第34話回顧 1
34話は「レオモンが死ぬ回」ではない。ベルゼブモンが悪魔になる回でもない。メギドラモンに進化する回でもない。タカトが怪物になってしまう回なのだ。
シナリオ・タイトルは「デジタル・ハザード!」
どういう経緯でこういうサブタイトルに変更となったのか、今は記憶にない。
関プロデューサーの話によると、当時は新聞のラテ欄(ラジオ・テレビ番組表)の文字数範囲で収まる最大限に、多い時は8案くらいも提出していたという。私のシナリオは割と変更されなかったエピソードが多かったので、今回の変更に驚いたのは確かだ。
自分でデジタル・ワールドを舞台にシナリオを書くのは今話が初めて。10話分の間、ひたすら調整と第三部の構成をやっていた。
33話の直後にこのエピソードを書くのは気が重かったけれど、仕方がない。こういうエピソードが無ければ、テイマーズが目指すドラマに至れない。
今話から中村哲治さんがシリーズ・ディレクター補としてクレジットされる。
そして今話は「前話までのあらすじ」がオミットされ、いきなり世界観の客観説明ナレーションから入る。
心優しき勇者レオモン死す!
脚本:小中千昭 演出:芝田浩樹 作画監督:八島善孝 美術:徳重賢
そこはデジモンが作りだした神々、四聖獣の領域――
人に棄てられたデジモンは、自らを進化させる輝きの力を――
デジタル・ワールドの最も深きところに護っていたが――
ある時それが失われた。そして今、そこには――
クルモンを閉じ込めていた檻が壊れ――
クルモンが落ちたそこは「進化種鞘(しんかしゅしょう)」。
種鞘という植物の用語を持ち出した理由は覚えていない。シナリオから、こういう美術が生み出された。
くる~……。
ジャーンプ!
透明な壁にぶち当たる。
もう1回ジャンプ! しかし絶対にそこからは出られない。
くる~
半透明の壁に映っている、かつての自分の姿。近づくと、向こうの赤いクリスタルも大きくなる。
完全体進化バンクに見られる、無機的なクリスタルの造形。
見入るクルモン。
これが、自分の本来の姿だったとは信じたくない。
不安――。
わあっ、と離れる。
クリスタルも小さくなる。
クルモンは、ずっと前、ここにいた……?
必死に首を振って
クルモンはデジモンでクル!
だからクルモンだって、必殺技くらい持ってるかもしれないクル!
クルモン!強い光線ー!
クルモン、何だかとっても強いアターック!
何も起きない。しょぼん……。
くるるるる~
ここでサブタイトル。タカトのコールだが、「死す」と口にする時に躊躇を感じる。
荒野を行く留姫パーティ。
ここでグラウモンになっているのはおかしい、とよく指摘されて、構成のミスだと謝ってきた。しかし25話でジェンが、何故ギルモンたちは完全体まで進化しても元の成長期に戻るのかについて述べた様に、「その状態が快いと思える」状態に、彼らは基本的にはなっているのだ。荒野を進む中で、子どもたちを歩かせるのは酷だと、留姫がレナモンをキュウビモンに進化させた時、ギルモンもそのポテンシャルにあるグラウモンの状態が「快い」と感じた故に進化したのだというのが今の私の解釈だ。
率直なところ、このシナリオを書く時の私の頭の中で、レオモン、キュウビモンと歩くグラウモンの姿が明確に映っていたからなのだが。
荒野では02映画「デジモンハリケーン」のドブロ・ギター・ブルーズがデフォルトで流れる事になった様だ。
ケンタ、見上げて
俺たち――
帰れる様になるのかなぁ? と不安そう。
ヒロカズが活を入れる。何言ってんだよ、タカトを見つけてないのに。帰る事なんて考えてんじゃねーよ!
