第37話回顧 1
いよいよ、《デジモンの神》が姿を現す37話。前話に引き続いて前川さんが脚本。ジェンとテリアモンの試練を描く。演出は梅澤さん。作画は進化バンクを除いて出口さんの一人原画。美術は清水さん。
対決スーツェーモン! セントガルゴモン究極進化
脚本:前川 淳 演出:梅澤淳稔 作画監督:出口としお 美術:清水哲弘
向こうに見える構造体が南大門。
そこを抜けてくる――
クルモン救出チーム。
あれに見える赤き場所こそ、朱雀門。スーツェーモンの城なり、とロップモン。
そこに至る――
あそこにクルモンがいるんだね……。
リングのところまでは歩いて行かねばならない。
ロップモンを乗せて、うほ、うほっと言いながら渡っていくギルモン。
とにかく、シウチョンを早くリアル・ワールドに帰さなきゃ。
険しい顔と声のジェン。
その為には、クルモンを救出するしかないんだ。
ジェン……、とタカトは声を掛けるが――、
テリアモンは大丈夫?
結構間合いをとって、え……。
やだなー。
ぼくの事なら心配ないからさ。早いとこスーツェーモンやっつけて、クルモン連れて帰ろー。
そうだね、とタカト。
黙って歩く留姫とレナモン――。
ここから時制が戻る。
34話の冒頭で見せた「四聖獣の領域」の鳥瞰図。赤い部分がスーツェーモン、朱雀門。そこから海を渡って滝が落ちるところに南大門がある。
今話はもしかしたら、コンテでシナリオから時制をテレコ(という業界用語。入れ替える事をテープレコーダーを模してこう呼んだらしい)になっているかもしれない。時系列的にはここからが最初の時制となる。
というのは、ここから始めると重いからだ。
かつてアンティラモンが守護していた、南大門へ渡るゲート前。
いざスーツェーモンにクルモンを返して貰いに向かうのだが――、
一人離れて座っている樹莉。
――加藤さん……、ぼくも、もう誰もいなくなって欲しくない。だから行かなくちゃいけないんだ。
留姫も心配で見に来る。
樹莉は最初から戦いたいなんて思ってなかったよね。私だってもう戦いが楽しいだなんて思ってない。でもこれは逃げられない戦いなの。
ここで待っててよ。みんなで帰ろう。
みんな……? レオモンは、いないよ……。
樹莉の精神状態も危うくなりつつある。
ノイズが映っているだけのD-Arkを見つめ続けている。(これが良くなかったのだが……)
うなだれるタカト。
早く帰らなくては――、でもその為には……、
ダメだ! とジェンの強い声。
いやだ、私も一緒に行く!とシウチョン。
我が儘言うなよ、さっきも痛い目にあったばかりだろう! ぼくたちがこれから行くのはもっと危険なところかもしれないんだ!
優しいバラード曲がBGMで流れる。痛ましい場面を少しでも軽くしようという梅澤さんの配慮かもしれない。
ロップモンは?
我は行く。これ以上の戦いを避ける為に。
いや~っ!とロップモンを抱き締めるシウチョン。
ロップモンは言い聞かせる様に――
敵わぬかもしれぬが、スーツェーモンも我の言葉なら耳を傾けてくれるかも知れぬ。
じゃあテリアモンはここにいて。テリアモン、けがしてるんでしょ?
モーマンターイ
ケガなんて大した事ないって。ぼくも行かなくっちゃ。
泣き出す寸前。
やーだー! 行っちゃやーだ!
泣くな!と怒鳴るジェン。
頭を掻きむしる。
ほっといて行こうみんな、と背を向けるジェン。
でも、とタカトが駆け寄ってくる。
私も行きたい、とジェン兄の腰にすがると――
うるさい!――と手を上げる。
ジェンが急に振り向いたから尻餅をついたのだが――
ストレスを更に抱え込む。
お前が! お前が聞き分けのない事言うからだろう! いいか!? ぼくたちは行かなきゃいけない! でもお前を連れて行く訳にはいかないんだ! はっきり言って足手まといなんだよ!
あまりの激しい拒絶に、シウチョンは泣き出す。
いつものジェンらしくない、とレナモン。
無理ないとは思うけど、と呟く留姫。
ジェン、いいよシウチョンも一緒に――
あとは俺とケンタに任せなよ、と口を挟むヒロカズ。
え? と見る一同。
俺だって本当はガードロモンと一緒に行きたいところだけどさ、しょうがねーじゃん、俺とケンタがここに残るよ。加藤とジェンの妹は俺たちが守る。
な、ケンタ。
えっ……。
やっぱ女子だけを残しては行けないからね、男子としてはさ!
ありがとう、とジェン。
男子としてはいいとこあるじゃん、と留姫。
うるせーよ!
ジェン、平静に戻って、シウチョン、待っててくれるね?と訊く。
うん……。
ロップモンは何か言いたそうなのだが、こうした時に何かを言えるだけの社会性をまだ持っていない。
じゃ、行ってくるね。
ここから南大門を抜けて、輪の橋の前まで来たところの時制、冒頭の時制に戻る。
あまりにも朱雀門は遠い。
ギルモン、不安そうに、歩いて行くの?と訊く。
心配無用、とロップモンが進む。
輪の中に入ると――
一同も中へ。
すると泡に包まれる一行。これは32話でジェンとタカトらがハンギョモンの海域からSHIBUMIの図書館に向かう時にも登場。データとしている子どもとデジモンがパケットとなって高速伝送される。
パケットが急速に発進。
らくちんだね、タカト。
ジェン、未だ憤りを抑えられない。
シウチョンの奴――
ロップモン以外全員が見る。
なんでデジタル・ワールドに来たんだよ……。
我に遭う為――。ロップモンが言う。
かもね、と留姫。
何もシウチョンまで来る事無かったんだ!
