第29話回顧 1
デジタル・ワールド編は2クール目の終わりから始まり、4クール目の頭まで食い込む、計16話と最も長いパートになる。後半は流れが決まっていくのだから、ヴァリエーションを出すなら早めの方が良いという判断だったと思う。
デジタル・ワールドなのに、他のデジモンがあまり多くは登場していない、という事を気にしたのか、今はもう覚えていないのだが、今話のゲスト登場デジモンは大盤振る舞いと言える。
サブタイトルの後半は、うーん、これも的確とは言い難い流れ。とは言えクルモンについては特に後半では大きな場面がある。
ここは幽霊の城! 迷えるクルモン大脱出
脚本:吉村元希 演出:角銅博之 作画監督:出口としお 美術:渡辺佳人
のっけからアブノーマルな画面。歪んだ町並み。歪んだ窓。モノトーン。だが置かれている筺だけは赤い。
その奇妙な町に入ってくるタカトのパーティ。彼らだけはノーマルな色。
また変なとこ来ちゃったみたい、とタカト。
モーマンターイ。どこも同じさ、デジタル・ワールドの中だよ。
ギル? これチョコレート?
あれ?筺がもう開いている?
思わず食べてしまうギルモン。
うひうぃいいいい
これ酸っぱい。
テリアモンが飛び上がって食べる。
うぃいいいい
レオモンの訓示。何でもかんでも口に入れるな。どんなデータか判らないぞ。
そうなんだ。レオモンは物知りだギル。
でも食べてみないと味はわからないよー、とテリアモン。これはある意味正論。
誰か来る。歌声が聞こえる。
こんなところに誰が?
留姫ちゃんかも!
が、歌は「男飛沫」。
タカトー! 奇遇じゃーん!
ヒロカズ!
こんなところでまた会えるなんて。
よくここが判ったな、とジェン。
後から姿を見せる――
樹莉が、誰?と訊く。
よくぞ訊いてくれました。
ご紹介します! この方があの、伝説のテイマー、秋山リョウさんです。
やめろよ、そんな大袈裟な……。
えーっ!? あの有名な秋山リョウ?(こら呼び捨てだぞ)本物?
じゃあ、そこにいるのは――
俺のパートナー・デジモン、サイバードラモン。
タカトは感激。わー、こんな近くで見られるのー?
唸るサイバードラモン。
こういう歯を食いしばっている魔道士が「ヘルレイザー」にいたのを思い出す。
怯えて後退るタカト。何?怒ってるの……?
心配ないよ。サイバードラモンは自分の宿敵を探してるんだ。ここにはいないだろう?
リョウの言葉に従い、膝を屈する。
テリアモンが、だあれ?とジェンに訊く。
一年くらい前のカードバトル大会の後、行方不明になっていたテイマー、秋山リョウ。
デジタル・ワールドに行ったっていう噂になっていたんだけど、本当にデジタル・ワールドで会えるなんてねぇ……。
あれ? ねえ留姫ちゃんは?
留姫、怒って一人で行っちゃったんだ。
ヒロカズ、何か変な事言って怒らせたんじゃないの?
ちっ、違うよ……。
俺が、悪かったんだよ……、多分、とリョウ。
そんな事ないっすよ。リョウさん悪くないっす!
ジェンが何かあったの?とケンタに訊く。
ヒロカズが、カードバトルではリョウさんが強いんだってあんまり言うから……。
そっか、留姫、プライド高いところあるから……とタカト。
でも心配だなぁ、いくらレナモンが一緒にいるからって――。
そんな事ないわ。きっと留姫ちゃん、大丈夫よ。だって強いもの。
そう、かな……。 ヒロカズも後ろめたい。
その留姫は――
まだ歯車の世界に留まっている。
出口は見つからない様だ。
絶対見つける、と留姫。
リョウと一緒に行った方が良くなかったんじゃないのか、とレナモン。
その名前言わないで!と拒絶する留姫。
私は時々、留姫が何を考えているのか判らなくなる時がある――。
いいの。判らなくて。判ったら、ムカつく……。
前話での、留姫がリョウを最初に見た時のリアクションから、その後の態度、そして今の台詞で、留姫の中で何が起こっていたかは概ね判る、のだけど、子どもの視聴者にはどうだったのかなぁ……。
どうして皆はここへ来たのか問うリョウ。
あ、そうだ、リョウさん――
白くてちっちゃいデジモン見た事ないですか?
カラーにグレードアップしている。
見た事ないなぁ。このデジモンなんなの?
クルモンていうんですけど、進化の鍵を握ってるみたいなんです。
それで、デーヴァに連れ去られてしまって、ぼくたち探しに来たんです。
デーヴァ?
デジタル・ワールドの誰にも「デーヴァ」という存在が認知されていない。つまり、生み出されて間もない存在だった。
我々の神とか難しい事ばっかり言ってて……。
ジェンが補足する。デーヴァは現実世界で大暴れしたんです。
ここでデーヴァ戦のフラッシュバック。
新宿の明治通りが滅茶苦茶になったと言うと、リョウは自分の家が九州だけれど案配を訊く。
そっちは問題無いです。
そうなんだ……。随分と帰ってないけど、家族はどうしてるかなぁ……。
うわあああ!
