第34話回顧 3
記し忘れていたが、今話は八島さんの一人原画+徳重さんの一人背景。勿論他の多くのスタッフと共にこの映像を作り上げているが、根幹の二部門を一人で描き上げるテレビアニメは当時の東映アニメしかなかっただろう。
アクション描写のダイナミックさと、キャラクターの感情表現が大きいというのが八島さんの特徴で、今話はそれなくしては成立しなかった。
芝田さんはインプモンのエピソードを軸に担当されてきた。今話のベルゼブモンを、どういう想いでコンテを描かれたのか、聞いてみたかった。
ずっと後年、「怪~AYAKASHI」の「四谷怪談」最終話(4話/大詰め)で、実写撮り込みとかいう無茶な要求をするシナリオを芝田さんには演出して戴いた。
さて最も重いパートに入っていく。
最早インプモンは過去を断ち切っていた。キュウビモンにダブル・インパクトを撃つ。
直撃は免れたが――
シウチョンを守っているロップモン。
その前にガードロモンが――
乱暴者は――
許さんです!
ディストラクション・グレネードを撃つ!
笛を吹きながら飛んでいくグレネード弾。
ガードロモンの口調は、浦沢さんの書かれたものを参照していたと思い込んでいたが、31話は殆どアンドロモンで、ガードロモンになってもアンドロモンの口調のままだった。どうも私は、もし浦沢さんならこう書くだろう、とシミュレーションをしたのかもしれない。
ガードロモンをメイン・デジモンに加えたいと思ったのは、ここから第三部はシリアスな展開が多くなり、子どもを少しでも楽しませたいと思ったからだった。
見かけの割にはかなりの攻撃力。
ベルゼブモンはベヒーモスを反転させ避ける。
くせー事すんじゃねえ!
向かってくるベルゼブモン。ここまでワンカットで描かれている。
うえ! まずい!
エキゾースト・フレイムでグラウモンが攻撃。
何発も撃つが――
ベヒーモスの機動性で逃れるベルゼブモン。
ここで「逃げろー!」と叫んでいるのはケンタかヒロカズか。身を竦ませるガードロモンとグラウモン――。その背後にはジェンとシウチョンが。
身を呈してそれを阻むのは――
キュウビモン! ベルゼブモンをベヒーモスから叩き落とす。
転倒するベヒーモス。
双方ともダメージがあったが、先に立ち上がるベルゼブモン。
キュウビモン! キュウビモン進化!とD-Arkを掲げる留姫――
進化して!
しかしもう、キュウビモンにはその余力も残っていない。進化……。
ベルゼブモン、とどめを加えるべく銃を――
見切るキュウビモン――
弧炎龍――
如何に強く、耐攻撃性が極めて高くとも、腕にだけ巻き付かれたらたまらない。
初めて苦痛の声を上げるベルゼブモン。
だが、キュウビモンは最後の力まで出し尽くして倒れる。
キュウビモン!!
二丁のベレンヘーナを落としてしまう。
しかしもう一つの必殺技、ダークネス・クロウを露わにする。
上等じゃねえか!!
キュウビモンを引き裂こうと近づく。
やめろー!ベルゼブモン! グラウモンは言葉でベルゼブモンに呼び掛ける。
しかしタカトは、タカトの感情はもっと高まっていた。
グラウモンそうだ! ベルゼブモンは――インプモンはもう――
悪魔になっちゃったんだ! 倒せ! 倒せーーーー!
樹莉はタカトの変貌を怖がる。タカトくん……。
おあああああああ!
グラウモンを拳で痛打。
体躯で遥かに勝るグラウモンも崩れる。
後でゆっくり貴様も料理してやるぜ。
まずはクソ生意気なこのキツネからだ! よくもこれまでこの俺をコケにしてくれたよなぁ。
キュウビモン、苦しげに、インプモンと呼び掛ける。
うるせーーーー!
この後、キャメラは留姫に移るが、効果音でキュウビモンを痛めつけている音が執拗に聞こえる。直接的な暴力描写は控えているのだ。
ダメ! キュウビモン逃げて! どうしたらいいの!? どのカード使えばいいの!? どうしたらいいの!?
鋭い爪先を――
振り上げる。この先に進めるのには、ベルゼブモンにも覚悟が必要だった。必死に自らを奮い立たせて宣言。
俺は、お前を殺さなきゃならねーんだ!!
目を――、覚ませ――。
黙れ!黙れ!
どああああああああ!
ピタっと止まる腕。ここまでワンカット。
肩を掴まれ振り向くと、レオモンが。
!
