42話回顧 2
くりゅう!
クルモンは昌彦と遊んでいる。クルモンやテリアモンは、リアルに存在していても案外、普通に受け容れられそうだ。
転んでしまう。ぐっと我慢してたが――
泣き出してしまう昌彦。
くる……。
どうしちゃったんでーすか?
ほらほら、廊下を走り回るから。
おでこに触れて、痣にはなってないみたいね、と優しく接する静江。申し訳なさそうなクルモン。
いたくなーい、いたくなーい。
痛がっている子に言い聞かせる日本の古い慣習的な言葉。言葉を音に出す事で、力が生まれるという通年、言霊(ことだま)のまじないでもある様だ。
泣き止む昌彦。笑顔になった様だ。クルモンも喜んでいる。
良かったでクリュウ!
くる……? 背後に立った者――
樹莉――。
表情が読めず戸惑う静江――。
トイレ? だったらあっちの――
樹莉、昌彦を押し倒す。
いたくなーい、いたくなーい……。
静江の言葉をサンプリングして再生してるかの様。
浅田さんは全くニュアンスを込めず、ノーマルな演技をしているので余計に怖い。樹莉としての言葉を出す時に、ゲココ……といったSEがついている。
怖さのあまりに泣き出す昌彦。
樹莉、ちゃん……?
笑顔を作って見せる。
機能が高まっている樹莉タイプのADR。アフレコ時、記録の小川さんが角銅さんに、「ニヤリと笑うところ、リアクション(言葉じゃない息やニュアンスを現場ではこう呼ぶ)は要らないですか?」と問われ、角銅さんは「これは人間ではないので要らないです」と答え、効果音のみでこの笑顔になる。
クルモンの耳も縮む。
樹莉はどうしちゃったクル……。
中央線のダイヤは大きく乱れている。
逗子の叔母さんの家に電話しているタカト。
タカト? 母の美枝が出ている。
タカトでしょう!?
今どこ!?
早く逗子いらっしゃい、寄り道しないで!
叔母さんも叔父さんもみんな待ってるから――
タカト、受話器をそっと――
タカト聞いてる!?
タカト、大声で――
ごめーん! ぼく今帰れないんだ!
受話器を置いたタカトにギルモン、不安そうに――
タカト?
行くよ! とギルモンの手を握って走り出す。
新宿西口ロータリー。
バスターミナルには、陸上自衛隊の車両が集結している。
軽装甲機動車LAV。
野営のテントが張られ――
地図を拡げて対策を検討している。
装備はバイオ/ケミカル防備。
まだ大きな被害が出ている訳ではないが、得体の知れないものに占拠されているので、24時間ニュースとして報道されている。
珍しく爪を噛んでいる留姫。ずっと幼い頃、そうした癖があったのかもしれない。
人の作った武器で退けられる存在ではない。
レナモンはデ・リーパーへの人間の対応に冷徹な批評をする。
そんな事判ってるよ、と立ち上がる留姫(苛立ってではない)。
あ……、
部屋に戻ってきたルミ子。
また――、行っちゃうんだ……。
黙って俯く留姫。以前の様な辛辣な言葉はもう言えなくなっている。
ルミ子、笑みを浮かべて――
思い出すわ。ママが結婚する時ね、色んな人に言われたの。若すぎる、って。
え……。
ね、行くんだったらさ、これ着ていって欲しいな。
――優しい音楽が流れ始める。
割れていないハート。
ママ……。
ねっ。 おそろいの色違いラグランTシャツ。
以前は自分の着せたい服しか買ってこなかったルミ子、今は留姫の趣味に自分が合わせる。
うん、と小さく頷く留姫。レナモンも挨拶。
冬である。ボア・ジャケットを上に着込んで――
レナモンを従えて飛び出して行く。
レナモンはきちんとドアを――
閉めていく。
ここからルミ子はキャメラに顔を見せない。
優しい笑顔で近づく聖子。ルミ子は泣き声になるのを抑えて――
私、言わなかったよ。行って良い、って言わなかったよ――。
頷く聖子。留姫の事は当然心配しているが、今はルミ子の母親としての成長が嬉しい。
偵察隊の記録係が、ビデオキャメラの用意をしている。
第一特殊武器防護隊(練馬駐屯地)がリーコン小隊として派遣される。右に見えているのは化学防護車という6輪の装甲車。
ヴァイザーに映る――
うねうねと蠢くデ・リーパーの巨大泡。
このデ・リーパーが侵食しているところを、デ・リーパー・ゾーンと呼ぶ事になる。
これは、何です? と山木。
ヒュプノスが、何者かに乗っ取られた記録だよ、とジャンユー。
データが全てゼロに上書きされていく。
侵食はこれから更に拡大する――。
慄然となる山木。
とにかく、やる事だけはやろう、とジャンユー。
趙先生宅では――
い、いってきまーす……。
はーいよくできましたー。シウチョンがロップモンに、「普通の」会話を特訓中。
次は、ただいまー。
た、だいまー……。
はいよくできました!
ロップモン、振り向いて――
テリアモンに助けを求めるも――
モーマン……
タイ……。
我、疲れるなり……。と漏らしてしまうロップモン。
こらっ、われって言っちゃダメ!
ぼー
く!
なりもダメ! 何度言ったら判るの?
その背後では、趙先生とジェンが――
先生の言う通りでした。デーヴァには、デーヴァの正義があった……。
天気と同じだ――。
え……?
