第50話回顧 3
ヒロカズとケンタだってテイマーだ。手をこまねいてはいない。マリンエンジェモンとガードロモンの組み合わせは、実は対デ・リーパー・ゾーンに於いては最強なのだが……。
板橋区の住宅街にまで広がっているデ・リーパー・ゾーン。
警戒している所轄のポリス・カー。
ん?
おもむろに現れる――
ADR-07 Paratice Head。
全ては無に。人など最初からこの世界にいなかった様に――。
逃げ出す警官。
破壊されるパトカー。
すべては無に――。
ディストラクション・グレネード!
撃破!
その背後には――
やったぜヒロカズ! とケンタ。
ったりめーだ! とヒロカズとガードロモン。
真似すんな!
そっちこそ真似すんな! もうどっちが先だか判らない。
ぷぷっ、ぴーぴ?
あ、うん、そうだね。
俺たちも急ごうぜ。
お前、いつからマリンエンジェモンの話が判る様になったの?
ん~、判るっていうか、何となくだけどね。
おっしゃあ! 行くぜ俺らも! タカトたちだけがテイマーじゃねーんだよっ!
おう!
突如、頭上に警視庁のヘリ。
拡声器から声。
そこ動かないで! 君たちは手配されている!
うそだろ……?
CM
シナリオの柱は「インフェルノ」。
9/11、或いは戦争の戦場、或いは自然災害、そうした現実から掛け離れた描写を追求して、こうした光景が生み出された。
もう少しだ! デジモンのみんなと、お父さんたち人間の力、みんなを合わせたら必ず勝てる!
これが最後の戦いなんだ!
――これが戦いなんだよね……。ゲームじゃない、本当の……。
私は! デジモン・クィーンと呼ばれた女よ!
するとサクヤモンが、留姫、だけどそれは……、と言いよどむ。
確かに君はクィーン。けど、だったら俺は、キングだな。
うっさいわねー、と留姫。
クスッと笑ってタカト――、みんな変わんないや。
えっ、何が? と留姫。
何が変わらないっていうんだい? タカト、とジェン。
だって――、ぼくたちこれから、加藤さんと、それからこの世界と、デジタル・ワールドを救いに行こうとしてるんだよ? 何かすごい、んだけど……、
ぼくたちは全然変わってないんだもの。
そう、かな……?
簡単に人間って変わんないってば。
微笑むリョウ。
タカト!? 近くだ! とデュークモンの声。
行くぞ!
うん!
いよいよマザーーの近くにまで来る。
東京から離れる高速バス。
ねえ、インプモン大丈夫かな……? とマコ。
しっ。静かに。とアイ。
俺なんか、棄てちゃってくれよ……。
こんなダメな奴なんてよ……。
ダメなんかじゃないよ! インプモンがんばったもの!
そうだよ!私たち見てたもの!
俺、やろうとした事も出来なかった、半端野郎なんだ……。
ううんと首を振る姉弟。
と――、すぐ頭上に光が――
凝縮。
パープル・リムの、D-Arkが現れる。
手を伸ばす二人。
これでアイとマコは、正式なテイマーに。
走り去って行くバス。飛び出して行く――
デジノーム。
くりゅ……。
クルモン、一緒にここを出ようね。私たち、もっともっと仲良くなって、いつもみたいに、笑顔で……。
強い顔になる。
聞いて! 聞こえてるんでしょ!?
あなたは私の声と記憶を盗んだ! それは私が全然良い子じゃなかったから!
私がレオモンの言葉を、運命を自分勝手に受けとめていたから!
けど……、だけど! そんな私だって明日は笑顔で一生懸命生きていける!
良い子にだって頑張ればなれる! 人間てそうなんだと思う!
進化出来るの! 人間だって!
それをクルモンやタカト君、
レオモンが教えてくれた……。
私、レオモンの言葉を間違って聞いていた……。
運命は逃げられないもの――。そうじゃないんでしょう? レオモン。
D-Arkにレオモンの姿が浮かび、そうだ、と頷いて、消える。
これはD-Arkが本当にそう見せたのか、樹莉の想いが見せたのかは判らない。
――ありがと……。レオモン……。
消えていいものなんてない! みんなみんなとっても大事なの!
お願いだから!それを消さないで!
しかし樹莉の背後のケーブルが蠢き出す。
! クル!
ケーブルが樹莉を捕らえ――
引っ張り上げる。
苦しむ樹莉。
デ・リーパーは、樹莉を人質として利用する事にしたらしい。
この樹莉を拘束する形が、宗教的にタブーに触れると判断(誤解)されて、サバーン配給の海外版では違う絵柄に変更されている。
歯を食いしばる。
デ・リーパーの声。
もう判っている事。人間という存在は加藤樹莉と同じく、そのの思考ロジックの中に、破滅を望んでいる。
嘘よーっ!! そんなの嘘だよーーーーっ!!
もう判っている事――。人間という存在は――
他者を傷つけたいという願望を、無意識に持っている。
ちがーーーう!!
もう判っている事――
予め予定された進化をするだけの存在。
――デ・リーパーの声は外にも響いていた。
違う! それは間違っている! とサクヤモン。
そうだよ! ぼくたちはもう違うんだ! とセントガルゴモン。
タカトと一緒になっているこの究極体の姿! お前如きが見切れるものではない!
人もデジモンも、より高みに進化出来る!
だああっ!!
デュークモン、飛翔。
加藤さーーーーーん!!
サクヤモンも上昇。ワンカットで。
樹莉ぃいいいいいいッ!!
