第40話回顧 3
このシリーズに関わっている間は、それはもうずっと考えてディテイルまでも把握しており、前にこういう描写があったからとかこうしよう、という事が出来たけれど、20年という年月は恐ろしいもので、今回こうしてブログを書く為にキャプチャをして、やっと思い出した事が遥かに多く、私がぼんやりと記憶していたテイマーズの物語は「あらすじ」ですら無かったという事実に愕然としている。
そうかぁ、こうだったかぁと。おかしいなぁ。2018年にニコニコ動画でも見直したんだけれど、やはりあの時はコメントが面白くてそちらを主体に見ていたのだと思い知らされた。
ともあれ40話の最後のパートは、山木の仕種に象徴される。
ジッポーを握りしめる山木。
ダメか……。
アークを飛ばすだけの膨大な処理計算を行えるのは――、ヒュプノス以外にはない。
もうダメだ……。と弱音を吐く山木に――
無問題。そう声にするジャンユー。
怪訝そうなシャッガイの技術員。
モーマンタイ。まだ手はある!
リュックは失ってしまったが、双眼鏡はまだ持っていた留姫。
一際高いメサに登って探している二人。
こうしたメサが荒野に多くある、とライター側から設定した事は無かったのだが、西部劇的な描写から、渡辺佳人さんがデザインされたのがメサ。
これは何なのだろうと疑問すら抱いた事もなかったが、今回見直してみると、ネットワーク創成期に、リアル・ワールドと直結していたパイプラインの痕跡ではないかと思えてきた。当然、現実世界がリニアに回転し続けるので無理が生じて廃棄された、パイプライン。或いは、創成期はもっと物理レイヤーは狭く、リアル・ワールドと近かったのかもしれない。
こういう考えを抱いたのは、2015年頃か、ロシアの映像作家が、こうした巨石は古代に伐採された巨大樹の切り株なのだという説を発表したという事もある。地球平面説(まさに四聖獣の領域はそう描かれていた)をネタなのか真面目になのか、信奉する人が出てきたのも同じ頃だ。
勿論私自身が巨大樹説、デスヴァレーは古代の採掘跡というその主張を信じてはいないのだが、テイマーズのデジタル・ワールドならば、先に述べた様な解釈をしないと、物理レイヤーの荒野にこうした山があるというのが説明出来ない気がするのだ。
ベルゼブモンの叫びが聞こえた、って……。
レナモン、うん、と頷いてから――
私は今まで、攻撃する事――
相手を倒す事だけを考えてきた。
うん、と返事をする留姫。
だが――、サクヤモンになって――
「守る」という事の大切さを感じた様な気がした。
留姫は感じなかったか? と一歩前に出て訊く。
守る事の大切さ――。うん、判るよレナモン。
その気持ち、私にも判る――。優しいトーンで言う留姫に――
私はインプモンを連れて帰ろうと思う。とレナモンはバンダナを持ち上げる。
どう思う? とレナモンは留姫に問う。
留姫、視線を外して――
少し考えている留姫。しかし――
急いで見つけないと、箱舟に乗り遅れちゃうね。
そう言ってバンダナに触れる。
安堵して頷くレナモン。
出発の時間までには必ず戻ると約束した。
急ごう!
留姫の逡巡は、他の子どもたち、誰より樹莉が嫌な思いをしないか、だったろう。しかしその樹莉がベルゼブモンの命を救ったのだ、と留姫は思い返す。レナモンの判断は正しいのだと確信した。
ワイルド・バンチが黙々と何かをしている。
一体何をしようとしているんです……?
世界中にいる仲間たちの、パソコンの空きメモリを使わせて貰うのさ。
足りない分のメモリを、あちこちのパソコンから借りると……?
そうだ。更にネットで全国に呼び掛けて、協力者を募る。
一台でも多くのパソコンで、アークを動かすだけのメモリを確保するんだ!
小さめな音量だがBGM「捜査」が流れ始める。
どこかの主婦。あら?
