第31話回顧 3
今話のゲコモンの集落が陥った状況は、近現代でも現実に近い状況を見出せない事もないのだが、あまり生々しい話をここではすべきではない。
ストーリー・ラインは日本神話そのものなので、稲垣浩監督の「日本誕生」は先ず挙げられる。しかしドラマとして見ると、古典的な西部劇、或いは時代劇に原形があるのかもしれない。
オロチモンの住み処に連れてこられた樹莉――。
私をどうするつもりなの?
酒を注げ。
なんだ、そんな事で私を連れて来たの?
とは言うものの、この描写は現代では危ういかもしれない。児童労働だとか、そもそも誘拐だとか――、だがそんな事をフィクションが気にしてはならないのだ。「シンデレラ」すらも禁書にするかの世情には深く憂慮を感じる。
はい、と樹莉が酒を注ぐと、
嫌じゃないのか?とオロチモンが訊く。
私のウチってそういうお店なの。(いやお酌はしてないでしょうに)
そうか、と納得するオロチモン……。
メカのオロチ同士が奪い合う。
喧嘩はダメ! みんなにあげるから、順番よ!
順番、判った。早くしよう!
樹莉の心の声。こいつら全部酔っ払わせて……、
ニコっ
酒を注ぎまくる。
飲み干すオロチモン。
拳を打つレオモン。
いくら樹莉が小料理屋の娘で、酔っ払いの扱いに慣れてると言っても、オロチモンはただの酔っ払いではない!
危険な酔っ払いって事?
レナモン、何とか助けなくてはと言う。
レオモン、拳に力を込める。
霧がかった幻想的な場面。
一方ヒロカズは、蓮の葉でまだ昏倒しているガードロモンを扇いでいる。
加藤、大丈夫かな……。
目を開くガードロモン。オロチモンに捕まったのか……?
ガードロモン!
上体を上げようとするガードロモン。俺の、せいで……。
しかしまだ起き上がれず再び横たわる。
まだ無理だよとヒロカズ。
お前、名前は?
ヒロカズ。
するとガードロモンは言う。ヒロカズの友だちを助ける方法がある、と。
えっ!?
樹莉を救出する作戦をあれこれ考えている。
みんなー! ガードロモンが加藤を助ける方法があるって!
!?
ゲコモン酒造。
銅鑼を鳴らす。蔵出しの合図。
樽を運んでいくゲコモンたち。
その進路の先に――、
ガードロモンが立っている。
こら、道を空けろガードロモン!
この人たちの友だちが、オロチモンに捕まった。
姿を見せる三人。
助けるのに協力してくれないかと訴えるガードロモン。
そしてギルモンたち。
この通りだ、頼む、とレオモン。
ふん
お願い、と頭を下げる留姫。(これには私も驚いた)
……。
頭を下げる――
ギルモンも。
お願いします。
ゲコモンは平和を愛するゲコ。オロチモンと戦う事には協力出来ないゲコ。
オロチモンの為に酒を造る事が、平和を愛する事なのか?
ゲコモンの平和とは、楽しそうに歌を歌う事だと思っていたのに。
背後のゲコモンたちが顔を見合わせゲコゲコ小声で話し出す。
民意を量っている。為政者は世論には逆らえないものだ。
戦いに協力するゲコ。
ありがとう!
何をすればいいゲコ?
まず、大樽から酒を抜いてくれ。
拒否をしている相手に対して、同じ依頼をせねばならないとして、普通のライターなら段取りをそれらしく組むか、アクシデンタルな要因で承諾せざるを得ない設定にするところだが、「お願いします」と愚直に頭を下げる、この、日本人なら当り前にする事を浦沢脚本はストレートに見せてくれる。真心を伝えるというコミュニケーションで、頭を下げるというのは日本人にはとても大事なものなのだ。
そして艀の酒樽が池を渡る。
大樽――。
オロチモンの住み処の上空は、不穏な雲が渦巻いている。
HSBノイズをかけた様な粗粗しいテクスチュア。
酒に潰れて寝入っているオロチモン。
いびきが轟く。
そうか、と言って飲み干す。
このオロチモンだけ、どうして酔わないの?
ゲコモンの声がする。
貢ぎ物の酒でございますゲコ。
御苦労。
しかしその樽の中には――
身を潜める――
次回完結!