このセグメントにメッセージは集約されていた。39話(吉村脚本)でレナモンが言った。過去は変えられなくても、今は変えられる。今が変われば、未来が変わる――と。
34話で「これが私の運命だったらしい」とレオモンが樹莉に言い遺したのは、決して樹莉を「運命」という呪縛に絡める意図はなく、寧ろ樹莉の事を慮って言った事だった。デジタル・ワールドで戦いを勝ち抜いてきたレオモンは、いつかは自分も倒され、ロードされる時の事を覚悟していた筈だ。しかし「運命的」にリアル・ワールドに現れ、樹莉と出会い、テイマーとパートナーになった事で、それまでの自分の宿命から脱する事が出来たと喜んでいただろう。だが、やはり自分が消える時が来た。樹莉の心を少しでも軽くしようと告げた言葉が、樹莉を縛ってしまった。
人とデジモンが一緒に進化をする――。スーツェーモンが最初に示した通り、それは人にとってもデジモンにとってもアブノーマルなもので、それが普遍化する筈はない。これはテイマーズという物語に限っての、奇跡だった。それによってでしか、デジタル・ワールドとリアル・ワールドを襲う災厄が避けられなかったからだ。
でも、サクヤモンもセントガルゴモンも、自分達はデジモンの「進化ルート」の軛から逃れたと考えていた。そもそも進化ルートは、例外が多くあるものなのだ。
人だって進化出来る――。自分をより向上させる意思さえあれば、それが人としての進化なのだ、と、我々スタッフは子どもに伝えたかった。それは、今話の浅田さんの演技と、角銅さんの演出、浅沼さんの作画監督の仕事を経て、アイやマコの年齢の視聴者にだって届いただろうと信じている。
ただ、テイマーズの物語構造やディテイル、SF概念等については、小学生が初見で判る様にも作ってはいなかった。これについてはいずれまた述べよう。
当時のヒロカズ、ケンタのいたあたり pic.twitter.com/5aTOTfIsU3
— 角銅博之 (@kakudou) 2021年7月14日
海外では樹莉がどんな違うポーズにされてるのかちょっと気になりますが、その前の一人で強い意志を示すあたりのBGMをああいうものにしたのが浅田さんの演技で、メッセージ性を強めるいい効果になったかと思います。
— 角銅博之 (@kakudou) 2021年7月14日
第50話回顧 2
デ・リーパー・ゾーン突入。まだ「SLASH!!」ヴォーカル入りが続いている。
ジェンの気合いの入った叫び。
突入だ! 行くぞ!!
最後の戦いだよ、サクヤモン!
行くぞジャスティモン!
いよいよデ・リーパー・ゾーンの表面が近づく。
凄まじい突入。
ああああっ!!
凄まじい抵抗を受けながら進む。SHIBUMIの書いたアルゴリズムは、超導体化してデ・リーパーの侵食を妨げる様な効果を狙ったと思う。
この場面を見て、「機動戦士ガンダム」の大気圏突入場面を連想しない訳にはいかない。世代的にも。ここでは大気が抵抗しているのではないのだが。
観察しているワイルド・バンチ。
デジモン4体、デ・リーパー・ゾーンに突入しました……。
心なしか不安そうな麗花。あのデジモンたちには、子どもも一体となっているのを知っているからだろう。
無言で山木を見る。
山木、無言で頷く。
――私は覚悟している……。どう思われようとも……。
このジャンユーの言葉は、最終回で判る。
御自分を責めないでください。今は、彼らに託すしかありません……。
顔を上げて強い表情になり――、
ドルフィン! オペレーション・ドゥードルバグ、蟻地獄作戦の準備を急ごう!
散開するワイルド・バンチ。
バベル、衛星回線を確保しておいてくれ。
ウォーキー・ドーキー(了解)。二人のリアルな仕種。
小さな声で、しかし強く言う山木。
奇跡を起こすんだ、我々で――。
全てが消去された、かつて東京という都市であったところ。そこに飛来する四体。
ここで「SLASH!!」が終わる。
ひどい……。こんな――。
加藤さんがいるところは!?
あそこだ!
佇立する――
マザー・デ・リーパー。
腕を変形させてロイヤル・セイバーにする。
ADR-04 Bubblesの群れ。
お迎えが来た様ね。
ジャスティモンが前にせせり出て――
邪魔だ!邪魔だ!
邪魔だ!邪魔だーーーーッ!
撃ちまくるジャスティモン。
撃破されていくBubbles。
ん!? と見上げる。
巨大なるADR-08 Optimizer。
こんにゃろ~~~~~~っ!!!
腹部からまた無数のBubblesが。
くっそぉ! キリがない!
Optimizer、いきなり口を開く。
青い粘性のある光を吐く。
セントガルゴモンとサクヤモン、回避。
グラニも地上すれすれまで降りて回避。
青い粘性の光は地上で爆発。
さすがだグラニ! このまま! ――とジャスティモン。しかし――
突如眼前に現れたADR-07 Creep Hands、その腕で――
グラニを叩き落としてしまう! 放り出されるデュークモン。
もんどりをうって回転しながら向こうへ飛ばされるグラニ。
デュークモン!! ジャスティモン!!
衛星観測のゾーン表面。
戦ってるんだ……。
あの子たちが……。恵も辛い。
頑張って、お願い――と麗花。
李さん! こっちのデバッグは終了です!
そちらはどうですか!?
デイジー! 君の方はどうだね?
まだあと少し!
こっちは間もなく計算終了! とカーリー。
トランスフォティック・エディの形成まで保つだろうか? SHIBUMI。
こいつは間違いだ……。これはどうだ……? SHIBUMIは依然マイペース。
ここで驚きの「金剛界曼荼羅」の新作画。
バンク使用だとばかり思っていたが、角銅さんは新表現を導入された。もう「鎮める」というニュアンスではなく、敵を消去しなければならないのだから、表現が変わっても然るべきだった。サクヤモンの唄は引き続き流れる。
Optimizer、光に包まれる。
樹莉を捕縛する力が弱まる。デ・リーパーは、エージェントもカーネルも単一意識体。究極体の乱入とその処理にリソースが振り向けられ、樹莉が自由になったのだ。
クルモン!
抱き上げ――
クルモン、大丈夫!?
くっ、く……。 目を開けられないクルモン。
しっかりして! お願いクルモン! 嫌だ! もう誰かがいなくなるなんて、もう絶対に嫌だ!
はっ!
ポーチから落ちたD-Arkを拾い上げる。
――こんな事が運命なの……?
加藤さん! がんばってて!
Optimizer、殲滅。
地を疾走するデュークモンとジャスティモン。短距離ならば高く飛翔出来るが、飛行能力は二体ともない。地を走るしかないのだ今は。
上空を先行するセントガルゴモンとサクヤモン。
グラニ――、
後で必ず助けにいく!
