第37話回顧 3
テリアモンの究極体のデザインを最初に見た時、実はかなり困った。一番小柄なテリアモンが、セントバーナード犬型で最も巨大になるというのは、ギャップとして面白い。しかし重火器装備の歩く要塞的なこの巨大ロボにどういう活躍をさせられるだろう。ガンダムで言えばガンタンクの様な、ポジションとしては愛されるものの、あまり活躍の場が与えられない状態になるのを危惧した。
ジェンリャがカンフーを習っている事にしたのは、このセントガルゴモンのデザインが元になっている。火器装備と装甲は分厚いが、意外と細い手足――というのは渡辺けんじさんのデザインの一つの特徴でもある。これを活かして、躍動的にアクションをさせようと思ったのだ。しかし小学生がそうそう格闘に優れる筈がない。誰か「師匠」に学んでいないと説得力がない。
という事で趙先生というキャラクターが作られ、当初は名前だけを出して、後に実際に道場での稽古場面が描かれた。そして、その稽古の様子をテリアモンも見ている必要があった。ジェンだけが自分の動きをイメエジしても、それを肉体化させるのはテリアモンだからだ。
趙先生には、デーヴァの一般論的な解釈を視聴者に説明する役割も担い、この一貫は前川脚本で通底された。
セントガルゴモン進化バンク。コンテ/演出:荒牧伸志 作画:中鶴勝祥
マトリックス・エボリューション!
テリアモン進化!
貝澤さん演出/すしおさん作画のガルゴモン進化バンクを踏襲し、3Dで描いている。
「One Vison セントガルゴモンVer.」のイントロはギター・ベースがユニゾンのハードロック。
頭部は全過程を見せる。
セントガルゴモン!
ここから歌頭。
朱雀門から光が走る。
クルモンは、誰が何と言っても、デジモンくりゅ。
必死に登っていく。
こんなとこ、居たくないくりゅ!
だからまだ進化種鞘部にいる。朱雀門から更に向こう側。
くりゅ!?
あ~、あの光、暖かいでクル。
新たなる進化……。
すごい、と漏らすタカト。
留姫、D-Arkで表示。
セントガルゴモン、究極体マシン型デジモン。
必殺技は、ジャイアント・バズーカ。
はっ
ぼくがデジモンになっちゃったのか?
テリアモンの声で――
ていうか、ぼくたち一つになっちゃったのさ。
ああ、感じるよ。君のパワーがぼくに流れ込んでくるのが判る。
ぼくもさ、とテリアモン。
いくよ! テリアモン!
オッケー! ジェン!
セントガルゴモンはテリアモンは全く精神的には変わっていない。また身体技能はジェンの方が司っている様だ。
人間とデジモンが共に進化するだと?
許すまじ! 断じて許すまじ!
スーツェーモン、城内なのに羽根を拡げる。
崩れていく天井。
瓦礫へ――
上部階層が崩れ落ちた。
メガログラウモンが、タオモン!と叫ぶ。
子どもたちをシールド結界に。
背部バーニアを噴射し上昇するセントガルゴモン。
スーツェーモンに向かい――
はぁあああああっっ!
破ッ!
これはテリアモンの声。
拳の勢いでスーツェーモンがまとう炎を払う。
てあああああああっっ!
ふんっ!
だああああっ!!
うはっ!
どあああああああっっ!!
でえい!
苦痛の呻きを上げているスーツェーモン――
火器統制はテリアモンが担当。
バーストショット!
ワンカット。
苦しむスーツェーモン。
最早許さん!
許さないのはこっちだ!
ジャイアント・バズーカ!
方向制御板が展開し――
笑顔に。
炎を消し去って――
直撃!
地が割れ奈落へと転落していく。
やったね、ジェン!
うん! ありがとう、テリアモン。
崩れてしまった朱雀門。
奈落の深淵を見るが――、何も見えず。
デジモンと人間、神をも倒す力……。ロップモンの心の呟き。
さあ、クルモンを探しに、と言いながらジェンが振り返った時――
はっ!?