大勢の子どもたちを助けるために、私たちに協力してください ?
怪しい詐欺メールではない。
新幹線車中――
カフェー――
幅広い年齢層――
ここで鳴る音は電話線を介したネット接続するモデム機器のネゴシエート音。2021年となっては、ノスタルジーの音になった。2001年には、ADSLのブロードバンド接続が都市部で部分的に始まっている。
前に、2001年にはWi-Fiはまだ無いと書いたが、IEEE802.11bのホットスポットでの無線LAN使用は可能だった。新幹線などでも利用が出来たのかもしれない。ただまだWi-Fiとは呼ばれていなかった(この規格自体は成立していた)。
パソコン教室――
お母さん! 早く支度してよ! とルミ子。
留姫が帰ってくるんだから!
あー判ってるよと背中で返事する聖子。
でもちょっと待って!
きっと留姫たちだ……。
無事帰っておいで、留姫……。
聖子がパソコン通信のハードユーザだというのは、7話で紹介していたが、こういう場面を想定していた訳ではない。
進捗を見ていたジャンユー――
はぁ、もう大丈夫だ……。
世界中のボランティアが参加している。
凄い! 予測を遥かに上回るアクセスです!
バベル、カーリー、至急軌道計算を再開してくれ! 何としても日没までにアークを飛ばすんだ! 檄を飛ばすドルフィン。
流石だよ、ワイルド・バンチ。
ライターをそこに置いて――
黙って部屋を出て行く山木。
あと、10分だよ……。
タカト、あれ! とギルモン。
緑色の光の柱が降りてくる。
あれが、光の軌道?
ピンク色の光の柱には非道い目に遭ってきたが、この色のものは初めて。
急ごう! 時間がない!とリョウが皆を走らせる。
這って進もうとしているインプモン――
ああ?
インプモーーーン!
名を呼びながら走る留姫とレナモンの姿が――
れ、レナモン……?
インプモン――
立てるか、とレナモンが差し出した手を払うインプモン。
へっ!
あったりまえだろ!と無理をして立ち上がる。
一緒に帰ろうと留姫が言う。
なっ、何言っちゃってんの!? バッカじゃねーのか!?
留姫、バンダナを持って――
笑顔で近づく。
黙ってインプモンの首に巻いてやる。
!?
当惑するインプモン。
小声で、
ばかだよ、お前ら……。
ほんまもんの、ばかだ……。と消え入りそうな声。
その時!
夜だ!
光の軌道は安定した様だ。
夜になってしまった!
アラームが鳴る。
時間だ……。
はっ!
光の軌道の中を通って――
アークが現れた!
降下してくるアークの尾部。
地上より少し高いところで静止するアーク。デイジーのデザイン通りの姿でデジタル・ワールドにメタファライズした。
尾部が光って、開いていく。
受信。
時間がない! 早く乗れ! チャンスはこの一度きりだ!・・・山木
読みあげるタカト。
でもまだ留姫とレナモンが戻ってないよ!
