第27話回顧 2
ベルゼブモンよりも先に「鉄の獣」ことベヒーモスが大暴れする今話。恐らくベースはハーレー・ダヴィッドソンのV2エンジン車だと思う。意思があるのかないのか、という疑問がライター間で湧いた。公式的には「デジコアはない」という事だと思うのだが、グラニでもそうであった様に、そう設定されていたとしても、物語を作る側からすれば、デジモンのレヴェルではなくとも、ある程度の知性を持っている様に描かれている。
谷間から轟音が轟き、ベヒーモスが飛び上がってくる。この描写は、こうした谷間があってトラックアップしているのかと思っていたが、この後の描写を見ると、この谷間は突然現れる様だ。
衝撃音で目が覚める樹莉。
遊んでいた子どもたちを必死に家へ帰すギルモン。みんな早く逃げて早く早く!
エンジンの音に振り向く。
ダートを疾走してくる――。
テリアモン! うん、判ってる!
このカットはインダラモン戦からの流用。
デジタル・ワールドに来て初のカード・スラッシュ&進化バンク。「SLASH!!」イントロ。
おっと絵柄は高速プラグイン。ここをキャプチャしてはいけない。
そして「EVO」ヴォーカル入り。
しかし勿論本当は超進化プラグインS。
ガルゴモン!
ギルモンらの前に立ち――
止まれーっ! だだだだだだだだーっ!
全く影響を受けない。
げーっ、なんでー?
迫ってくる。
振りかぶって――
獣王拳!
猛烈なインパクトで――
よろめいて進路が変わるが、まだ走っている。
悔しがるレオモン。
子どもたちが隠れて集まっているところに向かっていく。
ギルモン!
だめえええええ!! と叫びながら子どもたちの前を走っていくギルモン――
二段ジャンプ!
バイクに飛び乗る――。
ギルモン!?
ギルモン、バイク上でふらついていたが――、
ハンドルを掴んでコントロールに成功。
わーいギルモンすごーい!
ギルモン、バイクを止めない。
ターンすると――
バイクから落ちる幼年期。
うん? と見入るレオモン――
レオモン・アイを通して、加藤樹莉初のデジモン・スキャン。
チョロモン、幼年期、マシン型デジモン――
助けてくれて、ありがとうと言うチョロモン。
樹莉が叫ぶ。タカト君!ギルモンちゃんが!
目を赤く光らせ形相が変わっている。闘争モードの様な声を上げているが、目が違う。
ギルモーン!!
一方、神殿ではインプモンが追いつめられている。
俺は――俺はもっと、力が欲しい――
俺はもっと強くなりてえ。
我らが神を崇めよ。
そうすれば! 本当に俺は強くなれるのか!?
ニヤリと笑うチャツラモン――
逃げる一行。どうしてギルモンが!?
とにかく村から出来るだけ離れようとジェン。
レオモンが後方を見て、来るぞ!
レオモンは樹莉の肩を抱いて横っ跳び。
タカトらを蹴散らかす様に通過していくバイク。
ドリフト・ターンして、再びこちらへ向かってくる。
チョロモンが、あのバイクは恐ろしいバイクなんです、と説明。
あのバイクに乗ったら意識を乗っ取られ、次の誰かが一生走り続ける事になるんです。
それって、まるで「赤い靴」の話みたい、と樹莉。
その赤い靴を履いてしまうと、身体が勝手に動き出して死ぬまで踊り続ける話――。
ええ……?
向かってくるギルモンのバイク。
タカト、前へ。
唸っているギルモン。
ギルモン! ぼくの声が聞こえないの!?
ハーモナイザー処理された台詞。今のギルモンには認識出来ていない。
ファイア・ボールを吐こうとしている!
ジェンが「ブレイブシールド」をスラッシュ。大江戸線(前川脚本)以来。
向かってくる火球。
ガルゴモンが受けとめるが――
ギルモンのノーマル・ファイア・ボールとは思えない威力。
タカトは血迷って、ギルモンの代わりにぼくが乗ると言い出す。
ジェンが流石に引き留める。
勿体つけるなよ! 俺を進化させられるんなら、やってみやがれ!
今この世界では、デジモンは自ら進化する力を奪われている。
これは重要な台詞。続けるチャツラモン。
お前を進化させるには、我らが神が御自身の力を授けられるのだ。その力を授かるには――、お前は契約をしなくてはならない。
契約?
我らがこの世界に入り込んだ、人に飼われし堕落したデジモンども――。
我らデーヴァをロードもせず、ただのデータの屑に消し去った忌まわしい者ども!
ハッとなるインプモン。ギルモン、たちの事か?
黙って凝視。
想起する過去。
8話(前川脚本+八島作画回)、パンを貰って食べる場面。
10話、テリアモンに挑む場面。
想起し続けている――。
19話(前川脚本+芝田演出回)のレナモン――
これが最後に入っているから(しかも長めに)という訳でもないが、一番インプモンにとって苦しいのはレナモンと対立する事かもしれない。最もインプモンに関心を持っていたからだ。
しかし――
俺に! 俺にあいつらを倒せっていうのか!? それが契約だっていうのか!?
無言で動かないが、そうだと言っている。
暫く目を閉じて――
力を込める。
ちっくしょう! 強くなれんなら、その為ならよう! 俺は何でもする! てめーらの神とやらと契約してやるぜ!!!
神を崇めよ!!
チャツラモン、飛び上がる。
襲われるのかと身構えるインプモン――。しかし――
周りの地面が量子崩壊していく。
悲鳴を上げて転落していくインプモン。
溶鉱炉の溶鉄の様な坩堝へと落下。
その背後に――、あの明治通りの空に垣間見えた巨大な鳥のシルエットが。
ガルゴモンが樹莉に訊く。
さっきの赤い靴の話だけど、ラストはどうなるのさ?