待っていてくれ!
地に突き刺さったまま動けないグラニ――、目を弱く光らせる。
シリーズ構成とて、シリーズの全ての要素を完全掌握、統率などしていた訳ではない。樹莉がデジタル・ワールドに、ソックパペットを持って行っていたのは、私は意外だった。あれは幼い義弟の昌彦を楽しませる為に作ったものであり、置いていくだろうと私は思っていたのだけれど、デジタル・ワールド編に入って、持っているという描写があって、内心「あちゃー」と思った。ならば、それをどう発展させるかを考える。
樹莉の精神状態が危うい中、普通なら言い難い事、その場で言うべきでない事を言わせるという小道具として有効に使われ、デ・リーパーが誘い出す手段にも使わせた。
レオモンを失ったテイマー、樹莉のD-Arkは、本来的には失われる筈だ。タカトが一回、自分のD-Arkを落として破壊してしまったのだし。とは言えそれは、デュークモンの進化時に、D-Arkを新しいデザインのものにしたいというスポンサー要求からだったのだが。
結果として、精神が不安定な樹莉が、砂嵐しか表示しないD-Arkを見つめる――という場面を幾度も描写して、デ・リーパーがそれを通じて樹莉という存在を検知し、人間の個体標本として狙いをつけた契機にした。
そして今話、樹莉がそれを持ち続けた意味をしっかりこの後に描く。
第50話回顧 1
本ブログの開始時は、今ほどキャプチャ画像は多くなかった。初期話数はちょっと多過ぎる、これでは続けられないと思って、次第に減っていくものと思っていたが、話数によっての違いはあれど多くなってしまった。読み込みが重いページになってしまい、恐縮。しかし入念にカット毎に見直すという作業は、実に20年ぶりに本気で見返した様なもので、完全に記憶になかったディテイルなどが鮮明に甦る。
1年シリーズで次に別作品が控えている場合、終盤にはリソースが振り向けられ難くなっていくというのは判っていても、1年間見てくれた視聴者の為にもきっちり盛り上げねばならない。今話で角銅さんが演出に入ってくださったのは本当に有り難かった。
作画監督は浅沼昭弘さんがテイマーズの終盤を支えてくださった。作画には八島さんも入られていた他、外部の班もクレジットされている。美術は徳重さんがテイマーズでやはりラスト。
真紅の騎士デュークモン 愛するものたちを救え!
脚本:小中千昭 演出:角銅博之 作画監督:浅沼昭弘 美術:徳重 賢
前話ラスト・シーンのリプライズに直結して、デュークモン進化バンク。
進化バンクはここが最後となる。勿論「One Vision」が流れる。
この進化バンクに直接繋がる様に――
光をまとって飛翔するデュークモン。両親の眼前で進化したギルモンとタカト。
呆然と見上げる両親とカイ。
海面すれすれの低空飛行でグラニが飛来。ワンカットで上昇――。
美枝は息が震えている。
足元よりパンアップ。
両親に挨拶をしている。
――あれが俺たちの息子だぜ。と剛弘。
美枝、涙を拭って――
そうよ! と笑顔に。
ターンして東京の方へ――
シナリオ・タイトルは「紅蓮の騎士よ 愛するものたちを救え!」だった。
横浜から飛び立っているサクヤモン。
あったかーい、と留姫の声。
サクヤモンになっていると、なんだか温かいよ……。
そう――、留姫――。とサクヤモン。レナモン、キュウビモン、タオモンは同じトーンで今井さんは演じられたが、サクヤモンは全く別な、女性のニュアンスを強めた演技をされた。
マザー・デ・リーパー――
そのカーネルだったところはもうスフィア状ですらなくなっている。ケーブルが植物の根の様に絡まる地下の様。
くりゅっ……。
クルモンは苦しそう。
クルモン! 必死に手を差し伸ばす樹莉。
必死に――
ぐっと力を込めて――
クルモンは呼吸も苦しそうだ。
ケーブルに捕縛されていた樹莉だが、少し上半身は前に出せている。
くりゅ……。
私を――、この子は私なんかをずっと……。
諦めず、手を差し伸ばし続ける。
ポーチから――
D-Arkが落ちる。
はっ――
加藤さんを、助けるんだ!
そうすれば、デ・リーパーだって倒せる!
絶対に倒す!――とタカトの声。
拡大しているゾーンの上空。
飛来するグラニ。
くっ――、これほどまでに広がってるとは――。とデュークモン。
デュークモン! あそこ! とタカトが示す。
ゾーン上空に、見慣れない光る球体のゾーン。
ワンカットで接近する。
ん!
サクヤモン!
手で挨拶するだけのサクヤモン――
複雑な動きをしている球体の中へ消える。
続いてデュークモンも。
グラニは周囲を飛行。
ジェン!
お待たせ! とジェンが迎える。
早く呼んでくんないんだもん――と留姫。
ごめんごめん。
着地したギルモンに――
わーい、ギルモンだー、とテリアモンが乗る。
げんきだった?
テリアモン、レナモンにも乗る。
おい。
モーマンターイ。
ぼくたちがデ・リーパーの中でも戦えるようにって――、
水野さんがこれを作ってくれたんだ。
これをどうするの?
スラッシュするんだよね。
D-Arkを前に差し出すタカト。
それを見て、留姫も。
ジェンも差し出したところで――
何っ!?
俺たちを忘れてもらっては困る!
とジャスティモンが参上。
リョウとサイバードラモンに分離。
やあ!
テイマーズのリョウはこうでなくてはならない。
リョウさん!
忘れてた訳じゃないけどね。と留姫。
レッド・カードは一枚だけ。みんな、デジヴァイスを。
構える三人。
スラッシュ・バンクもこれが最後。最も動きが派手なジェンのバンク。
カードをスラッシュする直前で――
ヴォーカル入り。「一枚のカード、放つ光が――」という歌い出しがここに重なる。テイマーズでも同一のカードを複数のテイマーがスラッシュする描写は最初で最後。
カードが自ら、三人のD-Arkに飛び込んでいく様な流れ。
カード・スラッシュ!