ノヘモン。
戦闘モードになるテリアモンとギルモン。
ゆらゆら揺れているだけのノヘモン。
このデジモンたちは何もしないんだ。
いつもここで揺れてるんだ。
なんか、怖い……。
クルモンを探しているマクラモンとマジラモン。
チャツラモンが我々を抜け駆けせんと、あの進化の輝きを持つ者を追っているとの動向――。
我もいち早くそれを探す事――。
憐れテイマーズ旗の竿のなれの果て。
ぴとぴとぴと
タカト、ギルモン……。どこにいるクル? クルモン早く会いたいクル。
この旗を見つけてくりゅ……。
ちょっと疲れたクル……。
! くりゅ? 誰かクルクル――
猛然と走ってくる――
ドッグモン。
クルモンの前で急停止。このどう見てもハンナ・バーベラ・プロダクションのカートゥーンから出てきた様なデジモン、デジモン・ドット絵コンテストの応募作から生まれたという。
本来の必殺技は噛みつきらしいのだが、手裏剣的な攻撃で――
クルモンをいじめる。
地面を叩いて大喜び。
何の臭いがする?とクルモンが訊くと、きゃーと、としか聴き取れないのだが、キャットと言っているらしい。
わーんと逃げ出すクルモン。
それを高台から見ている――
ゲコモンとオタマモン。
地の果てまで逃げていくクルモン。
お城だ。見て、レオモン。
この中って安全だし、寝室もあるから都合がいいんだ。
リョウがここへと案内してきたのだ。
中に入ってくる一行。
空き家になっているらしい。
一瞬で夜になる。
何度見ても、なんだか味気ないわね……。
歪な形のドアを開ける。
ほほ、すっげー! ふかふかよ!?
ベッドだベッド!
留姫ちゃんも、一緒だったら良かったのに……。
ここ誰も使ってないんですか? うん、だから何日いても文句言われない。
ずーっとここにいてーよな!とヒロカズ。
ケンタが文句。パートナー・デジモンも見つけてないのに。
樹莉がついに気づく。
随分私たち、長い間何も食べてない気がするんだけど。
ギルモン、さっき酸っぱいチョコレート食べたよ? 不味かった、とテリアモン。
ここではね、お腹が空いた時に食べればいいんだ、とリョウ。
何をどれだけ食べなければいけない、っていう事はないんだよ。
ふーん、なんか物足りない様な……。
すぐ慣れるさ。
さ、寝よう寝よう!
すぐには眠れない、と樹莉。
目をつぶっていれば、その内眠れるよ、とタカト。
甲冑が歩く跫音。
怯えるケンタ。
ナイトモンが通り過ぎていく。
ナイトモンね。夜になるとここの廊下歩いてるみたい。何もしなければ襲ってこないよ。
あのそれってビジュアル的にはかなり幽霊なんですけど……。
デジモンだからな、と言ってリョウ、すぐに寝入ってしまう。
このぐらいの神経じゃないと、後が続かない、って事かな。冷静に分析するジェン。
去って行くナイトモン。
みんなが眠っても、タカトは眠れずにいる。
タカトはリュックに残っている装備を確認し始める。
懐中電灯など、あんまり使わないなぁというものしか――
ふと底面に何かがあるのに気づく。
なんだ、これ……。
糊で貼りつけてあった、お護り――
そして、手紙。
お母さん――
母の声で手紙が読まれる。
この手紙に気づくかどうか判らないけど――
母さん、最後まで『行ってらっしゃい』が言えないのが気になって――
だから手紙を書くことにしました。
お前が産まれた時の事、つい昨日の事の様に覚えています。
とっても大きな赤ちゃんでね――
生まれてくるのに時間がかかって大変でした――。
それがいつの間にか
こんなに大きくなって――
月日の経つのは早いものです。
ここに御守り袋を一緒に入れておきます。
信じているけど――、
やっぱり心配してしまう――、愚かな母の願いです。
今更だけど――
行ってらっしゃい。
元気で帰ってきてね。
御守りにタカトの涙が落ちる。久々にタカトの涙。
お母さん、と小声で漏らすタカト。
タカトくん? と樹莉。
タカト、涙を拭う。
どうしたの?
な、なんでもない……。
眠れないの?
うん、ちょっとね……。大丈夫。
泣いてるの?
な、泣いてなんか……
樹莉、靴を履いて――
タカトの近くへ。
それ、御守り?
入ってたんだ。リュックの中に。
お母さん?
うん。
心配してるんだね……。
でも、大丈夫。必ず無事に帰るから。早くクルモンも見つけなくちゃね。
うん。
樹莉の顔を見つめるタカト――
あのさ、加藤さん。
え?
ぼく、加藤さんがテイマーになって、ぼくたちと一緒に冒険に来てくれて、嬉しかったんだ! と言い切った後に照れている様な吐息。
このエピソードで、タカト母・美枝のフォローを入れて欲しいという要望はしなかったと思う。というよりも、「旅立ちの日」である意味では置き去りにしたままだった母親の気持ちを、元希さんは実に味わい深くフォローしてくれたと思う。
ギルモンパンの試作と、剛弘の気持ちも判るという、実に泣ける場面だった。
留姫の気持ちやタカトの感情など、恋愛未満なエモーションは、シリーズでは概ねこのライン程度に保っておこうと曖昧にしていた領域だったのだが、このシナリオは少し踏み込んでいる。より直裁な気持ちを伝えている。そして、それを見事に映像として角銅さんは提示されている。
この歪な町並み、歪な城については、どうも私が「これ、ドイツ表現主義派映画にしてください」と角銅さんにお願いしたらしい。要望がそこかよ、と自分に呆れる。
歪んでいるのだからレイアウトだって大変だったろうし、渡辺佳人さんも御苦労されたと思う。
「カリガリ博士」(1920)は、その異様な美術セットとメイクアップで、完全なる人工美を貫いた映画。私は若い頃に見て随分とその影響を受けた。