けどさー、タカトたちと一緒でもさー……、
帰れるのかなぁ……。
グラウモンが、タカト見つかるよ、すぐに、と力強く。
ヒロカズが、乗せて貰って悪いな、と御礼。
平気、平気。グラウモン大きいもん。
ね、レオモン。
ああ。
樹莉、大丈夫か?
うん、大丈夫。ごめんね、キュウビモン。
構わない。
それにしても、タカトどこ行ってんのよ!
南大門近くの荒涼とした光景にシウチョンの嬌声が聞こえる。
ロップモンとテリアモンの耳、どっちが長いかな?
シウチョンまで来てしまって、お父さんたち心配してるだろうな、と案じるジェン。
早くクルモンを探して、みんなと一緒に帰ろう!
とデジノームが――
急に飛び回っている。
やあ! また君たちか!
デジノーム――、デジモンとは違う人工知性――。
え? なあに? 判んないよ。
あっ、この前見た子たちねー!
ブルーカードをリアル・ワールドに物質として送ったのがデジノームたちだとしたら――、
彼らはぼくたちに何かをして欲しいのかもしれない。
何かって?
判らない。でもとっても大事な事が……。
あっ!
デジノームが去って行く。その先にあるのが朱雀門。そして更にその向こうに、クルモンがいるのだが……。
待ってよ! ギルモンの事、もっと知りたいんだ!
はっ! ロップモン!
何であるか?
君は知らないか? クルモンていう――
我らが神は、その進化の輝きを持つ者を取り戻し――
神とこの世界を脅かす者を排除する為に――
塵となっていたデジモンの欠片を再構築し――
我らデーヴァを作りたもうた。
ロップモン何言ってんのかわかんない。
ロップモンたちは、デジモンの神に作られたんだよ、シウチョン。
ロップモン、クルモンを見た事があるの?
我、見た。
朱雀門の方へ、そのものが運ばれていくのを――
31話のリプライズ。
朱雀門て?
我らが神、スーツェーモンの住まわるところ。
この南大門のずっと先にある。
南……。ここは四聖獣の領域……。
スーツェーモン……。
そこにクルモンがいる!
行こうジェン!
ダメだよ!
ジェンは幼いシウチョンをそこには決して連れて行けない。
モーマンターイ、シウチョンにはロップモンがパートナーになったんでしょ?
シウチョン、ポーチからごそごそと出して見せるD-Ark。ほら!
するとロップモンが慌てて走り出す。
我、朱雀門に行く事、止める!
ロップモン……。
クルモンがいる進化種鞘に赤い光が接近。
厳かなる《神》の声だけが聞こえる。
進化の輝きを持つ者よ。お前はデジモンではない。元の姿に戻るのだ。
クルモンはクルモンでーす! デジモンだ、くりゅ。
お前はこの世界全てのデジモンに進化の輝きを与えてきた。元の姿となり、再び進化の輝きを解放するのだ。
くるる~
我を作りたもうた神の力は、あまりに偉大なり。
その神から君は罰を受けたんだぞ。
然り(そうだ)。故に左程までに神の力は偉大。
ロップモン? と心配になって近づくシウチョン。
我は神の意に叛いた。
しかし、我はもう、誰も傷つけたくない……。
やさしいんだね、ロップモン。
だけど、クルモンを探しに行けないじゃないさー。
うわ!
雷光。
怖がるシウチョン。
雷?
空が赤く染まる。
神からの使命――
果たす時が来た!と起つチャツラモン。
27話(芝田+八島回)の流用カット。
緊張状態ではあるものの、ノーマルな会話をしていたのはここまで。これ以降の34話はひたすらテンションを高めていく。
スーツェーモンは森山周一郎さんが23話以来に出演。しかしまだ姿は見せない。
これを記している今日、東映アニメーションの中野本社で、今夏に開催されるデジフェスのパンフレット用の取材を受けた。
同席されていた関プロデューサーに、森山周一郎さんが出演してくれたのは僥倖だったと言うと、お孫さんがちょうどデジモンを見る年頃だったそうで、とても出演を喜んでおられたという話を20年後になって聞いた。