カード名コールはなし。
ジェンのバンクに戻る。全部赤いカードに置き換えられている。
スラッシュ・バンクに直結して、右手のカードを左手のD-Arkに替えて掲げるという心憎い演出。
行こう!!
ワンカットでグループ・ショットまで引く。
球体から飛び出す四本の光の柱――。
ジェンがタカトたちとどうやって落ち合って、レッド・カードをスラッシュするという場面にするか、シナリオで随分悩んだ。理詰めでリアルにやってる段階ではないな、と考えて、四聖獣がもたらしたデジタル・グライドの空間という柱(シーン名)で角銅さんに投げてしまった。そもそもデジタル・グライドは、リアル・ワールドで究極体に進化する為に、テイマーをデータ化するというもので全く異なる。角銅さんに相談すると、何とかしますと言ってくれた、と思う。
見返してみると、これはD-Arkのパワーで成されたものだと思える。ジェンのスラッシュで、はっきりと言葉ではないものの、テイマーたちに「集まれ」という合図が届いた。デ・リーパー・ゾーンの上空辺りで、こうした仮想空間がテイマーたちが持っているD-Arkによってもたらされた、と見てくれたら嬉しい。
第49話回顧 4
カーネル・スフィアの内部は、もう樹莉を保護する機能を維持せず、本来あるべき様になっている。
ワン!
死んじゃえ!
樹莉なんて死んじゃえ!
樹莉がいなくなっちゃえば、もう酷い事なんて起きない――。
タカト君だって、危ない目にあったりしないんだよ。
く~る~……。
人間は愚かしい。人間が生み出した全てのものが愚かしい。
もうデ・リーパーは、人間・加藤樹莉のメモリーは不要。
人間の思考は、非論理的なもの――。
まあだぁ?
ジャンユーのスピーカー越しの声。
すまんねテリアモン。もう少しがまんしてくれ。
もーまんたい。
テリアモンの何を調べているの?
うん、リアライズしている――
デジモンの組成を、デ・リーパー解析に応用している……。
そうなの……。とジェン。
なんか耳がかゆいよぅ。
ああ、もう終わりだよ。すまなかったね。
ジェン、すぐに隣の部屋へ。
これがただの検査だったのか――。
スキャナー台の上のテリアモンを抱き上げるジェン。
ほっとするテリアモン。
ゾーンからビームが放たれる。
最初から存在すべきではなかった状態に戻すべきもの――。そうすれば――
歪んだ世界など始めから生まれなかった。
地球をグリッドで結び始める。
世界中のデ・リーパーが結びついて、活性化しています!
デ・リーパーの温度、急速上昇!
この規模であんな発熱を起こしたら、この地球の大気そのものを変えてしまうわ!
どんな災害が起こるか想像も出来ない!
――黙って立ち去るジェン。
行くの? と小声で訊くテリアモン。
ぼくたちしか……。
私なんか!
ソックパペットで自分の首を絞める樹莉に飛びつくクルモン。
ばか~~~っ!
必死にパペットを放り投げ――
じゅりのばか! ばか!
ばか! ばか! 泣きながら樹莉に訴えるクルモン。
みんなじゅりが好きです。
みんなじゅりが笑ってる顔が好きです。
タカトもギルモンも――
樹莉の顔が微妙に、正常な情動に戻っていく。
みんなも。
クルモン、と手で持ち上げる。
じゅり――
と! クルモンをケーブルが奪う。
もがくクルモン。くる~!
樹莉もケーブルに巻き付かれていく。
クルモーーーーン!!
ケーブルが樹莉とクルモンを引き離す。
もがくクルモン――。
たすけて……、タカト君……、たすけて
タカトくーーーーん!!
はっ!
加藤さん! と立ち上がったタカト。
何? と怪訝そうなカイ。
タカト、いったいどうしたの? とギルモン。
加藤さんが……、
――一瞬躊躇うも――
ぼくに助けてって!
海岸上の道路に停まる、松田家のバン。
剛弘の声。タカトかー?
あれ、なんだカイ、駅でずーっと待ってたんだぞ!
ただならぬ雰囲気に美枝――、
タカト……?
行こうとするジェンの背にSHIBUMIの声。
ギリギリ間に合ったかな?
出来たんですね?
まだ思いつきのアルゴリズムなんだが……、
このカードにセーブしておいた。巧くすれば君たちの助けになるかと。
ありがとう水野さん。
ジェン、レッド・カードをスラッシュ!
するとD-Arkから信号が発せられる。
ここから挿入曲「Starting Point」が流れ始める。和田光司+AiM+太田美知彦(作詞:松木 悠/作・編曲:太田美知彦)「ソングカーニバル」に収録されている。タカト、ジェン、留姫、三人の最後の出陣は、悲壮なものではなく、未来に希望を持てる様に描きたかった。この男性二人と女性一人の歌は、これ以上はない程のマッチをしていた。
留姫のD-Arkが受信。
行かなきゃ、私たち。
うん。
ママ、おばあちゃん、ごめんなさい……。
前を向いた顔は強いものに。
タカトのD-Arkが受信。
それ、どうなっとる訳? とカイ。
ジェンが呼んでる。
ぼくたちが戦える準備が出来たって。
タカト……。
また戦いに行くって……。
踊り場で見上げ――
お父さん、行ってきます。
行ってくるね!
見送るジャンユー。
その顔には、強い悔恨の念が既に見られる。
強い顔のジェン。
今話、川田さんはテリアモンをとうとうジェンの頭に乗せなかった。そこが少し個人的には悔やまれる。
横浜港から飛び立つサクヤモン。
すごく良い顔をしている留姫――。
ここで歌はAiMさんのパートに。
飛翔するサクヤモン――。ワンカット。
ぼく、行かなきゃいけないんだ。
我慢していたのに、泣き出してしまう美枝。
ったく、こういう時どんな事言えばいいんだ……。
父親ってさ……。タカト、ギルモン――。
ギルモンたち、絶対帰ってくるよ!
すると美枝が――
両手でギルモンの頬を撫でる。
タカト――。
あなたを産んだこと、誇りに思う。
――ありがとう! お母さん!
ギルモン!
うん!
行ってきます!