奈落から突如膨大なパワーが。
火の玉が虚空に上り――
朱雀の姿に――
ああっ――。タカトの失望する声。
嘘でしょう――。留姫の呆然とする声。
真なる究極進化を果たしたセントガルゴモンだが、 スーツェーモンは真なる敵ではないのだ。だが今のタカトたちにはまだそれが判らない。
人と大型ロボットが一体化するという例は、かつて幾つかあった。だが、最初に私がイメエジしたのはデュークモンが「宇宙の騎士テッカマン」に似ている(白い西洋甲冑)と感じたところから始まる。私が一番好きだったタツノコプロのアニメが「テッカマン」だった。主人公は茨の様なワイヤーに取り巻かれてペガスという「馬」役にもなるロボットの中でテッカマンに変身する。変身する時、主人公はその苦痛に堪えていて、荒牧さんと相談していた時、よく例に出していた気がする。
「勇者ライディーン」など、融合(フェードイン)までは魔法的なものの、実際に動き出してからはコクピットで「操縦」するので、これらは参考にはならない。「アストロガンガー」は、子どもが融合するが、融合している時の内的描写はなかったと思う。
ジャンボーグA、同ナイン、或いはTHE ビッグオーみたいにマスター・スレーブ方式(操縦者の動きにロボットが追従する、という意味なのだが、この言葉自体も狩られているのかもしれない)に見えては絶対ならない。
だからテイマーズで描こうとしているものには先例となるものが殆ど無かった。光の帯でデジタル感を演出しているものの、実のところここで描いているのは、かなり精神的な結びつきなのだ。小学生にしては過酷に過ぎる通過儀礼を経て、やっと辿り着くのだ。だから「融合」などとは言葉にしないし、あくまでこれも一つの「進化」なのだとしか言えない。光の球体の中にいるジェンは、その精神だけが抽出されている状態なのだ。普段の洋服を着た状態だと、特にセントガルゴモンは「操縦」している感が出てしまう。今話では、気合いがジェンで、実際の打撃の時はテリアモンと分けていて、よく分担されている感が生成されていたと思う。
人間を意識や記憶なども含めて、その全てをデジタル化する事は可能なのか――という事が、昨今研究されている。人間の記憶というものが、全て海馬という脳の部位に局在してる訳では無い事も判ってきている様だ。殆ど不可能にも思えるが、例えば遠宇宙への旅をするという時、人間の肉体のままで航宙機に搭乗していても、そう長い寿命は望めない。だからコネクトームという、人間の脳、記憶、感覚などの神経系全てを符号化したものに変換する事が考えられているのだ。
究極の不老長寿化とも言える、これもトランス・ヒューマニズムの一つの考えである。私はフィクションの作家であるから、これもネタの一つとして面白いと感じるが、自分自身はどうかと言われたら、到底そんなものは望まないけれど。
#37 Credits
ギルモン:野沢雅子
松田啓人:津村まこと
テリアモン~セントガルゴモン:多田 葵
李 健良~セントガルゴモン:山口眞弓
レナモン~タオモン:今井由香
牧野留姫:折笠冨美子
加藤樹莉:浅田葉子
ガードロモン:梁田清之
塩田博和:玉木有紀子
北川健太:青山桐子
ロップモン:多田 葵
李 小春:永野 愛
スーツェーモン:森山周一郎
原画:出口としお 中鶴勝祥
動画:篠原悦子 吉川真奈美
背景:スタジオロフト 井上徹雄 阿部とし子 劉 基連
デジタル彩色:村田邦子 鏡沼孝子 星川麻美 大谷和也
デジタル合成:三晃プロダクション
広川二三男 則友邦仁 白鳥友和 佐伯栄範 寺尾友絵
演出助手:まつもとただお
製作進行:坂本憲知生