第35話回顧 2
ヒーローのシリーズ物の場合、ルーティンとして毎回バトルがあるなら、端的に短く、印象的に描く。特撮であれアニメであれ、現場に負荷が掛かる。
テイマーズには毎回必ずあるという訳ではないバトルだが、それがあるという回のアクションは極めて濃い。今話は結局、ベルゼブモン対メギドラモンの対決だけの一話だとも言える。最後のシークェンスで真なる究極進化をするが、その結着は次回に持ち越される。
力が拮抗している者同士の対決を描くのは難しい。
こんな奴に、俺は……!
メギドラモン後方の空に光一閃。
プラズマ球体で移動してくる、マクラモン。
何をしておるのだ!? とマクラモン。
こんな戦いを続けていたら、この我らが神の領域のみならず――
この世界(デジタル・ワールド)そのものまでをも破滅させてしまうぞ!
うっ、うるせえ!と返すベルゼブモン。
マクラモンは続ける。
愚かなるチャツラモンめ! こんな異常進化までさせて兵を造るなど!
うるせーっつってんだろう!
ベルゼブモン、腕を伸ばしてマクラモンを掴んでしまう。
なっ、何をする!? お前は神の力で進化させて貰っただけの卑しいデジモンでしかないのだ――ぞ――
一瞬嗤い――
おりゃあああああああ!!!
神の使い、デーヴァを、お前は――
マクラモン、量子破壊。
そのデータをベルゼブモンは――
デーヴァを――ロードした……。
満身創痍のキュウビモン、立ち上がりながら、最早、あれは悪魔と口にする。
キュウビモン!?
ダメ! そんな体で!
ラピッドモンも続いていく。
よせ! ラピッドモン!
このまま戦いを続けたら、この世界が壊れちゃう! だとしたら、あいつを止めなきゃいけないんだ!
苦渋のジェン。
留姫――、覚悟を決める。
そう、そうなんだよね!?
マトリックス・エヴォリューション。
キュウビモンをタオモンに進化させる。
マクラモンをロードしたベルゼブモン、力を増した。押し潰そうとしているメギドラモンの顎を、持ち上げていく。
接近してくるタオモンとラピッドモン。
ベルゼブモンを今なら倒せる――
ゴールデン・トライアングル!
梵筆閃!
待っていたベルゼブモン――
腕を突き出し――
タオモンとラピッドモンに向けてパワーを――
あいつはマクラモンをロードしている――。その力を自分で使えるんだ――。
逃げろ! ラピッドモン!
逃げられない……。とラピッドモン。マクラモンの宝玉に囚われている。
タオモン、宝玉を割ろうと梵字を繰り出すが――
3Dの梵字は初。これは角銅さん御自身の手によるものか?
梵字も消滅。
留姫、絶句。
お前らも後で喰ってやる。
喰って喰って、俺は最強のデジモンになるんだ!
宝玉の中の姿、不安定に。
タオモン……。
このままじゃ――、ロードされちまう! くそう――
はっ、と気づく。
一枚のカードを選んだ。
留姫! エイリアスのカード!
分身?
はっ!
今後、クライマックスはこの二人も究極体での進化をする。テイマーズのデジモン支援方法、カード・スラッシュはまだこれで終わる訳ではないが、有機的に使える場面を描いておきたかった。
カード・スラッシュ! 「エイリアス!」(分身)
5話で留姫が使ったカード。
宝玉からテリアモン、レナモンが抜け出せた。
玉の中で、完全体データが量子崩壊。
二体のデータをロードするベルゼブモン。
助かったけど……。
完全体の力、全て奴に……。
理性を無くしたかに見えるベルゼブモン、狂気の様に声を上げる。
のしかかるメギドラモンの顎を――
自らの腕を伸ばしてまで持ち上げ――
ああっ!
この辺りからヴァンデモンのテーマ曲(デジモンアドベンチャー02)が流れる。ゴシックホラー風のオルガン。まさにぴったりである。
喉をダークネス・クロウで引き裂こうと構えているベルゼブモン――、その身体に異変が起こり、痙攣し始める。
右側の肩が不自然に盛り上がっていく。
悶絶している。
ラピッドモンの片耳が突き出す。
次に左肩が盛り上がり――
タオモンの肩の垂直翼的なパーツが突出。
身体の中でラピッドモンとタオモンのデータが抵抗している。ベルゼブモンに同化されるのを。
喘ぎ苦しみ、声を絞り出すベルゼブモン――
渾身の力で肩から突出したものを――自身の体内に収めていく。
がああああああああああああああ!!!!
拳を握り――
凄まじい威力の鉄拳をメギドラモン顎に打ち込む!
何度も、何度も――
メギドラモンも打たれる度に苦悶の声を上げる。
やめてえええええええ! やめてよおおおおおお!!!
最後の一撃。
仰け反り倒れていく――
だがこれで終わりではない。
もうキャプションは必要あるまい。
この煙に倒れ込んで煙に包まれたメギドラモンの描写が続き――
アイキャッチ。で、CMに入る。これに救われた気分の視聴者は少なくなかった筈だ。
ベルゼブモンは究極体とは言え、身長が2mもないデジモンだ。それが巨大なメギドラモンを倒すまでのパワーを、どう納得させられるだろうと考えて書いたのがこの展開。
普通は脚本で「上回るパワーで勝つ」なんて書いて、演出家に任せるのが本道かもしれないが、私は理詰めでないと自分が納得出来なかった。マクラモン、タオモン、ラピッドモン、その場にいる全てのデジモンをロードしたパワーなら、前話までのベルゼブモンにプラスされ得る。
身体がグロテスクに変形する表現というのは、「serial experiments lain」でも英利政美がリアライズする時に内臓表現も用いて描いた事があるが、こちらは日曜朝の子ども番組。血などは絶対に見せられない。ラピッドモン、タオモンのパーツは肉体ではなく、クロンデジゾイドというデジモン金属だから、それほど抵抗は無いだろう。最終的にはそれらも自らの躯にベルゼブモンは収めてしまうのだから。
この怪奇的描写は、ベルゼブモンという特異なキャラクターの見せ方としても決定的になるだろうと思い、角銅さんと相談してこういう描写をした。キャプチャでは判らないが、肉体変形は小刻みに前後するモーションで進行し、見ている側にまで力が入る。
まだまだ終わらないが、高橋広樹さんはこの回のアフレコで最低でも一日の喉は痛められたのではないか、と20年後に心配している。