駆け出すタカトとギルモン。
タカト!
タカトが上着を投げてよこす。
がんばれよー!
ラストカット――。
ストップモーションとなって、コントラストが上がり――、49話は終わる。
樹莉も含めて子どもたちには皆、それぞれにそれぞれなレヴェルで問題を抱えている。しかしみな、それを自ら乗り越えようとしている。
なるべく情緒過多にならない様に、と書いたシナリオだが、私は美枝がギルモンを撫でるところで、いつも泣いてしまう。24話であれほど怖がっていた美枝。タカトがデジタル・ワールドから帰ってきても、ギルモンを労ったのは剛弘だった。今は、ギルモンがタカトにとってかけがえのないパートナーなのだと認めている。
ギルモンがいる事が日常化している――。いや、決してそれは日常なのではなかったのだと判るのは、この物語の終わりになる。
マザー・デ・リーパーは渡辺けんじさんのデザイン。顔の小さな目は実はデジモンらしい表現になっている。
関プロデューサーも渡辺さんと組まれたのはテイマーズが最初だったそうだ。無印/02と、近い様でいて違うという微妙なラインがある。何よりテイマーズの場合、基本が現実世界であった。各話で驚く程精緻な現実が描かれ、デジタル・ワールドではそこからどれだけ離れ得るか。渡辺さんがこの仕事を楽しまれたかどうか、直接話を伺ってはいないので判らない。しかし色々面倒をお掛けした元凶としては、感謝と共にお詫びするしかない。
信実さんは21話「レオモン様」の活き活きとした樹莉を描いて戴いた事で、終盤の樹莉との落差を結果的に見事に視覚化された。リョウ初出28話も担当されたが、やはり信実さんの作画で強烈な印象は35話、デュークモン初進化回である。ベルゼブモンの迫力は損なわずに、微妙に瞳が大きくなって一層魅力的な悪役に描かれていた。角銅さんによる、個人映画的とも通じるアブノーマルなコンテを、実にテレビアニメとして成立させて戴いた。テイマーズの仕事も今話まで。大変お疲れ様でした。
このブログを書く中で、まさきひろさんと当時の事を確認したり出来たのだが、まさきさんは本シリーズのみならず、川田さんとはよく組まれたそうで、超ベテランなのにSFが好きで、実に洒落た方だったそう。
キャプチャしていて、パン・ショットが多いのがとにかく印象的だった。そしてロング・ショットも、普通のコンテよりも一段更に下がるくらいのサイズ。全身の芝居をアニメーターに強いるコンテを描かれ、改めて演出家としての個性を認識させて戴いた。
ありがとうございました。
色彩設計の板坂泰江さんも、単独の色指定は前話まで。今話は大谷和也さんとの共同クレジットとなった。やはり既にフロンティアの方が忙しくなられていたのだろう。
次回予告、また謎な新キャラ登場か。
#49 Credits
ギルモン~デュークモン:野沢雅子
松田啓人~デュークモン:津村まこと
テリアモン~セントガルゴモン:多田 葵
李 健良~セントガルゴモン:山口眞弓
レナモン~サクヤモン/牧野ルミ子/秦 聖子:今井由香
牧野留姫~サクヤモン:折笠冨美子
クルモン:金田朋子
ベルゼブモン~インプモン:高橋広樹
加藤樹莉/ADR:浅田葉子
山木満雄:千葉進歩
鳳 麗花:永野 愛
小野寺恵:宮下冨三子
松田剛弘:金光宣明
松田美枝:松谷彼哉
李 鎮宇:金子由之
ドルフィン:菊池正美
デイジー:百々麻子
バベル:乃村健次
カーリー:松岡洋子
ジョニー・ベッケンスタイン:石井隆夫
SHIBUMI(水野悟郎):諏訪太朗
ナレーション:野沢雅子
原画:原田節子 長崎重信 信実節子 仲條久美 兼高里香
動画:渡邊 渉 柳田幸平
背景:鈴木慶太 佐々木友子 山田美奈子
デジタル彩色:星川麻美 井浦祥子 鈴木陽子 大村規子
色指定:板坂泰江 大谷和也 (前話までは板坂さん単独)
デジタル合成:三晃プロダクション
広川二三男 則友邦仁 松平高吉 石川晴彦 花見早苗
演出助手:まつもとただお
製作進行:坂本憲知生
第49話回顧 3
タカトのモノローグ。「デジタル・ワールドのテーマ」的な曲が流れ始める。ここでは、過度に悲劇性を強調せず、非日常感というものを音楽面で支える意図だろう。
デ・リーパー・ゾーン、赤黒い泡は――
直径12㎞にまで拡大した……。
こんな事になるなんて、一年前のぼくには夢にだって思わなかった……。
ディゾルブして――
茨城県つくば学園都市の、先端通信科学研究所。似た様な施設はあるだろうが、これは架空のもの。ワイルド・バンチとヒュプノスは、デ・リーパー消滅作戦の本拠をここに移した。タカトたちも一旦、ここに集められ、聴取と説明を受けている。
いつも通りの毎日が――
これからもずっと続くと思ってた……。
ギルモンと出会った時――
そうじゃないと判って――
びっくりする事がいっぱい起こって――
樹莉の父、肇は、山木から今後の見通しを聞いたところ。勿論山木は、樹莉の救出を全く諦めていないし、肇を元気づける言葉をかけた筈だ。しかし……。
タカトの家族は、逗子の親戚の家へと疎開する事になる。
ギルモンと友だちになったり――
他の友だちがテイマーになったり――
楽しい事だっていっぱいあったけど……、
こんな事が――
起こるなんて……。
東京を去って行く松田家のバン。
音楽はここまで。
潮騒の音。
逗子の日本家屋。私はもっと現代的な家だと思っていたので、びっくりしたのだけれど、確かに映像的にもこの方が良かった。
冬の風の音を聞いている、タカトとギルモン。こうして二人だけでゆっくりするのはいつ以来だろう。
ギルモン、起き上がる。
タカト!
どうしたの? ギルモン。
ええっ!?
よっ! タカト、元気だったか?
カイ! 久しぶり! いつ来たの?