だけど来ちゃったんだからしょうがないよ、とタカト。
だから!
早くクルモン助けて帰るんだよ! 向こうじゃお父さんたち、大騒ぎしてる!
あ、と我に帰り――
ごめん。
ジェンは本来、責任感の強い性格だった。しかしデジタル・ワールド行きは、結局言い出せずままに来てしまった負い目があった。それに輪を掛けて、幼い妹まで来てしまったのだから、追いつめられている。
私のママたちは――、心配してるかな……。
多分大丈夫だよ。元気でやってる、ってメールしといたからさ。
えっ、何よそれ、どういう事?
あ、話してなかったっけ。
32話のリプライズ。
留姫たちと別行動してた時、リアル・ワールドとメールで連絡がとれたんだ。
じゃあタカトが私のフリしてママにメールしたっていうの!?
だっ、だって今一緒にいませんなんて書いたら心配するでしょ? だから留姫になったつもりで、その……、
ごめん。
何であやまるのよ。
ええ?
ありがとう……。
へ……。
でもまさかハートマークなんかつけてないしょうね!?
!
34話ではタカトが台詞でメール文を読み上げただけなので、これは新規作画。
○心配しないでね・・・ルキ♡♡
2000年代初頭までのインターネットでは、機種依存文字というのは忌み嫌われた。MacとPCで扱う文字コードが異なり、特殊記号は文字化けを起こす元だったからだ。ただ、ハートマークだけは共通していた記憶がある。
も、もちろんつけてないって(声裏返る)。
あっ! 今視線逸らしたでしょ! 私の目はごまかせないわよ! つけたの? つけたのね!?
テリアモン、大丈夫? ごめんね、無理させちゃって。
モーマンターイ。ぼくの事は心配しないでー。
ありがとう、テリアモン。
テリアモンに向かう時は平静を取り戻しているジェン。
しかしテリアモンの身体には異常が起こっていた。テリアモンもデータ崩壊しかねない程に悪い状態になっている。
遂に朱雀門にせ
巨大なる城。その中では――
我らの領域を穢し、忠実なる十二のしもべを亡きものににした人間ども――。
その人間を守る愚かなデジモンを、我は絶対に許さん!
燃え上がる炎。
ついに停止するパケット泡。
到着したので消失。
ここがスーツェーモンの城……?
ギルモン、見上げて、おっきー。
と、扉が開いた。
ギル。(久々の野沢さんのリアクション「ギル」)
門が――。
開いた、と留姫。
すぐさま本能を剥き出しにするギルモン。
総毛立つレナモン。
テリアモンも険しい顔に。
ギルモンどうしたの!?
感じる――。とてつもない怒りを感じる。恐ろしい程だ。少しでも気を抜くと押し潰されてしまいそうな怒りを――
進む一行。
デーヴァが謁見する広間の前に。
神よ! 我の言葉を聞き給え!
扉が開き始める。
神よ――
燃えさかる炎――
炎の中から姿を現す――
我が名はスーツェーモン。
このデジモンの世界を護る――
聖獣神なり!
これが、デジモンの神様……。
ギルモンは唸り続けている。
で、でかけりゃいいってもんじゃないわよ……。
決意しているジェン。
クルモンはどこだ!? クルモンを返せ!
返せだと?
この地以外のどこに返せと言うのだ。
デジエンテレケイアのあるべき場所はここなのだ!
デジ、エンテレケイア?
クルモンの事を言っているのかも。
ジェンの心は急いている。
早くシウチョンをリアル・ワールドに返さなきゃ。その為にはクルモンを助けなくちゃ――。ぼくが――
ぼくがやらなくちゃ!
両肩を叩かれる。
何が、ぼくがやらなくちゃよ。
留姫、レナモン……。
ぼくたちが、でしょ?
タカト、ギルモン……。
そうだ! ぼくたちみんなでやらなくちゃ!
テリアモン!
オッケー! 任せといて!
と声は勇ましいが――
耳の一部がデータ分解しかけている。
保ってくれよ、ぼくの身体……とテリアモンのモノローグ。
一気に完全対まで進化だ!
デジエンテレケイア、というクルモンの前身というか進化の力については後のエピソードにて。
今話のジェンの心理状態やテリアモンのコンディションなどは、前川さん独自な作劇。
四聖獣の領域の構造は、私は関与しておらず、貝澤さんと渡辺佳人さんがヴィジュアライズしたもの。中心に深い孔があって、そこにクルモンがいるのだという事は私が指定していた。
徐々に抑鬱状態になっていく樹莉の過程を見ると、またも後年の「神霊狩 –GHOST HOUND-」との共通項を見出してしまう。精神的トラウマ、PTSDから如何に脱するかという事が、「神霊狩」のライトモチーフになっていたのだ。しかしテイマーズの樹莉は、徐々に異なる存在の関与によって意味合いが変わってくるのだが、しかし「もう誰もいなくなって欲しくない」という言葉の意味は、字義通りだった。「もう」というのがレオモンが最初ではないというのも、今後に明かされる。