搭乗者を待ち受けているアークだが――
まだ動けない一同。
スリリングな曲のエンディングで、ホワイト・アウト――。
というクリフハンガーで40話が終わる。私が担当の41話と直結なので、どういう引き継ぎをするかを前川さんとは密に行った。
すんなりとアークでタカトたちが帰ってくる――という展開はないだろうと思った。あれだけの決意をして、かなりの高さから転落してまでやってきたデジタル・ワールドなのだ。
デ・リーパーはすぐに後を追って現実世界に侵出する。リアル・ワールド球への攻撃的な干渉は、今話で見せた時だけではなく、タカトたちがデジタル・ワールドに来て以来、時々行われたものと想定していた。今話で西新宿が謎の地震が群発しているという説明はそれを表す。だが山木はまだデ・リーパーの存在を知らず、タカトたちの敵、デジモンの「神」の仕業だと想定している。以前、電波ジャックをして警告をしてきたのがスーツェーモンであったのだから無理もない。
ヒュプノスの物理的なパワーでワイルド・バンチが救出する、というのをぼんやり考えていたが、どうにも盛り上がらない。そこで、ネットに繋がっている人が世界にいるのだ、という現実の状況でイヴェントを作ろうとした。
これはデジモンでも「ぼくらのウォーゲーム」で近い描写があったのは知っていたから、ちょっと迷ったのだけれど、もっと現実にあったSETI@Homeといった分散コンピューティングのリアリティを盛り込めば成立すると考えた。
子どもたちが破壊的なデジモンを、仲間のデジモンと共に戦って町を守っていたという事は、世間の人は知らない。だがこれからは、もっと大事が起こる。子どもたちの存在を、作中世界の人々に知らせる意味もあった。
アレシボ天文台のデータを用いて地球外知性を探索するという壮大なSETI@Homeは、1998年に始まって、2020年まで続いて終了した。アレシボ天文台が機能を停止したからだが、人々の関心も失われていたと思う。
その後にも重力波を検出しようというEinstein@home、タンパク質構造予測をするFolding@Home(COVID-19でも使おうという動きがあった)などがあった。
だが、この10年の間にそうした分散コンピューティングによる大きな成果を得ようという熱は冷め、台頭したのが仮想通貨マイニングだったという……。
テイマーズの時代の「近未来」は、実に味気ないものとなっていた。今なら、そうしたプロジェクトに参加して欲しいという依頼のメールも、詐欺行為だと疑われて当然だ。
だが、テイマーズの近未来には嬉しい事もあった。
私が2017年に、ずっと避けていたTwitterのアカウントを開設すると、世界中のlainファン、テイマーズファンがフォローしてくれている。私のアカウントはフォロワーの6割以上が海外の人なのだ。
この放送20周年ブログも翻訳ツールで読めるし、キャプチャ画像を眺めるだけでも世界のそれぞれの言語に翻訳された番組の記憶を甦らせているのだと思う。
2001年に子どもだった人達が、これからの時代を作るのだ。
それを思うと、このテイマーズの物語に私たちが込めた最大のテーマである、「運命は変えられる」(何もしなければ変わらない)というメッセージが、この困難の時代を生き抜く心の支えになっているのかもしれない。
20年もこのアニメのディテイルまでよく覚えてくれている人達が世界にいる。このアニメを苦労して作り上げた、私たちスタッフ、そしてオリジナルのキャストの熱量が、このシリーズには今尚息づいているのだ。
#40 Credits (今話から表記方法が変わった)
ギルモン/ナレーション:野沢雅子
松田啓人:津村まこと
テリアモン/ロップモン:多田 葵
李 健良:山口眞弓
レナモン:今井由香
牧野留姫:折笠冨美子
加藤樹莉:浅田葉子
クルモン:金田朋子
ベルゼブモン/インプモン:高橋広樹
ガードロモン:梁田清之
塩田博和:玉木有紀子
マリンエンジェモン:岩村 愛 (NEW)
北川健太:青山桐子
李 小春/鳳麗華:永野 愛
サイバードラモン:世田壱恵
秋山 遼:金丸淳一
山木満雄:千葉進歩
ドルフィン:菊池正美
李 鎮宇:金子由之
松田剛弘:金光宣明
バイフーモン:辻 親八
チンロンモン:小杉十郎太
シェンウーモン:八奈見乗児
スーツェーモン:森山周一郎 ご出演はここまで。有り難うございました。
原画:野津美智代 大谷房江 大河内忍 西田浩二 川口千里
動画:高田洋子 佐藤元昭
背景:スタジオロフト 井上徹雄 阿部とし子 劉 基連
デジタル彩色:山内正子 内藤道代 村本織子 星川麻美
デジタル合成:三晃プロダクション
広川二三男 則友邦仁 峰岸智子 大西弘悟 金子直広
演助進行:徳本善信