最後はね、赤い靴が脱げなくなっちゃって――、なんか、とっても怖い事になっちゃった気がする……。
アンデルセン童話の「赤い靴」であると、ヒロインは足を切り落としてなんとか生還するという結末。しかしこれはバッドエンドではなく、キリスト教的メタファーとしてはハッピーエンドだとも解釈されている。
一方、イギリスのバレエ映画「赤い靴」(1948)は、踊り続けたまま、ろうそくの火が消えかかる描写で命が尽きる事を暗示させて終わる。監督の一人、マイケル・パウエルは後に「血を吸うカメラ」という怪作を撮る(で、評判を落としてしまう)。
まあどちらにせよ、台詞で言うだけでも日曜朝番組的には不適切かもしれない。
また日本の場合、1922年に書かれた野口雨情作詞・本居長世作曲の童謡もあって、これまた都市伝説的な解釈が幾つもあって、2020年代でも「赤い靴」は些か忌まわしい印象を誰にも抱かせている。
再びギルモンのバイクが迫ってくる。
もうギルモンは完全に意識を乗っ取られている。
レオモン、獅子王丸を抜く。
ダッシュするレオモン。タカトが止めようと叫ぶ。
しかしレオモンは向かっていく。
大地を踏ん張って――
跳躍!
ギルモンが斬り殺される事を恐れてタカトは、やめてえええ!と叫ぶ。
だがレオモンは刃ではなく身の方を向けて――
気合いで振り下ろす。
したたかにギルモンの頭部を痛打!
これにはギルモンも堪らず――
バイクから振り落とされる。
無人となったバイクが速度を緩めて進み続けている。
タカトが駆け寄る。ギルモン!?
安心しろ。気絶しているだけだ。
あ、タカト、ぼくどうしたの……?
安堵してタカト、ギルモンを抱く。
ギルモンの頬を撫でる。
乗り手の意識を失わせれば、呪縛は解けると読んだ。
突如大地に量子崩壊が起こり、バイクはその奈落へと転落していく。
バイクが!
量子崩壊を起こしたところは崖になっており――
溶鉄の中に沈んでいく――。
安堵する一同。
これでもう、二度とツチダルモンたちの村は襲われないよね、とタカト。
ジェンは、そうだね。ぼくはこの世界の事を、ぼくたちの常識で考えてはいけないと想い過ぎていたのかもしれない、という反省の弁。
タカトの素直な気持ちが、ツチダルモンたちを助けたんだよ。
うん、タカトくんすごーい。
いやあ別に……
ん? どうしてタカト、ギルモンみたいに真っ赤になってるの?
さあ! クルモンを探しに出発しよう!
その時、激しい地鳴りが。
崖下の溶鉄の中から、凄まじいエネルギーが上昇――
姿を現す――
誰か乗ってるよ!
バイク=ベヒーモスに跨がっている――
愕然と見るばかり。
鉄の獣が、乗り手を乗せたまま止まっている――
あの者は鉄の獣を乗りこなしたというのか……?
タカトたちの声が聞こえているのか、聞こえていないのか――。暫くその場で停止していたが、エンジンにパワーを入れた。
あれもデジモン!
物理レイヤーの荒野を疾走するベヒーモス。それを操るのは――
俺の名は、ベルゼブモン。
ギアを上げて――
スロットルを上げる。
驀進して去って行く――インプモンだったデジモン。
地平の先にまで――。しかし、ギルモンたちは必ず再会する。そういう契約だからだ。
丸々2クールも、高橋広樹さんはそれまで出した事のない筈の、小柄でチンピラ的な声のキャラクターを演じ続けてきた。ベルゼブモンになるのだ、という前提故のキャスティングだが、半年もインプモンを演じられて、高橋さんはどう思われていたのだろうか。ベルゼブモンになっても、インプモンとは全く別人格ではない、という演技がこの後で見る事が出来る。
見返して思うのは、アイとマコトがパートナーだった時の、良い記憶もあっただろうという事。どうしてもアイとマコが登場する場面は、姉弟で奪い合う喧嘩になってしまう。しかしインプモンだって、ずっと後半になれば一旦、アイとマコの元へ帰るのだ。嫌な記憶しかないのであれば、そうはしまい。その辺りを描けていればなぁと20年後に思う(無意味ではある)。
ツチダルモンの集落のシチュエーションは、前川さん自身が作り出したストーリーで、全くの異世界ではあっても、命の大事さ、また自分達が根を張った土地というシチュエーションは色々と現実を想起させてしまうものの、デジモンはただ野性で狩猟だけをしているのではなく、コミュニティを持続させているという観点で見せてくれた。(アドベンチャーでは珍しい描写ではなかっただろうが)。
一方、《悪いデジモン》――デーヴァとその神の価値観は、人間とは全く相容れないものだと判ってくるので、視聴者の共感出来るもの、共感し得ないものと変化をつけて提示をしていくのは、有意だとも思った。
タカトは、そしてジェンすらも、《良いデジモン》と《悪いデジモン》の恣意的な見極めしか出来ていないのだから。
#27 Credits
アイ:寺田はるひ
マコト:松本美和
チャツラモン/長老:石井康嗣
インプモン/ベルゼブモン:高橋広樹
原画:八島善孝
動画:富田美穂子 佐藤恭子
背景:アテネアート 斉藤信二 和田道江 大谷正信
デジタル彩色:山内正子 佐藤道代 松森より子 坂入希代美
デジタル合成:三晃プロダクション
広川二三男 則友邦仁 峰岸智子 大西弘悟 金子直広
演出助手:地岡公俊
製作進行:坂本憲知生