッコイ教授に伺っています。
マッコイ=ドルフィン。

あれは、デジモンとは全く異なる存在です。

デジモンは我々が研究していた頃に比べ――、
身振りが大きいアメリカ人。腕を拡げた時に写真額を倒してしまう。

飛躍的に進化を遂げて、ネットワーク内で独自の世界を作り上げています。

旧いVTRに切り替わる。
しかし本来デジモンとは

人間の――

特に子どもとコミュニケーションをとる事で、より強く、知的に進化する存在で、私たちの世界を消し去るなどしません。
この台詞の間に映し出される、ドルフィンの長男キースがデザインした初期のデジモンのデザイン画がモンタージュ。


キウイモン、ケラモン

メラモン

ジャガモン、ナイトモン

アグモン、かな?
パタモン、ヌメモンもいるが、テイマーズに登場したデジモンが多い。今話には相当量の情報が凝縮されている。小説「デジモンテイマーズ1984」の直接的な原作でもある。
ドルフィンがデジモンについて語る時と、デ・リーパーについて語る時の表情の違い。

今西新宿にいるあれは、全く別種の。より原始的な人工知性消去プログラム、デ・リーパーが異常進化したものだと、我々は考えています。

靖国通りを東へ、留姫の家に向かう一行。
留姫、突然立ち止まり――
これなんかの罠かも!

罠?

だって!

私、うちに友だち……(連れてきた事なんかない)。

とにかく、行ってみようって決めたじゃない。

レナモン姿を現す。

あ……。

留姫……。(と圧をかけるレナモン。もう保護者に近い)

わかったわよ!

行くわよ! 行けばいいんでしょ!
とスタスタと歩き出す留姫。その時――

反対側の歩道を走りぬけていく、少女の影。

あれ?

……。

右の方にこちらを向いて立っている少女――

息を呑んだタカト。
加藤さん……?

突如真っ白い空間になり――

少女の姿が目の前に迫ってくる。

この混沌の世界は一体なあに?

誰もが勝手に活動して生きている。

そんな事に価値なんてある?
樹莉の声であるが、口調は樹莉ではない。

愕然。


加藤さん……?

ADR-03の記録映像。

カーリー:ここを見てください。へその緒の様なもので繋がっています。
カーリーの本名がアイシュワリャ・ライ。パロアルト大学助教授。

デ・リーパーは本来、単に自らを増殖させ、そのメモリ・フィールドをゼロにしていくだけのものです。ところが――

ネットワークでデジモンを吸収した際、デジモンの活動能力を学習してデ・リーパーがよりアクティヴに動く為のエージェント――、

つまり肉体を作ったと見ています。

タカトを追って駆けるみんなの足。

タカトー!とギルモン。

どうしたの?
今、ここに加藤さんがいた……。

ええっ!?

誰か見た?
ぼくは何も。

いや、私も――

気配を感じた。

気配……。樹莉の?

そこまでは(判らない)。

いたんだ……。ここに……。
タカトを心理的に追いつめているシチュエーションは、やはりホラーのナラティヴだった。ホラーにしようと思っていなくても、ホラーになってしまう。
今話に登場する樹莉(ADR-01)のダイアローグは、やはり浅田葉子さんに演じて戴いた「serial experiments lain」(1998) での、岩倉玲音の抑圧的妄想の中で聞いた瑞城ありす(浅田さん・演)のダイアローグを想起させながら書いたのは事実だ。テイマーズの物語としては、「これは樹莉の姿をしているけれど樹莉ではないよ」というメッセージでもあった。