今は曇っているが、いつかは晴れる。晴れたり曇ったり、我々は万物を陰と陽に分けるが、どちらが陰でどちらが陽かは常に変わるものだ。
まるで今みたいだ……。二つの世界が互いの領域を越えて――
しかし人間は――、いや、それぞれの世界に属する者には、それが信じる正しき道がある。
え? とジェン。
正しき道がなんであるか、それが途中で間違っていたと判ったなら、更に正しき道を探し続ける。それが人の、その世界に生まれた者の――
生きる意味なのだ。
ジェンに趙先生の哲学が判ったのだろうか――。
新宿近辺、中野坂上にまでやってくるタカトとギルモン。見渡す限り無人の世界。
ええと――
こっちだ!
ねえタカト――、
これ脱いじゃダメ? ギルモン暑い。
見回し――、
警察の派出所も無人。
いいよ。
ぬひぃ。
ねえどうしてこんなに暑いの?
デ・リーパーのせいかも……。
でりーぱーって暑いの?
そ、それは……、知らないよ……。
デ・リーパー・ゾーン付近は温度が高いという設定にしたのは、あの赤黒い泡の見た目もあるが、春夏秋用のテイマーの衣装のままでいける様に、という配慮の意味もあった。留姫は少し変わるのだが。
首都高横羽線(横浜ー羽田線)を驀進するキュウビモン。その背には留姫。
封鎖されているが――
新宿エリアは、警察の機動隊によって封鎖されている。
1キロ四方は封鎖されている様だ。左のビルの隅から伺っているタカトとギルモン。
タカト……?
グラウモンに進化して突破……。
いや、それじゃダメだ……。そんな事したら敵だと思われちゃう。ただでさえ疑われてるのに。
んーでも、他に方法ないんだったら、ギルモン進化して――
待って! ちょっと、考えさせて。
う~~~~ん……。
そう……。牧野さん(留姫)、新宿に行ったの……。麻由美がジェンの前に座っている。
タカトも――、行ってると思う……。
そうなの。それで?
ぼくも行かなくちゃ!
行かなきゃって、行ってどうなるの?
それは……。
何をどうするのか、ちゃんと話してみてよ。
ほ、方法は――、みんなと相談して……。
随分、行き当たりばったりね。デジタル・ワールドではそれが通用したかもしれないけれど――
そうは行かないのが現実よ。
そうだけど!――
――反駁出来ないジェン。感情を抑えて理詰めで話している麻由美。
新宿に現れたあれが何かを知っているのは、現実世界ではぼくたちだけなんだ。ぼくたち、だけが――。ぼくや、タカトや留姫だけが――。だから、ぼくたちが黙って知らないフリなんて出来ないんだよ! お母さん!
嘆息を漏らす麻由美。
そう言えば、ジェンリャに話したっけ。中国人のお父さんと知り合って、何に一番びっくりしたかって――
――何? 急に……。
香港の友だちの家が火事になったの。そしたら父さん、会社休んで帰るって言い出して――。ちょうど仕事がバタバタしてた頃で、みんなで止めた。――でもお父さんは聞かなかった。困ってる時に助け合えなくって、何が友だちだ、って――。そう言って、香港に行っちゃった。
ありがとう。返すよ。
受け取るカーリー。
どうしてヒュプノスが停止したのか……。
どうしてヒュプノスを狙って現れたのか――。
ヒュプノスのせいなのか――!?
山木は重い責任に押し潰されそう。
――。
ジャンユー、山木に声を掛ける。
そういうとこだけ、そっくりなんだから……。
じゃあ!
でもお母さんは認めませんよ。
自分の子どもが危ない目に遭うのを望む親なんてどこにいるのよ!?
いるわけないじゃない! いたらおかしい――。
――でも……。
ごち、そう、さま……。
はいよくできましたー!
あ
テリアモン、手を振って挨拶。
とにかく、絶対に認めませんからね。
絶対よ!
――礼。
絶対に……、絶対なんだから……。
肩を震わせる麻由美。
感情を爆発させるところは34話で既に見せた。今話は、極めてロジカルにジェンの無謀さを改めて思い知らせる役割。しかしやはり面と向かって、送り出せる親などいまい。
心痛む、親不孝チャプター2。デジタル・ワールドへ行く時はタカトの親を描写したが、今話では留姫とジェン、それぞれを逃げずに描いた。
この5年後くらいになれば、子どもも携帯電話を持つ様になって、子ども同士で打合せという事が普通に可能になる(状況的に携帯電波が不通になっているかもしれないが)。
やはり携帯がもたらしたコミュニケーションの変革は、ドラマも変えてきている。今話の様な、テイマーのシンクロニシティとも言えるこの後の展開が、もう描けない。
留姫のTシャツがブロークン・ハートからアンブロークンに変更になった経緯が思い出せず、まさきさんにも聞いてみたが、映画「暴走デジモン特急」がこの頃から企画が始まっており、その時点でもうアンブロークンなデザインになっていた模様。同作の監督でもある中村哲治さんが、残り10話分の留姫の衣装を変えるという大胆な決断をされたのかもしれない。
勿論、この変更はドラマとして最大限に今話で効果的に見せられていく。
視聴者としても辛かったろうここまでのパートだが、それあってこそのAct.3が輝く。
山木はヒュプノスがデ・リーパーを呼び込んだかもしれないと恐れているが、この頃で三沢の米軍基地ではエシュロンが通信傍受施設を稼働させており、時代を下ると横田基地の方でもエドワード・スノーデンが勤務をしていた。今ならユタ州にあるというNSAの巨大サーバ施設が狙われてもおかしくないだろう。セキュリティは強固であろうが。
タカトたちは、デジモンの汚名を濯ぐという義務をも感じている。人間とデジモンで、この怪異を食い止めようとしている。