]
今来た! とバッグをタカトに投げる。
やっぱり寒いなーこっちは。
でも海は同じ海だ……。
うん……。
シナリオでは42話と同じくニューグランドだったが変更された。
館内ティールームにいる秦/牧野家の家族。
注視されているのは勿論――
レナモン、小声で
留姫。
何?
私はやはり、この様な席には……、
今更何言うの。さっきいいって言ったじゃん。
目をパチパチさせるレナモンに――
レナモンって女の人でしょ。とルミ子が訊く。
デジモンには本来、性別はありませんが……。
でも、絶対あなたは女の子。
だから私たちの家族。
留姫ちゃん、と聖子が声を掛ける。
今は家族の事と、一緒にいられるこの時間の事だけ、考えていて。
お願い。
と言われ、頷く留姫。
だが、テーブルの下で持っていたD-Arkを握りしめる。
カイ、どうしてこっち来たの?
従兄弟がこっちですんげー頑張ってるのに――
黙って沖縄で見ていられんさー、普通。
うん、と頷くタカト。
タカト
なに?
お前たちが――
このでっかい世界を救おうってのがさ、なんかよ……。
ぼくはただ、ギルモンやテイマーの仲間と一緒に、助けたいだけ。
大切なもの、大切な場所、大切な……、友だち……。
ウムヤーグワーなんか?
えっ、何? それ。
初恋の人。
えっっっ!? 恋、っていうかそんなぼく――
そっか、そうなんだ。なら判るさ。
ちょっと待って――、
――そう、ぼく、好きだった……。
だから助けたい!
じゅーり、クルモンよく判らないクル。でもじゅりが自分をいじめるみたいな事考えちゃうと――
もっとひどい事になっちゃうクル。
もの凄く本質をクルモンは捉えている。
なんで私なんかに……。
クルモン、じゅり好きクル。
じゅり、もっと笑って欲しいクル!
元気いっぱいになって欲しいクル!!
なんで私なんかに……。
膨大な情報がやりとりされている。
マザーが佇立する東京。
アメリカ、ロスアラモス研究所から衛星通信です、と麗花。
ジョニー、そっちはどうだ。
合衆国のデ・リーパーも拡大速度を上げている。衛星回線もそろそろ危なくなってきた。
そう……、とデイジー。
君たちにデータを送った。1週間前に私が指示して撃ち込んだクラスター・ジャマー弾には、ラジオ・ビーム観測装置もつけてあった。
ほおう?
殆どが消去されたらしいが、まだ僅かに、幾つか建物の隙間に入り込んで生きている。
それが送ってきたデータで奇妙な事があった。
奇妙って? とドルフィン。
渋谷――。信号機に引っかかっているジャマー弾。
それが落ちて――
コンクリートを穿って直立。
展開し、データ収集を開始。
クラスター・ジャマー弾が計測したデータによると――
デ・リーパー・ゾーンの内部を走る情報のやりとりは……、
当ててやろう。光より速い。そうだね?
光よりも速い……。
さすがというべきだな、ワイルド・バンチ。
あの巨大な量子の泡の急速進化は、それしか考えられないからねぇ。
樹莉という女の子の思考ロジックと言葉を吸収してまで、何が進化よ!
あれは巨大な量子コンピュータの様な構造だと想定していた。
これでいけそうだな。と腰を上げるバベル。
私たちは既に、その予測に基づいて――
対策を考えたわ。 カーリーがその原図を表示させる。
デ・リーパーを元の原始的なプログラムに退化させる事を考えているの。
オペレーション・ドゥードゥルバグ、蟻地獄作戦だ。
やはり君たちに任せるのが一番の様だ。頼む。
とジョニーの通信は終わる。
さあて予測が当たった。
ぐるぐる渦巻き出てくるぞ。
水野さん――。あの、まだ思いつきませんか?
焦るな焦るな。果報は寝て待て――って、寝てたらしょうがないよな。ははは。
ジェンはSHIBUMIに、ゾーンの中でも活動出来る方策を考えて欲しいとお願いしていた。だがまだらしい。
SHIBUMIのキャラクター性は32話(まさき脚本)で決定づけられていた。テイマーズ独自な、デジタル・ワールドとリアル・ワールドの中間にいる人物像というものが創り出せたと思う。グラニのリアライズではSHIBUMIなりに興奮していたが、基本的にはこうしたマイペースな人物像だった。
今話でカイという劇場版「デジモンテイマーズ 冒険者たちの戦い」(脚本:小林靖子 監督:今沢哲男)のキャラクター、タカトの沖縄にいる従兄弟・浦添 海を登場させたのは、映画もシリーズと同じタイムラインにあるのだと、映画を見に行ってくれた視聴者に伝えたかった事もあるのだが、タカトの素直な気持ちというものを、家族やいつも一緒にいる人々ではなく、ずばりと引き出せる様な誰かが欲しい、と考えて思いついた事だった。映画の主人公は美波という少女だったが、カイは従兄弟という設定なので、多少無理があっても出せるだろうといきなりシナリオで書いたら、関プロデューサーも承諾してくれて、サエキトモさんを呼んでくれた。
私もサエキさんも沖縄出身ではない。私は「ウルトラマンティガ」のシンジョウ隊員のダイアローグを書くときに、沖縄言葉を調べてあったので、台詞は書けたのだけれど、それを「らしく」言葉として発してくれるサエキさんの努力で、沖縄の人が聞けばやや不自然さもあったかもしれないが、かなりリアルなイントネーションの芝居をして貰えたと思う。
ただ、沖縄ではテイマーズは放送されていなかったという。
第49話回顧 2
国連軍と称しているが、これは当然米空軍のオペレーション。既にファイブ・アイズ各国の施設もデ・リーパーの侵撃を受けており、その震源地は最初に現れた西新宿だとも周知されていた。国連安保理が急遽開催される(日本は戦後ずっと常任理事国には加盟出来ていない)と、アメリカ主導でこのオペレーションの実施が決まる。
誰しもステルス機で爆撃というと、小型核兵器でも用いられるのかと連想するだろうが――
B-2 Spirit、腹部ディスペンサーを解放し――
無数の小型爆弾と見えるものをゾーンに投下。
降下しながら――
クラスター弾、形状を変える。
泡の中に潜り込んでいく。
ややしてそここから光が。
B-2はフライバイ。
ターンして帰還していくB-2。
ゾーンの大部分にまで行き渡っている。
なるほど、あれはジャマーだ。バベルの声。
ジャマー?
