第23話回顧 3
この土壇場で、何故樹莉はテイマーになれたのか。何故D-Arkが樹莉の前に現れたのか。21話の躁的状態ながらも、樹莉のテイマーになりたいという潜在意識は明確になってはいたが、それはヒロカズやケンタだって負けてはいなかった。
まくらくんをクルモンを頭に乗せたまま追ったのは軽率だったが、樹莉は一貫してクルモンをしっかりと抱き、守ろうとしている。クルモンのテイマーではないのに。
当時の私の考えはもう覚えていないのだが、完成映像を見る限りでは、樹莉に起こった《魔法》というのはこれなのだと思える。
そして、シリーズ終盤は逆に、クルモンが樹莉に寄り添う事にも繋がる。
怯える樹莉。たすけて……。
ヒロカズが叫ぶ。来るんじゃねー! なんだよ気持ちわりー。
空より降りてくるシャッガイの光柱。デジタル生命体除去を図る力。
紛れもなくデジタル生命体である――
マクラモン――。
今気づいたのだが、マクラモンも口を閉じた状態では片八重歯、いや下犬歯が覗く。
アニメーション・デザインのロップモンも片八重歯。訊いた事は当然ないのだが、中鶴勝祥さんはデーヴァの共通項としてこうしたデザインをされたのだろうか。
呆然――
だが、紛れもなくデジモン。D-Arkがないので名前もデータも判らないが、申(さる)のデーヴァだと三人とも把握している。
こいつ、デジモンだったのかよ……。
当然ここで疑問も湧く。なぜギルモンやテリアモンは反応しなかったのか(レナモンは21話で僅かに勘づいており、追っていた)。
人間への擬体がかなり成功していたというのは確かだが、22話で明確な様に、まくらくんが現れる時には大抵、より大きなデーヴァが出現している。ヒュプノスも、ギルモンたちもそれに惑わされていた。
きえあああああああああああっ!
凄まじい声を天空に向けて上げるマクラモン。
これは別な意味で怖い描写。
耳を覆う三人。
その間にマクラモンは虚空へと躍り出て逃走。
タカトの両親、タカトを探しに新宿中央公園へ来ている。
最近よくここで遊んでるから、と。
ふと、向こう側が気になる。それは――
ギルモン・ホーム。
落ちている袋を拾いあげる。これウチのだ。一体ここで何を……?
シャッガイのパワーがタオモンの結界を殆ど削り取ってしまう。
牽引され、存在すら危うくなるタオモンとラピッドモン。
ぼくたちの友だちのデジモンまで消される!
ジャンユーは、こうなってしまった事を謝る。お前たちの友だちに、悪い事をした――と。
タカトは再びここで《友だち》という言葉を呟く。
留姫、見てあいつ!と空を示す。
飛び上がったマクラモン――、宝玉(パオユー)を振りかぶって――
渾身の力で投擲。
シャッガイのICEウォール力場に吸い込まれるや、激しい反応。
シャッガイ・サーバが攻撃されて物理的破壊が起こる。逃げ出す技術員たち。
高圧ケーブルがぶち切れる。
山木は叫ぶ。どうした! 何が起こってる!?
シャッガイが、乗っ取られました――。
背後で恵がオペレータ席から降りようとして――、転落してしまう。
なんだって!?
転落した恵、腰を打った模様。あたしもう嫌だ!
物理レイヤーから膨大な情報が逆流してきています、と報告する主任研究員。
ヒュプノスの壁が脱落していく。
それを阻む為のICEウォールじゃないか!
そのシステム自体が逆に使われたという事です。主任研究員は、ネットワーク側の敵対者がこちらを凌ぎかねない知性を持っているのだと畏れている。
その向こうで恵、様子を窺っていたが――、シャッガイ・オペレーターの女性と一緒にここから逃げ出していく。
もう危険です。ここを離れた方がいいでしょう。そう言って主任研究員は山木に背を向ける。山木は引き返せ!と叫ぶ。
職務を放棄する気か!?
主任研究員は、ここに残る価値がないと判っている。
一つ訊きたい――。あれって本当に人工知性なんですかね?
昔の研究者たち。私は羨ましい――。
そう言い捨てて去って行く。
残された山木――、ふと見ると――
麗花が最後にそこに立っていた。
じっと見つめる麗花。
山木は穏やかな声で、いいよ、君も待避して――と告げる。
心残りがあり気な息を漏らして、麗花も去っていき、残される山木――。
この張り詰めた麗花と山木の描写は、シナリオよりも濃密だ。単に冷静で忠実な部下以上の関係性をこの画面、特に目で訴える表情の麗花で感じとれ、声の演技もそれを強く印象づけている。
後に山木と麗花が男女の関係であったと描いていくのは、この23話の場面を見て、私がそうだとしかとれなかったからだ。プールで泳いで、タカトというデジモンと遊んでいる少年を探りに行ったのは間違いなく山木の指示だが、携帯電話では別な男性の存在を暗示させている様に見えた。しかしあれも、ある種の偽装会話だったのかもしれない。
地下の施設が連続して爆発する。
そしてヒュプノスのフロアも――閃光が走り――
都庁舎の中階層部から炎が吹きだし爆発――
日本放送日が2001年9月8日。
9月11日に、アメリカ同時多発テロが起こる。放送日がこの日より後だったなら、このエピソードは放送出来なかったかもしれない。
災害や事件が起こると、近い描写をしたドラマやアニメ、映画の放送は控えるのが日本のメディアだ。
このエピソードで、都庁舎そのものを壊そうなどとは当然考えていなかった。しかし、第三部のデ・リーパー地上侵攻の表現は、戦場の様に描く事は全く不可能になった。それは寧ろ独自性を出せる事に繋がるのだが――、これらについてはまた稿をあらためよう。
都庁上空でシャッガイのICEウォールが破壊され――
膨大なエネルギーが降り注ぎ――
ヴィカラーラモンに活力が戻る。
猛り狂うヴィカラーラモン。
最早愕然と見るしかないテイマーたちにジャンユーが避難を強く促す。
しかし留姫が気づく。タオモン!?
タオモンの陰陽結界が再生。
我々の力を奪う不浄の力は去ったのか――。
前進を始めるヴィカラーラモン。
今しか攻撃チャンスはないと、AH-1Sヘリ部隊の襲撃。シナリオではAIMサイドワインダーなども記していたが――
ここはもうTOW対戦車ロケット――
集中砲火。
どこまでも撃たれ強いヴィカラーラモン。
マグマ塊を吐く!
すんでで回避するヘリ。
いか道楽さんごめんなさい。
2021年には無くなっている歩道橋脇を走る――
タカトくーん、と樹莉の声。
ジェンリャ、こっちに来ちゃダメだと叫ぶ。
ごめんなさい、でもあの変な子、デジモンだったの!
二波、三波と攻撃。
画面が反転するまでの火力だが――
ジャンユーが明治通りを駆け渡り、必死に訴える。
子どもたちがこんなところにいていい筈がない! 頼むから逃げてくれ!
タカトは暫く自分を見失っていたが――
手を――
握りしめて、声を出す。
ジェン……、
防衛サイドから見た2021年の新宿追分。左手前の木々が繁るところが花園神社。