事情は知らないが、お前は何者かに踊らされているだけだ。己の姿を滑稽に思え。
何だよてめえ!
レオモンの強烈な左フック。
そして右フック。だがベルゼブモンは立っている。
力で進化など出来ない。私はもうそれが判ったのだ。
と言って樹莉に視線をやるレオモン。
レオモン――
お前の運命は、あの子どもたちを殺める事ではない。
うるせああああああああっ!!!
致命傷を負い、仰向けに倒れるレオモン。
もう絶えている力を、必死に取り戻してキュウビモンが立つが――
強烈に腹部を蹴り飛ばされる。
キュウビモン!
ベルゼブモン、レオモンがどうなったのか見る。
腹部から量子崩壊していくレオモン。
なぜ、判らない……。なぜ話を聞こうとしない……。
いやだ、と顔を振る樹莉。
レオモンが――、レオモンがやられたなんて……。
逃げてよ! そいつから早く逃げてよーーーっ!
ジェンも、レオモン、くっそーっと悔しがっているが――
タカトはその怒りの感情を滾らせている。
リアルとデジタル、両方の世界から消失していくレオモン。
目を背けず見続ける樹莉。
樹莉にだけ、聞こえる言葉。
これが、私の運命だったらしい……。
その言葉にハッとなる樹莉。
樹莉のD-Arkから光が消えていく。
やだああああああっ!!!
強い奴をロードするんだ――。
俺はもっと強くなってやる!
俺はああああああ!!!
私がなぜ、テイマーズで「デジモンの死」を描こうとしたのかについては、何度も語ってきたし旧サイトにも書いている。2017年にはこうしたTweetをしているので、以下は違う言い方をしているが、基本的には同じ事だ。
携帯ゲームから始まり、テレビアニメの「アドベンチャー」が生まれ、ワンダースワンでも秋山遼を主人公とするRPGが作られていく。携帯ゲームとしてのデジモンは、《たまごっち》という玩具がルーツで、卵から育てていく。その成長が××期への「進化」と定義づけられていた。
ゲームとしてはそれで充分だし、一旦その寿命を迎えたら、はじまりの町でデジタマから転生する、という設定も、抽象的な液晶ドットで描かれたキャラクターなら現実と折り合いがつくだろう。
しかしドラマであるアニメーション番組は、人間の子どもと関わり合う。前シリーズは、SFとファンタシーの絶妙なバランスによってクリアしていた。だがテイマーズはあくまで現実世界が主題であり、そこに人工生命が現れたらどうなるかを、真剣に考えて作ろうとしていた。SHIBUMIが言っていたという、生物の命と人工生命の命に違いがあるのか。客観的に見れば当然違う。だが、そこに人のイマジネーションによる「思い入れ」があったなら、全く違いはない筈だ。何故なら、そこに映し出されているのはキャラクターという人格なのだから。
だから、テイマーズのデジモンは限りのある命しか持ち得ない。そうでないと、見ている子どもに間違ったメッセージを送ってしまう事を懸念していた。失敗しても1回死ねばやり直せる――、そんな安直な考えに至るとは当然思っていないが、だとしても映像記憶というのは自分が認識している以上に、強烈に焼き付くものだ。これは自分自身の実体験から言える。
しかし、ただメインのキャラクターが死ぬという描写さえあれば済む話ではない。その存在がロストされた事が、残された人にはどういう影響を与えるのかも描かねば、意図が伝わらない。
テイマーズでは、グラウモンのいわゆる「暗黒進化」としてメギドラモンという恐ろしい究極体を見せる必要が、企画(原作)側から課せられていた。単にタカトが極端な感情に駆られただけで、そうした描写をしてもショックさは伝わらない。タカトは、ギルモンがどういう過程で誕生したのかを知ってしまい、ギルモンという存在自体に疑問を抱いていた。この時、タカトの気持ちとギルモンの気持ちは明らかに乖離している。だが、クルモンの進化の光を得るまでに進化を強く希求する気持ちがタカトの中で沸かねばならない。非道なベルゼブモンに対する怒りである。
第一話からの1クール目の、ちょっと控えめな性格の、泣き虫ですらあったタカトをここまで変えてしまうショックが必要なのだ。
そして――、樹莉については当然、誰よりショックを受けている。それには理由があるのだと今後明かされるので、樹莉については後に送ろう。
ともあれ、本気で子どもに見て貰おうものを、と考えた挙げ句がこうした場面を必要とした。テイマーズを最初から好きだった人であっても、大人になった方が愉しめるという。そうなのかもしれない。けれど、私は子どもに見て貰いたかった。ショックを受けて貰いたかった。それだけの価値があるものだとは今尚思う。