攪乱させている。強烈な電磁波を放出させたんだ。
安堵して、うん、と頷くドルフィン。
と、衛星通信が入る。
攻撃は成功したか? という声。
騎兵隊気取りかね? ジョニー。
ドルフィンには旧知の人物。
テンガロンハットを被った初老のアメリカ人。
破壊ではない。麻痺させるのが目的だ、ドルフィン。と親しそうに言うジョニー。
なんだ、ベッケンスタイン教授じゃないか。とSHIBUMI。
元気かい? SHIBUMIは切迫した状況でも飄々としている。
挨拶するジョニー。
ジョニー・ベッケンスタイン教授は国連防衛軍科学顧問としてこのオペレーションを指揮した。本来はドルフィンと同じく先端的なネットワーク・テクノロジの研究者。今は、仮想世界が現実世界に及ぼす物理的な被害の防衛手段を研究していた。クラスター・ジャマーは元々は小型核を用いないEMP兵器(電磁パルス攻撃/敵のコンピュータ危機、ネットワークをシャットダウンさせる)として既に作られていた。
ジャマーの効果なのか、静まっているゾーン。
意識を取り戻すインプモン。
ちくしょう……。
しゃべらないで、インプモン。――とサクヤモンが諭す。
デュークモンが警戒しながら接近。
か、加藤さーーーーん!!
タカトが叫んだのは、カーネル・スフィアの中の――
もう――
やだぁぁぁっ!!
壁を叩く樹莉。
出して! ここから出して!!
ADRの声が聞こえ始める。
人間――、愚かしい生き物――。
やめてよ! 私の声で話さないで!!
振り向くと――
樹莉の声、樹莉の身体を原形にして形作られたエージェント ADR-01 B。
加藤樹莉の思考ロジックにより、哀れみを感じる。
嫌だ! こんなのもう――
嫌ぁぁぁぁぁっ!!
スフィア床面より無数のケーブルが伸び出してくる。ベルゼブモン、デュークモンを苦しめたケーブル。
やーめーて! とクルモンが飛びつく。
必死にケーブルを解こうとするが――
ケーブルにはたかれてしまう。
もっと叫ぶがいい。もっと悲しむがいい。それがデ・リーパーの力を強める。
必死に抗う樹莉――
床にねじ伏せられるが――
嫌ぁあああああっっ!!
樹莉の激しい情動が情報となってケーブルを活性化させ――
ADRを呪縛していく。
樹莉はおののく。
自分の激しい情動がどういう作用をもたらすのかを見て――。
カーネル・スフィア、ゲート・キーパーが光ると――
ジャマーの光が――
消えて、赤い光の柱が立ち始める。
凄まじい活性化を始めるデ・リーパー。
山木は、ジャマーがデ・リーパーを不活性に出来たと安堵している。
しかし――
何これ!? という恵の声。
デ・リーパー内温度、急速上昇! 拡大速度、240%!
なんだと!? どういう事だ!?
光の柱が消えると、激しい振動を引き越す。(キャプチャは加工画像)
ゾーン全体が揺れていたが――
振動が収まる。
クルモンが必死にケーブルを解こうとしている。
クルモンだって! クルモンだって!
非力な(と言っても石で体育用具室の鍵を壊すくらいの力は持っていたが)クルモンが頑張っている。
しかし、ケーブルに弾かれてしまう。
やだよ……、やだよこんなの……。
こんなのもう嫌だよ――。
樹莉が恐怖感を募らせると、ケーブルが増えていく。
じゅーり!とクルモンが駆け寄ろうとするが――
転んでしまう。
自分を呪縛するものから必死に逃れようとする樹莉。
しかし、自分の力だけでは到底抗えないと悟る。
悲痛に叫ぶ樹莉――。
その激情が、ケーブルを発熱させていく。
叫び声は、タカトに聞こえた――。
加藤さああああああんん!!
哄笑するADR。これはシナリオにはない描写。ADR-01は最終話まで「デ・リーパーのアクティヴなシンボル」として敵役になるので、ここで強調しておくのは意味があるのだけれど、ちょっとキャラクター的に過ぎる気が当時はしていた。
ゾーンの泡を突き破って、ケーブルが林立していく。光景を更に変えていく。
都庁の残った部位が、徐々にケーブルによって――
せり上がっていく。
なっ、何!?
都庁が更に遥かにせり上がり、泡に包まれていくのを呆然と見るジェン。
都庁最頂部が異形の姿へ――
デ・リーパーの最も進化した部分であったカーネル・スフィアを顔の中心に配置された、単眼の女神像の姿。
劇中では呼ばれないが、マザー・デ・リーパーが成立。
まるで女神像……。とサクヤモンが漏らす。
何という大きさ! とデュークモンも。
こっ、怖くなんかないぞ!
しかし女神像は数百mの高さ。
その周囲の泡が猛烈に吹き上がる。
ゾーンがその高さを上げようとしている。
後退するサクヤモン。
何という力!
泡が上昇していく。手前には高く吹き上がるデ・リーパー泡の柱。
何があったって、ぼくは絶対に加藤さんを助けるんだ! 行くぞ!デュークモン!
タカト待て! とデュークモンが諫める。
どうしたのさ……?
究極体であっても、あの泡の中に入ってしまうと力を失う! 忘れたのか!?
柱は自壊。
だって――、だって――
口惜しがるタカト。
三究極体、ゾーンから離脱せざるを得ない。
高さを増したゾーンが、マザーを覆おうとしている。
くそぉおおおおおおっっ!!!
遂に樹莉はゾーンに呑まれてしまった――。
最終ステージがここで出来上がった。ゾーンは東京都心部を覆い、これまではただ泡やブロブといった不定型な形状をしていたデ・リーパーは、ケーブルという物理的な形状をとる事で、アクティヴに活動が出来る様になる。
9/11直後に、いかにフィクションの中で人類存続の危機的な状況を描くか。その命題に対する私たちの回答がこの地獄絵図であった。
ケーブルはファンの間では触手と認識されているが、そうした要素も勿論なくはない。おぞましいものという意味では変わらない。
だが、樹莉を苛むケーブルには強い意味があった。様々な外的原因によってがんじがらめになって、自らの力だけでは身動きが出来ない――という困難さの象徴だった。樹莉にとってそれが、「運命」なのだった。
ここでCM。もう危機的な状況でクリフハンガー状態で1週間も視聴者を焦らせるという段階ではない、と思った。
B-Partでは、トーンを変える。テイマーズらしさ、非日常下の子どもたちを軸に、ワイルド・バンチの反撃が控えめに開始されるのを描く。
第49話回顧 1
最後の三話は私が、一年間の総決算、これまでに積み上げられてきた要素――、他のライターや演出によって積み上げられたものを、全てを回収などは不可能にしても、意図的に残す要素以外について、納得して貰える結末に導かねばならない。
演出はシリーズ序盤からローテーションに入られてきた川田さんが務められた。40話「シャイニング・エヴォリューション」に続いて、クルモンを大きな役割として描かれる事になって、これも巡り合わせだなぁと今は思う。02に続いて総作画監督も務められた信実さんが、テイマーズ最後の各話作画監督を担当される。美術はシリーズ美術デザイン(美術監督)の渡辺さんで、次シリーズの立ち上げに既に入られているのに、ギリギリこの回まで担当され、最終話までの新たなステージを構築して戴いた。
首都壊滅! クルモンの願い
脚本:小中千昭 演出:川田武範 作画監督:信実節子 美術:渡辺佳人
前話ラスト、力を使い尽くしたベルゼブモンが、ゲートキーパーの攻撃に直撃されて、ゾーンに転落していくシークェンスがリプライズ。
ここで――、終わる訳には――いかねぇんだ……。
足の方から量子崩壊をしながら転落していくベルゼブモン。
苦痛の声を上げ続けている。
ベルゼブモン! 飛びなさい! 飛んで!!
サクヤモンの声、必死。
ベルゼブモン!!
ちくしょう……。
とことん、カッコ悪かったよな、俺ってよぅ……。
1カットで寄っていく作画。
姿勢を変えるが崩壊は止まらない。
ばかやろおおおおおおおっ!!!
ゲートキーパーがデュークモンに向かってケーブルを伸ばす。
ふざけるな! ここで終わっていいのかよおおおおおおおおっ!!
叫びながらもケーブルに絡め取られていく。
迫るケーブルを金剛錫杖で振り払いながら――
飛びなさい!!
何あきらめてるのよっ!!
テレビに映るベルゼブモンの消滅していく様――。それを見ているアイとマコ。
二人はベルゼブモンが、インプモンの進化した姿だとははっきり知らない。飛び去った姿しか。しかし、感じている。これは――、
都庁タワーの中心――
カーネル・スフィア。その中で――
樹莉は、自分が足を動かせなかった事を悔いている。
私が、あんな酷い事を――
じゅり、違うクル!
恐ろしい事になってしまったと頭を抑える。
観念したかの様に目を閉じながら落ちていくベルゼブモン。
FFからアップ、そして回転しながら落ちていくまでのワンカット。
遂に、ゾーンに落ちてしまった。
ゾーンに異物が入った時の反応。
ベル、ゼブモンっ――!
タカト、無念――。
むせび泣いている樹莉。クルモンも声を掛けられず。
あああ……。呆然のジェン。
ああ…… !? 留姫は少し驚きの声。
あっ!?
ソーンの内部に何か光が――
樹莉、何かを感じる。
ゾーンから突如飛び出すグラニ。
インプモンを乗せている。
グラニ!
グラニ、デュークモンに接近。
翼でデュークモンを拘束していたケーブルを切断。
やっと自由になるデュークモン。
ワンカット。
グラニ、サクヤモンにインプモンを届ける。
そっと抱き上げるサクヤモン。
グラニ、ありがとう……。
今度こそっ! あのデ・リーパーを!!
警報音と共に目が光る。
なっ、何!?
暫く無音だったが――、
山木の無線の声が聞こえる。
タカト君! みんなそこから早く離脱するんだ! 急いでくれ!
どうして!?
どうして!!??
攻撃開始まで、あと40秒を切りました。と恵。
国連防衛軍から再度の警告が来ています!
室長!
シナリオで麗花の問い掛けは「山木さん!」だった。非常時感を出したかったが、永野さんの芝居で充分、意図は伝えられている。
国連防衛軍が、間もなく総攻撃を始めるんだ! タカト君たちは早くそこから待避してくれ! 頼む!
えっ!? ダメ! ダメだよ!
どうしたんだ!? と山木。
あそこには加藤さんが! 加藤さんが都庁のてっぺんに捕まってるんだ!
そうだったのか……。
中止を! 駆け寄るジャンユー。
早く国連防衛軍に攻撃中止を!
もう間に合いません! 攻撃開始まであと、30秒!
ジャンユー、いたたまれず――
頼む! 早くそこから待避してくれ!!
見守るしかない――。
三機の黒い機影を視認。
んっ!
B-2 Spirit三機が低空でアプローチしてくる。
急げ!タカト君! 必死に呼び掛ける山木。
みんな! 早くここから離れるんだ! デュークモンが指示。
散開。
グラニが急速に離脱。
迫るステルス攻撃機。
Aproaching to the target.
Lefting time, 22 seconds.
Clear to fire SAM.
SAM = Surfacial Activator Multinucleation
通常兵器が効かないと知っていて――
何故だ!?
あれが積んでいるのは、ただの爆弾ではないらしい。
そうですね。電波の干渉を受けない様に、ステルス機で来ている。何か策があるというのか……。
早く攻撃を止めさせて!
あそこには子どもが!
必死に訴えるカーリー。
B-2、ジャマー弾の設定は、荒牧さんに「すみませんが描いてくれませんか」と依頼して描いて貰った。シリーズ終幕で新規にメカ設定をいきなり出すのは憚ったからだった。荒牧さんのテイマーズ仕事もこれで全終了。今でも感謝に堪えない。